第112話 卵の低価格化戦略・・・特産品祭りを開催してみたいなぁ。
「・・・んー・・・難しいの。」
武雄の話を聞き、エルヴィス爺さんはうな垂れていた。
「ですね、卵の大量供給は難題がありますね。」
フレデリックも難しい顔をする。
「飼料ですか?」
「うむ。簡単に考えても飼料専用農家が必要だの。」
「鶏の為に作るというのは理解され辛そうですね。」
武雄の指摘にエルヴィス爺さんとフレデリックが答える。
「作物の質は人より劣っても良いとは言え、販売価格が低い物を作っても実入りが少なくなりますから・・・今までの収入を維持するには作付け面積・・・農地の拡大が必要でしょうね。」
「うむ、タケオの言うとおりじゃ。
タケオの所も人を増やして対応してたのかの?」
「いえ。私が知りうる限りでは、あまり人件費をかけないで農機具の発達で対応していましたね。」
「うむ・・・」
「なので、いきなりの大規模化ではなく、まずはエルヴィス家専用として契約農家を作って、5・60羽くらいから始めてゆくゆくは大きくしていけばいいのでは?
養鶏とその為の飼料作付けの両方をさせるのもありかもしれません。」
「うむ・・・それもありだが、もう少し大きく出来ないかの?」
「そうですね・・・確かに契約農家だと産業としては成り立たないですね・・・地域効果は低いでしょうし。
・・・例えば複数個の村単位で100~200羽の養鶏場を経営して村の産業としてはどうでしょう?
それを毎年決まった時期にエルヴィス家で品評会をしてランク付けをする・・・とか?」
「どうやって良し悪しを判断するのですか?」
スミスが聞いてくる。
「正直、目利きではないのでどれが美味しい卵か、と断定はできませんが。
普通に考えてお皿に生卵を割って黄身の膨らみ具合、黄身の色の濃さ、白身の透き通り感、白身の粘度を見るのでしょうが・・・」
「それは専門家にしか判断できないですね。」
アリスが呟く。
「ですね・・・ですが、全てがわからなくても形の綺麗さや色だけでも評価しないといけないと思います。
それに・・・ゆで卵を食べてみると言うのはどうでしょう?」
「ん?・・・ゆで卵かの?」
「ええ。調理法がシンプルで素材の味のままですので、茹でる時間を決めてどんな感じに茹で上がるか食べて決めるのはどうでしょう?」
「・・・違いがわかりますでしょうか?」
フレデリックが聞いてくる。
「・・・正直に言えば、わからないと思います。
ですが、僅差でもランク付けをすることによって村ごとで飼育方法を考え始め、飼料も改良し、切磋琢磨して良い品質を作り出す可能性があります。
品質が底上げされれば取引先も多くなり、さらに増産出来る様になると思います。」
「なるほど、好循環をさせるのですね。」
「はい。それにこの街の各飲食店店長にも評価員になってもらい自分の所の料理に適している卵を見つけて貰うのも良いと思います。」
「なるほどの。」
「村の発展を考えるなら、各村の特産品で1品料理100人分をこの街で3日間作り、街の人達に食べてもらい、どの料理が美味しかったかランク付けするのもありかと。」
「そうするとどうなるのじゃ?」
「あの料理は美味しかったから、あそこの村に行ってみようと思う人が出てくるかもしれません。
街道沿いのいつもは通り過ぎられていた村なら商隊や旅人がその食事を目当てに来て、宿屋に定期的に泊まってくれる可能性が高まります。
人が多く来る様になれば、違う特産品を作る意欲がでます。
定期的に作る為には農地拡大を計画的にすることも考えられます。
もちろん今までの作付けの種類をいきなり変えられると価格高騰につながりますから、今までの作物はあまり変えない様に増産して貰わないといけません。」
「その考えは、おもしろいですね。」
スミスは感想を述べる。
「ええ、好循環の企み事は楽しいですね。
ただ、土地も痩せていて特産品がなかなかない所もあるはずです。」
「はい、悪い土地もあります。」
「そこには、料理人を協力者として派遣しましょうか。
・・・違いますね・・・すべての村にエルヴィス家の調理人数名で行って貰い、味や料理のアドバイスをしてくるのはどうでしょう?
ジャガイモしか取れない農村でも特産品を作れそうですし。」
「タケオ様はどんな料理を考えたのですか?」
アリスが興味深々で聞いてくる。
「こちらのポテトフライは皮つきですね?」
「はい。ジャガイモを等分に切った物を揚げていますね。」
「私の中ではポテトフライは2種類あります。
一つは先ほど言っていた切って揚げる物。
もう一つは茹でたジャガイモを潰して、細長く整えた物を揚げた物です。」
「・・・?想像できないが違うのかの?」
「同じ揚げ物、同じ食材ですが、出来上がりの食感が変わります。
切って揚げる方はジャガイモの固さが少し出ますので外はサクサク、中もちゃんと噛んで食べます。
茹でた方は、外がサクサク、中がホクホクの柔らかさがでます。
今日食べたポテトサラダを揚げるのです。中が柔らかくなりそうでしょう?」
「・・・タケオ様作ってください。」
アリスは涙目で聞いてくる。
「アリスお嬢様、そんなに切なそうな顔をしないでください。
というか、今までさっきの料理に満足していたでしょう?」
「うぅ・・・想像してみたら美味しそうですので。」
「まぁ、いつかは作りましょう。」
「絶対ですよ!」
アリスは顔をキラキラさせながら「期待します」という顔をする。
「フレデリックさん、この考えを文官の方々で検討できますか?
さすがに発想はしたのですが、私では、この祭りを仕切れません。」
「そうですね。私の部下たちに検討してもらいましょう。
養鶏場と卵の品評会、各村の特産品祭りですね。」
「ええ。流れとしては良いと思うのですが、詳細の部分は実務者でないとわからないことが多いでしょうし・・・」
「はい。その通りに行くとエルヴィス領の各村が活き活きしだしそうですね。」
「実入りも増えて、領主からお褒めの言葉も頂いて・・・やる気になってしまいそうですね。」
武雄は苦笑する。
「ですね。これはうちの文官連中を中心に実施に向けての計画検討をさせましょう。
上手くいけばもっと面白い事になりそうですね。」
「はい。あ・・・あまり私の考えたことを踏襲する必要はないですからね?
この街に合ったやり方に変更させるのがベストですし、全てをする必要もないでしょうから。」
「わかりました。あくまでうちの部下たちが率先して企画していきます。」
「はい、よろしくお願いします。」
武雄はフレデリックに軽く会釈をするのだった。
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