第466堀:酒呑童子の経緯と処分
酒呑童子の経緯と処分
Side:ユキ
まあ、世の中予想外のことが起こるのは、よくあること。
予定通りに物事が進むのは稀。
それは俺もよく知っている。
だけどさー。
「これはないだろう」
正直、この問題は放って置いて寝たい。
でもそういうわけにはいかない。
だって、目の前に広がるのは……。
「なぜ私が縛られている!! 貴様、このようなことをしてただで済むと思っているのか!!」
そうのたまう、真っ二つになってくっついて、蘇生した、剣の神ノゴーシュ。
もう剣の神って看板下せよ。
ゾンビーのほうが似合うぞ。
「……ぬぅ。お主、一体何をした。ちゃんと説明してもらうぞ」
そういって、正座しろって言っているのに、胡坐をかいて座っているのは、ビッツ姫ではなく、コピーの姫鶴一文字に宿ったコピー劣化上杉謙信。
ここまででもわけわからずだが、極めつけは……。
「大丈夫だよー。お兄ちゃんはいじめないよー」
「そうなのです。兄様は優しいのです」
「はい。お兄様に任せれば大丈夫ですよ」
「お兄はちょうすごい。いい子だから、泣かない、泣かない」
そういって、アスリン、フィーリア、ヴィリア、ヒイロが総出で慰めているのが……。
「ひぐっ、えぐっ……。うん。秋天はいい子だから、泣かない……。ひっぐ……」
そう、この作戦で一番問題となっていた酒呑童子その人?である。
いや、見た目はただの子供だ。しかも女の子。
いやさ、考察で権力争いに追われた、貴人っていう説はいったけどさ、普通男だと思うだろ?
いやさ、童子だから子供って感じだったけど、まんまかよ!!
捻れよ!!
誰か説明してほしいわ!!
「えーっと、ユキさん。とりあえず処刑場の撤収はおわりました」
「スティーブと霧華からも、連絡が来たわ。ビッツのダンジョンの掌握は無事すんだそうよ」
タイキ君やセラリアからは、いろいろ報告がくる。予定通りで何より。
「で、ユキ君。とりあえず、上杉殿と協力して止めたはいいが、アーウィン殿はどうするんだ?」
あー、それもいたね。
最初の予定外。
本物の上泉信綱の弟子という人物。アーウィン。
そいつが、ノゴーシュごと、童子切をぶった斬ったのが事の始まりだよ。
くそ、やっぱり上泉信綱は常識の外の人物だったか。だれが刀ごと敵を斬ると思うか!?
叩き落とすぐらいだと思うだろう!!
なに? 新陰流は武器ごと相手を斬れって教えなのか!?
「いや、師はそういうことはいってませんでしたが……。ただあれは斬れたから斬ったとしか……」
「さようですか」
常識外の人に何を聞いても常人には理解できないといういい例だろう。
できるからやった。
おう、簡潔だな。
まったく理解はできないけどな。
「とりあえず、DPの入ったコアは本物だし、ダンジョンマスターだということは確かですね。ビッツのダンジョンの図面も見せてもらったし」
「納得していただけで何よりですよ」
まあ、アーウィンの方はいいや。
非常に協力的で、すでに指定保護下だから。
結局のところ、ビッツは最初からアーウィンの復讐、仇討ちの為に利用されたことに間違いはない。
思ったよりも、俺たちの反応が早かったのが予想外だったらしい。
そこのことについては正直に謝っている。
ウィードやランクスに本格的に迷惑をかける前に、殺るつもりではいたらしい。
いや、魔物使って進軍してきたけどな。
細かいところで文句はあるが、今は良しとする。
「とりあえず、アーウィンさんの話は後にして、まずは……」
捕まった脳筋は放って置いて、ビッツ兼上杉輝虎もまあ今はいいや。
「秋天ちゃん。これ美味しいよー」
「チョコなのです」
「甘いですよ」
「秋天とりあえず、口を開ける」
「あーん」
そうヒイロに言われてひな鳥のように開けた口にチョコを一欠けら放り込まれる。
少し口を動かして……。
「……甘い」
にっこりと微笑み喜ぶ。
「もっとあるよー」
「ほんとう?」
「ほらここに沢山なのです」
と、今はアスリンたちに甘やかされているが、あの赤髪の子供が酒呑童子である。
「そもそも、なんであれになっちゃったんですか?」
タイキ君が不思議そうに酒呑童子を見ていう。
「いやー。もともとあれがベースだったんだろうよ。ほれ、元の話は大江山に豪華な館があったとか、わざわざ都の京から姫を攫うとか、ただの人食い鬼にしては不思議な記述は多かっただろう?」
「なるほど。権力争いの果ての作り話ということだな」
「なるほどのう。そういえば、妙な話ではあったな」
「いや、そこの輝虎は普通に話に入ってくるな」
しれーっと、会話に入ってくる軍神。
「お前ら、人を諱で呼ぶなと言っておろう。諱を呼んでいいのは父母か、主君ぐらいだぞ? 呼ぶなら、役職名を呼ぶか、上杉という家名で呼ぶべきであろう。世が世なら、斬られても文句は言えんぞ」
