第458堀:奇妙なダンジョン
奇妙なダンジョン
Side:スティーブ
ちっ。
ジョンやミノちゃんが大変そうで、おいら楽で最高―とか思ってたけどそうでもなかったっす。
まさか、3度も敵の本丸と思しき場所に放り込まれるとは……。
「スティーブさん。それは主からの信頼がそれだけ厚いということですよ」
霧華からそういわれる。
「だといいっすけどねー」
どうせ、本音は表立っておいらをだすと舐められる可能性が高いから、おいらが裏側ってことなんでしょうがー。
大将はそこんところもよく考えますからねー。
おいらが舐められることで遅延するとか、協力が得られないとかは面倒っすから。
友好国といっても、末端まで納得しているわけでもないし、強面のジョンやミノちゃんに任せるのが適任っすよねー。
そして、おいらはスニーキング中と。
小柄でゴブリンな自分が悔しい!! ビクンビクン!!
はぁ、今回は霧華がいる分、楽っすかね?
「しっかし、何を考えているんすかね。剣神もビッツも……」
「さあ、正直、あの2人の思考はわかりません」
「まあ、おかげでのんびりと城に侵入できるわけっすけど」
本日の朝、堂々と処刑場に旅立ったバカ二人のおかげで、一気に捜索のGOサインがでた。
目的は、城とダンジョンの把握っす。
掌握すると、城の主であるノゴーシュやダンジョンマスターであるビッツに察知され、戻ってくる可能性があるので、処刑当日に一気に畳みかける準備ということっす。
「当日、大将たちが後ろを心配することなく動けるように頑張りますかねー。あっちはあっちで大変っすからねー」
大江山の大鬼がよみがえるかもしれないとか、面倒極まりないっす。
最悪、酒呑童子と真っ向勝負とか、遠慮するっす。
おいらたちゴブリンは分類的に小鬼族ともいえるっすからね。
大将の配慮で、酒呑童子と対峙するときはゴブリン部隊は撤退しているっす。
だって、酒呑童子の部下にされる可能性があるから。
下手すると身内で潰しあいになるっす。そんなのは勘弁っすから。
「まったく、主様の邪魔ばかりして……。命さえ下れば、私が首をとるのに……」
横の霧華はなんか大将のことを言い始めると、目の焦点が合わなくなるし、こわいっすよー。
なんでおいらの同僚はこんなのばっかなんっすかねー。
「しかし、城内に侵入してわかったっすけど……」
「確実にダンジョンが設置されていますね」
霧華もわかったようっす。
明らかに、ダンジョン特有の魔力の流れが感じられるっす。
……隠ぺいも適当っすねー。
おいらたちが侵入してくることを想定してないっすかね?
トラップ重視なんすかね? まあ、奥に行ってみればわかるっすか。
「じゃ、予定通り、霧華は上を頼むっすよ」
「了解です。どうかご武運を」
そういって、霧華はすぐに上階に向けて動き出す。
おいらもさっさと一階と地下の探索するっすかね。
今回は、手分けして調べて、ダンジョンかゲートを発見次第合流ということになっているっす。
勿論、魔力遮断、透過迷彩装置を使っているので、目視、魔力探知はできないっす。
これを破れるのは、お犬様ぐらいっすかね。
アスリン姫が抱えている犬系の魔物なら見つけられるっす。
現在は匂いも消す研究をザーギスが頑張っているっす。
あ、ちなみに臭いではなく、匂いっす。
デュラハン・アサシンの女性陣からブーイングが上がったからっす。
まあ、おいらたちも風呂にちゃんと入っているし、フローラルの香りっすよ。きっと。
わかることは、野生のゴブリンとは比べ物にならないぐらい清潔ってことっす。
と言っても長期現地任務だと濡れタオルで体をふくのがやっとっすけどねー。
そんなことを考えつつ、捜索をしていると、地下通路の一室に目がとまる。
「……やたらと豪華っすね」
あからさまに、地下の倉庫の扉とは違う、丁寧な作りの扉が目の前にあるっす。
しかも、前後の部屋の大きさと比べると、ここにはせいぜい3畳ぐらいの小部屋というか物置部屋ぐらいの大きさしかない。
あやしい、というか当たりっすね。
魔力の流れもどんどんこの扉から漏れてるっすから。
しかし、ここまで堂々とあるとかえって怪しいっすね。
トラップっすかね?
