第109話 昨日の続きで乗馬。意外と順調・・・なんですよね?
朝食と朝の客間でのティータイムも終わり、武雄とアリスは厩に来ていた。
「さて、昨日の続きですね?」
「はい。タケオ様、今日は昨日の反復をしたら曲がる練習をしましょう。」
「わかりました。」
と厩から使用人が鞍を付けた1頭を連れてくる。
昨日の馬だ。武雄が昨日の反復の為、乗ろうと近づくと。
「カプッ」と肩を噛まれる。
「うええ!?」
武雄は驚き、後ろに飛びのく。
今の何!!???
武雄は体を硬直させたまま動かない。
「タケオ様、その馬に懐かれましたね。」
アリスはクスクス笑いながら言う。
「びっくりしたのですが?」
「ええ、タケオ様が飛びのく速さがとても早かったですね~
そんなにですか?」
「全く予想していませんでした。
馬も噛んでくるのですね。」
「生き物ですからね。悪戯もしてくるでしょう。」
「そういう物ですか・・・
じゃ、昨日の復習ですね。」
と乗馬を開始する。
まずは、乗る→前進→停止→降りるを5回繰り返す。
「良いですね。
では、まず左に曲がりましょうか。
歩いている時に軽く左に体重をかけて、手綱の左を軽く引きます。」
武雄は言われた通りに乗る→前進→左に曲がる→前進→停止→降りるをする。
「次は右に曲がりましょうか。
さっきの逆です。」
武雄は言われた通りに乗る→前進→右に曲がる→前進→停止→降りるをする。
「とりあえず・・・できました・・・よね?」
武雄はアリスに恐る恐る聞く。
「ええ、出来ましたね。
・・・じゃあ、基礎は出来ましたから、城門まで往復しましょう。」
「いきなり・・・ですね。」
「ええ。歩かせられるのですから、平気です。
いつまでも厩の前では、上達しませんよ?
実践が一番です。」
「わかりました。」
「では、私にも馬を用意してください。」
アリスは使用人にそう言い、使用人がもう一頭連れてくる。
アリスは颯爽と騎乗する。
「よし・・・ん?タケオ様、どうしました?ジーっと見て。」
「颯爽と乗るなぁと・・・惚れ惚れします。」
「こんなことでですか?」
アリスは苦笑する。
「改めて、私は果報者だなぁと思い知りました。」
「そうですよ、タケオ様は幸せ者です。
私を婚約者にしたんですからね。
では、城門まで行きましょうか。
何か起きても慌てずに停止をしていれば平気ですからね。」
「わかりました。」
とタケオも騎乗する。
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武雄とアリスは馬をトコトコ歩かせながらもうすぐ城門という所まで来ていた。
途中、武雄は足で馬を蹴り忘れ、止まると言う事があったが特に何事もなく順調だ。
「・・・何もなかったですね・・・」
アリスはそう呟く。
「・・・その言い方だと何か期待していましたか?」
「いえ・・・期待はしてないですが・・・
突然走り出すとか、跳ねるとかあるかな?と。」
武雄の問いかけに、アリスは苦笑で返す。
「・・・どちらも危険と思いますが?」
「ええ、なくて良かったです。
じゃあ、せっかくきたので、演習場を走りますか。」
「・・・今、教わっていない単語が出ましたが?」
「やり方は基本の延長ですからね。
まずは・・・」
とアリスは、武雄の不安には答えず説明を始める。
武雄は少し勘繰るが、今は説明をしっかり聞いて走らせないといけない。
余計な考えはしないで、今は必死に走らせることをイメージする。
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「・・・何もないですね・・・」
アリスは再びそう呟く。
武雄は演習場の端っこで走る→停止、走る→曲がる→停止を十数回繰り返していた。
・・・まぁ気持ちはわかるのですけど・・・早めに失敗をさせたいのでしょう?と武雄は思う。
アリスの考えはわかるのだが、今は気を張っているのでそれどころではない。
「アリスお嬢様、休憩しましょうか。」
「はい、わかりました。」
と武雄とアリスは馬を降り、近くの木に手綱をかけ木の根元に座る。
武雄はリュックからお茶セットを出し、アリスにお茶を作る。
「はい、アリスお嬢様。」
と、作ったお茶をマグカップに入れアリスに渡す。
「ありがとうございます。」
アリスは受け取り口にする。
「ふぅ・・・癒されます。」
「外で飲むのも気持ちが良いですね。」
武雄もお茶を口にし、感想を言う。
と、アリスは不意に立ち上がり、武雄が安座している上に座りなおす。
「えへへ♪」
武雄に体を預け、アリスはご満悦です。
武雄はマグカップを横に置き、軽くアリスを抱きしめる。
「・・・アリスお嬢様、私が失敗しないのが不安ですか?」
「・・・タケオ様は、何事もそつなくこなし過ぎです。
いつか大事が起きてしまう前に小さい失敗をさせたいのですけど。」
「ええ、私もアリスお嬢様の考えはわかります・・・でも、今は一所懸命にしているだけなのでね。
まぁ私は小心者なので、言われたことしかしていないのですから失敗は少ないでしょう。
・・・馬がいきなり走るとかですが、確か虫が刺した刺激でとかでもあるのでしたか?
昔何かの本で読んだのですが、馬は突発的な刺激に急激に反応するとかなんとか。」
「ええ、その通りです。
なので、穏やかな馬の内に経験させておき、他の馬でも対応出来る様にさせたいのですけど・・・
今日のタケオ様は気を緩めないのです・・・緩めてください。」
「無理を言いますね・・・私がその考えをしている時点で無理ですよ。
無意識に身構えていますから。」
武雄はアリスの要求に苦笑しかできない。
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「さて、屋敷に戻りましょうか。」
アリスはそう言うが体を武雄に預けたままだ。
「言っていることと行動が違いますよ?」
「えへへ♪意外とここは居心地が良いのです。」
「いつでもどうぞ。」
と武雄の言葉を聞き、アリスは立ち上がり、馬の手綱を取りに行く。
武雄も立ち上がり、マグカップやお茶セットを軽く水で流し、リュックに入れ背負う。
アリスの元に行き、手綱を受け取る。
「今度こそ、屋敷に戻りましょう。」
「ええ。」
と二人して騎乗すると城門に向かって歩きだすのだった。
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アリスと武雄が帰り支度をしている時、エルヴィス邸に緊急伝文が到着していた。
中を確認したエルヴィス爺さんが一言。
「・・・あの方は何をしているのかの・・・」
と頭を抱えるのだった。
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