「やかましい。今時、名前を諱と呼んでねぇんだよ。状況をさらにややこしくしやがって。郷に入っては郷に従え。というか関東管領とかここでは意味ないしな。上杉なんて苗字は今時山ほど存在すんだよ。名前で呼ぶ方がわかりやすいわ」
「むぅ。確かに、今となっては意味のないしきたりであるし、身分も役に立たぬか。だがな、こういう形式というのは……」
「黙ってろ。その姫鶴一文字、引っぺがして、溶かして素材に戻していいんだぞ」
「……わかったからやめてくれ。せっかく依り代を手に入れたのに、それはないぞ」
「なら、少しおとなしくしてろ」
結局、この上杉輝虎も自分が出てきて問題ないような、大義名分が欲しかったわけだよ。
ビッツの体を乗っ取っても、普通なら気が狂ったとか、妖怪や幽霊に取り憑かれたと言って、祓われたら意味がないからな。
こういうところは、自分にとって都合のいい大義名分を求めたという上杉謙信の逸話と同じだよな。
「私のことは呼び捨てで構わぬが、問題はそこな酒呑童子よ。先ほどの話で、元々は赤髪の童女だというのはわかった。しかし、あの大鬼はどう説明する? というか、何をやったらあの大鬼が消えて、あの童女が出てくるのだ?」
「ああ、それは聞きたいです。なにやったんですか?」
「そういえば、私もそれは聞きたいな」
「あー、そこからか。そういえば、こっちも聞きたいんだが、輝虎。そっちが現役で生きてた時代に、あんな大鬼とか妖怪類を直接みたことはあるか?」
「ん? いや、ないぞ。噂で見たのなんのという話は多々あったが、実際見たことはない。今回が初めてだな」
「やっぱりか」
「「「やっぱり?」」」
「つまりだ。今の日本というか、世界中でこの手の妖怪や魔物がいないのは、世界規模でなにか制限がかかっていると思うべきなんだよな」
「妖怪とか魔物がでない制限? 結界とかですか?」
「まあ、仮定としてはあり得ない話ではないが、ありえるのか?」
「ふむー。確かに坊主たちの守護結界とか胡散臭いのはあったがな」
「そこの輝虎。お前も坊主だろうが、何度出家をしたよ。お前」
「あんなもの方便よ。あの時代坊主とて肉や酒、女を好き勝手に食らっておったしな。まあ、全員とはいわんが」
「だろうな。とそこはいい。まあそこで結界を適当に試してみた。文献だけは山ほどあったからな。五行思想とか、般若心経とか、四神方陣とか、思いつく限り、配置してた。それを起動したら、大鬼がいなくなってあの子が出てきた。どれか、当たりだったんだろう。そもそも、あの大鬼がでた時点でそういう、眉唾ものの術が存在していたって証拠だからな。あの子もその手の才能があったんだろうよ。だから、それが祓えたとみるべきじゃないか?」
どれが、あの大鬼を祓うことになったのかはわからん。
だって、本当にいろいろ多重起動したからな。
「テキトウですねー」
「相乗効果があった可能性もあるのか。いやまて、そうか、こうやって世界各地で祓い系の結界がお互いに干渉しあって、世界的に魔物が出にくくなったのか? くそ、地球に行けない自分が悔しい!!」
「……なあ。あの老武者は何を言っておる?」
「ほっとけ。一種の病気みたいなもんだ」
研究職病ってやつな。
「そうか。まあ、あの手の類は下手に手を出さぬが吉だからな。で、あの童女の経緯はいいとしよう。で、あとはアレをどうするかだ。斬るのか? ぐへっ!?」
物騒なことを言った瞬間、ビッツの頭が揺れる。
いや、チョコの箱が直撃した。
「ひどいこと言わないで!!」
「このクソ女なのです!!」
「サイテーです!!」
「秋天こっちに。あのおばさんは怖い人」
「……いじめる?」
なんかあっちはすでにあんな状態だしなー。
「いじめないわよ。あのおばさんがバカなだけよ」
そういって出てくるのは、セラリア。
その姿を確認した酒呑童子は、ヒイロの後ろに隠れる。
「……だれ?」
「セラリアよ。あなたのお名前は?」
「しゅてん。秋の天って書いて秋天。かか様がつけてくれた」
「そう。いい名前ね」
なるほど、酒呑もこじつけか。
そりゃそうか、酒飲みの鬼が、毒酒ごときで動きが封じられるかって話だよな。
もともと酒に耐性のない子供だったって話か。
「とりあえず。あの子はうちで保護する」
「まあ、そうですね」
「それがいいだろうな」
「だな。どうりで頼光公が首を道中で供養したわけだ。あのような童女の首を取って何が誇れようか。邪気も感じられんし、私も否はない。おそらくは、あの妙な力と秋の紅葉と見紛う髪であり、女子であったのが、追いやられた原因かもしれんな。京の連中はそういうことは変に気にするからな」
そこは輝虎に同意。
