第119話 武雄とアリスの模擬戦終了。
武雄は正面から走り込んできた。
アリスは半身の姿勢を取り、右斜め上から右手一本で剣を打ち込み始める。
武雄は左手に持った剣をかざし木剣を受け止める体勢を取る。
そこでアリスは気が付く。
「タケオ様は、いつの間に左手にナイフを?」
気が付くも剣の勢いは止まらず、そのまま受け止められる。
「よし!ここで右手の剣を引き、その勢いも乗せて左手で殴りつける!」と右手を引こうとした瞬間。
何か物を打ち抜く感覚・・・「ドゴッ!!」と武雄のナイフと当たる。
「!!」
いきなり圧力が抜けアリスは、ほんの少しだけ前のめりの体勢になってしまう。
と、武雄は左手のナイフを離す。
更に圧力が抜け完全に重心が前に来る。
アリスの剣は体重こそ乗っていないものの勢い良く武雄の腕に当たる「ぐっ!」武雄から苦悶の声が聞こえるが、腕に当たったことでアリスの右手が止まってしまう。
圧力が抜けた時点で、打ち抜けるほどの力を込めきれていなかった。
と、止まるのを待っていたかのように武雄が左手でアリスの右手首を掴む。
「え!?」
アリスは驚くが、さらに武雄に引っ張られ右脇ががら空きになる。
「失敗した!!」と思った瞬間、がら空きの右脇に武雄が下半身・・・大きく右足を踏み込み右腰をアリスの右腰に当てるとアリスの左腰に右手を持ってくる。
「この!」と思い、左手で武雄の右腕を殴るが、体重も乗っていないパンチは本来よりも弱かったらしく、なんの阻害もできなくアリスの左腰に腕を回される。
で、武雄の腰に担がれると。
「うりゃ。」
「きゃっ!!」
武雄の掛け声と共にアリスは投げられた。
アリスは投げられたという事にショックで一瞬思考を止めてしまう。
地面に背中から落とされてから武雄はアリスの首から右肩に右腕を回し、アリスの右腕は武雄の左脇に挟まれていた。
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武雄はアリスに向かい走り込んだ。
走り込みながらアリスに見えないように右手で逆手に持っていたナイフを左手に順手持ちに持ち替える。
アリスは剣を振りかぶってきたが右手のみの片手であった。
・・・両手剣って片手で軽々と振り回せる物なのか?・・・
と、軽く思うが今は剣を受け止めることに集中する。
そして、アリスの剣を受けようと構えた時にアリスが半身の姿勢になっているのに気が付いた。
やっぱり・・・
「シールド×5 ナイフ前」と発動しアリスの剣を受け止める。
アリスが少し笑うのがわかる。
「これが狙いか!」と思うと同時に「パリンッ」と音がして「ドゴッ!!」という音と共にナイフで剣を受け止める。
アリスが笑みから驚愕の表情になるのがわかる。
「プロテス×15」をナイフにかけ、一瞬持ちこたえるがすぐにナイフを手離す。
アリスの剣は武雄の左腕に命中。「ミジミジッ」っと嫌な音が聞こえ、思わず苦悶の声を漏らしてしまうが、腕で剣を受けたことにより目の前にアリスの右手があった。
武雄は遮二無二にアリスの右手首を左手で掴む。
そして軽くアリスを引っ張る。
と、アリスの右脇に空間が生まれるのが確認できた。そこに急いで体を入れると、右足を踏み込んだおかげなのか、腰の位置が若干、武雄の方が低かった。「いけるか!?」と右手をアリスの左腰に回す。
手を回す途中、アリスが左手で殴ってきたが・・・当たった箇所から「メキッ」と音が聞こえた。
もう、痛いとか気にせず左腕を腰に回すと何とか投げられる体勢になった。
「うりゃ。」
大腰を仕掛け、アリスを地面に投げ自らもアリスと共に地面に転がる。
そして間髪入れずにアリスの右腕を左脇に挟み、自分の右腕をアリスの首から回し、右肩を持つ。
大腰からの袈裟固め・・・学生の頃、授業で習った物をこの場でやってみせた。
・・
・
抑え込みをしたのちすぐに武雄は自分に「ケア×15」を数回発動し、回復する。
両腕の痛みも引き、さらに抑え込みに力を入れる。
アリスは武雄の下で抑え込みを抜け出そうとジタバタしているが抜けないらしく。
「うぅ・・・」と唸っている。
「ハロルド!!」
と武雄は審判役の騎士団長を呼ぶ。
すぐにハロルドはやってくる。
「おう、呼んだか?」
「・・・ハロルド・・・どう思う?」
「タケオはどう思っている?」
「贔屓目に見てもらって引き分けかな?」
「タケオがそう言うならそうだな。」
とハロルドは二人から離れていく。
「止め!!!!両者引き分け!!!」
と宣言する。
「「「「おおおおおおおおおおお!」」」」
と宣言を聞き、観衆から歓声が上がる。
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武雄は抑え込みを解き、アリスを解放する。
「いやぁ、アリスお嬢様。強いですね~。」
武雄は安座し、苦笑しながら未だに横になっているアリスに覗き込みながら話しかける。
「・・・タ・・・タケオ様!!」
とアリスは体を起こし、武雄に抱き着く。
「え!?いきなりどうしたのですか!?体を痛めましたか?」
武雄はそんなアリスを驚きながらも抱きしめる。
「ケア×15」を数回発動し、アリスを回復させる。
「ふぇぇぇぇぇ・・・いつものタケオ様です・・・」
とアリスは泣き出す。
「いつもも何もさっきから私ですよ??」
「だって、だって、ふぇぇぇぇぇ・・・」
アリスは泣き止まない。
武雄は「困りましたね~」と苦笑しながらアリスの背をポンポン叩く。
「まぁ仕方がないんじゃないか?」
ハロルドが話しかけながら歩いてくる。
その後に数名の兵士も近寄ってくる。
「ん?何で??」
武雄は「わからない」と言う顔をする。
「まったく・・・模擬戦前と最中のタケオの雰囲気・・・
あれをアリスお嬢様に見せたことあるのか?」
「ないですね。」
「だったらいきなり雰囲気が変わったら驚くだろうよ。
あれは戦士の顔だったな。」
「驚くことですか?
私的には真面目に相手を伺っていただけですし、余計な事言ってこっちの考えをバラしたくなかっただけですけど?
と言うより『戦士の顔』って何ですか?」
「はあ・・・戦う前に平常心を保っている状態を『戦士の顔』と言ってな。
周りから見ると気合があると言うか・・・雰囲気が『戦うぞ』となっているんだ。
その状態で戦いに臨めるのが理想でな。」
ハロルドがため息交じりに言う。
「そうですか・・・まぁ良いです。」
そんな会話をしている間に一緒に来た兵士達が武雄とアリスを回復させていく。
「・・・軽いな・・・
一般兵士がその状態を覚えるのに結構、時間がかかるんだが・・・」
ハロルド呆れる。
と、兵士長が近づいてくるのがわかった。
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