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第474堀:これからこれから

これからこれから




Side:ユキ




さーて、正月が過ぎ、ようやく世の中落ち着いてきた。

そして、それは俺たちも同じだ。

正月前に、胃の痛い仕事が終わりをつげ、ようやく通常業務に戻ったといいたいのだが……。


「あなた。ホーストの方に話を通してくれないかしら?」

「ああ、そうだったな。でも、こっちの方はどうする?」

「私が相手をするわ。向こうでは、私よりあなたの方が顔が効くのだからお願いするわ。というより、よその大陸から王族が来ますって説明を私ができるとは思えないわ。得意でしょう? そういう言いくるめは」

「得意というわけでもないんだがなー。まあ、わかったよ」


そう。

これからが本番だ。

俺の立場と目的をようやく正確に把握した3大国は素直に協力を申し出てくれた。

自国の心配どころか、後々の未来に深刻な問題があるということがわかって、協力せざるを得ないってのが正しいところだろうが。

まあ、新大陸との外交での外貨獲得とかもあるから、そういう意味でも乗り気なのだ。

あわよくば、新たなる労働力の確保につながるからな。

ウィードを基点に作られた連合ではすでに国と国の武力衝突は小規模ないし、なりをひそめ、自国の開発に精をだしている状態だ。

元々広大な土地を余らせていたのだが、武力戦争がなくなって、ゲートによって安全に大量の物資を運搬出来る様になったことも相まって、自国を開拓して、各種生産力を上げ、経済戦争へと発展したわけだ。

殺し合いよりはまだ健全だよな。

ということで、新しい流通、市場の開拓や、労働力が見込める新大陸は広大な未開拓領土を持つ3大国にとって素晴らしい場所であると言えよう。


「俺としてはようやくスタートラインなんだよなー」

「そのためにも頑張って。ここで躓けば数年待つことになるわよ」

「わかってる。じゃ、行ってくるわ」

「ええ。お願い」


そんな感じで、俺は久々にベータンの街へ顔を出すことになった。

ベータンの街。

元はエナーリア有数の穀倉地帯で、エナーリアの食糧庫ともいわれる重要拠点だったのだが、ジルバ帝国の侵攻などで、一進一退の戦いを繰り広げていた。

元と言っているが、ジルバ帝国の領土になったわけでもない。

色々な問題の解決策として、俺がベータン一帯を預かるということで決着がついたのだ。


「解決策といいますか、無理やりぶんどった感じですが」


そう呟くのは、ジルバ帝国、風の魔剣使い風姫騎士マーリィの元副官ジェシカ。


「ああ、そういえば、ジェシカはあの時、敵だったよね」

「敵というのは立場的に間違いないですが。正しい認識としては、ユキやリーアたちは敵というより、観察対象だったでしょう? そもそも、敵足り得ない」


はぁ、とため息をつくジェシカ。

まあ、ジェシカの言う通り、敵足り得なかったから、省略に近い形で、スティーブに負けたよな。


「……く。今の状態に文句はありませんが、あの時、スティーブに一合も打ち合えずにやられたのは悔しいですね」


そのジェシカの言葉に驚いているのは、サマンサとクリーナだ。


「スティーブとやりあったのですか? 鍛える前に? よく無事でしたわね」

「ん。スティーブを相手によく生きてた」


この2人は、訓練相手ということでジェシカと同じようにスティーブが相手をしていて、未だにまともに勝てない。

スティーブは変則型だからな。

元々体が小型のゴブリンだったので、俺があの手この手を教えまくった結果。

格ゲーで言うなら、トラップ、飛び道具、スピードの複合型かね?


「無論、絶妙な加減のおかげですよ」

「なるほど。それぐらいはできそうですわね。でも、どうやってベータンを拝領したのでしょうか?」

「ん。ベータンを領地に持っているのはしっているけど、どうやってかは聞いていなかった」

「ああ、そういえば2人には言ってなかったよな」

「今まで大忙しでしたからねー」


リーアの言う通り、忙しすぎたのがいけない。

おかげで、新大陸後半で合流したサマンサやクリーナはこういうところの事情をしらない。


「簡潔にいうと、ジルバは殴り込んで、エナーリアは聖剣使いの起こした魔物襲撃を防いで、実力を見せて、ベータンをもらった」

「「……」」


我ながら実に簡潔でわかりやすい話をしたと思う。


「……簡潔すぎます。その実力のおかげで、互いの王から手出し無用。王族の血縁で継承権なしという、妙な立場が与えられたわけです。それと刺激しないため、ある種の動きを封じるためにベータンという領を押し付けたわけです。ですが……」