あそこまで、当時の不安を煽る要素を備えていたらそうなるよな。
「そういえば、女の子に戻ったとたんなんでいきなり泣き出したんですかね? 荒魂だったんでしょう?」
「確かに、荒魂ならあのまま暴れてもおかしくなかったが、ユキ君が何か投げて大人しくなったな」
「何を投げたんだ。お前」
「あー、簡単。首塚から首というか頭蓋骨とってきてもらった」
無論ルナに。
そういうことで、首をとられた無念もなくなるだろうし、他の四魂も戻って会話できるかなと思ったらこれだよ。
「「あー、なるほど」」
「どこがなるほどだ。どうやれば首塚に取りに行ける。ここは日ノ本から近いのか?」
近いわけがないが、そんなことを話しても輝虎に理解できるとは思えんから今はパス。
そんなことを話していると、酒呑童子を改め秋天がセラリアに抱きついていた。
「どうしたの?」
「……セラリアから、かか様の気配がする」
「お母さまの?」
「……うん」
「そう。なら、今は秋天のお母さん代わりね」
セラリアがそっと抱きしめると、秋天は思い切り泣き始めた。
「ざみしかった!! かか様がいなくなってからずっと!! ひぐ、えっぐ!! 遠呂智母様!!」
「大丈夫。もう、大丈夫よ」
そういってセラリアが優しくなでているが、俺たちはそうもいかなかった。
「えーと。ユキさん。いま……」
「言ったな。遠呂智母様と」
「つまり、なんだ。あの童女の母はかの伝説の八俣遠呂智ということか? いや、酒吞童子の親が遠呂智? 確かそんな文献があった気がしたな」
……あったな。
伝承では逃げ延びた、八岐大蛇が富豪の娘を孕ませたとかあるが、捨てられた子を拾って育てたなんてのも普通にありそうだ。
「まあ、いろいろと腑に落ちんが、かの大蛇の娘ならあの容姿に、力は納得だ。しかし、水神でもある遠呂智の娘をようまあ、手にかけようと思ったものだ」
「でも、なんでセラリアさんから八岐大蛇の気配が?」
「さあ、勘違いということもあるだろうが、それを今言うのは無粋だろう。というか、うかつに言うわけにもいかん。敵対することになりかねん」
3人がそう話し合う中、俺はセラリアから八岐大蛇の気配がするというのには、一つの答えが導き出されていた。
適当に、結界を組む中で、八岐大蛇の話も見つけて、いろいろ現物を取り寄せたせいだろう。
俺の手伝いをしていたセラリアにその気配が移っていてもおかしくない。
……そう思いたい。
これ以上の厄介はいらないからな。
はぁ、まとめがめんどい。
ということで、酒呑童子の親は八岐大蛇、又の名を八俣遠呂智です。
そしてー、あの幼女八岐大蛇、千頭です。
なんでユキが知らねーんだよ。という疑問に関しては、千頭が言ってないからです。
そもそも普通に供養されていますし、復活したならともかく、わざわざ起こすことはあるまいという判断です。
経緯としても話すにしては面白くないですし、ユキたちに千頭が話したところで結果が変わるわけでもありませんからね。
聞かれたら話すぐらいの気持ちでいましたが、進たちは次から次にミラクル騒動を起こすので、酒呑童子の話をすることはありませんでしたとさ。
で、ユキも薄々文献からの八岐大蛇の繋がりを感じて、まさかとは思いつつ準備をしたら大当たり!!
若い頃に暴れた業はこうやって持ち越されるのでした。
セラリアのかか様の香りはユキが八岐大蛇関連の道具を漁ったからではなく、本物の香りが染みついていたから。
ああ、香りといっても霊的にですから。
さて、ここでさらに詳しく秋天の説明を補足で。
輝虎が言ったように、不可解な点がありますが、ひとつ一つ説明しましょう。
1:八岐大蛇時代から大江山の大鬼時代までの時間差はなに?
答え:千頭がスサノオから逃げたという話で、時間がたったわけです。その道中で拾ったのが秋天。
2:なんで大江山に置いてきたの?
答え:大江山というか、水神として加護を与えた富豪に預けたのだが、京の役人とかに見つかって、召し上げられて、女ということや力がありすぎることで、大江山へ。
3:酒呑童子の名前はどうして?
答え:酒をどっちに使ったかは定かじゃないが、恐らく頼光たちだけど、それが由来。あと、一応元の名秋天。秋の山みたいに染まった髪を合わせたモノ。童子はみたまま幼かったから。
4:大人しくなるの早すぎじゃね?
答え:ユキというストーリーブレイカーがいたから。あの4人組をなめたらいかん。千頭の知り合いであり、千頭ですら完封できるのでそもそも敵じゃねえ。
このような感じで納得していただけると幸いです。
簡単に、あの4人組のせいかと思えばいいです。
しかしながら、この必勝ダンジョンにはのこりの3人も千頭も関わりません。
あくまでもこの物語はユキのお話ですので、今の説明はあくまで枠外説明と思ってください。