こびとのる〜る。(45/55)縦書き表示RDF


今回は15Rになります。苦手な方はお気をつけくださいませm(__)m
こびとのる〜る。
作:壱琉



そのよんじゅうよん pure and innocent love




黒のベンツの後部座席に乗り込み、背筋をのばす。多分、振り向けば今にも泣きそうな三枝の顔が見えるはずだと思う。

不敵に笑う当主様を視界のすみに入れながら、ゆっくりと動き出す景色を眺めた。
――後ろを見てはいけない。見てしまったら、またこの男に弱みをみせる事になるっ。

下唇を噛み締めて、目を伏せた。たらっと零れる血をハンカチで拭い、ポケットの中にしまう。

「良い夢見れたか? 彼は人が良さそうだったからな。暇つぶしにはなったのだろ?」

「………」

夢、確かにそうかもしれない。わたしには、居心地が良すぎた……。きっと、この車の行き着く先こそが夢の終点。夢は所詮夢、目覚めてしまえば途方もない脱力感に蝕まれる。

そうよ、良い夢だろうと悪い夢だろうと……夢なんだから。
――幻、だったのだ。

静かなエンジン音が、精神的に疲労したわたしを眠りに誘った。車特有の気分が悪くなる匂いが、微塵も感じられないよく掃除された車内で、わたしは窓に手を這わせた。

「……冷たい」

今向かっているのは川澄家ではなく、本家。当主様はわたしをお許しにならないだろう。人のことを人形だのなんだのって言うけど、独占欲が強い方だから。

何をされるかなんて、考えるまでもない。ないが、心苦しい。吐き気がする。頭の中が空っぽになったみたいにぼーっとするし、指先が震える。

「降りろ」

いつの間にか運転手がわたし側のドアを開けていた。どうやら本家についたようだ。

「……はい」

服を乱さないよう注意を払いつつ、車からおりる。背後で当主様も降りる気配と、バタンとドアが閉まる音が響いた。

眼前には、わたしの家よりも一回りほど大きな屋敷があった。古さも相当なもので、湿った木の匂いがする。

「来いっ」

腕を掴まれ、強引に引かれた。抵抗はしない。そんなのに、意味なんてないもの。

これからされる事だって、わたしには無に等しいこと。意味なんてない、無かったのに……。

敷居を跨ぎ、ズンズンと一直線にある場所へと向かう。途中で哀れみの込められた視線で、家政婦や執事がわたしを見ているが、誰一人として声をかけようとはしなかった。

進めば進むにつれ、動悸が激しくなっていく。決して気持ちのよいものではない、折り重なるような吐き気に襲われる。

――大丈夫よ。関係ない、もう馴れてるじゃないの。いつだってそうだった。いつもわたしは一人で、川澄家の為にこの身を捧げ続けて来たじゃない。
同じよ、今までと何も変わらない。ずっとそうだったんだから。

