第470堀:まとめ 異世界の侍と剣の神のその後
まとめ 異世界の侍と剣の神のその後
Side:ユキ
結局のところ、表向きはどの国も平穏なまま終わった。
ただ、所々で役人の汚職が見つかったり、冒険者が凶悪な魔物にやられたとか、罪人の処刑が行われただけ。
「俺の精神力は限界だけどな……」
ペンを止めて、書類を横にずらし、机に突っ伏す。
今回の騒動は、いろいろな要因が絡まりあって、起こって当然の出来事であったとはいえる。
始まりというのであれば、おそらくはこのウィードの発展。
それに乗じて、いろいろな感情が高まって、爆発した。
国を失った恨みだとか、相手が裕福なことに対する嫉妬とか、与えられた使命とか、正義感とか、まあ、いろいろだ。
「ユキ、大変なのはわかりますが、執務中ですから」
「頑張ってください」
そういってくるのは、ジェシカとリーア。
俺の専属護衛ではあるが、俺の補佐でもあるので、一緒に書類仕事に埋もれている。
今回の騒動は秘密裏に処理がされた。
だからこそ、その指揮を執っていた俺には膨大な書類仕事が回されている。
いやー、いつもの事ではあるんだけどさ。
「めんどい」
「そういわずに。ユキ様、もう少しです。ミリーさんも待っていますし」
「ん。秋天に早く会いたいから頑張って」
サマンサとクリーナにそういわれると仕方がない。
俺は一家の大黒柱なのだから、夫として子供の親として頑張らなくては……。
そんなかんじで、気合いを入れて復活して書類仕事を再開する。
えーと、次は消費したDPの詳細報告書かー。
これの関連書類どこだっけ?
あ、やべ、タイキ君の所とか、ノノアの所とかは、管理がそれぞれ違うから、頼んで詳細送って貰わないと。
というか、コメットの奴ここら辺のことちゃんと教えてるのか?
……そうじゃないと、わざわざ向こうに行って調べなおしとかいう悪夢にならないか?
そんな恐ろしいことを思い浮かべていると、ジェシカが口を開く。
「これは、アーウィン関連の書類ですか……なるほど」
「なるほどって、そういえばアーウィンさんって処罰とかはどうなったんですか?」
「リーアさんの言うように、私たちはあまり話すことはありませんでしたし、その後も聞いていませんでしたわね?」
「ん。聞いていない」
「あー、アーウィンなー……」
そういいながら、タイキ君とノノアにDP使用の詳細報告書を送れと連絡をする。
頼むぞー、タイキ君はタイゾウさんもいたからともかく、ノノアはコメットだからなー。マジで頼む。
「あいつはこのまま、今までのダンジョン管理をしてもらうことになった。こっちの言うことには素直だし、害意もない。指定保護も受けたし問題はない」
「え? ユキ様。元々はといえば、彼の私怨によるものでは?」
「ん。アーウィンが手を貸さなければ、被害はでなかったはず」
サマンサとクリーナはアーウィンの処罰の軽さに驚いているようだ。
「ま、私怨によるものだけど。道具を与えただけだからな。ダンジョンっていう道具をな。本人は見極めの意味もあったらしい」
「見極め?」
「どういうことですか?」
「それで、ノゴーシュとビッツが善政を敷くなら、私怨を晴らす意味もないってな」
「「「ああー」」」
全員が納得した声を上げる。
「なるほど。確かに、剣で人が死んだからといって、剣を作った人が罰せられることはありません。剣を握って斬り殺した人が裁かれます」
「そっかー。言われてみれば当然だ。でもなんでアーウィンさんが悪いとか思ってたのかな?」
「……おそらくは、アーウィンさんなりの罪滅ぼしですわ。確かに道具を使う人の問題ではありますが、個人的には私怨を晴らす相手であってほしいと犠牲を望んだのです」
「……ん。理解した。無実の人を殺すとわかっていて武器を売るような武器屋は存在しない。あ、利権がいろいろ絡むとわからないか」
「一般人的な感覚だから、利権云々はいい。クリーナの言う通りだよ。それをしてしまったからアーウィンは処刑される覚悟で俺たちの前に出たわけだ。目的も達したしな」
アーウィンは自分でノゴーシュを斬るということを達成したので、もう生死はどうでもいいらしい。
私怨晴らしの勝ちはとった、相手のプライドはズタズタだろうし、正直死んだと思ってからの復活だから、もう十分だろうと。
「まあ、俺たちの予定を狂わせたってのもあるが、それを言うなら、元々ビッツを逃がしたランクスや、もっと支援をよこさなかったり、ウィードに反発している国々に外交を積極的におこなって意志疎通を図らなかったこっちも悪い」
「……確かに。一概にアーウィン殿が悪いという話ではないですね」
「難しいですねー」
「だから、こっちとしてはこれから運営の一翼を担ってもらってほしいと頼んだわけだ。そしたら二つ返事で頷いてくれた。所持するダンジョンの細かい話は後になるが、話を聞く限り、ガルツ一帯とリテア一帯のダンジョンはすべて彼の管理下らしい」
「そ、それは凄まじい情報ではないでしょうか?」
「ん。確かルルアやライエは自国のダンジョンに他のダンジョンマスターがいるかもしれないってびくびくして、情報収集に躍起になってたはず。というか、それほどのダンジョンを所持しているなら、ユキと同じことができたはず。なぜ彼は行わない?」
「そこらへんは、俺の国の変人のおかげというか、原因というか……」
