第84掘:戦争を起こす理由
すいません。
ちょっと長めになりそうなので分割です。
昨日投稿できなかった理由は、なんか混雑でつながらなかった。
この管理画面だけ。他は簡単につながるのに……。
あと、駄目神回、シェーラ回での多くの感想ありがとうございます。
ちょっと量がおおいので、ここでの返答とさせていただきます。
戦争を起こす理由
side:シェーラ ガルツ第7王女
私は今、心底恥ずかしいです。
あの場でリリーシュ様の使いと言おうとしたこと。
そして私が、その神の使いである旦那様を唯一支えられる女性だと勘違いしていたこと。
側室なんですから、少し考えれば分かったのに!!
そして旦那様が神の使いであるとばらしてしまうリスクを考えていませんでした。
完全にリリーシュ様に会って舞い上がっていました。
「…あの、そこまで頭を下げなくていいのよ?」
セラリア様の前で頭を垂れて謝罪をする。
一歩間違えれば、三国での大戦になっていたところだ。
「いえ、本当に申し訳ございませんでした。ルルア様から聞いて初めてその可能性に思い立った次第です。加護を受けたとはいえ、あまりに軽率でした」
「いいのよ。リリーシュ様があんな行動にでるとは思わなくて、シェーラの反応が普通よ。ましてや、ユキの側室、本妻の私をを含めて全員が加護を受けてるなんて思わないでしょう?」
「いえ、この大陸を救うと予言された旦那様です。その程度の事は当たり前だと思います」
「……そ、そう?」
ああ、でもこの失態。
どうすれば旦那様は許してくれるでしょうか。
どう見ても、対面の時は演技だったのです。
子供の無知を庇ってくださるのは、とても良い人です。
ですが、これから大陸を救うのですから、足を引っ張るような人材はいらない筈です。
私でも、こんな自分は必要ないと思います。
「うっ、うう……」
ポロポロと涙がこぼれてきます。
リリーシュ様に与えられた使命をあっさりと裏切ってしまった自分が悔しくて涙が止まりません。
「ちょっと、あなた。あなたの妻の一人が泣いているのよ」
「わかってる」
セラリア様と旦那様の声が聞こえます。
ああ、きっと私はいらないと言われるのでしょう。
「シェーラ、大丈夫だ。君は俺に必要な人だ」
「え?」
どういう事でしょうか?
私は只の一国の王女。
しかもいなくなっても構わない、そんな価値のない子供。
それなのに、旦那様は私を必要と言ってくれます。
「な、なぜでしょうか? 私はこんなにも、皆さんに迷惑をおかけしたというのに……」
「君は何といえば納得してくれるかな?」
「……あ」
旦那様は私が必要なのだ。
肩書きでもなく、私の体でもなく、だから私に納得してほしいのだ。
この方は本当に私を必要としてくれている。
なぜかそう思った。
「大事なのは、ちゃんと学ぶことだ。誰だって間違えるからな。ちゃんと反省して、なぜ間違ったのかを考えて次につなげることこそが俺は大事だと思うんだ」
「…はい、その通りだと思います」
「俺にはシェーラはちゃんと次に生かせる、立派な人だと思うんだけど、どうかな?」
「……不束者ですが、どうかよろしくお願いいたします」
リリーシュ様の仰ったとおりです。
この人はきっとこの大陸を救う。
大事な事をちゃんと見てくれる方。
権力や、財、そんな欲に負けない素晴らしい方です。
だから不意にこんな事が思い浮かびました。
「あのユキ様。つかぬことをお聞きしますが。いったいどういった形でリリーシュ様から認められる様な事になったのですか?」
「「「あ」」」
周りの奥様達も私が言って気が付いたようです。
「そういえば、あなたって気が付いたら、ダンジョンマスターになってたとか言ってなかったかしら?」
「ええ、私もお兄さんからそう聞きましたが。いったいどこで?」
皆の視線がユキ様に集まります。
「ん、ああそれ嘘。で、だ。俺が神様に連れてこられましたーって言って信じるか?」
「「「……」」」
私は信じていますが、皆さんはなぜか微妙な顔をしていらっしゃいます。
どうしたのでしょうか?
「あれを、神として認識できているのは、今だからこそね」
「……そうですね~。最初にアレと会っていたら、お兄さんを頭のおかしい人として見ていたかもしれません」
皆がうんうんと頷きます。
えーと、なにやら皆さん、神様に対して不敬がすぎるのではないでしょうか?
