第126話 8日目 夕食後の報告会。(模擬戦の感想3。)柔道とは?。
「・・・確かに週2回の3か月では心得ではないの。」
「だからないと言っていたのです。
でも、その武術の大会は頻繁に見ていましたね。」
「人気があったのかの?」
「私の住んでいた国の国技と言われるぐらいでした。」
「ほぉ。で、どんな物なのじゃ?」
「んー・・・ここの様に剣の時代での発祥と言われています。
元々は戦場で剣を持った相手を組み伏せる為の武術だったそうです。」
「うむ。」
「ですが、合戦の時代が過ぎ、治政の時代になった時に治安機関の人が犯罪者相手に自身も相手も怪我なく取り押さえられる様にと、この柔道を作ります。」
「武術を発展させたのかの?」
「はい、殺傷能力を削いだと言われています。
なので、相手を殺傷する武術から相手を取り押さえる武道へと進化させます。」
「なるほどの。あの技しかないのかの?」
「私が知っているのは数個だけですね。数十の技があったはずです。」
「知っているのをやれるかの?」
「・・・投げまではしませんからね・・・
フレデリックさん、お願いできますか?」
「わかりました。」
とフレデリックは上着を脱ぐ。
武雄も上着を脱ぐとフレデリックの左襟元と右腕を持つ。
「基本的には、この形からいきます。
まずは、アリスお嬢様にした大腰から・・・」
武雄は、フレデリックの左腕を引っ張り前のめりにすると右手をフレデリックの腰に回すと同時に右足を踏み込み自身の腰に乗せる。
「と、この状態で私の体を回せば投げれます。」
「ほぉ、なるほどの。」
「では、次は・・・」
武雄は背負い投げ、一本背負い、大外刈り、出足払、支釣込足をする。
・・
・
「・・・疲れました。
と、まぁ、思い出せるのはこのぐらいですね。」
「踏ん張っているこっちも疲れますね。」
フレデリックが息を少し乱しながら言う。
「うむ、ご苦労。」
「柔道の技は基本的に重心の取り合いにあります。
先ほどの一本背負いもフレデリックさんの腰の位置より低い所から背負わないとできません。
逆に言うと投げられる方は腰位置を低くすれば、なかなか投げられないことになります。
じゃあ、フレデリックさん。投げる方をしてみますか?」
「わかりました。」
と、フレデリックは武雄の言われる様に組手をしていき一本背負いの型をする。
まずは、腰位置を武雄より低くして担いでみる。
次に、武雄がフレデリックより腰位置を低くして担ごうとするがなかなかできない。
「と、まぁこんな感じでやる武道ですね。」
武雄はフレデリックに「終わりです」と言ってから、そう説明する。
「抑え込みはどうやるのじゃ?」
「抑え込みですか?」
武雄はチラッとフレデリックの方を見るが今のでかなりお疲れの様だった。
「・・・アリスお嬢様良いですか?」
「構いませんよ。」
とアリスがその場に横になる。
と、武雄は袈裟固めをする。
「じゃあ、アリスお嬢様。抜けてみてください。」
「わかりました。」
と、アリスは「ぬぅぅ・・・にゅぅぅ・・・このぉ・・・」とジタバタするが抜け出せない。
「と、こんな感じで暴れださない様に抑え込むのです。
さらに・・・」
武雄は、体勢を袈裟固めから上四方固めに変化させる。
「どうぞ。」
と武雄は言うとアリスは「くぅぅ・・・なぜぇ・・・」とこちらもジタバタするが抜け出せない。
しばらくそのままでいたが、アリスが諦めたらしく大人しくなると武雄はアリスを解放する。
「と、こんな感じですね。
他にもいろいろありましたが、私にはできませんので。」
「うむ、なるほどの。
・・・アリス、そんなに疲れたのかの?」
エルヴィス爺さんは、椅子に座ってうな垂れているアリスに声をかける。
「・・・かなり疲れるのですけど・・・」
「はいはい」と武雄はアリスに近寄り「ケア」をかけ回復させる。
フレデリックにもかけ、疲れを取った。
「タケオ様、その武術は強者がするものなのですか?」
スミスが質問をする。
「どうしてですか?」
「いえ、武術は適性のある者がするのでしょう?」
「そうですね。適性がある人がする方が強くなりやすいでしょうが・・・
ってか、誰です?そんなこと言ったのは?」
「え?」
「武術を適性があって腕力も強い人しかできないという教えは違うと思います。
確かに適性があった方がより強くなれますから、適性のある者だけがするのだっと言われるかもしれませんが・・・むしろ弱者こそ自分を守れる程度の武術は習うべきだと思いますよ?
世の中には盗賊だの暴漢だの酔っぱらいだのが多いのです。
遭遇してしまったら、とりあえず一撃を見舞って逃げる時間を稼がないと・・・
勝てなくて良いのです。自身が逃げるための時間作りさえ出来れば良いと思いますが?」
「うむ、なるほど。一理あるの。」
「いくら弱者が武術を学んでも、強者には敵わないでしょう。
基本的には、強者相手には逃げるしかありません。」
「そうなのですか・・・」
スミスは少し落胆する。
「ん?スミス坊ちゃん・・・何か勘違いしていませんか?」
「え?なんでしょう?」
「スミス坊ちゃんは、武で常勝無敗をする意味はないですよ?」
「え?」
「むしろ負けてもらって構いません。
ただし、同格の相手には勝てないまでも負けない様にしてください。」
「え?」
「どうしました?」
「勝たなくて良いのですか?」
「むしろ、なぜ勝たないといけないのですか?」
「え?次期当主ですし、男ですし。」
「・・・わかりませんね。
そんなことを言えば武においてエルヴィスさんもフレデリックさんもアリスお嬢様より下ですよ?
お二人は当主や文官のトップとしては不適合なのですか?」
「!いえ!違います!」
「でしょう?武で勝つ必要は必ずしもないのです。
ですが、このお二人は、たぶん負けませんよ?」
「え?勝てないのに負けないのですか?」
「ええ。いかなる状況下でも、領民の為、家臣の為、家族の為、仲間の為。
武では勝てないまでも、負けを認めないで立ち続けられる人なんです。」
「・・・そうですか。勝てなくても負けない気概があれば・・・」
武雄は「ほぉ」と思う。
スミスの顔つきが少し晴れ晴れとしてきたのを感じた。
エルヴィス爺さん、アリス、フレデリックは優しい目でスミスを眺めていた。
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