第116話 模擬戦の用意をしなくては(アリス編)。 さてそろそろしますか。
アリスは、朝食後の客間でのティータイムの後、寝室に戻ってきていた。
武雄は、さっさと書斎に行って屋敷を出て行った様だ。
「んー・・・」
アリスは悩んでいた。
「今日の模擬戦・・・タケオ様は前の小隊長との戦いの通り、私の剣を受けてスキを作って攻撃をするスタイルなのでしょうが・・・」
そこで悩む・・・「本当に?」
・・・コートの発案。誰も見向きもしない小銃の真価を見極め。うちの小隊長相手に勝利を収め、街と村の活性化を考え、他人の心情もわかる。料理やベッドの幅広い知識・・・賢者となりうる知識を持っている。
改めて私は凄い人と婚約したのかも?とニヤリとする。
と、今は模擬戦の事を考えなくては・・・
・・・
・・
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わからない。
わかることは「絶対、普通に模擬戦と呼ばれている剣のぶつかり合いはしない」ということだけ。
私は魔眼の強制補正で「身体強化」と「武器の強化」を無意識にする。それもかなり強力に。
言い換えれば、それしかできない仕様で他の魔法は全くできない。
戦法も薙ぎ払うだけだ。
それはこの前の大演習でタケオ様の前でしている。
対して私はタケオ様の戦いぶりを見ていない・・・報告されているだけだ。
この差は大きそうだ・・・タケオ様は私に対して対応策を用意してくる。
・・・
・・
・
考えてもしかたないですね。
アリスは考えた末、考えを放棄する。
そして深紅のフルプレートを着けに行くのだった。
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もうすぐ昼になるだろう時間。
武雄は演習場の一角で正座していた。
魔法具商店を後にした後、演習場で小銃を撃っていた。
弾丸もある程度撃ち、残りの時間は瞑想の時間にしていた。
武雄は、禅の心得はないが、学生の時に運動部にいたので、試合前の瞑想は良くしていた。
武雄の瞑想は、ただ何も考えないという簡単な物だった。
「なにも考えない」言葉では簡単だが、やり慣れないと意外と余計なことを考えてしまう。
久しぶりに瞑想をしてみると、初めは結構な雑念が頭をよぎった。
しかし昔やっていたのだ、徐々に自身の呼吸以外を考えない様になり、今は何も考えていなかった。
と、6時課の鐘が鳴る。
「今、良い感じだったのですけどね。」
と苦笑しつつ、立ち上がる。
足が痺れた様で立ち上がるのにちょっと難儀をするが、小銃を杖代わりに立ち、服装のチェックをする。
トレンチコートのベルトの締め付け具合、腰のナイフ、小銃、魔法の指輪、革製の指切手袋、以上。
簡単に終わる。
「さて、そろそろか・・・」
武雄は城門を見ながらそう呟くのだった。
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演習場には、いつの間にか結構な数の兵士達も集まっていた。
各々座ったり立ったりしてその時を待っている様だった。
「タケオ、来たぞ。」
騎士団長のハロルドがアリスと共に来た。
ちなみにアリスは兜を屋敷に置いてきていた。
武雄は城門とは別方向を向いていたが、ハロルドの方を向き頷く。
「・・・そうか。」
ハロルドは武雄の顔を見て何か思ったのか、それ以上言わなかった。
アリスはタケオの正面に立つ。
「え?」
立ったのだが、武雄を見て驚く。
いつもはアリスに対して、にこやかにしているか、苦笑しているか・・・
常に楽しそうに笑っているイメージがアリスにはあった。
この模擬戦も「さて、やりますか?」と笑顔で言ってくると思っていた。
しかし・・・今、目の前のタケオからは喜怒哀楽がわからなかった。
表情からは感情がわからなく、体の力も抜いていて、自然体でこちらを見ている。
気迫があると言うか・・・真剣にこちらを見つめている。
こんな武雄を見たことがなかった。
アリスにとっては、今の武雄は怖かった。
「タケオ様と戦った小隊長達もこの感覚になったのかしら?」
アリスは、ふとそんなことを考え、この間戦った兵士たちを思い出す。
とても緊張していた。「畏怖」という感情なのだろう・・・顔も引きつっていた。
それは一目見てわかるぐらいに。
そして緊張からの動きは単調になっていた。
「これは・・・どうやって戦えば良いの?」
とアリスは少し困り始める。
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「さて・・・と。
アリスお嬢様、タケオ、準備は良さそうだな。」
「ええ。」
と、アリスは答え、武雄は頷く。
「ルールは簡単。俺が『始め』と言ったら開始、『止め』と言ったら終わり。
命を取ることは厳禁・・・以上だが何かあるか?」
「なにもないですね。」
と、アリスは答え、武雄は首を振る。
「じゃあ、開始の合図まで、距離を取って待て。」
武雄は、その言葉と同時にアリスに背を向け遠ざかっていく。
と15m程度離れてアリスに向く。
ハロルドも二人から距離を取る。
その間、演習場は緊張感が高まっていく。
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「始め!!!」
号令と共に武雄は左手をかざし、アリスとの中間に小さいが霧を起こし互いを見えなくさせる。
アリスは、武雄が突貫してくるのだろうと両手で持っている剣をいつでも振れる様に身構える。
霧が晴れた瞬間、武雄の姿を確認したアリスは驚愕する。
武雄がしゃがんで小銃を構えていた。
と、「パン」と音が演習場に響くのだった。
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