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第471堀:まとめ 我儘姫と毘沙門天

まとめ 我儘姫と毘沙門天




Side:ユキ




「どういうことですか? 彼女がしたことは到底許されることではないはずです!!」

「そうですよ!! タイキさんや国の人とか、私たちもさんざん迷惑したじゃないですか!!」

「……ん。タイキを説得して。あのクソ女は即刻処刑するべしと」


ビッツの顛末を知って怒ったのはジェシカ、リーア、クリーナの三人。

無論、ほかの嫁さんのほとんども、彼女たちと同意見だろう。

このビッツの側仕えに最初から納得できるのはおそらく、セラリア、ルルア、シェーラ……。

そして、今沈黙しているサマンサぐらいだろう。


「……サマンサ? どうして何も言わないのですか?」

「そうだよ、サマンサ!! あの人のせいでたくさんの人が迷惑したんだよ!! いや傷ついて死んだんだよ!!」

「ん。サマンサもタイキの説得に行こう。あれを残していてはランクスの未来は危うい。というか、ユキの為にクソ女は殺す」


サマンサは3人からの声を聴くが、3人の顔を見るだけで何も言わず、こちらに向き直って口を開いた。


「政治的な問題ですわね?」

「そういうこと」

「「「?」」」


このやり取りではわからないみたいで3人は首を傾げている。


「簡単に言いますと。あのビッツ姫を処刑することはできないんですわ」

「どういうことでしょうか?」

「意味わかんないよ。サマンサ?」

「……あれは生かしておくだけ害悪」

「クリーナのいう害悪というのはレイの方ですわね。まあ、あの方はすでに骸ですが。ビッツ姫には実はランクスにとってとても大事な役割が残っていますわ」

「役割?」


クリーナがそう聞き返すと、サマンサはうなずく。


「そう、役割ですわ。今のランクスは安定しているように見えて、実はそうではありません。近隣諸国はこぞって協力しましたが、内はとてもどろどろしているのです」

「サマンサ、よくわからないよ」

「リーアさんにわかりやすく言いますと、ランクスは勇者タイキ様を支える派閥と、旧王家の派閥で割れているはずです。ちがいますか? ユキ様?」

「いや、合ってるぞ」


そう、今回のビッツの問題はそこだった。

だから、最初から処刑などではなく、下働きなどの意識改革を目的とした、嫌がらせを隠れ蓑にした処罰をタイキ君には伝えていたのだ。

で、この話を聞いて考え込んだのがジェシカだ。

騎士団で副団長を務めていたのだから、ここまで聞けば考える余地が生まれたのだろう。


「……なるほど。ランクスの内情は詳しくありませんが、革命が成功してまだ5年も経っていないのでしたね?」

「えーと、大体娘たちと同じ年数ぐらいかな?」

「よくて2年とちょっとぐらいですか、それでは当然ですね。リーア、クリーナ、このウィードを基準に考えていると進まないので、まず頭をまっさらにして聞いてください。本来、一から国を作るといっても、ウィードがしたようにすぐにポンポンなんでも集まってできるわけではないというのはわかりますか?」

「うん。わかるよ」

「それは当然」

「はい。それを理解しているなら話が早いです。普通であれば、国の体制を変えようという大事をして、一から十まで全部総入れ替えをすることはありません。むしろ、昔の体制を知っている協力者がいないと、ランクスで起こった革命のようなことは成立しません」


その通り。

俺だって、エルジュやセラリア、そしてルルアといった権力者の力を借りてウィードを作ったのだから、ランクスでタイキ君がしていた根回しも相当なものだろう。


「下手をすると内乱を誘発していたのですが、そこはタイキ殿の根回しがうまかったのか、今はそんな事態になっていませんが、旧王家派の方々にとっては面白くありません。今は従っていますが、いずれ問題が出てくるはずです。というかそのための処刑だったのです。良くも悪くも伝統は重んじられ、血筋というのを大事にしたがる者は多いですから」