「全然動きを封じられていませんわね」

「ん。そのあともひょいひょい動き回っている。ベータンは誰が治めている? 大丈夫?」

「ベータンは今まで通り前領主が代行という形になって、以前通りに治めています。というより、前にもましてベータンが活性化していますね。ウィードからの技術を検証する土壌になっているので、いろいろなものが溢れています。ある意味、あのベータンはこの世界でウィードの次に発展しているといっていいでしょう」

「「……」」


なにこっちを見ているんだよ。2人とも。

俺は何も悪くない。


「予定は聞いていましたが、すでにそんな状態だとは」

「ん。魔力の集積地を増やして、魔法陣無効化を狙うとは聞いていたけど、流石にありえないほど早い」


そう、ベータンの活性化、発展については、実地試験という側面だけではない。

新大陸には、国が器用に六芒星を作るような形になっていて、それが偶然魔力集積の効果をしていたのだ。

まあ、これが直接的な新大陸の魔力枯渇の原因とも思わないが。

理由としては、ウィードの大陸も、新大陸と同じように五芒星を作るような形で魔法陣を作っているが、魔力が薄くなったり、中央の場所に魔力が集積されてもいない。

単純にこっちには狂暴な魔物がたらふくいるから、そこらで採算が取れているのかもしれない。

詳しくはなんとも言えないが、別の要因があるのだろう。

で、それを放って置くと、新大陸ではめったに姿を見ない魔物があふれ出す可能性があるので、それを阻止するために、ベータンという人が集まる場所を作って、魔法陣自体を崩す作戦でもあったりする。

といっても、気の長いはなしではあるが。

魔力の集積地点は定期的に間引いているし、すぐになんとかしなければというのがないのは幸いだ。

あ、魔力の集積地点はポープリの魔術学府一帯の山森なので、主にポープリが間引きをやっている。


「とまあ、色々実地もやっているし、こちらのお偉いさんを迎えるのには、ベータンがいいという話になったわけだよ。俺の領地でもあるからな。ノーブルの所か、ヒフィーの所、ホワイトフォレストって案もあったけど……」

「ノーブル様とヒフィー様の所は、陛下たちの胃に穴が開きそうですわね」

「ホワイトフォレストは亜人の国。魔力枯渇の問題を見せる場所としては不適切」


ですよねー。

なんちゃって神たちと合わせただけでもぺこぺこしてたし、その居城に泊まりに行ったら、胃潰瘍で死にそうだわ。

で、ホワイトフォレストの方もコメット万歳で、喜んで受け入れてくれるだろうが、亜人ばかりの国では意味がない。しかも、ほぼ冬の国だしなー。案内するにしても最後だろう。亜人の扱い、立場がどうなっているかという感じで。


「まあ、ほかにローデイとか、アグウストとかもあるんだが……」


俺がそういって、サマンサとクリーナを見ると、2人は勢いよく首をぶんぶんと横に振る。


「無理ですわ!! 下手すればローデイを超える大国の王たちの招きを秘密裏になどと!?」

「ん。こっちも無理。爺様が死ぬ」


わかりますよその気持ち。

爆弾を抱えて地元になんて戻りたくないよねー。

何かあったら、とてつもない問題に発展するし。


「そういうことで、ジルバやエナーリアからもらい受けた俺のベータンがいいということになったんだよ」

「素晴らしいご判断だとおもいますわ」

「ん。的確」


そんなことを話しているうちに、ベータンのゲートをくぐって街にでる。



わいわい、がやがや……。



ベータンの街は特に問題もなさそうだ。


「……人が多いですわ」

「……ん。どこかの王都と遜色ない」

「そりゃ、ここはジルバとエナーリア共同の公認地みたいなものだからな。互いの国で何かをしたいときは、ベータンにっていう話が常識化してるんだよ。安全も保障されているからな」


