そのじゅういち 夢なら覚めないで……
「あ、あの……もう一回言ってもらえませんか?」
恐る恐るもう一回を要求すると、何故か頬をうっすら染めて眉を潜めた。心無しか、肩が震えているようにも見える。
「ですから、あなたをわたしの指南役に命じます」
うん、どうやら僕の聞き間違いじゃなかったみたいだねっ。
「……何で僕?」
――っていうか何で上から目線?
「先日言いましたよね? 何かあったら言え、と」
「まあ、確かに言ったけど」
でもまさか本当に頼み事されるとは思っていなかった。これは偏見かもしれないけど、彼女は人付き合いが苦手そうだったから。
「それでどうなのですか? やるのかやらないのかハッキリなさい」
「そうだなあ……」
――嫌ではない、と思う。やった事もないのに真剣に弓を引く姿は素直に凄いと思ったし、僕自身努力家は好きだ。断る理由は無い特にない。
「うん、良いよ」
それなら引き受けても良いよね。試合とかはしたくないんだけど、僕が直接する訳じゃないし。
「そうですか」
僕の言葉に一瞬だけ頬を緩ませたが、直ぐに表情が元に戻った。
「では、明日朝6時」
「はい?」
「6時には着替えを終えていてください」
6時って……、それって僕5時起きじゃん!! 無理無理っ、絶対無理だよ!?
僕は小刻みに首を振るが、川澄さんは有無を言わせない態度で僕を睨んだ。
「よいですね……?」
「は、はい」
すごーく怖いでーす!!
「ただいま」
一目散に部屋に向かい、弓を隅に立て掛ける。羽織っていた上着を脱いでハンガーに干しておく。
「はあ、お腹すいた……」
ぐっ、と背を反らすとパキパキと骨が鳴った。久しぶりにリラックスした様な気分がするのは、きっと川澄さんのせいだ。間違いないない。
でも、人と会話するだけで緊張するって……いくら僕が緊張しいだからっていきすぎだよなあ。ま、それだけ川澄さんの威圧感が凄かった、という事にしよう。
「うんうん――」
自分で導き出した答えに納得しつつ、部屋を後にした。
「今日のお昼はなにかな……」
今、朝比奈家には僕以外に誰もいない。葉月ちゃんは部活で帰って来るのは夕方で、乙葉さんは大学の友達と出掛けているそうだ。
――乙葉さんの友達、かなり興味がある。いったいどんな人が乙葉さんと仲が良いのだろう? 僕的予想は『野良猫を追いかけるのが趣味』なら大正解と言えよう。つまり……変わってる人、だ。
「今日は焼きうどんか」
ダイニングのテーブルに置いてある焼きうどんにラップをし、レンジに放り込む。
お腹と背中がくっつきそうなくらいペコペコ状態なので、温めは30秒だ。それ以上は命に関わる……かもしれない。
「おっと、出来た出来た」
温め完了を告げる音がダイニングに響き渡ると、僕はレンジからぬる〜いうどんを取り出し、テーブルに運んだ。
ラップを取り、ソースの香りを鼻一杯に吸い込みつつ椅子に腰をおろす。
「いただきます――」
箸を取って、ちゅるちゅると生温いうどんをすする。
……おいしいけど、やっぱちゃんと温めておけば良かったかも。
「抱いてください……」
ほんのり頬を染め、瞳を潤ませた葉月ちゃんが僕をベッドに押し倒した。ふにっとした柔らかい感触が胸の辺りに当たっている。
「は、葉月ちゃん――」
葉月ちゃんって、着痩せするタイプなんだね……。
身体はガチガチに緊張しながらも、心の中はそんな事を考えていた。今から想像するだけで赤面するような事をする訳だが、もしかしたら僕は本番に強いのかもしれない。
誘うように濡れた唇が頬に吸い付く。ちゅっ、という音と共に、葉月ちゃんは馬乗りになったまま上体を起こした。
そして――。
「恥ずかしいけど……凪さんに全部見てもらいたいから」
ブラウスのボタンに手を掛け、焦らすように一つ一つ外していく。
ちらっ、と見える膨らみを隠す白い下着が僕の理性を吹き飛ばした。
「葉月ちゃん!!」
「あっ、凪さん――」
「やっぱりですか……。やっぱり夢オチですか」
気が付くと、僕はソファの上に寝そべっていた。見ている途中に寝てしまったのだろう、テレビから笑い声が響いている。
「はあ……、夢にしては生々しかったな」
そっと頬に触れると、まだあの感触が残っているようだ。
「でも、なんでよりによって葉月ちゃんなんだよ……」
僕は夢の中でも葉月ちゃんを汚してしまったんだね、そうなんだね!?
罪悪感で一杯だが、一方では惜しかったと思う自分もいる。男の子は大変なのだ。妄想の現実がリンクしてしまうのだからね。
「死ねよ僕、僕死ねよ」
はあ、葉月ちゃんは妹になる子だって言うのに僕ってば超変態なんだから。きっといつかこう呼ばれるはずだ。『歩くセクハラ』とね、ははは……。
「シャワーでも浴びよ」
硬くなった色々な部分を解すべく、脱衣所へと向かった。
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