第123話 8日目 夕食後の報告会。(模擬戦の真意。)
武雄とアリスは、もうすぐエルヴィス邸に着くところまで来ていた。
「アリスお嬢様、少し時間がかかってしまいましたね。」
「ええ、あの4人はいつまで飲むのでしょう?」
武雄とアリスは、城門の上に着くとすぐに祝杯が行われ口々に「キタミザト様、やったね!」とお祝いしていた。
「そう言えば、なんでタケオ様をあんなに祝っていたのでしょう?」
「・・・私が引き分けるなんて考えてもいなかったからでは?」
武雄は、あの4人の言いたいことはわかっていたが、無難な回答を言う。
アリスはその回答を聞き「見込みが甘いですね」と苦笑しながら歩く。
と、エルヴィス邸に到着した。
玄関を入るとフレデリックが丁度いた。
「おかえりなさいませ、アリスお嬢様、タケオ様。」
「ただいま、フレデリック。」
「フレデリックさん、お疲れ様です。戻りました。」
「お二人以外は夕飯を済ませており、
今は客間にいらっしゃいます。」
「そうですか。
では、私達も夕飯を取ってから客間に向かいます。」
「畏まりました。」
と、アリスと武雄は食堂へ向かった。
------------------------
客間のドアをアリスがノックする。
中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開けアリスと武雄が入室する。
中にはエルヴィス爺さんとスミス、フレデリックがいた。
「お爺さま、戻りました。」
「エルヴィスさん、戻りました。」
「アリス、タケオおかえり。」
「スミス、戻りました。」
「スミス坊ちゃん、戻りました。」
「おかえりなさい。」
と、アリスと武雄も席に着く。
フレデリックがお茶を入れ、二人の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
「うむ。二人とも今日はご苦労だったの。」
「はい。」
とアリスは答え、武雄は頷く。
「タケオ、やってくれたの。」
「ご要望通りでしたか?」
「うむ、要求以上じゃ。」
エルヴィス爺さんは頷く。
「え?タケオ様は何か請け負っていたのですか?」
「いえ?何も言われていませんが。
なんとなく求めていることを自分なりに考えましてね。」
「なんでしょう?」
アリスは「教えて」という顔をする。
「・・・私の考えを言う前に、スミス坊ちゃん、わかりますか?」
「え?・・・んー・・・
お姉様と本気で対戦しろ・・・では?」
「・・・残念。それでは会話の表面を見たままの回答だと思いますね。
もう少し裏を読んでみましょうか。
エルヴィスさんが昨日の夜に私とアリスお嬢様の模擬戦を提案する前の会話を思い出してください。」
「はい・・・確か・・・
タケオ様の乗馬訓練の話をしていて、お姉様がタケオ様に何か失敗をさせたいと言う話でした。」
「そうです。で、エルヴィスさんは、少し考えて唐突に模擬戦の話を持ち出します。」
「はい。」
「で、今朝の会話でエルヴィスさんは私になんて言いましたか?」
「え?・・・『わかっておるな』と言いましたね。」
「ええ。私は、この時点で覚悟したのですが。
この2つの会話・・・おかしいのです。」
「どういう事でしょう?」
「昨日は、会話の流れ的に私が負けることを前提にした模擬戦の提案と私は受け取ったのです。
で、今朝の段階で負けることを前提に話すなら『精々頑張れ』とか『死ぬ気でやれ』とか励ましが来るはずなのです。」
「どちらも励ましに聞こえませんよ?」
アリスが呆れながら言ってくる。
「・・・今朝の段階では正しい認識だったはずですよ。
アリスお嬢様と対戦するのですから敗色濃厚です。
なのに、『わかっているな』・・・と確認をしたのです。」
「ええ。で、タケオ様はどう受け取ったのですか?」
アリスが続きを促す。
「私は前提が間違っているのでは?と思ったのです。」
「つまり?」
「私の敗戦ではなく、アリスお嬢様の敗戦を望まれていると。」
「「え!?」」
スミスとアリスは驚きエルヴィス爺さんを見る。
「ふむ・・・おおむね正解じゃ。
アリスの負けまでいかなくともそれに近い形・・・負けを連想させてほしいと願ったのじゃ。」
「なぜです?お爺さま。」
アリスがエルヴィス爺さんに聞くが、武雄が言い始める。
「私もなぜかな?と模擬戦前にボーっとしながら考えたのですが、その時一つ思いついたのです。
模擬戦の提案前にお嬢様の言った言葉『タケオ様に失敗をさせたい』・・・この言葉かな?と思うのです。」
「え?」
「うむ。タケオは、なんとなくわかっておるな。言えるかの?」
「はい。
あの児童書・・・アリスお嬢様の転機である2年前のゴブリン戦。
それ以降、アリスお嬢様は失敗を何もされていないのではないですか?」
「・・・はい、そうです。」
「そこでエルヴィスさんは今回を良い機会と捉えます。
私が負ければ会話の流れの通り失敗をさせられる。
アリスお嬢様が負ければ、2年間失敗していないという大怪我の元を断てる。
どっちが負けても良い方に転がるだろうと。」
「うむ。回答としては十分じゃ。」
「お爺さま、なぜ一言言わないのですか?」
「言ったら本気を出さんじゃろ?」
「・・・出せます・・・よ?」
「・・・無理じゃろ?逆にわしと一騎打ちをしだすと言い出しかねん。」
「それを私に負わせるのも酷ですよ?」
「タケオは小隊長達との勝負を聞いておるからの。
何とか出来そうとは思っておったのじゃ。」
「・・・まぁ良いです。結果的に引き分けに持ち込めましたから。
要求事項は満たしたようですし。」
「うむ、二人とも敗戦の感じがわかったはずだしの。」
「「はい。」」
武雄とアリスは頷くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。