そのよんじゅうきゅう 弄ばれるのには馴れています。
脳内妄想を追っ払った僕は、縁先輩の奇妙な発言を思い出す。なんか、弓道部作らないとか言っていたような……。
「あ、別に部じゃなくて同好会でも良いんだよね」
「同好会、ですか?」
「うんうん、同好会なら一人でも書類さえ出せばオッケーなんだって。ね? 一緒にヤらない?」
どうしてかな? このお方が言うと全部やらしい方向にいってしまうのは……。
「い、いや僕は……」
「あら〜? 断るの? 断っちゃうのかしら? ああ、あたしは後輩に汚された哀れな女の子だっていうのに」
うぐっ、ちくしょう。僕を貶めてそんなに楽しいか?! 楽しいんだろ、だって哀れとか言ってるわりには……、ものすっごい笑顔だもんっ!!
「そう、きっとジロジロと舐めまわすように見て辱しめるんだわっ。うう、美しいって罪なのね」
一人でどこかにいっちゃってるうちに逃げようかなあ……なんて思っていると、彼女は目を細めて僕の肩をガシッと掴む。
「――入ってくれるよね?」
有無を言わせない、脅迫染みた口調に僕の首は屈した。
今ほど、今ほどヘタレ属性な僕が恨めしい日はないッ!!
「うんうん、わかってくれて嬉しいわあ。じゃっ、早速手続きに行きましょ」
「……はい」
厄日だな今日は。どうしよう……、川澄さんが家に居るのに。いや、乙葉さんも居るから大丈夫かな?
嬉々とする縁先輩に腕を引かれながら、ぼんやりと唇に触れた感触を思い出していた。
二限目がそろそろ終わるんじゃないかくらいの時間に、僕と縁さんは職員室のドアをノックしていた。
「失礼しま〜す」
「し、失礼します」
別に悪い事をした訳じゃないのに、ドキドキしてしまうのはパトカーを見た時の心理と一緒なんだろうか?
「おっ、河村じゃないか。どうしたんだ授業は?」
「今日はサボりました。あの、それで前々から話してた同好会の件なんですけど」
す、すげー。普通にサボったとか言っちゃってるよこの人。どんだけ胆が座ってるんだ?
「おいおい、生徒会長が堂々とサボるなよな」
30代の体育会系の男性教師が苦笑いする……って生徒会長!? 生徒会長って全校生徒の前であいさつする猛者の事だよね?! そんな、この人で大丈夫なのか? それよりなにより、この人でこの学校の風紀は保てるのか?
生徒会長自ら破壊しそうな雰囲気なんですけど……。
「先生、あたしはそんなどうでも良い事を話しに来た訳じゃないんですよ?」
「ははっ、確かにお前にとっちゃ高校の授業なんざどうでも良いか」
ホント、誰だよこんな人を生徒会長に推薦したのは。ううん、立候補したって可能性も捨てきれないな。むしろ、そっちの方があり得る。
「おっと、書類だったな。で、その隣に居るのが部員か?」
「はい、彼は副部長です」
勝手に決められてる〜!!? いやまあ大体予想してたけど〜!!?
「そうか、確か二年の……三枝だったか。何で校内で袴なんだ?」
「はい?」
くすくすと笑う縁先輩の声を耳にいれながら、自分の姿を確認する。もう、びっくりするくらい不釣り合いな自分の袴姿に、目からビームが出るかと思った。ホントにびっくり仰天だ。
「あ、す……すみませえん」
もちろん、この情けない声は僕。自他共に認めるヘタレっぷりは見事と言えよう。
はあ、僕こんな恰好で校内を歩き回ってたのか……。縁先輩も教えてくれたって良いのにさ。
「まあ良い、ちょっと待ってろ。今持ってくる」
「はい、お願いしま―す」
こんな軽いノリでも生徒会長って勤まるんだろうか? 人選ミスなのでは……?
「キミは廊下で待ってて。すぐすむからさ」
「え、あ、はい。わかりました」
僕が先輩に背を向けて廊下に出ようとした時、背中からクスクスと笑い声が聞こえたような気がした。
……それが、袴でうろつく僕に向けられたものではないと信じたい。
「おっし、終わった終わった!!」
縁先輩が持ってきた書類の、副部長の項目に無理矢理名前を書かされた後、僕達は三年の教室に向かっていた。部員集めをするらしいのだが、この時期に三年が入ってくれるかどうかは怪しい所だ。
「あの……、僕着替えたいんですけど」
「ダ〜メ、それじゃあ威力が半減しちゃうから」
なんの威力だよ……。
訳もわからないまま公開羞恥プレイを受けつつ、三年生の教室へと向かう。その間、僕が好奇の目で見られていたのは言うまでもない。
ま、僕だってこんな恰好でうろうろしてる人見かけたら見ちゃうだろうけど……。
事実なだけに余計恥ずかしい。しかもなにやら先輩はずっとニヤニヤしてるし。時折僕を見てププッて笑うし。
うん、絶対に僕が嫌な目にあうね。
出逢ってからまだ数時間だけど、振り回されるのはなれてるせいか、この河村縁って人間を理解してしまった。
「先輩」
「ん?」
「先輩って人をからかうのが生き甲斐でしょ?」
「………」
先輩はうまくふけてない口笛を吹きながら、目を泳がせる。図星なんだろう。
「い、いやねえ〜。そんなはずないじゃないの。生徒会長のあたしがそんな趣味の悪いこと……」
「い、痛い……」
僕の背中をバンバンと叩きながら、乾いた笑いを浮かべた。ドーバー海峡横断するんじゃないかと思うくらい目は泳いでる、むしろ海面を走ってる。
100%この人は悪趣味だ、間違いないっ。
「な、何よその目は? お姉さんを信用出来ないとでも?」
「はい」
一秒で即答してやった。
「ううっ」
その即答がちょっとは堪えたのか、言葉に詰まる。僕としては一糸報いた感じでちょっと嬉しい。本当に些細な仕返しだが……。
「あ、ほらっ。ここあたしのクラス」
三年一組の前で立ち止まり、愛想笑いを浮かべる。ヒクヒクと眉が引きつってるのは僕が頑張った成果だと思う。
「おっす、おっはよー」
ガララッと乱暴にドアを開けて、高らかにあいさつする。
ぐっ、不覚にもほんの少しカッコいいと思ってしまった。
「ほらほら、入った入った!!」
「で、でも僕二年ですし……」
グイグイと背中を押される。なんとか抵抗を試みるが、この細腕のどこにこんな力が? と思うくらいの馬鹿力で強制的に入れられてしまった。
「………」
縁先輩のせいで、僕に視線が集中する。
「………」
いっその事一発ギャグでもかまして追い出してもらおうか。
「………」
ま、マジでどうしよう? アレかな? 弟ですって言えば許してもらえるかな?
「……あ、あの」
「「「きゃあああああ〜〜〜!!!」」」
「ふへっ!!?」
僕が口を開けかけた瞬間、黄色い声と共に迫ってきた何かに衝突し、意識が異世界へと旅立った。
――よし、今日はスライムでレベル上げするか。
レベルが低いのはご愛嬌だ。
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