第99話 スミスの交渉は?仕立て屋の感想を聞き出す。
エルヴィス爺さんとスミス、フレデリックは仕立て屋に着き店内に入っていった。
「エルヴィス伯爵様、スミス様、フレデリックさん、いらっしゃいませ。」
店長は挨拶をしてくる。
「うむ、失礼する。」
「お邪魔します。」
「失礼します。」
と3人は返事をする。
「今日はどのような用件で?」
「うむ、タケオのトレンチコートをわしらも作ろうと思っての。」
「畏まりました。
すぐ奥で採寸の用意をします。」
と店長は店員に指示を出し奥に準備に行かせる。
店長は3人にお茶を持ってくる。
「うむ。しかし、唐突にタケオと契約をしたのぉ。」
とエルヴィス爺さんは店長に言う。
「はは、それだけキタミザト様の発想が素晴らしかったのですよ。」
「わしは、タケオの身元照会がくるものだと思ったのにそれもなかったから驚いたの。」
「そんな悠長な時間はなかったので。
それにアリスお嬢様もいらっしゃいましたから。
身元は平気だろうと思いまして。」
店長は苦笑する。
と他の店員が準備ができたと伝えてくる。
「では、まずはエルヴィス伯爵とフレデリックさんから行きましょうか。」
「うむ。」
「わかりました。」
と二人は奥に行く。
スミスは一人残りボーっとしている。と、
「そう言えば、店長さん。」
「なんでしょう?」
「月に45着って・・・どうなのです?」
スミスは直球で聞くことにした様だ。
「どう・・・とは?」
店長はスミスから唐突の質問に驚き、聞き返してくる。
ちなみにその場にいた他の店員は手を止めて聞いている。
「いえ。タケオ様が随分、感心されていたので。」
「ほぉ・・・キタミザト様は何と?」
「えーっと・・・予想より多いから賭けに出たのだろうと言っていましたね。」
スミスは思案しながら言う。
「ちなみにキタミザト様の予想は何着と言っておりましたか?」
「たしか・・・30着でしょうか?」
その言葉を聞き、店長は驚くが顔には出さない。
スミスは気にしていないが、周りの店員は顔を引きつらせている。
「・・・はぁ、キタミザト様は流石ですね。
こちらの限界も分かっていたのですか・・・」
店長はそうつぶやく。
「実際はどうなのですか?」
「現状では28着と我々は試算していました。」
「では、どうやって45着に?タケオ様は賭けという言い方をしていましたね。
・・・えーっと・・・1つ目の賭けは、新たに職人を雇い入れて経費増加を高めてしまうリスク。
2つ目の賭けは、1つ目のリスクを取っても安泰と思わせるだけの今後の受注を見込むリスク・・・だったでしょうか?」
店長は難しい顔をしてスミスの話を聞いていた。
「経費・・・キタミザト様はそう言ったのですね?」
「はい。正確には、タケオ様は『素人を教育する方法』を取ると考えていたそうですが、
『他の仕立て屋に在籍している職人を雇用したか、もしくは店ごと買う方法』を取ったと。
どちらのやり方でも総経費が高くなるので賭けと言えますねと説明を受けましたが?」
店長以外の店員がうな垂れている。
「・・・キタミザト様は、どこまで商才が・・・」
と店長は呆れ顔をする。
「はぁ・・・我々が頭を捻って考え出した方法を簡単に思いつかれるとは・・・
ですが、それは、ほぼ正解です。
実際は、組合を通じて他の仕立て屋を買いました。」
「組合を通して・・・ですか?」
「はい。のちのちの亀裂にならない様に仲介をしてもらいました。」
「そうなのですね。
あと2つ目の賭けについてはどうです?タケオ様は婦人服と手を組むのかな?って言っていましたが。」
「婦人服・・・んー・・・その考えはなかったですが、
まずは近くの大きな街に・・・ゴドウィン伯爵邸がある街の組合にサンプルを卸すことにしたのです。」
「へぇ・・・でもタケオ様も懸念していた。模倣品がでるのではないのですか?」
「そこは・・・向こうの組合とこの街の組合とで契約を結んでもらえることになっています。
模倣品を見つけたらその店に制裁を科すと。」
「なんだか話が進んでいますね。」
「はい。
他店を買う仲介をお願いしに行った際に、全店主達の前で「トレンチコート」の概念を説明しました。
この街の組合・・・この街の仕立て屋の全店主達は、キタミザト様の「トレンチコート」の概念が気に入っています。
『兵士の帰還を後押しする』・・・この考えは新しく、そして店主達の心を打ちました。
現在この店の傘下に2つの仕立て屋が入る予定です。」
「一気に2つも?」
「はい。
どちらの店主も癖があってですね。
一つはデザインに凝る店。もう一つは堅実に仕立てる店。
どちらの店主も商売っ気がないのです。
簡単に言えば、2つの店は各々の飛び抜けた技術はあるが、儲かっていなかった様で。
なので、販売・経営を我々で担い、一人はデザイナートップとして、一人は仕立て職人トップとして参加させてもらえるなら店も惜しくないと向こうからも要望があったのです。」
「それはまた・・・」
スミスは茫然とする。
「私も驚きました。
こんなに話がトントン拍子で進むとは思ってもいなかったので。」
店長は苦笑する。
と奥からエルヴィス爺さんとフレデリックが戻ってきた。
「今度は、スミスの番じゃ。」
「わかりました。」
スミスは席を立ち奥に向かう。
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スミスを3人が見送る。
「フレデリックさん、よろしいでしょうか。」
「なんでしょう。」
「キタミザト様と我々との契約書とトレンチコートの発注書と請書なのですが、
今日の夕方にテイラーと一緒に持参させていただきます。」
「わかりました。
夕方にお待ちしております。」
とエルヴィス爺さんとフレデリックはお茶を飲みながらスミスの採寸が終わるのを待つのだった。
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