第73掘:反省を活かす
今回で魔物の暴走理由が判明します。
反省を活かす
side:エリス
今日は、冒険者区の冒険者ギルド統括に集まっています。
お仕事と行っても私達はのんびり各ダンジョンのモニターをするだけなんですが。
でもようやくダンジョンができたので、楽しみでもあります。
「さてさて、実際稼働するとなるとドキドキしますね」
「そうね」
私はラッツとのんびり話をしつつ、他の皆をギルドで待っています。
最近は移住者の処理もようやく私達が手を放して見ていられるようになりました。
庁舎の人数をロシュールからの移住者で増やして、身分証や訓練所の教官として育てることを優先して、今後のリテア移住者への世話を試みたのが上手くいっているようです。
いえ、実際一か月ほど経ってますが。
それだけ回数をこなしたという事です。
もう、第一回、第二回のリテア移住者は居住区に移動して、自活をしています。
そろそろ第三回の移住者が訓練棟をでて、居住区に住み、そこから仕事に赴くようになります。
「私達も、あの防衛戦のあとしっかり絞られましたからね」
「ええ、ですからダンジョンの制作はしっかりやったつもりです」
ラッツと私は、あの防衛線が終わった時の事を思い出します。
「ユキ!! いったい何やってるのよ!! 一つ間違えば、全軍崩壊して死んでたわよ!!」
当時、アルシュテール様とのお話が済んだあと、セラリア様は真剣にユキさんにどなっていました。
でも、ユキさんはこうのんびりした様子で聞き流します。
「聞いてるの!? ユキの指揮下の魔物が暴走したのが原因よ!! わかってるの!! 建前上殲滅指示を出したからよかったものを!! 私の指揮下の魔物はしっかり言う事をきいた…のに?」
そう、セラリア様指揮下の魔物は暴走せず、しっかり規律を守って戦っていました。
私達は流石セラリア様と思っていたのですが、セラリア様は何か気が付いたように目を丸くします。
「……ユキ。わざとやったのね」
「いやいや、アスリンが泣くとは思わなかったよ」
「そこじゃないわよ!! なるほど、道理でタイミングが良かったわけか」
「えっと、どういう事でしょうか?」
私はセラリア様の言葉がよくわからなくて説明を求めると……。
「……今回の魔物の暴走の件。アスリンが泣かなくても、ユキが暴走させるつもりだったのよ。表向きは暴走。そして裏は、配下の統率ができるかって見極めね。暴走したと言っても、私達に襲い掛かるわけでも、同士討ちするわけでもなかったわ。しっかり敵を殲滅してた。そして、なんで私がそう思ったのかは、あの状態で私のいう事を魔物達は聞いたのよ……」
「ユキさん、本当なんですか?」
「いやー、見極めって言うと聞こえが悪いな。そもそも、初心者に指揮取らせてるっていったセラリアに無理があるだろう?」
「ぐっ、それは……」
「でも、セラリアのいう事も分かる。皆、今回は俺がわざと暴走させたけど、俺がいないときに暴走や部隊が敗走して統率がとれなくなった時の行動は教えたよな? 実践できたか?」
それを言われると、なにも言えません。
むしろ流れにのって敵を殲滅していました。
「まあ、落ち込むな。実際、こっちの損害はゴブリンアーミーとスライムが8匹ずつ。極めて軽微だ」
「あう」
リエルの隊が大半の死者を出しているので耳が痛いようです。
「初めてでの軍という括りでの戦いでそこまでできたんだ。俺としては合格だ。でも、セラリアの言う通り、軍はちゃんと統率がとれてこそってことだな。いくら強くても連携ができないと各個撃破される恐れがある。すまないが、この戦いが最後だとはとても思えない。皆にはまたこのような戦場に出てもらうことになると思う。だからこそ、今回の事をやった。すまない」
ユキさんはそう言って頭を下げる。
…ずるいです。
そんな理由なら何も言えないじゃないですか。
「そして、これからリテアからの移住者が山ほどくる。しっかりと軍だけでなく、各代表は下の統率をしないと痛い目に合うからな。それを心得て欲しい」