とりあえず、ここの捜索は後回しでほかの捜索をしっかりするっす。
開けるにしても、霧華と連携してがいいっすね。
まずは、当初の予定の一つである、城内マップの作成をするっす。
ここに攻め込む事態になれば、このマップがあるのとないのでは大いに違うっすからね。
大将の大好きな情報を固めて完封するための布石ってやつっす。
「で、それがここですか。他に怪しい場所は?」
「ないっすね。霧華の方は上になかったっすか?」
「いえ。全部の部屋の確認をしましたが、ノノア殿が言っていた連絡用の魔道具があったぐらいですね。恐ろしく効率が悪い奴ですが」
「ああ、あれあったんすね」
「はい。ノノア殿が使っていたものと同じだったのでわかりやすかったです。しかし、あんなものを誰が作ったのでしょうか? ザーギスはまだそちらの方の開発はしていないはずですし……」
「もともとおいらたちは、コールによる魔力通信、電波による電波通信と連絡手段に事欠いていないっすからね。しかも、専門のタイゾウさんもいるっすから。で、その効率の悪い魔力通信っすけど、おそらくこの大陸の昔の発明家か何かが作ったんじゃないかって話が挙がっているっすね」
「昔の?」
「そうっす。遠くと連絡する道具が欲しいとDPで取り寄せると、本人の知識からのラインナップになるのは知っていると思うっす。だから、ビッツは魔力で連絡が取れる道具として、最初から知っていたそれを取ったんじゃないかって話がでているっす」
「最初から……? そういう文献があったということでしょうか?」
「多分っすけどねー」
どこの世界も、結局のところ発想は似たり寄ったりと大将が言っていたっすね。
まあ、確かにすぐに連絡ができればと思うのは当然っすな。
「で、そこはいいとして、霧華から見た感じはどう思うっすか?」
「特に私もトラップがあるようには見えませんね」
おしゃべりをしながらもお互いに、目の前の不自然な豪華な扉を調べているあたり、大将の教育のたまものなんだろうなーと思うっす。
「しかし、この通路には人がいませんね」
「そうなんすよねー。たぶんここがビッツのダンジョンの入り口だとして、防犯のためにノゴーシュが近寄らないようにと言っているかもしれないっすね」
「あとは、扉の向こうに門番がという可能性もありますね」
「じゃ、そういう可能性も考慮して開けてみるっすかね」
「了解です」
おいらが開ける役、霧華が何か来た場合の迎撃役ですぐに配置につく。
「3、2、1……」
ギィッ!!
一気に扉を開け、霧華も一層真剣な顔つきになるが、特に何も起こることなく、霧華が口を開く。
「……階段がありますね」
「奥が本番ってことっすか」
霧華が構えを解いたので、おいらも扉の中を覗き込んでみると、確かにさらに地下への階段が暗闇ではなく、ダンジョン特有の光に照らされて続いていた。
「とりあえず、主様に報告をしてと……、捜索を続行しましょう」
「了解っす」
霧華が大将に報告をして、それからこの階段を下りていく。
特に深いわけでもなく、3階分ぐらい下りた時点で奥に続く広い通路に出たっす。
両脇に鎧騎士の置物っつーか、ゴーレムが置いてあるっす。
「これが防衛システムのようですね」
「まあ、ここまでいれば人は侵入できないっすね」
鑑定した結果、レベルは50台のナイトゴーレムで、ナイトの鎧をゴーレム化したタイプ。
レベル的にこの大陸ではかなり強い部類だから、これがズラーっとあって一斉に襲われたら、この通路だとほぼ勝ち目がないっすね。
この大陸の通常戦力では、と前置きがつくっすけど。
「この程度なら、私一人でどうにでもできますね」
「そうっすね。おいらの部隊にとってもいい射撃訓練の的っすね」
この鎧ゴーレムは固いし、それなりに強いっすけど、弱点として隠密性がほぼなく動くと鎧のせいでうるさいっす。
更に、指も鎧でしっかり覆っているタイプなので、人並みの細かい作業ができない。
