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第450堀:しんのゆうしゃはまけない

しんのゆうしゃはまけない





Side:ユキ




「繰り返します。ランクス防衛は成功。待機していた人は各自持ち場に戻ってください。詳細報告は明日また連絡が来ます。以上、戦況報告を終わります」


エリスはそう言って連絡を終える。


「ふう。一時はどうなるかと思っていたが、上手くいったようだね」

「ええ」


横にいるタイゾウさんは、椅子に深く座りなおして、お茶に手を伸ばす。


「しかし、敵の指揮官がいたとはな」

「最初はいないはずという報告が上がっていたんですがね。そこら辺の確認に行ってきますよ」

「ユキ君が出向く程のことか?」

「面と向かって確認したほうがわかることも多いですから。ドッペルなので安全面は問題ありませんし、タイキ君の所ですからね。タイゾウさんはこのまま休んでください。明日の昼にはランクスで打ち合わせですよ」

「わかった。お言葉に甘えさせてもらうよ」


タイゾウさんはそういって、指令室から出て行く。

やはり疲れがあるのか、多少覇気がない背中だ。

仕方ない。ノノア相手の交渉を任せた後、すぐにこっちに戻ってもらって、剣の国への調査要員の増員、方法とか協議していたらランクス侵攻だ。

遠縁とはいえ、タイキ君と仲のいい叔父と甥のような付き合いをしているタイゾウさんは当初、自ら援軍にでると、刀を握って殺る気満々だった。

それを押しとどめて、指令室で戦況を見るだけということで我慢してもらったのだ。

無論、ヒフィーがタイゾウさんを抑えつけるのに一番役に立ったが。お茶とかいろいろ甲斐甲斐しく世話をしていたし、夫婦仲は良好そうでよかったよ。


「さーて、俺たちはもうひと踏ん張りだ。ランクスに向かうのは、デリーユ、ラッツ、サマンサ、クリーナ。後は、こっちに残って、情報整理と各地の中継を継続」

「「「はい」」」


よし、指示は出したし、俺たちもランクスに向かいますかね。

はぁ、深夜の仕事ってつらいわー。

まあ、そんなお約束はいいとして……。


「しかし、相手も不思議じゃったな。なぜ進軍してきたのかよくわからんぞ」


一緒にランクスに向かっているデリーユはそんなことを呟く。

そう、先ほどの戦闘は正直不可解なことが多かった。


「いったん、進軍をやめていましたし、何かを考えていたんでしょうねー。でも、結局は進んで、ミノちゃんの率いる防衛部隊と対峙。普通なら、これで王都強襲は失敗のはずなのに、なぜか向かってきましたからね」


ラッツの言う通り、最初発見した一時は進軍をやめていたのだが、防衛部隊と対峙した時は普通に進軍してきた。

なぜそのような判断をしたのかがよくわからない。


「しかも、人が指揮官に入っていましたわ。それであの判断は理解に苦しみますわ」

「ん。誰も指揮官がいないのであれば命令に従っているだけと判断はできるが、指揮官がいて進軍したということは、進軍の判断をした理由があるということ。それがさっぱりわからない。……あるいは囮」

「囮って、ほかの狙いがわかりませんわね」

「……ん。自信はない。というか、囮とは私も思っていない。あの戦力を捨て駒にするほどの余力があるなら、今頃ここ一帯の勢力図は変わっているはず」

「ですわね。何がしたかったのかさっぱりわかりませんわ」


サマンサとクリーナも意見を言うが、結局首を傾げている。

クリーナの言う通り、囮という可能性は極小とは言えあるが、自身で否定したように、あの戦力を捨て駒にする理由はわからないし、そこまで保有戦力に余裕があるなら、今頃は堂々と敵に回っているだろう。わざわざこそこそする必要がない。


「まあ、指揮官も逃げ出そうにも、一瞬で崩れたからのう。やりすぎたという可能性もあるか」

「あー、ありそうですね。実は、一瞬で突破して、ランクスまで突き抜けるつもりだったとか?」

「ありそうですわね」

「ん。その可能性が高い。そもそも、相手は地球の兵器を知らない。あと、ミノちゃんの配下は主にオークとゴブリンたち。だからたやすく抜けると見誤ったのかもしれない」

「「「あー」」」


いやいや、うちの魔物部隊の強さは他国も知っているだろうにと言いかけたが、そんなことをしっかり調べているなら最初からこんな喧嘩は売ってこないか。

……あれか、理解できる情報だけ抜き取って、理解のできないわけわからん情報は誤情報として捨てたか。


「で、さっきからユキは黙っておるが。何かわからんのか?」

「んー。みんなの疑問もよく分かるからな。しかし、とりあえず、現場に行ってからだな。いま話したところで、結局想像だからな。とりいそぎ、その想像で厄介なことにはなりそうにないからな」