「しかし、これで納得がいったわ。ユキはこんなに色々な技術や知恵を持っているのに、さっさと故郷に帰らない理由が」
「お兄さんはこの大陸を救えと言われていたんですね~」
「……あ~、まあそうだな。実際言われると、妄言の域だな」
「あら、ここにいる皆はあなたの言葉を妄言なんて言わないわよ。今までそれだけの成果を見せて来たでしょう」
セラリア様がユキ様を見つめていいます。
今までの成果ですか?
「そうですよお兄さん。このダンジョンを作り、エル…セラリア様を助け、ここに人を住まわせようと私達を連れてきて厚遇し、今では多くの人々をダンジョンに住まわせ、多くの命を救ってきたではないですか」
「ラッツの言う通りです。旦那様はリテアから追われ、心折れていた私を再び立ち上がらせ、戦争を回避するために必死に頑張ってこられました。私達は旦那様を信じています」
そう言って皆は嬉しそうにうなずいている。
「ありがとう。っていっても結局、皆がいてこそなんだけどな」
ユキ様はそういって、なんだか恥ずかしそうにいいます。
私はよく知りませんので、分からないのですが、なんとなくですが、今までに起こった事はこの奥様達が単独で治めたわけではなく、全てなにかしらユキ様が関わっていたのでしょう。
「でもあなた、これまでは力を溜めてきたみたいだけど、大陸を救うのならば、一旗上げるつもりなのかしら? ロシュールかガルツでも落とすの?」
セラリア様はさも当然に、今後の必要であろう、国を作る為の必要な犠牲を言います。
ガルツを……ユキ様は落とされるのですか?
いつまでも、こんな僻地の領主では大陸を救うことなどできないのは、私でもよくわかります。
大陸を救う、即ち、大陸を一つにするということ。
今までだれも成しえなかった、偉業をしなければ、この大陸は救えないのです。
「え、んな面倒な事しねーよ」
ユキ様は今まで一番めんどくさそうに言います。
「えっと、お兄さん。それではどうやって大陸を救うおつもりですか?」
私と同じ兎人族、ラッツさんといわれてましたっけ? その人が当然の疑問を聞きます。
「わざわざ、人材を集めていたのは国を作る為ではなかったのかしら?」
セラリア様も不思議そうに首を傾げています。
「正直、戦争を起こすならとっくに起こしてる。けどそんな面倒な事、あと恨みを買いそうな事はしねーよ。わざわざ、安全に暮らせる場所を提供したのに、なんで命捨てる様なこと要求せにゃならん」
「しかし、ユキ様。それではリリーシュ様とのお約束をどうやって果たすおつもりでしょうか?」
私がそうユキ様に聞くと、なにやら考え込む様子で……。
「そうだな~、一から説明でもするか。なぜこのダンジョン街を作ったのかってのも分かるだろう。よし、じゃシェーラ。何で戦争が起こるのかわかるか?」
「戦争が起こる理由ですか?」
「ああ」
私は一呼吸おいてその理由に答えます。
「戦争は基本、潤沢な土地や、資源、人材を巡って起きます。今ではどこの土地も何かしらの権利をどこかの国が握っています。たとえ、強力な魔物が溢れていて、手が付けられなくても、どこかの誰かの土地なのです。結局は勝手に人が決めている事ですが、国としてはこの国境は非常に重要です。その土地が多ければ、多くの人を養え、国を強くすることができるのですから。つまり、国を作り守るということは、常に隣国と土地の取り合いをしているようなものです。この土地の奪い合いの一番分かりやすい、解決策が戦争です」
「うんうん。セラリアはどうよ?」
「シェーラと同意見だわ。ここにしても、私達が旗上げすれば、この土地をロシュールから奪うということ、間違いなく親父や姉さまは負けると分かっていても、討伐軍をおくってくるでしょうね」
そう、簡単に言えば土地が多ければ多いほど国としては豊かになるのだ。
まあ、実際、先の先まで、命令がしっかり伝わらず、大きくなるとデメリットも確かに存在する。
「なるほど、ふむふむ。やっぱりそんな所か」
「あなた、どういうことかしら? どうやら、確認みたいだったようだけど」
「おう、セラリア、流石に嫁さんだけあるな」
「それは、あの日からいい加減、あなたの仕草は見てきてるから」
2人は微笑みあいます。
ああ、うらやましいです。
「さて、皆もシェーラから聞いて戦争が起こる理由が分かったかな?」
