第65掘:えらい
えらい
side:ヴィリア
「ねぇ、アスリン、フィーリア。ユキ先生…お兄様は今日こないの?」
私がユキお兄様の事を聞くと、周りの皆も興味があるようにこちらを見てくる。
当然よ。だってお兄様が学校に来ないなんておかしいもの。
皆、ユキお兄様が大好きなんだから。
「今日は自習だって。お兄ちゃん達は、今日なんか代表で朝から会議があるんだって。なんか、偉い人が来るって言ってたよ?」
「はい、兄様は、本日は色々会議で忙しいから、のんびりしてくれっていってました」
そう答えるとみんなが一様に暗くなります。
「ひっくっ……なんで…わたしたち、すてられたの…うえーん」
「え!? そんな…いや、だよ…えぐっ…」
一人が泣き始めると、一気に周りに伝染して半数近くが泣きだしてしまった。
「あわわ!? 泣き止んでください、お兄ちゃんはそんな事絶対しません!! 今日はお仕事で仕方なかったんです」
「そうです。今日はちょっと忙しいだけで、明日はちゃんと来ます。だから泣き止んでください!?」
二人は慌てて、皆を落ち着かせようとするが上手くいかない。
まあ、これは仕方がない。
普段は、ユキお兄様が皆を落ち着かせているのだから。
他の代表者の方もみえられたりするけど、普段はユキお兄様が一人でこの学校を切り盛りしている。
奥様のセラリア様は二日に一度は顔だしてくれるけど。
と、お兄様がちゃんと戻ってくるのが分かっているなら、私が呆けている意味はない。
アスリンやフィーリアの手伝いしなくちゃ。
「こら!! 皆泣き止みなさい!! これじゃ、ユキ先生に嫌われるわよ!!」
私が大声でそう言うと、皆ピタっと声を止める。
「アスリンがいったじゃない。今日は大事なお仕事があるって。だから、明日ちゃんと褒めてもらう為に勉強しましょう。今日一日泣いてたって聞いたらユキ先生は困るわ」
「…頑張ったら褒めてくれるかな?」
「勿論。先生は優しいのよ、しらないの?」
「知ってる!!」
「じゃ、頑張らないとね」
「うん!!」
今度は一人が頷くと、皆一斉に机に戻って教科書を開いて勉強を始める。
「ヴィリアちゃん!? 皆なぜか勉強し始めちゃったよ!?」
「え、ダメなの?」
「兄様のいうのんびりは、勉強じゃないですよ!? 遊ぶんです!! 勉強なんて、教えてる時ぐらいでいいって言ってます」
「なんでかしら?」
「お兄ちゃんのいう事はよくわかりませんけど「今だからできることが沢山ある。友達と遊んだり、馬鹿やったりな……」って言ってました!!」
「勉強だけじゃ、ダメって言ってました。沢山沢山、色んな事がきっと私の為になるっていってました!!」
「うーん。じゃあ、どうすればいいのかしら? 皆、どうしたらいいと思う?」
私は、お兄様の言葉の意味を考えてもよくわからなかったので、皆に聞いてみたのだが…。
「よくわかんない」
「サッカーしようぜ!!」
「昨日したばかり…って毎日あんたやってるじゃない!!」
「えー、楽しいじゃんサッカー」
などと皆も色々まとまらない。
「……ヴィリアお姉ちゃん。…転移陣使って色々な場所見て回ろう。このダンジョン? よく知らないから」
一人の子がそう言ってくる。
「そうね。それがいいわね。私達まだこのダンジョンの事なにも知らないものね。この前ダンジョンの授業で地図もらったわね。それをもって見学に行きましょう!!」
「「「おー!!」」」
「なんか、ヴィリアちゃん頼りになります」
「うん、兄様みたい」
アスリンとフィーリアがそう褒めてくれる。
「お兄様みたいってのは嬉しいわ。きっと将来はお兄様の役に立てる立派なレディになって見せるの!! と、アスリンかフィーリアは代表の人に連絡してくれる?」
「うん、いいけどなんで?」
「だって、様子を見にきたりして、私達がいなかったら大騒ぎになるわ。あと、お昼ご飯とかの相談もしないと」
「なるほど、そうだね。ちょっとまってて」
アスリンがコールを使って、誰かに連絡を取っている。
あのスキルは代表になれば使える様になるらしい、勿論お兄様も使える。
少し、アスリンとフィーリアがうらやましい。
この二人は私がお兄様と会う前より、ずっと一緒にいたそうだ。
