第106話 6日目終了。夕食後の報告会。(スミスの報告。)
一通り、ベッドの事を体験し皆、席に戻る。
「と、まぁそんな具合で、取り扱っている中では良い物が選べたと思いますね。
私の書斎の家具は無難なのにしました。」
「全体的に丸みを帯びていますが、本重視のでしたね。」
「はい、後は来た後に考えます。」
「うむ、いつ頃来ると言っておったのかの?」
「明日には、一式持って来ると言っていました。」
「そうかの。では、その時は今のアリス達が使っているのは元の部屋に戻すかの。」
「畏まりました。」
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「うむ。では、
スミスの報告を聞くかの。」
「はい、仕立て屋での会話の報告です。」
「もうしてきたのですか?
スミス坊ちゃんも仕事が早いですね。」
と武雄はにこやかに言う。
「はい。居ても立っても居られなくて聞いてしまいました。」
「そうですか。」
武雄は苦笑する。
「では、始めますね。
まずは月45着の件です。
タケオ様が元々の予想を月30着としていたことを伝えたら、向こうの試算では月28着としていたと驚いていました。」
「あれ?少し多く私は考えていたのですね。」
「それでも誤差2着ですから、タケオ様も十分、商才がありそうですよ。」
アリスは武雄の呟きに答える。
「はい。お姉様の言う通り、店長や店員は驚いていました。」
「そうですか・・・でも、誤差1着まで見通せないと・・・
下手したら似たような交渉時に失敗しそうですね。」
武雄は苦笑する。
「そうなのですか?」
スミスは聞いてくる。
「相手の限界を見て交渉した方がこっちの話のペースに引き込めそうでしょ?
不可能な数字は言わないが、楽もさせない・・・
そんな数を提示すれば相手もこちらを見る目が変わるでしょう?」
「タケオは鬼じゃの。」
「商売はそんなものです。
逆の立場ならこちらが無理をする様な数にはさせないのが良いでしょうね。
相手の最低限を見極めて、そこに近づける・・・そんなことが出来れば良いのですがね。」
「タケオ様を交渉相手にするのは面倒ですね。」
とフレデリックもため息をつく。
「あくまで理想ですし、必ずそうなる訳でもないですから。
努力範囲でってことで。」
武雄はクスクス笑う。
「で、タケオ様の言う賭けの部分、
「他の仕立て屋に在籍している職人を雇用したか、もしくは店ごと買う方法」を説明したのですが。
組合を通じて他の仕立て屋を買ったと回答を受けました。」
「組合・・・なるほど寄合を利用したのですね。遺恨が残らない様に?」
「店長はそう言っていました。」
「うむ、それと説明したのだろうの。」
「確かに・・・組合に掛け合うならそうなりますよね。
買う理由を説明し、組合をこの「トレンチコート」の仲間に引き入れたのでしょうか?」
「はい。全店主の前で説明した所、全店主はタケオ様の理念に共感しているそうです。
そして現在の所、2つの店があの店の傘下に入ることが決まっているそうです。」
「2つ・・・もしかしたら、あの仕立て屋はこの街最大の勢力になったかもしれませんね。」
「うむ、タケオはどう思う?」
「最大勢力に対抗できる組織をゆくゆくは作るべきかと。
勢力が大きくなるとエルヴィス家を顎で使いかねません。
ただし、今はこの仕立て屋勢力を伸ばすことが街の発展に寄与します。
例の契約書も発行すれば第1歩が踏み出せます。
まずは「トレンチコート」を軌道に乗せることが重要と思います。」
「タケオ様・・・鬼です。」
と、アリスは呆れ模様。
「言ったでしょう?私の優先順位を。
まぁ今の店長であればそんなことしなくても良いのでしょうが・・・
代替わりした際に考えが変わるかもしれませんからね。
エルヴィス家の為には、1つの勢力に街が牛耳られるのを防がねばなりません。
まぁ3、4年後に考えることですね。」
「うむ、そうじゃの。」
「では、タケオ様の言うもう一つの賭けである、
『今後の受注を見込むリスク』についてなのですが。
ゴドウィン様の屋敷がある街の組合にサンプルを卸すことにした様です。」
「ん?私の予想の斜め上をいきましたね。」
「店長が言うには、向こうの組合とこの街の組合とで契約を結んでもらうとのことです。
向こうで模倣品を見つけたら制裁を科すという物らしいです。」
「・・・なるほど。
では、こちらもその動きに合わせましょう。
エルヴィスさん、フレデリックさん、お願いがあります。」
「うむ。」
「なんでしょう。」
「兵士長および兵士への『トレンチコート』の製作命令は発注契約後ですか?」
「はい、その運びです。」
「ちなみに新兵の合同訓練が再来月にあるのですよね?」
「うむ・・・タケオのお願いは、新兵から申し込みをさせる事かの?」
「はい。
一応、兵士長と兵士幹部には、そのことは言ってはありますが、正式に命令として出した方が良いかもと思ったのです。
向こうの街の仕立て屋とゴドウィン伯爵に良い宣伝になるでしょう。
組合同士の契約が取れていれば、発注がかかる可能性は高いかと。」
「うむ、上手くいくと良いの。
わしはそれで構わぬ。」
「私もそれで構いません。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが了承する。
「そうですね、吹雪になれば良いですね~。
向こうの兵士はガタガタ震えていて、こっちの兵士はケロッとしている。
見ていて楽しそうですね。
あ・・・もう1つ良い事を思いつきました。」
武雄はクスクス笑う。
「タケオ様、何を思いついたのですか?」
アリスは聞いてくる。
「ダウンジャケットのベストを作ろうかなと。」
「なんですそれ?」
アリスは「わからないのですが?」という顔をする。
「えーっと・・・フレデリックさんの着ているベストありますよね。」
「これですか?」
とフレデリックは上着を脱いで見せる。
「はい。これを2着重ねて端を縫い合わせます。
で、中に羽毛を詰めるのです。」
「ん?それはどうなのじゃ?」
「かなり保温効果があって、温かいですよ。」
「ほぉ、良さそうですね。」
フレデリックは言う。
「薄く作れれば、費用も安くできそうですし、既存の物でも出来そうでしょ?
今度、あの仕立て屋に聞いてみましょう。
一般向けなので、銀1枚を目標ですね。
売り文句は・・・『軽作業服』とでもしますか。
農業から林業、店頭に立っている人達向けに温かさを維持するとか何とか言って。」
武雄はクスクス笑う。
「タケオ様、ホント商売人ですね。」
スミスはそんなこと言う。
アリスは呆れ模様で聞いていた。
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