「どういうこと?」

「もっとわかりやすく」

「えーと、そうですね。例えばルナ様がいきなり、ユキ以外のダンジョンマスターをウィードに据えて、私たちにはその方の言うことを聞けと言われて納得できますか?」

「「無理」」

「ですよね。これが、サマンサが言っていた。内がどろどろしているということです。納得できていないのに、ユキが排斥されれば私たちは必ず反発します。そもそも夫婦です。それを引き裂くというのはあり得ません。それは私たちだけではありません。ウィードの皆もそう思うでしょう。ユキは民から好かれていますから」

「とうぜんだよ。ユキさんを排斥とかありえないから」

「ん。そんな無茶をいうルナはおしお……き」


そこでクリーナが理解をしたのか、目が見開かれる。


「そういうことです。ルナ様はそういうことをしないと思いますが、された場合、お仕置きというか話し合いの席を設けるというのは私たちの認識です。これができない場合はタイキ殿がしたような革命になるわけです。そういう意味では私たちはユキに連なるモノでなければ、ウィードを任せられないということですね。これが伝統であり血筋というものです」

「えーと。それがどうビッツ姫を生かすってことにつながるのかな?」

「そうですね、リーア。ならばウィードのダンジョンマスター変更が、ルナ様の勝手ではなく、ユキからも頼まれたものだとどう思いますか? 例えば、ちょっとの間だけ協力してやってくれとか?」

「それは、ユキさんの頼みだし、ちょっとぐらい協力してやってもいいかなーって!? ああ、そういうことか、旧王家じゃないとだめーって非協力的な人も、ビッツ姫からとりなしてもらえれば、協力してくれるかもしれないんだ」


その通り。

リーアの言う通り、今回のビッツを生かすというのは、それが目的なのだ。

ランクス国内で燻っている火種。

旧王家派をここで完全とはいかないだろうが掌握できるチャンスなのだ。


「しかし、不思議なのですがユキ様。失礼ではありますが、彼女、ビッツ姫が、タイキ様の側仕えというのはいささか急というか危険ではありませんか? てっきり、彼女を説得するために精神的に疲弊させるような立場へ回すと思っていたのですが?」

「精神的に疲弊させる?」

「えーと、クリーナさん。あのビッツ姫が協力をしてくれと頼んで、協力してくれるでしょうか?」

「無理。あれは話を聞く限り、自分の我儘が通らないと気が済まないタイプ」

「ええ。私もそう思いましたわ。だからこそ、その我儘を矯正するとともに、説得しやすいように、言い方は悪いですが今までのより環境の悪いところに置くのですわ。下々の仕事をさせてとかですね」

「それはいい考え。人々の生きるすべを知らないからあんなことが簡単にできる」

「ですが、タイキ様の側仕えになっているのです。それではあまり、苦しいとか意識改革には……」

「ん。それはサマンサの言う通りおかしい。ユキどういうこと?」

「そこが、今回ひょっこり出てきた、上杉輝虎のおかげで狂った。まあ、いい方向ではあると思いたいけどな」

「詳しく説明してほしい」

「わかった」



正直な話、タイキ君と俺はビッツを下働きでもさせて、下々の人たちがいかに大変か、自分がいかに我儘三昧だったかとか、元の生活を少しでも取り戻したいのなら……なんて脅しというか洗脳というが、そんな感じの展開を望んでいたんだけど、上杉輝虎によってそれは打ち砕かれた。


『我ら、と言っても体は一つだが、条件を飲んでくれるのであれば、そちらへの協力はやぶさかではない』


そういって、自ら進んで、旧王家派の説得などを引き受けると言ってきたのだ。

無論、信じられないといったのだが、指定保護を受けたし、旧王家派でやばそうなのは売り渡すとまで言ってきた。

なんでまたと聞いたところ……。


『そもそも、この小娘は何もしらん。蝶よ花よと育てられてきたのが問題だ。言えば何でも出てくると思っていたらしいからな。これではただの傀儡よ。この国を食い物にしていたのはこの小娘や元国人の両親をおだてていた者どもだろうよ。我らを処刑せずにつれてきたということは、その厄介な元国人派の者どもをどうにかしたかったからだろう? 下剋上や乗っ取りのあとは、周りを固めるのが大変だからな……』