だって、ダンジョン化してるからなー。

警備関連はすでにウィード並みとはいかなくても、ワンランク下ぐらいだ。

ワンランク下なのは、ベータンの人が警備とかの仕事をしているから、情報開示ができずに、そういうところで遅れがでているのだ。

これがウィードの人たちなら、指定保護とかバリバリだったんだが、そういうわけにもいかないのがめんどい。

無論、上層部はウィードから連れてきたメンバーなので、そういうところでの滞りはない。

簡単にいえば、末端の動きが鈍いという感じかな。

ちなみに、俺たちは領主の館ではなく、別の場所に自分たちの屋敷を構えて、そこにゲートをつないでいる。

ホーストたちの移動も手間だし、排斥する意思もないという意味もあってだ。

……まあ、一番の理由は、仕事場が自宅だと落ち着かないって話なんだが。

しかし、ベータンの運営はセラリアとホーストが話し合って決めていて、俺はそこまでかかわってないのだが、思ったよりも発展しているように見える。

だって公衆トイレとか設置してあるし、路上を汚したら罰金ってしっかり書いてあるからな。

ここは力を入れたんだろうなーと思う。

と、そんなことを考えつつ、領主の館に着く。

なんか人が並んでるなー。こりゃホーストも忙しいんだろうなー。

俺はそんなことを考えつつ、その並んでいる列を横から眺めながら門をくぐろうとすると……。


「まて、お前たち何者だ」

「えーと……」


あー、新人なのか。

俺の顔やジェシカ、リーアを知らないからわかりやすい。

ベータンを制圧した時の面々だぞ。

さて、なんていったものかと悩んでいると……。


「セラリア様はおられず、ホースト様も今は忙しい。この列を見ればわかるだろう? 特別な訪問の話は伺っていない。見たところ傭兵のようだが、そういう仕事の話も含めて、あちらの列にならんでくれ」


あー、うん。

貴族みたいな恰好してるわけでもないからな。

というか、ごちゃまぜだし、サマンサは貴族だが、ジェシカは騎士だし、こんな盛沢山だと傭兵か旅芸人が妥当だよな。

……この兵士はちゃんと仕事をしている証拠だし、ちゃんと話せばいけるかな?

問題を起こしたいわけじゃないからな。


「えーと、そのセラリアの夫で、このベータンの領主となっているユキなんだが。話は聞いていないか?」

「え? 領主様はセラリア様では?」


ああ、俺はベータンでは活動期間が短いから、セラリアトップの認識になってるのか。


「とりあえず、確認に行ってくれないか? トラブルを起こすのはこっちとしても勘弁だし、そっちも叱責される可能性もあるからな」

「わかった。いえ、わかりました。少々お待ちください」


そういって、その兵士は列の整理をしている他の兵士に二、三声をかけて、館へ走っていく。


「流石に、ちょっと雑ですね」

「ありえませんわ。領主の顔をしらないなんて」

「ん。だめ」


ジェシカ、サマンサ、クリーナはちょっと怒り気味にあきれていた。

でも、リーアは違う反応だ。


「あんなもんじゃないかなー? 一般の人が領主様と顔を合わせるなんてそうそうないし、兵士って言っても新兵でしょう? 仕方ないよ。別に帰れって言われたわけじゃないし」


まあ、これが世の中の違いってやつだ。

村人が国の王様の顔を知っているわけがないのだ。テレビや写真もないのだから。

ジェシカ、サマンサ、クリーナは元々それなりの地位や生まれだから、そういう顔を見ることがあっただけ。

俺も有名人とかテレビで知ってるだけで、実際会ったことは……ない。

会ってもあまり興味ないからわからないと思う。

情報伝達技術が発達した地球ですらこんなもんだから、一般人にお偉いさんの顔を覚えろというのは無理というもんだ。

そんなことを考えていると、なぜか、ホースト自身が走ってこちらにやってきた。


「よ。こっちも無事に新年迎えたみたいだな」

「はい。ユキ殿のおかげで、賑やかな新年となりました。しかし、この度はこちらの不手際で……」

「ああ、そういうのはいい。兵士を罰するのもなしな。ちゃんと働いていたから。今度から写真を見せるようにしようかね」

「わかりました。写真に関してはそれがいいでしょうな。そろそろ時期的に解禁しようかと、セラリア様とも話しておりましたし。と、それはいいのです。今、お客様が見えられていて、そちらの対応をお願いしたいのですが。今、コールで連絡をしようと思ったところでした」

「お客様?」

「はい。ジルバから風姫騎士マーリィ様と姉妹騎士オリーヴ様、ミスト様。エナーリアから二刀魔剣使いのプリズム様、雷の魔剣使いのエージル様が見えられています」


なにその豪華メンバー。

というか、すっかり忘れてたよそいつら。とか、言いそうになったが、寸前で堪えた俺はすごいと思う。




ようやくユキにとっての本来の目的に一歩進み始めたというところでしょうか。

そのためにも、これからが大変。

普通の物語なら前回でめでたしめでたしでしょうが、この物語はこれからであり、ユキにとっての本番はこれからである。

さあ、皆様、ある意味ようやく序章を抜けたといいましょうか。

さてさてどうなるのやら、もう少しお付き合いくださいませ。

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