『ユキ殿と同じような国を? ははっ、ごめんこうむります。自分の領地を守れず、今まで普通のダンジョン運営しかしてこなかったこの愚物が、師と同じ故郷のユキ殿の真似をしても追いつけるわけがない。ユキ殿より前に思いついていたのなら話は違いますが、あとを追うように作っても、きっと長続きしないうえに、今回のようにユキ殿の反発者が集まり、このダンジョンとぶつかる可能性もあるでしょう。いやほぼ確実でしょう。敵対者を集めるという点では優れていますが、私はただの武芸者ですからね』
「とのことだ」
「……筋が通りすぎていてなにも言えませんね」
「……ですわね。敵対者を集めるですか、ユキ様はどう思われているのですか?」
「ありと言えばありだが、裏でつながっているとなるとすげー管理がめんどくさい。命令と言えばアーウィンは従うだろうが、そっちの土地の選定とか、お偉いのとの交渉とか、街の運営の人材を新たに発掘しないといけないぞ? できるか?」
「無理ですよ。無理!!」
「……このウィードだけで手いっぱいなのにありえない」
リーアは叫んで、クリーナが現実的ではないという。
俺もそう思う。
「そういうことで、アーウィンにはタイゾウさんに譲ったダンジョンマスター能力を返して、管理を任せている状態。まあ時間ができれば詳しくいろいろ考えるだろうが今はまだそれでいい。タイゾウさんも一応ヒフィー神聖国の宰相みたいなものだからなー。これ以上の仕事はいらないってさ。研究ができなくなるからな」
「あはは……。その、ユキさんたちは大変だねー」
リーアの言う通り、何でもかんでも俺たち召喚者に任せればいいやー、思考は是非やめてほしいわ。
クソ忙しいだけだから。
お前らのケツぐらい自分で拭け。
俺の本来の目的は元々各国の安定の先にあるからなちくしょー。
「アーウィンのことはわかりましたが、では、今回の直接的な問題を引き起こした彼と彼女はどうなったのでしょうか? ユキのいいようであれば、道具を無下に扱い、被害を出した彼らは無罪とはいかないのでしょう?」
「そら当然。ノゴーシュはノノアの説得?でおとなしくなって、和平に応じる形になった。まあ、表向きランクスへの宣戦布告はなかったことになってるしな」
「……なぜ?」
「クリーナ。戦争ってのは、よほどの理由がなければいけないんだよ。ノゴーシュ自体、俺たちが悪であり、これ以上は世界の存亡にかかわると思って、ビッツの情報から判断してノノアとかと協力したわけだ。だけど、その説明を受け入れたとなれば……」
「争う理由は在りませんわね。しかし、ノゴーシュ様もただの脳筋ではなかったのですね」
「そこは意外でもあり、当然だともいえる。曲がりなりにも今まで小国ではあるが維持してきたんだからな。で、ここでノゴーシュを斬ってしまえば当然、国々の緊張感が高まるというか、下手するとだまし討ちみたいになるから、剣の国が弔い合戦とか起こしかねない。そこは避けなくてはいけないからな」
「えーと、それだと結局、ノゴーシュはお咎めなしですか?」
「そうだな。和平に応じるってのはお咎めのような気もするけど、実際ノゴーシュから被害は受けていないからな。被害をもたらしたのはノノアの策略と、ビッツのランクス侵攻。これだけだ」
指示をだしたといっても、証拠もないし、それを突き詰めて認めさせるといろいろ問題があるから、追及しないことになっている。
「そもそも、ノゴーシュが上泉信綱に怒るのも無理はないんだよなー」
「どういうことでしょうか?」
「あー、ノノアから聞いたんだが、ノゴーシュと上泉信綱の戦いは、まず舌戦から始まったそうな」
「はい? 舌戦? えーと、剣の国の闘技場での一騎打ちでしたよね?」
「そう。そこで上泉信綱が禅問答みたいな舌戦を始めて、ノゴーシュが言い負けたそうな」
「……それは、なんといいますか」
「剣の勝負というか、決闘を汚されたというか、まあそんな感じらしい。そのあとは、怒ったノゴーシュが斬りかかるが、そんな心の状態で当たるはずもなく。刀の峰でちょいっとやられたわけだ。アーウィン曰く、師としては教育のつもりだったのでしょうが、一国の王に公衆の面前でやることではないですよね。って苦笑いしてた」
「「「……」」」
沈黙する嫁さんたち。
仕方がない、ああいう奇人変人を突き抜けた、天才とかいうやつらに常識を説くというのは不可能なのだ。
どこまでも我が道を行く。
必要なのは受け流す能力。突っかかると、痛い目しか見ない。
だからこそアーウィンも命を取るのではなく、試合に勝てばいいと思ってくれたのだろう。
「そ、それではビッツ姫はどうなったのですか? いまだに処刑の話は聞きませんが?」
ジェシカが話を切り替えるように、ビッツの話をしたのだが、それが一番問題になっていた。
「正直な話。これは表向きランクスの問題だからな。俺たちは何も言うことはできない。だけど、結果だけを伝えるとなると、ビッツは処刑されることなく、王位継承放棄でタイキ君の側仕え、近衛騎士みたいなものになった」
「「「はぁ!?」」」
本日一番の驚きいただきました。
「どういうことですか? 彼女がしたことは到底許されることではないはずです!!」
「そうですよ!! タイキさんや国の人とか、私たちもさんざん迷惑したじゃないですか!!」
「……ん。タイキを説得するべし。あのクソ女は即刻処刑するべしと」
ジェシカ、リーア、クリーナは信じられないって顔をしている。
それも当然。あのビッツがした所業は普通なら許されるレベルを優に超えている。
さーて、わかっているのは沈黙しているサマンサかな?
長くなるというか、まあ当然というか……。
この章のまとめに入りまーす。
お正月で期間を開けましたが、いろいろこれで思い出してください。