第118話 武雄とアリスの模擬戦中。
武雄はアリスに左手をかざし、「ファイア×15 ガトリング 発動」とファイアの連射をアリスに浴びせる。
アリスは驚いた様だが、すぐに顔を守る体勢を取る。
武雄は撃ち終わると同時に距離を詰めるが、身体強化中のアリスは剣を振りかぶってくる。
今度は上段から。
「シールド×15 小銃前」と発動しアリスの剣を受け止める。
受け止められたのだが・・・シールドからは「ミシミシッ」と音が聞こえる。
・・・かなり限界らしい・・・
不味いと左側に剣をずらし、力を左にいなす形にする。
と、武雄は後方に転がる勢いでおもいっきり退避する。
アリスの剣は、いきなり武雄からの圧力が抜けたので地面を叩く形になる。
「ドガッ!」と音を立てて木剣が軽く地面にクレーターを残す。
武雄は更に少し離れてアリスの様子を伺うとともに。
小銃はポイっと地面に放置し、腰のナイフを右手で逆手に持つ。
アリスは黙ってその様子を見ていた。
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アリスとしては、今度こそ吹き飛ばすという意気込みで打ち込んだのだが、小銃にすら届かなかった。
さらに武雄は歯を食いしばってもおらず、先程よりも防御を上げてきたのは明白だった。
シールドで守る戦法の間は、武雄に圧力を与えられない・・・
不味い・・・打つ手がアリスにはなかった。
打つ手がないので、とりあえず武雄の様子を見ていた。
すると武器を小銃からナイフにしていた。
・・・ここからは小隊長達との戦い方をするのか。
シールドで受けて、がら空きの脇にカウンターの魔法・・・
果たしてカウンターを避けれるのか・・・少し不安になる。
と、武雄は正面から走り込んできた。
アリスは上段から剣を打ち込むが、武雄は左手をかざし剣を受け止め、右に反らされる。
「来る!」と思うと同時に武雄のナイフを持った右手が腹に向かってくる。
これに触れればエレクが打ち込まれる!とアリスは右に全力で飛び退く。
再びアリスと武雄は距離を取り、相手を見据える形になった。
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「不味い・・・」素直に武雄はそう思った。
武雄はアリスの木剣を受けれるが、こちらのナイフは遅くてアリスに届かない。
アリスは武雄に木剣を受けられてしまうが、武雄の遅い攻撃は受けない。
「あれでも思いっきり殴りつけているのですけどね・・・」
武雄は地力が違い過ぎて呆れた。
このままでは決着をつけることが出来ない。
ダラダラと同じことを繰り返すことしかできない・・・それは危険だと思う。
何か良い手は・・・
武雄は考える・・・と、ある閃きが湧いてくる。
・・・やったのは、20年くらい前だしなぁ・・・
知識はある、映像でも見ていた。問題は「体が動くか」・・・か。
とりあえず、今の攻撃をあと2回してみるか・・・
武雄はアリスに正面から向かっていくのだった。
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アリスは武雄を見据えながら不思議に思っていた。
なぜ当たらない攻撃を3回連続で・・・それもほぼ同じタイミングで。
剣を受けられた後のカウンター・・・結果的には遅かったが。
1回目は必死に避けた。
2回目は難なく避けた。
3回目は余裕で避けた。
次は反撃に移れそうだ。
「もしかしたら反撃を待っているの?」と勘ぐるが、現状でやれるのは・・・
右手一本で剣を振り、最小限の動きでカウンターが来る前に、左手で殴る・・・くらいか。
他に打つ手が思い付かないし・・・これしかない。
アリスはイメージを膨らます。
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武雄はアリスを見据えながら、心の中で溜め息をついていた。
「3回・・・たった3回見ただけであんなに対応するのか・・・
1回目は必死に避けていた、2回目は体全体で避け、3回目は足さばきだけで・・・」
天才っているんだな・・・不公平とかいう前に呆れる。
こっちは凡人・・・天才相手では、同じ事を繰り返すことや長期戦をすれば不利になるだろう・・・
あの避け方なら次は何かしら攻撃をしてくるかもしれない。
・・・仕掛けるか・・・賭けになりそうだ・・・
武雄はイメージを膨らましていく。
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「これほどとはの。」
エルヴィス爺さんは呟く。
「タケオ様は・・・何者ですかね?」
スミスも呟く。その言葉にエルヴィス爺さんとフレデリックは軽く頷き、それ以外の4人が物凄い勢いで頷く。
「そうじゃのぉ・・・戦争では使い物にならないと自分では言っておったがの・・・1対1ならアリスに匹敵するか・・・
フレデリックはどう思うかの?」
「確かにタケオ様は範囲攻撃をお持ちではない様ですね。
出来るのであれば、戦いの仕方がこういう物ではないでしょう。
主の言う通り、1対1の状況下でならアリスお嬢様の実力に匹敵しています。
・・・ですが・・・」
「え?何かあるのですか?」
フレデリックの言葉にスミスは問いかける。
「あとでタケオ様に確認をする必要はあるでしょうが、かなりギリギリでアリスお嬢様の剣を受けている様に見えます。」
「「「「「え!?」」」」」
エルヴィス爺さん以外の5人が驚く。
「やはりそう見るかの。」
「はい。剣を受けてからの脇への流しが早いです。
早いので相手の力を前に持ってこれず、腹への攻撃が当たらないかと・・・
知識を持っているタケオ様ならわかっているでしょうが、直さないとなると、そうせざるを得ない状況なのでしょう。
それに・・・」
「うむ。アリスの才能だの。」
「はい。私もまさか3回で対応してくるとは思いませんでした。
タケオ様は同じ攻撃を同じタイミングで3回しました。
・・・あの状況下で防がれている攻撃を連続で仕掛けるタケオ様も怖い物しらずと言うか何と言うか・・・
で、3回目のかわし方・・・あの余裕は怖いですね。
次はアリスお嬢様が反撃すると思います。」
「うむ。タケオもそう考えるじゃろうな。」
「はい。なので、タケオ様は勝負を賭けてくる可能性があります。」
「・・・フレデリック、わかっておるな。」
「はい。「ケア」を使える者をハロルドの近くに配置していますし、デビット兵士長もそう考えているでしょう。」
「うむ。」
「お爺さまやフレデリックは、タケオ様が怪我をすると?」
「ちょっと違いますね。怪我どころではなく、
タケオ様の賭けが失敗すれば、大怪我・・・瀕死になる可能性もあります。」
「え!?そんなにですか?」
「タケオ様が何をするかはわかりませんが、今のアリスお嬢様に対応するには、それぐらいの賭けをしないと勝負になりませんから。」
「うむ。次はアリスが攻撃してくるからの・・・今の均衡が崩れるのじゃ。
今までの通り剣を受けていては攻撃されるだけ・・・ならば・・・とな。」
「・・・どうして・・・そうまでして・・・」
スミスは武雄の心境が理解できず困惑するのだった。
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