第476堀:胃の痛い真実
胃の痛い真実
Side:エージル
今、僕は新しい時代を自分の目で見ているのだろう。
そうとしか言えない。
だって目の前には、想像もできないほど、発展した街が存在するのだ。
建物も、木造や石積みではない。見たことのない灰色の固い何かでできている。それも、そろって精錬された機能美や技術力を示している。
窓は木窓ではなく、どう見ても無色透明のガラスだ。あんなガラスが生産できる場所があるなんて聞いたことが無い。
更に、人の多さも王都に匹敵するかそれ以上。
まあ、この状況なら当然だと思う。
ここまでパッと見て豊かだとわかる国に人が集まらないわけがないのだ。
「「「……」」」
プリズムやジルバの魔剣使いたちも私と同じように絶句した状態で、街を眺めている。
というか、馬車の窓に張り付いている。
だって、だって!!
「おおっ!? あれは妖精ではないか!? なあ、オリーヴ!!」
「ええ。初めて見ましたわ」
「あれが伝説の妖精ですか。魔術のエキスパートと伝承が残っていますけど」
「いえ、空中に浮いていますから、すでに魔術を発動しているのでは?」
妖精族を見て大興奮!!
プリズムの言う通り、妖精族が浮いているのはきっとポープリ学長みたいに浮遊する魔術を展開しているんだろう。
でも、常時とかすげー!!
話を聞いてみたい!!
というか何ここ!!
ユキ君たちに地下に連れてこられたかと思えば、なんか物凄い街が広がっているんだけど!!
「なんというか、予想通りですねー」
「当然だと思います。私もそうでしたから」
「ん。誰だってああなる」
「ですわね」
なんか、リーアたちが言ってるが耳に入らない。
何あれ!? すっげー!!
というか、亜人と人が普通に話してるよ。
ここは流石ベータンというべきか?
いや、でも、ここまでベータンも亜人は多くない。
亜人には寛容ではあるが、ジルバ、エナーリアとの交流が目的だから、こんな堂々と亜人が街を闊歩しているとトラブルの元だ。
じゃあ、ここはどこなんだという話になるのだが……。
「ようこそ。ウィードへ」
そう、ユキに言われた。
なるほど、ここの街の名前はウィードというのか。
でもー……。
「「「一体何がどうなっている!?」」」
これが、私たちの反応だった。
そんな街の名前を聞いたことないし、こんな規模の街が今まで知られなかったとかありえない。
「まあ、一つ一つ説明していくから、落ち着いて聞いてくれ……」
さて、そこからユキの説明が始まったわけ。
簡単に言うと、このウィードはゲートという、エクス王国の犯罪集団が利用してた技術の一つで、ゲートとゲートをつないで、遠距離を簡単に移動するという失われた技術を使っているという。
うん。それは機密事項だけど、各国でどこにゲートを配置するかと悩んでいるところだ。
ゲートの提供がエクス王国から犯罪組織を出した罪滅ぼしでもあるから。
で、実は、そのゲートを使っていたのは犯罪組織だけではなかったらしい。
彼らユキ率いる傭兵団もだ。
ユキたちもゲートを利用している、なんと聞いて驚け、別の大陸からの来訪者だったらしい。
それが偶然、この私たちが住む大陸と繋がって、見知らぬ新天地を探検していたのが、私たちと出会った理由らしい。
まあ、ちょっと前なら笑って嘘だと言えた内容だけど、ゲートという存在を知ってしまった今、笑って冗談にすることができない。
なにより問題は……。
「まて、ジェシカ。今、何といった?」
「ええ。聞き間違いではないのですか?」
マーリィさんとプリズムがこめかみを押さえるように、説明をしていたジェシカに待ったをかける。
それも当然。だって……。
「はい。こちらのユキと今はいませんがセラリア様は、このウィードの参謀と女王陛下であらせられます。ちなみに、セラリア様は大国ロシュールの第二王女でもあったお方です」
ひぇぇぇぇ……!?