あ、そんな事より、ちゃんと出かける準備させないと。
「皆、この前貰ったリュックに水筒と、名札、身分証をちゃんと入れていきなさいよ。あとスーパーラッツにもよるかもしれないから、お金も持っていきましょう」
私がそういうと、ばたばた皆自分達の部屋にもどって準備をしてきます。
どの子も嬉しそうな顔をしている。ここに来る前が嘘のようだ。
「本当に、夢のよう……」
私はヴィリア。
ロシュールの王都のスラムに住んでいる子供だ。
親の事は、微かにしか覚えていない。
だけど、優しかった。父も母も暖かった。
でも気がついたら、私は一人ぼっちになっていた。
そして、家を追い出されて、こうやって皆で肩を寄せ合って暮らしている。
毎日がひもじかった。
食べるモノを探したり、物乞いしたり、私は私なり生きてきた。
スラムの子供にもグループがある。
窃盗等犯罪に手を染めても生きようとする子供と、ひたすらに良識の範囲で生きようとする子供。
でも、ほとんどが飢えに耐えられず、犯罪に手を染めてほとんどが生きて戻らなかった。
「……ねぇ。ヴィリアお姉ちゃん。おにい…動かないよ?」
私の手を握るヒイロが私に問いかける。
目の前の、私達の兄を見て。
兄といっても、このグループのリーダーなだけ。
実際のつながりはない。でもそれで十分だった。
毎日、必死に食べ物を集めてきて、私達に食べ物を分けてくれる…立派な兄だった。
その兄は両手からあふれる程のパンをきつく抱きしめたまま、動かなかった。
いや、もう死んでいた。
壁に僅かだが、血の跡がある…多分…。
「おにいはちょっと疲れてるだけだから。寝かせてあげようね。ヒイロはこのカゴにパン入れたから、皆にもっていってくれる?」
「うん。わかった」
ヒイロはパタパタと、パンをもって離れていく。
その振動で、兄がゴロリと横たわる。壁にはべったり血がついていた。
…あのパンは何処から盗んできたのだろう。
仕方がない。犯罪者には当然の末路…。でも、悲しいよ。
私は一人、兄の亡骸を他の兄弟達が眠る場所へ埋めてあげた。
これで、私がこのグループのリーダーだ。
今まで以上になんとかして食べ物を手に入れないと、皆が飢えてしまう。
その時はそんな事で頭が一杯だった。
だから、目の前に立派な服と剣を持っていても何も恐怖も感じなかった。
明日の食べ物の為に、その手を伸ばした。
「あら? 私相手に窃盗とか、なかなか根性あるじゃない?」
それがセラリア様との出会いで、このダンジョンに来るきっかけになった。
私はそのままセラリア様に連れていかれて、色々話を聞かれた。
こんな所で私は死ねないので、なんとか頑張って機嫌を取ろうと素直に答えた。
そして、話が終わった頃に、セラリア様が言ったのだ。
「ねえ、ヴィリア。貴女とその子供達を連れて私達の所へ来る気はないかしら?」
「え?」
「ちょっと、子供がいる仕事があるのよ。きてくれるなら、ちゃんとご飯はしっかり食べられるわ」
「お仕事…くれるんですか?」
「ええ。うまくいけば、貴方達の様な孤児がちゃんと生きていける場所が手に入るの。どうかしら?」
「は、はい!! みんなに伝えてきます!!」
「ちょっと、待ちなさい。誰か!!」
「はっ!!」
「ヴィリアについて行って、このお金で食料を買ってあげなさい。こんな子供にお金なんか持たせたら、奪われるか、店に行っても相手にされないか、吹っかけられるだけよ。貴方がしっかり守ってあげなさい」
「はっ!! では参りましょう」
「……クアル、孤児の数が異常だわ。全部は賄えるわけないでしょうが、この数はあり得ない…」
「…そのことですが、ロワール傘下だった貴族が、この孤児救済関連のお金の流れを握っておりまして
……」
「下種がっ!! 至急に調べて……いや、殴りこむわよ。ついてきなさい。明日には出発するんだから、今日中に始末をつけるわ、僅かでも抵抗したら斬り捨てなさい」
「ちょ!? 後始末はどうするんです!?」
「アーリア姉さまに任せるわ。あの人なら上手くやるでしょう」
そして、私はセラリア様について行くことになったのです。
「よし、皆そろったな? 今日から君達の訓練…いや、学校の先生をすることになったユキだ。よろしく!!」