長尾景虎の時の苦労かい。

まあ、上杉輝虎もそういう経験があるらしく、どうもそれでビッツに目をかけていたらしい。


『なに。謀反でも起こすのなら次こそ斬ればいい。私としては依り代である小娘には死んでほしくないが、一矢報いるというのであれば、止める権利はないからな』


本音は動かせる体がなくなるのが嫌だからと正直に言ってくれたが。


『それまでに、小娘の意識改革の手間は私が引き受ける。その代りというか、それを行いやすくするために。そこの若造……ではなく、勇者タイキ殿だったかな? 側仕えがいいと思うのだ。許可してはくれぬか?』


そもそもこちらのルールを知らないので、知り合いの同郷、この場合はタイキ君のそばで、教えてもらった方が、この世界を理解するのに早いだろうという意味もあったらしい。

ビッツ嫌いの奴が、曲解や教えないってこともあるだろうし、それは手間だからな。



「ということで、タイキ君の側仕えになったわけだ。無論すでに仕事をしてくれている。旧王家派に説得というかなんというか、いずれランクスを取り戻すために、今は雌伏の時ですとか言って、打倒タイキ一派を押さえつけたらしい。証拠の武器調達とかの書類をすぐにタイキ君に回しているから、後釜の選定が終われば、時期を見て一斉に入れ替えがあるだろうなー」


この作戦立案も輝虎が行ったものだ。

流石、こういう軍略に関することは得意ですなー。


「むー。何か釈然としない」

「ん。もやもやする」

「まあ、そういうな2人とも。下手にあの姫様を処刑すると、旧王家派が旗揚げする可能性もあるからな。一番穏便な手だよ。というか、輝虎のいう箱入り娘の無能を育て上げたのは国だから、もとを正すのなら国の重鎮全部を処刑しないといけなくなるしな。そうなると、タイキ君以外は全員首切りだぞ? 今まで放って置いたんだから」

「それはやりすぎかなー」

「ん。国が立ちいかなくなる」

「リーアやクリーナの言う通り、やりすぎであり、国が立ちいかなくなります。だから、取り込むという方法をえらんだわけですよ。そして、これはランクスの方針ですから、私たちが口をだせることではありません」

「そうですわね。実際、被害をこうむったのはランクスですし、表向き私たちはただの部外者ですから。まあ、お2人には馴染みがないかもしれませんが、こういうこともよくありますわ」


現代でもある、一種のもみ消しのようなことだ。

確かに、悪いのはことを起こした当事者たちなのだが、じゃあなんでそんなことを起こしたのか? という話になると、芋づる式にいろんな人たちがでてくるので、手打ちをしたという話。

現代でも関係者全員を処罰するのは難しいのに、こんな地球の歴史での中世の王政のような時代の異世界でそんなことができるわけがない。

マジで国が傾くから。

ならば今後協力してくれるなら、よしとしようという話。

手打ちにしないと被害が拡大する恐れがあるからな。



これが世の中というものである。



ただ巻き込まれて亡くなった人には申し訳ないけど。

それも、結局他国の人間だ。

ランクスがそれをよしとするなら、俺たちが口を出すことではない。

口を出してその人たちが生き返るなら、まだ考えないでもないけど、そういうわけじゃないしな。


現代でも沢山紛争は起こっているし、難民も山ほど出ている。

さて、この終わり方に文句があるやつは、さっさと世界各地で起こっている紛争や問題、事件に介入して止めてくればいい。

現実を知らない奴ほど、かわいそうとかそういうことをいうだけで動き出すことはない。

結局自分が大事なだけ、本当に紛争や難民などの問題を解決したいと思っている人は、日本人でも紛争地帯にいっているし、世界を回っている。

文句を言う前に動く。それが大事だという話。



俺? 俺はそういうのは面倒なので、降りかかったら振り払うスタンスですよ?

別にどっちが正しいとか、悪いとかは興味なし。

結局さ、人の気持ちしだいだから。

口だけの人もそれを言って満足したいってのもあるだろうし、俺としては別にいいと思う。

ただし俺に面倒をかけた場合は容赦しないって話である。

そういう意味で、俺は文句や抗議をする前にすべて押さえて叩くんだけどな。



こうして、ランクス安定の為に我儘姫というより毘沙門天は協力することになりました。

あとは、この毘沙門天からいろいろ話を聞くためというのもありますが。

さて、残るは折れちゃった天下五剣の話。

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