他国の女王陛下相手にため口聞いてたよ!?
プリズムに至っては模擬戦してたよ!?
こ、国際問題になったりしないよね? ね!?
というか、理解できた。
ユキたちがやけに交渉慣れしているのは、元々国を運営してたからだ。
私たちは一武官や将軍だからねー。そりゃー、分が悪いわ。
「ついでに言いますと。ユキはそのセラリア様の伴侶でありますので、王配ということになりますね」
「「「……」」」
ジェシカのその言葉に全員が何も言えなくなる。
ユキに至っては、セラリア以上に色々迷惑かけたし……。
「さらに言いますと。ルルア様、シェーラ様はセラリア様の祖国大国ロシュールと並び立つとされる、リテア神聖国の国家元首、元聖女と、ガルツ王国の元王女でもあります」
「「「……」」」
なに、そのVIP集団?
ルルアさんとか、エナーリアで教会か王族かで取り合いみたいなことになってたけど、やべーよ!?
というか、なんでその大国の聖女や姫君と婚姻してるんだよ、ユキは!?
何者だよ!?
「まあ、ユキが何者かという疑問がありますが、エクスのノーブル陛下と同じような、ゲートの利用方法を思いついて、3大国の争いを沈静化、及び物流の安定、それに倣った小国同士の小競り合いの沈静化にも成果を上げています。つまり、嘘偽りない英雄と言っていいでしょう。だからこそ、ユキに対して、3大国からも姫君や聖女という繋ぎを作って、ウィードの安定化を望んでいるわけです。ここウィードはこの大陸の一大流通国ですからね。まあ、独立していないと、立場的に問題があるという話ではありましたが」
「「「……」」」
つまり、つまり、ユキはこちらの大陸で超、超重要人物じゃん!?
下手すると、一国の姫君とかと釣り合わないレベルの!?
「……ジェシカ。ど、どうして、ユキ……様は、あんな傭兵団を?」
マーリィさんが、何とか口を開く。
すげーよ。風姫騎士と言われただけはある。
というか、マーリィさんの元副官ジェシカさんが説明しているからかな?
「いきなり、自国が別の見知らぬ土地と繋がれば調査するのは当然でしょう。お互い、知らぬ大陸があるとは思いもしていませんでしたから。で、見知らぬ土地の身分をかざして通用すると思いますか?」
「……通用するわけないな。だから、傭兵団か」
「はい。どこかの国に所属するのは、ウィードの立場上よろしくありません。そもそもこちらの情勢すら知らなかったのです。だからこそ、傭兵団を率いて情報を集めていたわけですね」
「納得は……できた。しかし、なぜ今この情報を明かした?」
うん。
マーリィさんのいう通り、今じゃなくていいよね!?
僕たちに暴露しなくていいよね!?
「何をいまさら。マーリィ様。ジルバ、エナーリアでユキたちが付き合いの長い相手と言えばあなた方が一番ですよ? エクス王国でゲートという技術が見つかった今、ユキたちは自分の国を隠す理由もなくなりました。では、だれから話すべきか? となると、マーリィ様やプリズム様でしょう」
「「……そう、ですね」」
2人はそれだけしか言えなかった。
いや、ジェシカさんのいう通りだとは思うよ?