初めての印象は、セラリア様の旦那様でとても偉い人なんだぐらいしかありませんでした。
だから、不評を買わないように丁寧にあいさつしたのを覚えてます。
「あ、あの。セラリア様の旦那様ですね!? よ、宜しくお願い致します!!」
私は皆のリーダーなので必死に考えていた言葉を絞り出します。
「あー、セラリアの奴。こういう所で問題がでるんだよな~」
ユキ様が何がいけなかったのが、不満を口にします。
「す、すいません!! な、なにか問題があったでしょうか!?」
「ああ、いやいや。君が悪いわけじゃないよ。と、君が挨拶してくれたって事は、君がこの子達の纏め役なのかな?」
「はい!! ヴィリアと言います!! 不快な所がありましたら、どうかわたしを罰してください!! どうか皆にはご容赦を……」
言い切る前に頭に手が置かれ、私は身を竦めました。
「怖がらせてごめんな。俺は皆と仲良くなりたいんだ。だから罰したりしない」
ユキ様は私の身長に合わせて膝を曲げてくれます。
同時に頭に置かれた手が優しくゆっくり撫でる様に動きます。
「ヴィリアはえらい。皆の為によくやった。俺なんかよりとってもえらい」
「え?」
「だから、そんなに頑張るな。ここはちゃんと君達を守るから」
「あ、あ……」
その言葉は体に染み込んでいって、目から涙が溢れて止まりませんでした。
「あぁぁああぁああ……!!」
「泣け泣け、全部吐きだしてしまえ。この小さな体で頑張りすぎだよ。まったく…俺の餓鬼の頃とは大違いだ」
「毎日、まいにぢ、たべるもの…なくて…兄は…しんじゃう…し、私が…がん……ばら……」
「そうかそうか……っておい周りもかよ!?」
私が泣きだしたのを切っ掛けに皆も泣き出してしまっていました。
それから、お兄様が必死に皆を宥めてくれました。
これから楽しいことが沢山あるから、泣くのをやめて、ご飯でも食べようって。
それから、夢の様な日々が始まりました。
学校に連れていかれて、その敷地内の寮で私達は皆一緒に寝起きします。
屋根がある家で、ベット?も全員分用意されていて、ご飯はとても美味しいものばかりです。
そして、私達は学校で毎日お勉強をしたり、遊んだりしてます。
お兄様が言った通り、楽しい事が沢山沢山……。
「まだ、一週間なのに…ずっとここにいるみたい」
スーパーラッツで用意されてたお弁当を、公園でみんなで食べおえて不意にそう思いました。
公園ではすでにご飯を食べ終えた皆が思い思いに遊んでいます。
その中にヒイロがいてこちらに気が付き…。
「…ヴィリアお姉ちゃん…ふべっ!?」
こちらに駆け寄ってきて転んでしまった。
「大丈夫!?」
私が手を差し伸べる前に、公園にいつの間にか入ってきたおじさんが、ヒイロを助け起こしていました。
「大丈夫かい?」
「…うん。ありがとう」
「泣かないなんて偉いな」
「…うん、私強い子」
「ああ、強いな」
そうやってそのおじさんは、ヒイロを見て嬉しそうに笑っています。
「あの、ヒイロを助けてくれてありがとうございます」
「いやいや、転んだ後だからね。助けたってのはちょっとな……」
おじさんは自分の事をかっこ悪いと言いたげな表情です。
と、周りの皆が心配げにこちらを見ている。
「それでもありがとうございます。皆大丈夫だから、遊びましょう。じゃ、おじさんまたね」
「おじっ!? と、ちょっと待ってくれ。君はこの街が好きかい?」
おじさんは何か真剣な表情で聞いてきます。
でも、答えなんて決まっています。
「はい、大好きです」
私が即答すると、おじさんは驚いた表情からすぐに笑顔になり…。
「そうか、ありがとう」
そう言って、公園から出ていきました。
そうえいば、一緒にきた移住者であんな立派な服きたおじさんいたかしら?
「おー、こんな所にいたのかクラック。会議の休憩中だからってほっつき歩くと迷子になるぞ?」
「……ユキ殿。どうか、私をこの街を守る為にお使いください」
ちょっと、視点が離れましたが、時間経過は前話より少し後の話です。
学校は今の所、私達が知る学校とはちょっと違う機能をしていますw
昨日休むといったが、アレは嘘だ!!
まあ、書き始めたら止まらないやめられない、かっぱえびせ○だ。