「……今回の件は大勝。指示も私が最終的出した。それに、今回の失敗は私にも原因があり、貴女達への指導目的もあった。反省とその必要性はユキがしっかりしてくれたから、これで今回の件は終わるわ」
セラリア様はそう言うと、机に突っ伏した。
「大丈夫かセラリア?」
「……うるさいわよ。結局貴方の手の平の上じゃない」
「そう拗ねるな。今度しっかり休みを取った時しっかり遊ぼう。皆もな」
私達も多少落ち込んでいたので、ユキさんがフォローをしてくれます。
「しかし、あの時セラリア様はどうやって魔物達を引き留めたのですか?」
ラッツが思い出したように、聞きます。
しかし、そうです。あの時、魔物はいきなり咆哮して飛び出していきました。
「ん? 簡単よ? 勝手に持ち場を離れるな!! って号令をかけただけよ」
「そ、それだけですか?」
「……それだけもできなかったのね貴女達」
「いやぁ、申し訳ない」
「これが現実だセラリア。彼女達は個々で卓越してはいるが、指揮は別物なんだよ。多分、魔物が暴走した時、茫然としてたんじゃないのか?」
「お兄さんの言う通りですね~。いきなりでしたから」
「私が悪かったわよ。でも、今回の件はいい経験になったでしょう? ユキに連絡を取ったみたいだけど、その前にやるべきことは沢山あったってこと」
「指揮も色々大変ですね~」
「私はすぐできたんだけどな」
「そりゃ、王族なんだから、そう言うのは慣れてるだろ。いや、セラリアの才能か?」
「あら、褒めてくれるの?」
「もちろん、助かってるよ」
「ありがとう」
「あの時は正直、落ち込みましたからね」
「ええ、ユキさんの役に立ってると、いえ、今のままで十分だと思っていました」
「ですね~、今の私達はお兄さんの役に立っていると慢心してました。こういう事に際限なんてないのにですね」
「ユキさんも毎日、各種族の文化の違いとかを学んでいますし」
「お兄さんは必死に頑張っているのに、節穴でしたね」
「そのおかげで、今までの見直しにも気合いが入りました」
「改めて見直すと、無駄も多かったですからね。これからも頑張っていきましょう」
「ええ、まずは今回のダンジョン評価ですね」
そうやって、ラッツを今後の意気込みを話していると、どんどん人が集まってきます。
「やっほー。あれ、僕達が一番乗りじゃなかったよ」
「エリスさん、ラッツさん先に来てたんですね」
「…お昼。食べたの?」
獣人組がそうやって入ってくれば……。
「ふう、転移陣があるとはいえそれなりに歩くわね」
「セラリアよ、あれくらいは問題にならんじゃろうに」
「デリーユ様、仕方のない事です。ここ最近、動かないからたいじゅ…」
「クアル、ユキの前で言ったら首落とすわよ」
セラリア様達軍部も到着します。
「ヴィリアちゃん、かわってーー!!」
「アスリン今日はここは私が先なの」
「兄様の腕を離して降りてくるのです!! ヒイロ!!」
「兄ぃはいいって言った」
「…もてもてね、ユキ」
「…乗ってるラビリスが言うなよ」
ユキさんは相も変らず子供に好かれているようです。
「えーと、治療院は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。エルジュ様やルルア様が指導した回復術士が残っているのです」
「ええ、何かあればコールで連絡も来ますし、そこまで心配しなくて大丈夫ですよ」
治療院のエルジュ様達も到着します。
あ、エルジュと呼ばれていますが、変装の術で容姿をかえているので、名前が同じ別人と思われいるようです。
これで全員ですね。
集まったみんなで雑談をしていると、ミリーが冒険者ギルドのメンバーを連れてやってきます。
「みんな集まってるわね? えーと…うん全員ね。改めて紹介するわね。このダンジョンの冒険者ギルドの長。ギルドマスターのロックさん。そして、副ギルドマスターのキナ」
「代表の皆さま方に直々に足を運んでいただいて感謝いたします」
「よ、よろしくお願いいたします!!」
そうやって、マスター達が私達に頭を下げます。
で、なぜ、ナールジアさんがミリー達と一緒にいるのでしょうか?
