こびとのる〜る。(21/52)縦書き表示RDF


こびとのる〜る。
作:壱琉



そのにじゅういち 友達からはじめましょう




帰り道、僕は何故か川澄さんに駅まで送って行きなさいと命令されて、彼女と一緒に歩道を歩いていた。一緒に、と言っても僕は川澄さんの斜め後ろをついて歩いてるだけなんだけど。

「三枝」

「はいっ?」

「最後の射、どう見ますか?」

最後の射……勝負は結果から言えば川澄さんの勝ちだった。あの後部長が的よりやや下に外したのだ。素人目にはわからないかもしれないが、あれは多分わざとだと思う。

部長が負けた後、文句を言う薙刀部を「何故お前達のために真面目にやらないといけないの?」と一蹴したのだ。部長が参加したのはそもそも無理矢理だったらしく、本人は乗り気ではなかったらしい。

さて、これを川澄さんに言うべきか言わぬべきか……。負けず嫌いの彼女からすれば、再戦も十分に有り得る。僕的にはそれだけは勘弁してほしかった。

「あれは……」

「わたしが少しでも嘘偽りがあると感じれば――覚悟はありますか?」

ないです。まだ死にたくないで―すっ。

嘘を吐こうと思っていたのが、一瞬で切り替わった。これで薙刀なんか持ってたら、まさに鬼に金棒だろう。僕なんか瞬きしてる間に殺されちゃうよ?

「多分、わざとだと思う」

「……そうですか」

僕の予想とは反して、川澄さんは口を笑みの形に変えた。

「あの方には感謝しなければならないようですね」

「……うん、そうだね」

まあ、僕は川澄さんが楽しいって言ってくれた時点で満足だったけどさ。

川澄さんは歩みを止めると、僕の方へ振り向いた。いつの間にか駅についていたのだ。

「三枝、あなたに言っておかなければならない事があります」

「うん?」

いつもの貫くような視線ではなく、しおらしい、戸惑うように目が泳いでいた。しばらくキョロキョロと落ち着きなく動いていた瞳が、意を決したかのように僕の姿を映し出す。

「か、感謝します。あなたには世話になった」

「うえ?」

感謝しますって……僕に? ま、まさか川澄さんの口から直接そんな言葉を聞けるとは。き、奇跡だっ。

どうやら僕の反応を待っているらしく、顔を真っ赤にして府いていた。

「だ、黙っていないで何か言いなさいッ」

「ああ、うん」

な、なんかすっごく可愛いんですけど……。僕はどうすれば良いのでしょうか?

「え、えっと――」

「………」

何て言えば良いんだろ? どういたしましてかな? いや、そこまで何かしたって訳じゃないし。じゃあ、こちらこそありがとう?

うん、そうだ。

「こちらこそありがとう。弓を面白いって言ってくれて」

「!!――。あ、あなた、本当にお人好しね」

湯気が出そうなくらい顔を赤らめて、そっぽを向いてしまった。そんな仕草すら可愛い。なんだか素直じゃない葉月ちゃんみたいだ。

葉月ちゃんも、イジらしいほどに一々可愛いもんなあ。

「しかし、そのお人好しな性格のおかげでここまで上達したのは事実。何か褒美を差し上げましょう」

「ほ、褒美って……別にいらな――」

「何か言いましたか?」

「イイエ、ナニモ」

川澄さんの迫力を前に、僕は屈するしかなかった。社会の上下関係を垣間見たような気がしてならない。

「そ、そうですね……。なら、わたしの友人として認めてあげましょう。如何です?」

いや、如何ですって言われましても僕には拒否権ないんでしょ、どうせ。

川澄さんの言葉と表情には明らかな照れが混じっていた。きっと、そんな事を言ったのは初めてだったんだろう。僕だってそんな事言った事ないし。
――ないっていうか、言いたくないよね。

「三枝っ!! 呆けてないで何か言いなさいっ」

「あっ、ありがとうございます?」

で、良いのか? ――って言うかなんで僕がお礼を言ってるんだ? どちらかと言えば、雰囲気的に川澄さんがなりたいんじゃ……。

「では三枝。明日からここまでわたしを向かいに来なさい」

「な、なんで僕が? しかも遠回りだからっ」

「何を言っているのです? 友人とはそういうモノなのでしょう?」

何をバカな事を言ってるんだ、と言わんばかりに僕を見下した。うん、断崖の絶壁から見下されたね、こりゃあ。

しかも僕には拒否権はないと来た。ならどうする?

そんなの決まってるじゃないか、頷くんだよ。諦めてしまえば楽になれる、そう、楽になれるんだよ、ハッハッハッハッ。

「では明日。時間は……あなたに合わせて8時にしてあげましょう」

川澄さんは一人、うんうんと頷き、駅へと消えて行った。

「はあ……。やれやれ」

――我が侭な人だなあ。

僕の顔が真っ赤になっていたのは、家路についてから葉月ちゃんに心配されてからだった。

有り得ないほど熱くなっていた僕の頬は――緩みきっていたんだ。




あれから少したったある日。
期末テストも無事に終えて、今日は終業式だ。今日さえ終われば待ちに待った夏休みが始まる。特に何かする予定はないが、乙葉さんが最近旅行の雑誌をニコニコしながら読んでるから、もしかしたら旅行に行くかもしれない。

「おはよう」

あまり変わらない日常だったが一つだけ変わった事がある。それは、あれから毎日川澄さんと一緒に登校している事だ。

「おはようございます」

両手で鞄を持っていた川澄さんは、小さくお辞儀をしてずんずんと先を歩いて行ってしまった。これもいつもの事で、遅れると怒るくせにいつも先を歩いてしまうんだ。

ほんのりと頬が染まっているのを見る限りでは、一緒に登校するのは嫌ではないようなのだが、僕は必ず彼女の斜め後ろを歩いてるんだ。

ゆらゆらと揺れる黒髪とリボンを眺めながら人知れず溜め息を吐く。

最近気付いた事があったんだ。いや、彼女に友達になろうと言われた時から気付いたいた事だったのだが……。

「三枝」

「うん?」

「遅れ気味ですので、少しペースをあげますよ」

「あ、うん。わかった」

――この堅い口調も、凛とした雰囲気も真っ直ぐな瞳も……気付いたら全部全部好きになってたんだ。

胸に手を当てればトクトクと高鳴っているのがわかる。でも、それすらも心地良いのはこんな気持ちのせいだろうか。

……多分、そうなのだろう。

「三枝、急ぎなさいっ」

「う、うん。ごめん!」

こんな日常がたまらなく楽しかった――。









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