第71掘:代表の忙しさ
代表の忙しさ
side:ラビリス
「……はぁ」
そんなため息が自然と漏れてくる。
疲れているわけではない。
ただ、寂しいのだ。
最近、ユキに抱き付いている時間が減った。
そう、減ったのだ。
私にとっては死活問題。
ダンジョンは、あの大規模防衛作戦のあと、リテアからの難民が毎週毎にやってきて、てんやわんやだ。
お蔭で、毎日忙しい日々。
ユキと一緒にいられるのは、いえ抱き付いていられるのは、仕事が終わった後。
仕事柄、ユキ、セラリア様と一緒にはいるんだけど、立場的に、状況的に飛びつくわけにはいかない。
私はダンジョンの統括なのだから。
まったく、今日は絶対定時にお仕事終わらせるんだからね!!
「なぁ、嬢ちゃん。痛い目に合いたくなけりゃ、俺に金よこしな」
なにか、馬鹿な男が出て来た。
当然無視して、次の会議場所へ急ぐ。
「おい!! 聞いてんのか!! お前みたいな餓鬼が代表なんてやってんじゃねーよ!!」
またこの類か、リテアからの流れはこういう馬鹿なのが多い。
大方、この救済政策のお零れをもらおうという馬鹿だ。
「…はぁ、文句があるなら今度の代表選出ででればいいじゃない。忙しいからいくわよ」
そう言ってその馬鹿から離れる。
こんな馬鹿と話す時間が惜しい。
一秒でも早くユキに会って癒されよう。
一人で、出歩くものじゃないわ。
毎回移民者には、私が演説で顔をだすので、私を知らない住人はいない。
でも、話を最後まで聞いているかは別。
「まてって言ってんだ!! いいか、金をよこせ!! 代表なんかやってるんだから、持ってるんだろう!!」
「…今の言葉は聞かなかった事にしてあげるから、さっさとどこかに行きなさい」
「ああ!? なめてんのか餓鬼!!」
そうやって男が拳を振り上げて、襲い掛かってくる。
でも、私は特に抵抗もしない。
「なっ!?」
だって、指定保護のおかげで危害は加えられないもの。
私達代表はその役柄、性別、容姿のせいでこうやって暴力に訴えられるとユキは最初から予想していた。
だから、その対処も決まっている。
一度はわざと攻撃を受けて、忠告をする。
「わかったかしら? そして、恐喝罪ね。警察の巡回がいるから、ついてきなさいな」
「ふ、ふざけるな!!」
二度目は、自首を勧める。
まあ、大抵…逃亡する。
「はいはい、誰に喧嘩を売ったのか。そして、ここがどこなのかを理解しなさいな」
そういって、逃げる男にあっという間に追いつく。
「な!?」
「同じ反応はつまらないわ」
そう言って私は自分の刀を抜かずに、鞘のまま打ちつける。
「ぎゃっ!?」
男は私の攻撃を避けられずまともに喰らってそのまま地面を転がる。
「さて、私の話を聞かず最後まで抵抗。これは強制労働後、以後のここ、ダンジョンへの侵入を禁ずる奴隷契約をするわ。各国には通達してるから、貴方は何処でもダンジョンで罪を犯したと認識されるからよろしく」
「ま、まってくれ!!」
「ほら、巡回さっさと捕らえなさい。現行犯よ」
「「はっ!!」」
「「「おおーーーー!!!」」」
もう、最近では私のこの一連を何かのお芝居みたいに見てる。
住民が喜んでくれるのはいいんだけどね。
…つかれるわ。
まあ、私だけでなく、ほかの代表も頻度の違いはあれどこうやって、難癖をつけられて迎撃してるらしい。
「ラビリス姉さん!!」
「…お姉ちゃん。大丈夫?」
歓声に対して手を振っていると、人混みの中から、ヴィリアとヒイロが出て来た。
「あら、二人とも。学校は…今日はお休みか」
「うん」
「大丈夫ですか? いつもあんな変なのに襲われて…」
ヴィリアが心配そうに私を見てくる。
彼女達とは学校で一緒、私は仕事の関係で、お昼で学校を出て行ってしまうけどね。
この二人はその中でも仲良しね。
アスリンやフィーリアとも仲良くしてるみたいだし。
……特にこのヴィリア。勘が囁くのよ。女の勘が。
きっと、いい味方になってくれるって。
「…大丈夫ではあるけど。人が増えるとこんな事が多くなってるわね。二人も変なのに絡まれたりしない? というか学校の全員ね」
「はい、ちゃんとユキ先生が注意してくれてますし。お金をもって移動するときは、引率の人が付いてくるようにしてますから」
「そういえば、生徒も増えて、先生役も来たのよね? その人たちはどう?」
「いい人ですよ。ちゃんとユキ先生やセラリア様が選ばれただけあって、しっかりしてると思います」
「……みんないい人」
ヒイロがそう言って笑う。
この子、どこか私に似てるのよね。
「そう、ヒイロがそう言うなら大丈夫なんでしょう。でも、何か困った事があればすぐに連絡しなさい」
「は、はいっ!! その時は遠慮なくコールを使わせてもらいます!!」
「そんなに固くならなくてもいいのよ。コールは簡易版になってるし、知り合いに話しかける気分で連絡するといいわ」
