そのよん どりーむきらー桑野
翌日、学校に登校するとなにやら教室の前で揉め事がおきていた。
ん? どうしたんだろ?
多分先輩であろう女子生徒に、一人の女子生徒が取り囲まれているようだった。
「よっ、三枝」
「あ、桑野君。あれ、どうしたの?」
ああ……、と桑野君は呆れたように溜め息を吐いた。なんでも、取り囲まれているのは川澄さんだそうで、取り囲んでいるのは薙刀部の先輩だそうだ。
どうりで中心に居る人は落ち着いてるはずだ。
良く良く見ると、実は騒いでいるのは周りだけだったりする。
「だ、大丈夫かな? 助けた方が良いんじゃ……」
「必要ねえよ。川澄なら自分でなんとかするだろ」
桑野君はそう言ってるが、これじゃあ他の生徒に迷惑もかかる。それに、川澄さんもなんだか困ってる……ような気もするし。
「僕、行ってくる」
「おおい、止めとけって!!」
桑野君の静止を無視して、川澄さんの方に向かって行く。
「あ、あの……」
「なによッ!?」
ふぐっ、こ、怖い――。
来たは良いがいざここまで来ると何を言えば良いのか考えていなかった。7、8人の睨みが心臓に悪い。
「もうすぐHRも始まりますし、他の生徒に迷惑なので……」
「うっさい! アンタには関係ないでしょ!!」
そ、それはそうだけど……。
「女の子みたいな顔しちゃって、でしゃばるな!!」
鬼のような形相で、リーダー格の女子生徒が僕を睨んだ。きんぐおぶちきんの僕には身体中からいろんな液体が出ちゃいそうなくらい怖かった。
あ、そういう事言うんだ。いいの? 僕、泣いちゃうよ? 泣こうと思えば簡単なんだからねっ!?
心の中で無意味な反撃をしながらも、ソレを表情には出さない。こんな時は、とにかく笑顔だっておじいちゃんが言ってたし。
「あなたは黙っていてください。これはわたしと先輩方の問題なのですから」
川澄さんの冷たい視線が僕の臆病なピヨッコ心臓を貫いた。
い、一応川澄さんを助けようとしてる訳なんだけど、もしかして邪魔? いや、もしかしなくても邪魔でしょうか?
「で、でも僕……」
「お節介だって言ってるのがわからないのですか?」
呪い殺すような声に僕の息子が縮こまった。
――鬼は周りにいたんじゃない。仲間だと思っていた人が鬼だったんだ。
「三枝! 邪魔してねえで戻ってこいよッ」
――ブルー〇ス! お前もか!!
「な、なんだよ……?」
目玉が飛び出すんじゃないかと思うくらいに目を見開いた結果、桑野君は後退りした。
「鼻血男……」
「な――ッ!?」
ぼそりと呟いたそれは効果抜群だったのか、桑野君はサッと両手で鼻をおさえて「ふふふふ……」と不気味に笑い出す。
――おっと、川澄さんの事忘れてた!
「と、とにかく他の生徒の邪魔になるの……で!?」
あれ? これって、アレだよね……?
「あんなこといいな、出来たらいいな――」
どこからか鼻歌混じりに『多分21世紀から来た某猫型ロボット』の歌が聞こえてきた。
……どこからか、というか、僕の真後ろからなんだけど。
「三枝を自由に、焼きたいなあ! はいっ! かえんほ〜しゃき〜!!」
いやだあああ!! そんな『多分21世紀から来た某猫型ロボット』なんて僕は信じないぞ!! ああ信じないさ!!!
――だって、だって……。
「アン、アン、アン、とっても愉快さ。ドラ〇〜もん〜」
そんな『多分21世紀から来た某猫型ロボット』には、夢もへったくれもないもの……。
そんな、そんなドラ〇もんは嫌だあああッ!!
――あ、言っちゃった、テヘッ。
「アン、アン、アン、とっても愉快さ。ドラ〇〜もん〜」
「やめて桑野君!! お願いだから僕の夢を壊さないでっ、謝るから!!」
早口で捲し立てるように謝ると、ようやく歌が止まった。恐らく桑野君の中で、僕は最低でも二回死んでいるだろう。だって、一瞬でミディアムだもんっ。
「な、なんなのこいつら?」
「と、とにかく!! 勝負の事忘れないでよね!!?」
そう言い残して先輩達は去って行った。僕、確実に痛い子に見られたと思う。
良くわかんないけど、僕はやった。僕が鬼を鬼モドキから助け出したんだ!!
――あ、あれ? 鬼って助けて良かったんだろうか?
「………」
川澄さんが無言でカツカツと寄ってくると、爆弾を投下していった。
「余計な事、しないでくれませんか?」
――助けなきゃよかったです。むしろ、誰か僕をこの視線から助けてください。
「てめえ! 三枝は――ッ!!?」
「桑野君っ!!」
僕は今にも胸ぐらを掴みそうな桑野君を制して、内心ビクビクしながらも川澄さんの冷たい視線を見返す。
「ごめん。お節介だったよね……」
川澄さんはわかれば良いと言わんばかりに鼻を鳴らし、教室に入って行った。
「良いのかよ三枝?」
「うん。好きでした事だから」
何してたかはさっき記憶から抹消したけど……。
「ありがとう桑野君。僕のために」
「――ったく、ホントにお人好しだな」
桑野君は照れ臭そうに笑うと、僕の肩をポンっと叩いた。
「うん。ごめんね」
「別に、謝る事じゃねえよ」
――僕が川澄さんに何も言わなかったのは、川澄さんの頬に赤みがさしていたからだった。
もしかしたら熱くて、だったのかもしれないが、少しでも喜んでもらえたなら僕はそれで良い。
僕は教室の中を覗き込む。何事もなかったかのように文庫本を読む川澄さんを見てホッと息を吐いた。
僕、きっと長生き出来ないだろうなあ……。
――その代償として、この歳で知りたくない事を悟ってしまったけどね。ふふっ、なんて哀れな僕。
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