第113話 7日目 夕食後の報告会
「さて、アリスから今日のタケオの報告でもしてもらおうかの。」
「わかりました。
午前中はタケオ様に乗馬を教えていました。
とりあえず、走るまでの事が出来る様になりましたね。」
「うむ。タケオ、どうであった?」
「言われた通りに一生懸命にしただけなので頑張りましたとしか・・・
アリスお嬢様的には、私が失敗しないのが不安の様ですが?」
「ふむ・・・アリスはどう思ったのかの?」
「タケオ様は、何事もそつなくこなし過ぎです。
いつか大事が起きてしまう前に何でも良いので小さい失敗をさせたいのですけど。」
「・・・何だかニュアンスが変わっていますが・・・」
武雄は苦笑する。
「・・・ふむ・・・アリス、タケオ。」
「はい、なんでしょうお爺さま?」
「なんでしょうか。」
「明日の昼過ぎに二人で模擬戦をしてみてはどうじゃ?」
「え?」
エルヴィス爺さんの質問にスミスが反応する。
「私は平気ですよ?アリスお嬢様はどうですか?」
「私も構いませんが?」
「え?」
再びスミスが反応する。
「うむ。では、明日の昼に城門外の演習場でしてみると良いじゃろう。」
「はい。」
「わかりました。」
と二人は返事をする。
「はは。アリスお嬢様、私が死なない程度でお願いしますね。」
「ふふ、わかりました。」
武雄とアリスは笑いあうのだった。
「・・・」
スミスは難しい顔をして二人の会話を聞いているのだが。
「スミス坊ちゃん、どうしたのですか?」
武雄は聞いてみることにした。
「いえ、タケオ様はお姉様との模擬戦を怖いとは思わないのですか?」
「思っていますよ?」
「とてもそうには見えませんが・・・それに異議も言いませんでした。」
「なぜ言う必要が?」
「怖いならしなくても良いのでは?」
「あぁ・・・私は怖がっていますが嫌がってはいませんよ。
そもそも、組手くらいやってみたいなぁとは思っていましたので、やることについては問題ないです。
あれ?スミス坊ちゃんはアリスお嬢様と組手はしないのですか?」
「はい、ありません。」
「スミスは私と戦わないのです。」
「あぁ・・・なるほど。
まぁ仕方がないでしょう。」
武雄は何やら一人で納得をする。
「?・・・タケオ様はスミスが私と戦わない理由がわかるのですか?」
「理由はなんとなくわかりますが・・・これは他人がどう言っても意味ないでしょうからね。
スミス坊ちゃんが自分で考えて答えを見つけてください。」
武雄の言葉にスミスは下を向くだけだった。
エルヴィス爺さんもフレデリックも生温かい視線を送るだけだった。
「そう言えば、タケオ様。」
フレデリックが聞いてくる。
「なんでしょう?」
「昨日、仕立て屋のラルフと魔法具商店のテイラーが契約書と発注書と請書を持ってきました。」
「はい、不備がありましたか?」
「何もありませんでしたね。
ですので、タケオ様のサインもしていただきたいのですが。」
「わかりました。
・・・あ・・・でも・・・」
「何でしょう?」
「私はこちらの文字が書けないのですが・・・」
「・・・そうだったの。」
エルヴィス爺さん頷く。
「フレデリックさん、文字が書けない人は、どうやって契約するのですか?」
「そうですね・・・代筆でも可能ですが・・・んー・・・」
フレデリックが悩む。
「私がいた所は、印鑑か母印でも可能だったのですが。」
「印鑑は封蝋みたいな物かの?」
「封蝋って手紙を閉じた際にした者がわかる様に蝋を垂らして指輪とかで文様を付けるのでしたか?」
「うむ。」
「まぁ同じ感じでしょうか。石とか木とかに姓が彫られていて、インクに付けて紙とかに押すことで作った人の証にしていましたね。」
「母印とはなんじゃ?」
エルヴィス爺さんの問いに武雄は右手の親指を立てる。
「これです。」
「親指を本人の認証としたのかの?」
「ええ。人間の親指の指紋は同じ人がほぼいないとされているのです。」
「ほぉ、そうなのか。」
「ですので、個人の特定に犯罪捜査なんかでも利用されていましたよ。」
「へぇ。」
アリスもスミスも自分の手を見ながら呟く。
「フレデリックさん、アリスお嬢様に私の名前の代筆をお願いして私が母印をすると言うのはどうでしょう?」
「そうですね、それでいきましょうか。」
と契約書2枚とペンとインクを持ってくる。
契約書にアリスが武雄の氏名を書き、武雄は母印する。
「はい、結構です。」
と捺印された契約書をみてフレデリックは頷く。
次にエルヴィス爺さんの所に持っていき、封蝋を持ってくる。
エルヴィス爺さんがサインをし、フレデリックが蝋を垂らし、文様を押し付ける。
「これで契約書が完成です。」
「明日はお昼にアリスお嬢様とタケオ様の模擬戦がありますので、その際に提出してきます。」
「あれ?見に来られるのですか?」
「はい。」
「わしも行こうかの。
ハロルドも誘おうかの。」
「僕も見に行きます。」
3人とも来る気満々の様だ。
「見世物ではないですよ?」
アリスは呆れながら言う。
「だったら・・・兵士たちの大規模演習も引き続きしますか・・・」
武雄が提案する。
「うむ、それも良いの。」
「では、明日の朝一番に兵士長に命令をしておきます。
形式はどうしましょうか?」
「この間と同じでアリスお嬢様+私対兵士で良いでしょう。
まぁ私が参戦できるかは微妙ですが。」
「あら、タケオ様は『ケア』が使えるのですからすぐに私の横に来てくださいね。」
「はは、わかりました。」
武雄はにこやかに頷くのだった。
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