そう、移住者が増えるにあたって、各部門の信頼できる人のみ、指定保護をしてコールスキルを限定的に使える様にしている。
色々問題が起きた時、私達代表が傍にいるとは限らないと判断したからだ。
尚、軍と警察人員は全員使える様にしている。
犯罪防止の為だ。
簡易版と言っての通り、連絡機能と映像保存の機能があるだけだ。
DPを消費して何かを出すのは私達代表の役。
「で、でも。指定保護された私とヒイロはユキ先生たちに信頼を得られてですから……そんな安易に…」
ヴィリアはそうゴニョゴニョいって俯いてしまう。
本人やユキから聞いたけど、今までスラムの子供達を纏めていただけはある。
しっかり考えて、自分の欲求を我慢してしまうタイプなのだろう。
だからこそ、ユキも、他の皆も、私も、ヴィリアを信頼しているのだ。
ん、いい事思いついた。
「…もしもし、ユキ? ちょっとお願いがあるんだけど……」
「?」
「ユキ先生とお話?」
二人が首を傾げている。
ちょっと、まっててね。
「ふあっ!?」
「んん!?」
あら、意外に早いのね。
まったく子供には甘いんだから。
ヴィリアとヒイロは驚いた顔でコール画面を見て、こちらを見る。
「さあ、早くでてあげなさいな。それとも使い方忘れたのかしら?」
「い、いえ!! えっと、これを押して…」
「ん!!」
『いやー、ごめんごめん。普通に毎日顔合わせてるからコール使う状況になかなかならないよな』
「せ、せんせい!!」
「ん!!」
『おう、聞こえてるぞ。まあヴィリア、今は学校じゃないから普通の呼び方でいいぞ』
「お、お兄様。いいんですか? こんな気軽にコールを使ってしまって……」
『いいぞ。こういう特権は使え。いや楽しめ。まあ連絡取るだけの機能でどうやって楽しめって感じだが……』
「大丈夫です!! お兄様とこうやってお話をいつでもできるなんて嬉しいです!!」
「僕も…」
『そうかそうか、と、すまんこれから仕事なんだ。今はこの程度で終わりにする』
「あ、ごめんなさい……」
「また気軽にかけてこい。そしてこれからの仕事は丁度いいから、二人に手伝ってもらうとしよう」
「え?」
「…お?」
二人の後ろにはユキが悪戯が成功した子供のように笑って立っていた。
「そうね。ヴィリアとヒイロがいればいい意見がもらえるわね」
「ああ、そう思うだろう?」
「え? え? どういう事ですか?」
「…教えてお兄ぃ」
そうやって、不思議がる二人を抱き上げて、私もユキの肩に上る。
うん、これがやっぱり一番しっくりくるわ。
いつもの私。
「お兄様!?」
「…だっこだ」
今日はユキの両腕にいるのがアスリン達じゃないけどね。
「説明は歩きながらな。まあ、ヴィリア達にも説明しただろ? 冒険者区の事」
「ええと、今は小ダンジョンができてないので、ほとんど活動が見られないんですよね?」
「そうよ。それに、いまだ移住者だけで、冒険者は集まっていないの。でもね、そろそろ…」
「俺達が毎日コツコツ作ってたのができてな。冒険者ギルドに連絡して、冒険者をリテアから引っ張ってきたんだ。それで実際にダンジョンの試運転をしてみる」
「…僕達関係ないよ?」
「そうね、本来なら関係ないわね。でも、ここはダンジョン街だから、子供達にも積極的にダンジョン攻略に参加してもらうって話が上がってるのよ」
「で、できませんよ!? 私魔物となんて戦えません!?」
「…スラきちと戦いたくなんてない」
…ヒイロ、スラきちは倒せるわけないわ。
このダンジョンでも最高峰の化け物よ。
いや、スラきちは子供達と遊ぶときはやられ役に徹している。
ある意味、スラきちを倒せるのは学校の子供達だけだろう。
「大丈夫だよヴィリア。その話を纏めるための会議と実践テストなんだ。怖いとは思うが、一回やってくれないか? 子供用だから大けがとかは負わないようにしているし…」
「うう……」
もう一押しってところかしら?
「ヴィリア。頑張ってくれたら、ユキの所に泊まらせてあげるわ」
「!!?」
「いいわよね、ユキ?」
「ん、お泊りか? 学校側はどうにでもなるだろうし、いつか連れて行こうと思ったんだ、いいぞ」
「頑張ります!! 私、魔物一杯倒して、ダンジョン攻略します!!」
「ん、スラきちも呼んで手伝ってもらう!!」
「スラきちは呼んじゃだめよ?」
「えー」
だめよ、スラきちが踏破できないダンジョンは……私達が作ったダンジョンでも厳しい、1つ、2つあればいいかしら?
子供用ダンジョンなんて、要塞が歩いて回るのと一緒だわ。
「…お泊り。お兄様の部屋でお泊り。……」
これがヴィリアが冒険姫と呼ばれる発端となったのを私は知る由もなかった。
…別に悪い事じゃないのよね。
でも、そこはかとなく、悪いことをした気がするわ。
リテアからの移住、最初の頃を読みたい方はコメントでいってください。
一度妖精族で流れはやってるので、飛ばさせてもらいました。