「そうですねー。指揮官さんも捕まえているようですし、そっちから聞く方が早いでしょうねー」

「おとなしく、喋ってくれるといいのですけれど」

「ん。そうなればどうやってでも、吐かせればいい。そもそも魔物を率いて襲ってきた相手。処刑は免れない。使い捨ての可能性もあるし、情報を知らない可能性もある。喋ったとしてもあまりその指揮官の話を鵜呑みにするのもよくない」


クリーナのご尤もな意見だ。

余程の大物でもない限り、適当に拷問かけてそのままさよならだろう。

世の中、使い捨ての実働部隊が重要な情報を知ってるわけないしな。



そんなことを話しながら、ランクスのゲートをくぐると、そこにはすでに、ルースが立って待っていた。


「お待ちしておりました。こちらへ」


案内について行きながら、ルースにも話を聞く。


「状況は?」

「特に戦闘後の問題は起きておりません。只今、ミノちゃん将軍が現場、防御陣の撤収をしています」

「じゃ、詳しい戦闘報告はあとか」

「そうなりますね。一応、監視で動いていたジョン将軍はこちらに戻ってきていますので、話を聞けるとは思います」


あー、ジョンが一番近くにいて、監視と後方かく乱してたんだっけ。

厄日だなジョン。


「そういえば、ガルツの面々はどうしてる?」

「ちょっとした問題があったようでして、ローエル将軍、ヒギル参謀は一度本国に戻っています」

「ガルツで何かあったか?」

「いえ。個人的な問題という話で、代わりにティーク殿下が来ておられます」

「個人的な問題で、なんで現場に来ていた将軍と参謀が下がって、次期国王候補がくるんだよ」

「さあ。詳しくは聞いていませんので」


……シェーラから連絡は来ていないし、そこまで大事な話ではないのか?