「私は今回ダンジョンのアイテム関連を任されていますから、ギルド側なんですよ」
「そういうことですか」
「ええ、面白いですよね。自分達の作ったアイテムをダンジョンの宝物として渡すなんて」
そうやって軽く話していると、セラリア様がソファーから立ち上がって挨拶をします。
「私達の事は紹介しなくてもよさそうね。では、ロック殿、キナ殿、今回このようなダンジョンに足を運んでいただき感謝いたします。これからも冒険者ギルドとはよき関係でいられますよう」
「いえ、今回の件は冒険者ギルドとしても非常に助かっているのです。自らダンジョンを作るなど、どれほど便利になるか……」
ロックさんがそうやって、セラリア様に返しているとドアが蹴破られました。
「ちょっと待てや!! なんで俺達が探索組なんだよ!!」
あ、モーブさん達忘れてました。
だって、この人たち基本運営手伝わないし、冒険者区の自分の家か、旅館でのんびりしてるだけです。
ユキさんから、モーブさん達の役割を聞いて納得はしていますが、どうも釈然としないものがあります。
「なにいってるんですか。ここにいる間は働いてないんですから、しっかり今回働いてください」
「ぐっ」
「ランク8の冒険者で今回のダンジョン評定には丁度いいんですから」
「しかしよぉ、俺達が俺達のダンジョンに潜る意味はないよな? 嬢ちゃん達が作った他のダンジョンか?」
それはそうですね。
モーブさん達もダンジョンを作っていたのでした。
「えっと、モーブさん達も指定保護があるから、ちゃんとした評定にはならないのでは?」
「そこは心配するな。モーブ達には俺のダンジョン攻略専門だ」
「げっ!?」
ああ、ダンジョンを作っているチーム6組。
そして、ダンジョンは8つ。
これでは、2つ空いてしまいます。
ですがこれの1つはミリー達冒険者ギルドが訓練用ダンジョンで使う。
最後の1つのダンジョンを…ユキさんが作ったのでした。
「そう嫌そうな顔をするなよ。ちゃんとしたダンジョンだよ。攻略もできる。まあ、頑張ればな。指定保護の関係で今回は、ダンジョンの魔物は安全モード…スタンガン持たせてるから、普通よりやりやすいとおもうぜ?」
「ばっか!! お前のダンジョンの資料は見てるけど何にも安全じゃねーよ!! 一階層の魔物の平均レベル20だぞ!? 10階層で50!! 最下層の30階については120じゃねーか!!」
「お前等もレベル100にはなってるだろ、がんばれがんばれ」
「むりだっつーの!! スタンガンってかすっただけでアウトじゃねーか!!」
……頑張ってください。
「そういえば、他の冒険者の方々の安全は?」
私がそう言ってロックさんをみると彼は頷いて説明をしてくれた。
「セラリア様から、帰還の指輪を今回に限りお預かりしています。評定を優先させてはいますが、攻略できるならするように、と言っています。無論死ぬ可能性はありますが、指輪のおかげでそれは限りなく下げられるかと」
「なるほど」
「ロック殿。冒険者への説明は済ませているのですか?」
私が納得しているとセラリア様がマスターに確認を取っている。
「ええ、もうどのダンジョンに行くのかの振り分けも済んでいます。あとは、行動許可をいただくだけですね」
「では、許可をだします。評定の間に、冒険者ギルドが今後どのようにダンジョンを扱っていくかを説明してもらいましょう。エリスが聞いた質問一個だけでは足りないでしょうから」
そして、セラリア様の提案で、冒険者達は各ダンジョンの攻略を開始し、私達は説明を聞くことになりました。
あっ、私達のダンジョンに侵入者有りの警報がでました。
これから楽しみですね。
これが、暴走理由です。
そして、ダンジョンの評定が開始されました!!
正直、冒険者視点で行くべきか、各ダンジョンの製作チーム視点で行くべきか悩んでいますw
あ、モーブ達は南無。