でもさ、でもさ、これって僕たちに……。
「今後の両陛下たちへの連絡はお願いいたします。ユキを呼びつけるという件。もうちょっと話しておかないと、とんでもないことになりかねませんので、よろしくお願いします」
ガクガクと顔を縦に振る2人。
仕方ないよねー。
傭兵団だと思ってたら、バックに、ジルバ、エナーリアと同等というか、ウィードの技術とかを見ると圧倒的に上であろう大国を3つも控えている人物を、呼びつけるとかないわー。
「話は分かったけど、ちょっとまって。僕たちが話しても信じてもらえない可能性があると思うんだけど……」
僕はとっさに、あまりにも突拍子すぎる内容に信じてもらえるか心配になった。
「ええ。エージルさんの懸念も尤もです。しかし、そこの心配はいりません。エクスのトラブル解決にも当たったというのはご存知ですよね?」
「あ、うん」
「それで、私たちはノーブル陛下とも面会を果たしまして、この話をスムーズに進められるよう協力を取り付けておきました。すでに、ノーブル陛下からジルバ、エナーリア両陛下にユキの立場を綴った手紙が届いているはずです。それに……」
ジェシカは視線をサマンサ嬢にむけて、サマンサ嬢が何かを持って進み出る。
「こちらは、今、ローデイで生産が始まったカメラと言います。見たままを記録するという素晴らしい道具ですわ」
そして、その小さな箱の中に、僕たちが映っていて、さっき話したことをそのまま繰り返していた。
「こちらをお持ちください。そうすれば信じてもらえるでしょう。使い方については、この後説明いたしますわ」
……やっべー。
既に手回し済みか。
「ん。魔剣使いの皆が驚くのもわかる。でも、これは事実。下手に時間を空けると外交上不利になりかねない。気が重いのはわかるが、頑張ってほしい」
クリーナにそういわれて、逃げ道はないと悟る。
……そうか、サマンサ嬢は確か公爵家の娘。クリーナも宮廷魔術師の孫だったはず。
立場上は一介の魔剣使いよりは上となると、中枢への説明は僕たちよりは楽なはずだ。
これは責任重大?
あれー? ユキを探しに来たら、なんかとんでもないことに巻き込まれてる気がするよ。どーしよう?
「とりあえず、今日はウィードをしっかりカメラを持って記録を取り見学するといい。自分の身をもって違う大陸の文化を感じてほしい。文化の違いから争いが起これば、ユキが敵になる。それは、絶対にだめ。だからこそ、ユキとそれなりに親交があって話が分かるあなたたちにした」
なるほど。
これ以上無駄な争いはいらないってのは僕も同意見だね。
ベータン近くのミノちゃん将軍が管理するダンジョンといい、このウィードといい、僕が知らないことが沢山あるのに、そんなくだらないことに時間をかけるのは嫌だ。
「よし。なら善は急げだ。プリズム、見学にいこう!! 僕らをウィードが待っている!!」
「え!? いや、あ、うん。そうだけど、でも、もうちょっと……」
なんかプリズムは腰が引けているけど、こうなったらやるしかないんだ。
なら楽しんだ方がいいだろう。いや、楽しむしかねえ!!
どうせ仕事に埋もれるんだから、その前に楽しんだっていいじゃないか!!
と、私と同じ考えに行きついたのか、オリーヴさんも同じように立ち上がっていた。
「エージルさんの言う通りですわね。マーリィさん、ミスト、この場こそ、私たちにとって最大の栄誉ではありませんか!! 陛下にこのウィードを詳細に伝え、他国よりもより強固な結びつきを狙うのですわ!!」
「流石です、お姉様!! 確かに、このつながりは、私たちの領地にもいいことにつながるでしょう!!」
「えーと……。私は領地とか、昇進とかあまり……」
「「えーい!! バトルジャンキーは黙ってついてこい!!」」
「……ジェシカー」
「……マーリィ様。流石に今回は炎水姉妹が正しいかと」
だよねー。
これはいわゆる、交易場所が増えるチャンスだ。
未知の技術も手に入るかもしれない。
国としては放って置けない一大事。
大変なのはもう確定。
なら、当事者として、楽しむしかないじゃん!!
「じゃ、まずは、どこを見て回ればいいのかな?」
「……はぁ。何も考えていないのね」
仕方ないじゃん。
だって見るものすべて新しいし!!
そのあとは、ジェシカさんやクリーナ、サマンサから話を聞いて見に行きたい所へ足を延ばしていった。
まあ、よくあるネタだよねー。
日本人には。




