第124話 8日目 夕食後の報告会。(模擬戦の感想1) スミスの試練を作ろう。
「さて、模擬戦の真意がわかった所でお互いの経過でも聞こうかの。」
エルヴィス爺さんがアリスに聞く。
「はい。まずは開始前ですが・・・タケオ様、アレはなんですか?」
「えーっと・・・アレとは?」
「普段と変わりすぎていて怖かったのですけど。」
「ハロルド曰く、『戦士の顔』とか言っていたアレですか・・・
私的には、ただアリスお嬢様を観察していただけなのですが。」
武雄は苦笑する。
「うぅ・・・今、思い出しても恐いです。」
「はは。だから模擬戦が終わった時に泣き出したのですね。」
「なぬ?」
「タ・・・タケオ様!それは秘密で!」
「・・・まぁ・・・特に何もありません。」
・・
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「・・・コホンッ。で、タケオ様がかなりやる気を見せていました。」
「うむ。それは城門の上からでもわかったの。」
「やる気?・・・そこまで意気込んでもいませんが・・・
アリスお嬢様は随分、混乱していましたね。」
「タケオ様のせいです。」
「うむ、気持ち的な部分で開始前に大差があるの。」
「それに会話もしてくれませんでした。」
「私の事ですから、余計な事まで言うかも知れなかったので黙っていましたね。」
「うむ、糸口を与えないのは戦闘の初歩じゃの。」
「で、私は心が定まらないまま開始です。」
「うむ、それにしても初撃が小銃とはの。」
「驚いたでしょ?」
武雄は苦笑しながらアリスを見る。
「驚いたどころではないですよ!心臓が止まるかと思いました!
あんな戦いの開始なんて考えもしませんでした。」
「私的には、どうやってアリスお嬢様に当てるかで悩みましたね。
反応速度が速いのでしょうから・・・一瞬でも留まればと思ってですね。
霧を作って目くらましをしている間にしゃがんで射撃の体勢に。
霧が晴れた瞬間、先ほどよりもアリスお嬢様の目線よりも下に居ることで反応を遅らせられるのでは?と。
目論見は良かったようですね。」
「しかしの、タケオ。
アリスが待たずに突っ込んでいったらどうしたのじゃ?」
「正面から来れば小銃で受け止める気でいましたね。
両サイドのどちらかで来たら諦めて吹き飛ばされる気でいました。」
「え?吹き飛ばされることを前提にしていたのですか?」
スミスは驚き聞いてくる。
「ええ。吹き飛ばされることを前提にすれば剣が当たる前から飛ばされる方向に自分で飛んでおけば被害は軽減できますし、その後の体勢が整え易そうでしょう?」
「なるほど。」
スミスは頷く。
「アリスお嬢様は留まってくれましたけどね。」
「切り込んでくるかと思って身構えていました。」
アリスは諦めながら言う。
「で、霧が晴れたらアリスお嬢様が立っていたので、左太ももを狙い撃ったのですが、弾かれましたね。」
「うむ、なんの効果もなかったの。」
「少し凹んだだけですね。
というより私のフルプレートに傷を付けられたのは初めてなのですが。」
「そうなのですか?」
「基本的に私は模擬戦をしませんから。
模擬戦もゴブリン戦以来の・・・前回の演習と今回で2回だけです。」
「てっきり、もっとしている物かと思いましたよ。」
「しませんね。する必要も感じませんでしたし。」
「・・・なるほど。確かに兵士でもないアリスお嬢様が訓練をする必要はないですね。」
「ええ。」
「うむ、そうじゃの。アリスは兵士ではないからの戦闘技術は学ばなくて良いの。
むしろ兵士ではないのに、あの威力じゃぞ?」
「不公平ですね~。」
「タケオ様がそれを言います?」
アリスはジト目で抗議してくる。
「あれ?私は庶民代表のつもりですが?」
「「絶対違います。」」
アリスとスミスは姉弟仲良く突っ込むと武雄は苦笑するのだった。
「まぁ、とりあえず弾丸を当てられたのですが・・・
とても緊張しましたよ。」
「え?タケオ様でも緊張されたのですか?」
スミスが聞いてくる。
「はい。戦いなんてしたこともないですからね。
あ、・・・この間小隊長達としましたか・・・
銃で人を撃つのは初めてでしたし。
小銃は当たり所が悪ければ、致死性がありますからね・・・
それを好きな人に向けるのは・・・あんなに気が引けるのですね。
今回、経験して良かったです。」
武雄はため息を漏らす。
「そんなにですか?」
「ええ、スミス坊ちゃんも経験した方が良いですよ。
知っている人を傷つけるのは基本的に気が滅入ります。
まぁそもそも顔見知りでなくとも人を傷つけることは滅入りますね。
戦場で人を傷つけるのが初めてだと、無意識下で手加減してしまうでしょうね。
その一瞬の気の緩みで、こちらが殺られてしまうかもしれません。
なので、今の内に相手を傷つけても構わないという気持ちで本気の戦いを経験される事をお勧めします。」
「わかりました。今度してみます。」
「もう一つ言うなら、
格上でした方が良いですよ。」
「え?どうしてですか?」
「スミス坊ちゃんがいつもは勝てない相手でないとスミス坊ちゃんが本気になれないでしょう?
遊び半分で挑んでも何の経験にもなりませんよ。
それに格下相手に傷つける可能性のある本気の練習ですか?それはイジメです。」
「うぅ・・・言われてみれば確かにその通りです。」
「じゃあ、明日しにいきますか。
ハロルドが手ごろではないでしょうか?」
「え!?」
「決めたらさっさと行動しましょう。
明日でなくとも今からしにいきますか?」
「いえ!明日で!」
「では、明日にしましょう。」
武雄は朗らかに言う。
エルヴィス爺さんとフレデリックは生温かい視線で見守っているのだった。
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