第122話 大規模演習終了。
「状況終わり!!!!」
ハロルドの号令が響き渡る。
と武雄もアリスも戦っていた兵士達も手を止める。
武雄とアリスは、さっさと歩いて後ろに戻る。
兵士達は、そんな二人を見てその場にグッタリと膝をついた。
皆一様に「終わっ・た・・」と疲労困憊だった。
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訓練経過は今回も簡単。
魔法が幾たびか武雄達に着弾したのち、兵士長の前進命令で兵士が前進。
アリス達もゆっくりと歩きながら近づいてきた兵士を1振りか、2振りで吹き飛ばす・・・
前回の繰り返し。
ちなみに今回もアリスに剣が届いた者はいなかった。
前回ほど頻繁ではないが、「タケオ様、喉が渇きました。」とアリスは武雄に数回伝えてきた。
武雄は右手を小さく畳み「アクア×1」で水を満たし、アリスに水分補給をさせた。
そしてアリスが水を飲んでいる無防備な時の防御は武雄が担当し、「縦に展開できるなら横にもできるのでは?」と横に5枚×3枚重ねで発動し、相手の攻撃を止めていた。
アリスが水を飲み終わると「ケア×15」を発動し、アリスを回復させる。
再度アリスは兵士を吹き飛ばしていく。
兵士長は各小隊長を指揮し、半包囲を続けながら、今回も倒れた者をその場で治す様、指示を出していた。
この演習でも一番疲労したのは魔法師だった。魔力は、ほぼ空になるまで酷使。
「魔力が尽きたら、あの戦線に立たせる。」との兵士長の前回と同じ命令で必死にならざるをえなかった。
今回は前回よりも多くの魔法師が居た為、回復させられる兵士の数が急増。
しかし、アリスは多くなったことにすら気が付かず、ただ近づいてきた兵士を吹き飛ばしていた。
魔法師の中には剣に魔法を乗せ切りかかった者もいたが、他の兵士同様吹き飛ばされている。
ちなみに第9小隊、第16新兵小隊、第17新兵小隊の面々は前回から引き続き参加。
「・・・またか・・・」と衝突前からテンションは低く。
他の兵士は、「さて、やるか。」と自然体。
魔法師達はアリスの「鮮紅」の二つ名は、所詮「貴族の箔か」と訝しんでいたし、前回の参加小隊の話を盛っていると考えていた。
自分たちは、殆どの兵士が成ることさえ出来ない魔法師なのだ。
強力な魔法が使えるのは我々だけ!・・・と、エリート意識に凝り固まっていた。
・・・武雄が演習開始段階で、百数十の遠距離魔法を防いだことで、プライドが粉々に・・・
第10、15小隊のほとんどの兵士が「あれは威力が低かったから防げた」と演習直後は言い張っていたが、「じゃあ、キタミザト様と同じ状況で防いでみせろ」と全小隊長達が言い出し、準備をし始めたのを見て土下座する勢いで謝っていたと後日、兵士長からエルヴィス爺さん宛の報告書に記載されていた。
1.キタミザト様は1対1の戦いではかなり強い。
「鮮紅」のアリスに匹敵する可能性がある。
防御については、王国内でもトップクラスにあるのかもしれない。
2.アリスお嬢様の二つ名「鮮紅」はやっぱり伊達ではない。
3.エルヴィス家には双璧がいる。攻のアリスと防のキタミザト様。
エルヴィス家に敵対するのは割りに合わないだろう。
兵士の統一認識としてはこうなった。
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「終わったの。」
「終わりましたね。」
「では、帰りましょうか。」
エルヴィス爺さん、スミス、フレデリックは、残りの4名に一言言って屋敷に帰っていった。
仕立て屋の店長、魔法具商店の店長、青果屋のおじさん、酒屋のおじさんの4名が残り宴会が続けられている。
「それにしてもキタミザト様の防御は1級品かもしれませんね。」
「ですね。
普通の魔法師は『シールド』を10枚重ねなんてしませんけどね。
そんな教育もしていませんし、それだけで魔力量をかなり食ってしまいますからね。」
ラルフの言葉にテイラーが答える。
「そういう物なのかい?」
青果屋のおじさんが聞いてくる。
「『シールド』10枚重ねとは・・・そうですね。
魔法師の教本では、強大な魔物の攻撃を3,4人で防御をする時に張りますね。
あぁ、アリスお嬢様の攻撃なら当然の枚数でしたね。
・・・あれ?10枚は破壊されたのでしたっけ?
という事はキタミザト様は13、4枚程度を展開してアリスお嬢様の剣を受けていたと・・・?」
テイラーが自分の言葉におや?と思うが。
「どちらにしても大したもので、ほほ。」
と酒屋のおじさんが言う。
「今回で嫁の暴走を止められそうなのを証明したしな!」
「それは大きいですね。」
青果屋のおじさんとラルフの言葉に、他の2人もうんうん頷く。
「前回の演習を見た時は、キタミザト様はアリスお嬢様の言いなりになるのかと心配になりましたけど。
そんなことはなさそうですね。」
「あれだけの戦闘をした後に仲良く大演習で一緒に戦っていたしなぁ。
本気じゃなかったのか?と疑いたくもなるが・・・」
「二人とも本気でしたでしょうね・・・」
「だよな。」
「アリスお嬢様とキタミザト様は相性が良いのでしょうかね?
攻防の役割がちゃんと分かれていましたし。」
「そうだなぁ。素人目に見ていてもキタミザト様が攻撃を受け、
攻撃が緩んだスキにアリスお嬢様が吹き飛ばす・・・を繰り返していたな。」
ラルフと青果屋のおじさんが言う。
「それだけではないですよ。
キタミザト様は、随時、アリスお嬢様を回復させていましたよ。」
「ん?そうなのか?」
「はい。アリスお嬢様が水を飲んだ後に回復させていましたね。
時間が経ってもアリスお嬢様の運動量が下がらなかったでしょう?」
「そう言われればそうだなぁ。
兵士たちはみるみる運動量が下がっていったものな。」
「なので、私的にはキタミザト様はアリスお嬢様のサポーターなのだと思いますね。
常に全開で戦えるように傍にいる感じでした。」
「・・・あの組み合わせは鉄壁に近いのかもしれないな・・・」
青果屋のおじさんが言い、皆が頷く。
と、城門の上に通じる階段の下から足音が聞こえてきた。
誰が来たのか皆すぐにわかり、「噂をすれば」と二人の到着を待ち望んだ。
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