「えーと、ユキさん。ごめん、僕、頭が悪いんだけど。この前の争乱と、リテアの内乱は別に土地の取り合いじゃないけど……」
「別に頭は悪くないよ。分からないことを聞くんだ。リエルはちゃんと学べる人だ。さて、この前の争乱とリテアの内乱だが、これは国を保つために必要な争いって奴だな」
「国を保つ?」
「そう、知っての通り、国は王様や聖女といったトップが一人で纏めているわけじゃない。彼等の政策を実行し、伝える人手がいるんだ。大臣とか兵士とかな」
はい、国は王やトップがいて機能するもですが、それだけでは国は動かせません。
「その人たちが、この国なんてきらいだー!! って言ってそっぽ向かれたら、国、というか王様や聖女様といったトップは意味がなくなるんだよ。だから国を作って守る手伝いをしている皆に、この国は大丈夫ですよーって示す必要がある」
その通りです。
言葉だけでも、行動だけでもいけません。
どちらも揃える必要があるのです。
「今回のロシュールとガルツの戦争はシェーラには詳しくいっていないが、主にリテアがエルジュを暗殺する為に仕掛けたことだ。ロシュールとしては、ガルツの虐げられている民を救うという、目的と人材、土地の確保の為。ガルツとして、国の民を守る為、又はやられた民の怒りを鎮めるための報復行動。リテアとしては、表向き別の国で聖女が現れ、人心が離れていたための策。裏は、難民救済の為だったけどな」
「えーと……」
「ま、簡単に言えばロシュールはロワールに上手く使われたが、ガルツ、リテアは国は大丈夫ですよって皆に伝える為に、行動を起こしてたんだ。兵士が守ってくれると、国はちゃんと自分達を守ってくれんだーって思うだろ?」
「ああ、なるほど。そういうことか!!」
「逆に、これをしないで、兵士が守らないで人々を見捨てると、この国大丈夫かなー? っておもうだろう?」
「うん、思う」
「こんな事を続けていると、この国にいたら自分の身が危ないと思い始める人たちがでてきて、国から逃げたり、国を良くしようと、反乱がおきたりするんだ」
「ああ、クラックさん達はこれをしようとしていたんだ。リテアがダメだから」
「うぐっ!!」
あ、ルルア様が胸を押さえています。
……まあ今回の件はうっすら聞いた限り、上の不祥事が原因ですからね。
「さて、そういった事から、国を良くするなら土地をたーくさん抱えれば何も問題はないはずだが……実際には上手くいっていない。というか、大国と呼ばれるこの4か国以外はこれ以下の有象無象だ。何でだと思う?」
「なんでだろう? 大きくすれば力も強くなるんだよね?」
「リエル、大きくなると管理も大変になるのよ。リエルも警察手伝っているならわかるでしょう? 部下が増えてとか、警備する場所が増えて大変にならない?」
「あ、うん。最近はとても忙しいよ」
「それが、今よりもずっと大きくなるの。連絡取るだけでも一苦労」
「うわー」
「だから、ある程度の大きさ。そうねこの4か国の大きさぐらいが限界になるの。これ以上大きくなっても、欲の皮の突っ張った奴がいきなり旗上げしたりするからね。距離があると、対応する時間も遅れる。国が広ければ広いほど、その対応は難しくなる」
「あー、そういう事か……あれ?」
「どうしたの?」
「でもさー、セラリア。私達のコールってスキル誰でも距離関係なく連絡できるよね?」
「「「っつ!?」」」
私を含んで、リエルさんの言った言葉の意味が分かった方は驚きを隠せませんでした。
そうです、指定保護スキルに付属する連絡スキル。
「それにさ、ゲートをユキさんに作ってもらえれば、一瞬でそのゲート作った場所に行けるよね?」
リエルさんのさらなる言葉で、皆茫然とします。
ユキ様がいれば今までの国の大きさの限界を越えられる。
連絡もでき、軍隊としての移動も最短と言っていい行動がとれる。
「あなた。大陸を一つにできる国を作れるわ!!」
セラリア様がそう声を上げます。
私も興奮しています。
わかるから、このユキ様がいれば、いかなる不正も、問題も即時に対応できる。
理想的な国家が、大陸を一つに纏めてできるのです。
「いや、落ち着け。国なんざ作るつもりは無い」
その興奮はユキ様の一言で冷めました。
ああ、最初から言ってましたね。
こちらはどんな理由があるのでしょうか?
さてさて、ユキのこの大陸での目的が明らかになってきました。
「国を作らない」
この答えにある意味はなんでしょうか?