まあ、ティーク兄がきているからそっちから話を聞くか。


「こちらです。陛下。ユキ殿をお連れしました」

「入れ」


ちゃんと扉の向こうから、威厳に満ちた声が聞こえる。

王様をちゃんとしているようだ。

俺には向かないねー。

そうして、入った会議室には、すでに、ジョンやティーク兄は机に座っていて、どうやら俺が最後のようだ。


「どうぞ。座ってください」


タイキ君に促されて席に着くと、いきなりティーク兄がこちらに向かって頭を下げてきた。


「ユキ君。ローエルが本当に申し訳ない」

「はい? 何かあったんですか?」

「その様子だと、知らないのか。どうやら、盾の件で借金ができてから、ミノちゃんやジョンにご飯を集っていたらしいんだよ。それも頻繁に」

「あー……」


それ、俺も集られたわ。

いや、集られたというか、事情は知っていて忍びなかったんだけどな。


「それが、先ほど、ヒギルにばれて、そのままシャールの所へ行ったわけだ。外交問題になりかねないからな」


気にしないというわけにはいかないもんな。

こういう借りはよろしくないのだ。王族というか貴族としては。

だって、お金持ってなくて他人の財布で飲み食いしているなんて噂がたてばそれだけで、風評が悪くなるからな。

周りからの支持で成り立っている国のトップの一族がそんなことをするのはいろいろまずい。

こっちとしては、頼まれれば断るわけにもいかない。王族を粗略にあつかったとかなんとか。

これは本人が判断して自重するしかないのだが、まあ、ローエルだしなー。


「とりあえず。気にしていませんよ。友人付き合いということで」

「助かるよ。いずれどこかでパーティーにでも招待させてもらうから」


うん。そんな王族のパーティーとか行きたくねー。って言えないよな。

でも、向こうの面子もあると。世の中大変だよね。


「えーと、すみませんが、一応、先ほどの戦闘から得られた情報をはなしていいですか?」


俺たちがお互い苦笑いしていると、タイキ君がおずおずと話しかけてきた。


「あ、すまない。今はそっちが大事だね」

「で、情報はいいとして、そっちで簀巻きになって転がされている落ち武者は誰?」


話を本題に戻すのはいいが、会議室の隅に、頭が禿げ上がったというか、焼けて河童みたいになった金髪のイケメン?が転がっている。

?なのは、汚れていてよくわからんから。


「んー!! んー!!」


なんかみんなの視線が集まったのを感じて叫んでいるのだが、猿ぐつわされているので、何を叫んでいるかわかんね。

まあ、とりあえず、こんな格好の奴が会議室にいるって理由はただ一つだよな。


「これが、さっきの魔物たちを率いていた指揮官?」


俺がそう聞くと、ルースが頷いて口を開く。


「そうです。そして、ビッツ姫と共に逃げていた近衛隊の副隊長だった男。レイです」


あー、なるほど。

拷問にかけるわけにはいかんな、それは。

どう考えても、あの姫さんの腹心の立場だろう。

だって、あの姫さんと恋仲だったはずだから。


「ということで、このレイから全員で話を聞こうかとおもいまして。一旦、情報報告の前にいいですか?」

「かまわないよ。彼が何をしゃべってくれるか楽しみだ」

「情報を整理するにも、この男の発言の後の方がいいだろうしな。俺も同感」


ティーク兄と俺の同意が得られたのを確認して、タイキ君は簀巻きの隣に張り付いている兵士に目配せをして猿ぐつわを外させる。

すると、レイという男は一気に叫ぶ。


「お前が、ユキか!! 恐れ多くも上級神をこき使い!! 世界をその手に収めようとする大悪党が!! お前の野望はこの真の勇者である私が阻止して見せる!!」


……うーん。

なんていえばいいのか、非常に困るな。

とりあえず、こいつも適当に吹き込まれて勘違いしているのはよく分かった。

まあ、グルの可能性もあるか。

と、いけない。何か返事を返してやらねば……。


「……えーっと、頭のハゲ大丈夫?」

「貴様のせいだろうが!! 悪魔の力を行使して、我が最強の軍を壊滅させていい気分だろうが、それで打ち止めなのはよくわかっている!!」


えー、ただ弾薬を消費しただけですよ。

使用量は演習分も使ってないぞ。


「ルース!! 早くこの縄をほどけ!! 今ならまだ許してやる!! 姫には私からとりなしてやろう!!」


なにこのご都合解釈怖い。頭の中どうなってんの。

名指しで呼ばれたルースは、結構怖い顔になっている。


「誰がお前の言うことなど聞くか!! 貴様はただの敵だ!! レイ!!」

「きさまぁー!! 今まで面倒を見てやったのにその態度はなんだ!! 王家への忠義はどうした!!」

「お前に面倒など見てもらった覚えはない!! そして、今の王家はタイキ様だ!!」

「その偽勇者の肩を持つのか!!」


いや、君がしんのゆうしゃというのもおかしい話だからな。


「……話にならんな。連れていけ」

「このっ!! 離せっ!! 偽勇者タイキ!! 私にこのようなことをして、ただ済むと思うな!! 今に、剣神と世界の女神たるビッツがここに攻めてきて、この国は亡びるぞ!! いいのか!!」


えーと、しんのゆうしゃはおどしをつかった!!


「それなら望むところだ。まあ、どのみちあんたはその時を見ることはない、明日にでも処刑だからな」


しかし タイキには きかなかった!!

そして、タイキの反撃、処刑宣告!!


「な、ふ、ふざけるな!! わ、私を殺してしまえば、お前らに助かる道はないのだぞ!! し、真の勇者は負けない!!」


しんのゆうしゃは あおざめた こうかはばつぐんだ!!

いじをはったが はくりょくはなかった……。


そんな感じで、あっさり会議室から連れさられていくしんのゆうしゃ。


「とりあえず。大体のことはわかったね」


ティーク兄はなんとも言えない表情で口を開く。


「だなー。どうやら、勝てると予想して進んだみたいで。バックにビッツとノゴーシュがいるのは確定したな」


俺もなんだかなーって感じで返答する。

しかも、あれが最強戦力とか、悲しいなー。

おそらくDP稼ぎも兼ねてたんだろうな。


「レイが思ったよりバカでよかったです。こうなれば、あとは処刑日でも宣言して大々的にやれば、ノゴーシュとビッチは何かしら動きを起こすでしょう」


タイキ君はそういう。その判断は正しいと思う。

うん。動いても動かなくても、こっちとしては情報が集まるからOK。

まあ、処刑日に殴り込みとか、やってほしくないと思う。

だって、俺の慎重に慎重を重ねた行動が否定されるから。

大丈夫!!

きっと、恋人ごときの処刑で出てくるような馬鹿じゃない!!

おれはそう信じている!!



「あのー。戦闘の報告はどうします?」

「「「あ、パスで」」」

「へいへい。後で書類にして出しますよー。どうせ俺たちの活躍はカットですね。わかってましたよー」


しゃーないじゃん。

大事なところはわかったし、戦闘の主な内容は殲滅しただけだしー。

まあ、ドンマイ!! ジョン!!





いいか、しんのゆうしゃはいざというとき、なかまたちがたすけにきてくれるんだ!!

そういうモノです。


ということで、指揮官はビッツの恋人のレイでした。

名前がなかった理由は、名前を思いついてなかったから。

いやー、レイって主人公っぽいなまえじゃね?


あと、風邪が長引いている。

それでも俺はゲームをやめない!!

意地があるんだ!!




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