なので、大将は不採用。
いや、ナールジアさんがゴーレム化前提の鎧を作ったとか聞いたっすけど、まあどうせ大将のダンジョンにでもおいているでしょうね……。
クリアほぼ不可能じゃね? と思うのはいつものこと。
囮としては十分に機能しているしOKっす。
いらんことを言って、大将のダンジョントライアルとか死ぬだけっすから。
「しかし長い通路っすね」
「はい。すでに王都を出ている距離ですね……。待ってください。あそこ、部屋があります」
「ん? ああ、あるっすね」
通路は続いているっすけど、ポツリと鎧騎士が並ぶ壁に扉がある。
「とりあえず。これも扉に異常はないですね」
「まあ、防犯防衛システムがこいつらっすからね。鍵もなしっすか?」
「ありませんね。頼みます」
「了解っす」
再び、霧華と連携して扉を開けるが、特にトラップもなく中に入ると……。
「ゲートですね」
「ゲートっすね」
ゲートが確かに存在した。
目的のものは確かに発見できたっすけど。
「なんで、まだ通路が続いているのでしょうか?」
「さあ、奥にコアでもおいているんじゃないっすか?」
防犯のためにコアを奥においてるって適当にいったっすけど、それは結構ありえないっすね。
なにかあった時の為にゲートから増援を回しても、これじゃコアがとられる方が先になるっす。
何を考えているのかわからないっすね。
「……うかつにゲートを通るわけもいきませんし。奥に進みますか」
「そうっすね。そういえば扉に△のマークがあったすね。あれがゲートの部屋の印っすかね?」
「今のままでは判断しかねますね」
そんな話をしつつ、ゲート部屋を後にして、さらに奥へと進む。
あまりにも代わり映えしないので、途中から走ったっす。
無論、トラップには気をつけて走ったっすよ?
そして、20分ほど走ったあと、行き止まりになって扉が壁にぽつんと存在していた。
扉には先ほどと同じように△のマークが存在していたっす。
とりあえず、サクッと開けて中身を確認すると、確かにゲートがあったっす。
「なんで、同じダンジョンで不自然な位置にゲートを置いているのでしょうか? ゲートはまとめて設置した方が効率はいいはずですが……」
「さあ? 防犯のためっていうにも不自然っすからね……。ビッツに何か別の考えでもあったんじゃないっすか? とりあえずここで行き止まりっすから、周りを調べる……までもないっすね」
わかりやすいことに、反対側にまた扉が存在していたっす。
どうやらこのゲートの部屋は出入り口が二つあるらしい。
サクッと霧華と協力して扉を開けるが、鎧ゴーレムの防犯以外は何もなくあっさりと開く。
そしてその扉をくぐった先には……。
「城ですね」
「城っすね」
なぜか地下を大きく掘り広げ、5階建てぐらいのこじんまりとした城が存在していたっす。
「なんのための城でしょうか?」
「さあ……って、ああ、そういうことっすか!!」
そこでようやくおいらは気が付いたっす。
「何かわかりましたか?」
「えーと、まだ予想でしかないっすけど、ほらビッツはノノアの所にダンジョンを作っていなかったじゃないっすか」
「ええ。作っていませんでしたね」
「その理由の一つに、ダンジョンを自由に作れないかもしれないってあったじゃないっすか?」
「ああ、そういうことですか。つまり、彼女はダンジョンをこの拠点から広げて、ゲートを距離短縮に設置しているということですか」
おいらたちみたいに、ダンジョンが自由に設置できないから、こういう手段を取っているってことっす。
「ということは、ここが本拠点ということでしょうか?」
「おそらくは……」
さーて、おいらたちは支部拠点ではなく、本拠点かもしれない場所を見つけてしまったわけっすが……。
大将たちはどう判断するっすかね?
いよいよ5巻明日発売。
リーアの胸は次巻から修正よてい。
サイズを伝え忘れたからねー。
しゃーない。