一つの部屋で立ち止まると、押しこまれるように部屋へ連れ込まれる。

何もかもわかっていたかのように、五畳ほどの部屋には、ぽつんと布団が敷かれていた。

「うっ、くっ……」

薄暗い部屋でわたしは自らを抱きしめ、この異様な雰囲気に耐える。

「ふんっ」

そんなわたしを見てか、当主様はわたしの心境など興味なさげに笑った。

気持ちが悪い、この部屋の何もかもが。匂いも、感触も、目に映る何もかもが……。

でも、一番気持ち悪いのが――この男だ。

刹那、わたしは布団に押し倒され、首筋を甘噛みされる。ゾッと沸き上がる不快感に耐えながら、何とか引きはなそうと男の服を掴んだ。

「はあ、はあ……」

気持ち悪い、今にも吐いてしまいそうだ。苦しい、息が詰まる。頭の先から足の指先まで、全て泥沼に浸かっているみたいに。

「ほう、今日は抵抗するか。前はあんなに無表情で抵抗らしい抵抗をしなかったと言うのに」

口を歪ませた男が、何かぶつぶつと呟いていた。

「……やめて、ください」

カラカラに乾いた喉からなんとか拒否の言葉を吐き出す。無意味だとわかっていても、言わずにはいられなかった。

とにかく、この不快感から脱したい。助けてほしい……。誰でも良いから、ここから出してほしい。

「やめて、か。あっははははは!! 今更何を言う? くくっ、お前は……オレに従っていれば良いんだよッ!!」

「きゃっ?!」

力任せにブラウスとスカートを破られ、男の目に下着を晒す。ねっとりと粘りつくような視線に、嫌な汗が流れた。

……やだ、嫌だっ。もう、こんなのは嫌ッ。わたしはもう、以前までのわたしじゃないの! されるがままのわたしじゃないの!!

「やめ、てっ!!」

頭の上で押さえつけられた腕に力を入れるが、びくともしなかった。お腹の上で馬乗りになった男が、カカッと邪な笑みを浮かべる。

汗ばんだ手が肌に吸い付き、身体中を凌辱される。

「や、やめっ――!! うう、いやあ、こんなのいやあああッ!!」

「はっ、黙れ人形が。ギャアギャア喚くなッ」

「ぐうっ!!」

頬を拳で殴られ、口の中が鉄の味で一杯になる。

男はわたしを押さえつけたまま、片手で器用に服を脱ぎ出す。ぽろぽろと溢れる涙を拭う事も出来ずに、ただぼんやりと眺めていた。

わたしをすっぽり覆えるほどの上着を脱ぎ捨て、意外なほど引き締まった身体を披露する。

「……ああ」

どうして、どうしてこうなってしまったんだろう? 悔やんでも悔やんでも悔やみきれないっ。
人生なんて言える生き方してこなかった。わたしはわたしと生きる事を許してほしかっただけだっのに。

普通の人には許される、そんな当たり前の事だけで、わたしは満足に生きられたのに……。

川澄家の牲として育てられ、人形として飼われてきた。それが当たり前だった。それがわたしだと思ってた。

――でも違ったんだ。これは、すりこまれた感情。

「ふん、ようやく大人しくなったか」

お腹に何か熱いものが押し付けられ、不快感がぐっと増す。

――三枝と出逢ったことでわたしは変わり、やっと生きている意味を見つけたんだ。やっと……この生が無駄じゃなかったと気付けたんだ。

抵抗を止めたと思ったのか、拘束されていた手がほどかれた。

「そうだよ、お前はそれで良いんだ。お前はオレの『物』なんだよっ!!」

「……さい」

夢なんかじゃなかった。一緒に居るって言葉も、触れていた場所から流れてくれる温もりも、全部紛れもない本物だった。

「ごめ、ん……なさい」

なのにわたしは振り払ったんだ。彼のためだと、彼の家族の為だと自分を偽って、知られてしまうのが怖かったから現実を見れていなかった。

彼は、三枝凪はあんなにもわたしを愛してくれていたのに……。

「許して、ほしい」

――また、甘えてしまう事を。

「ああ? 何を言ってるのだ?」

許してほしい。こんな時でも……あなたに助けてほしいと思ってしまうのを。

「三枝、凪、凪……」

もし、もし許されるなら全部言ってしまおう。包み隠さず、全てを正直に話そう。

裏切った事を謝罪して、黙っていたのを謝罪して、好きだと言ってくれた事にお礼を言って、愛していると囁きたい。

「……凪」

――神様、凪は許してくれるでしょうか? もしも許してくれるなら、最後に……もう一度だけチャンスください。

「そろそろ終わらせるか」

馬乗りになっていた男が、上からおりてギュッと腰を掴んだ。

「……るな」

「ん?」

――凪は優しいから、きっと許してくれるよね?

「触るなッ!! 凪に許してもらえるまで、この身体は凪のものだッ!!」

わたしは、持てる限りの力を振り絞り、足を蹴り上げた。




出来るだけ緩和したのですがどうでしたでしょうか?今まで書いてきた中で、一番読者様の反応が気になる話なので、めちゃめちゃびびってます(;O;)






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