第443堀:だんじょんの説明とゆうしゃとは?
だんじょんの説明とゆうしゃとは?
Side:コメット
「あなたが、ユキ殿の協力者のダンジョンマスターですか。私は魔術神のノノアです。よろしくお願いいたします」
「あ、どうも。コメットといいます」
いやー、世の中、うまくはいかないもんだね。
こう、私の華麗なる見せ場があるかと思っていたら、ただの爆笑動画を見ていて終わってしまったよ。
なんか、ユキ君と組んでから私は研究者以外ではギャグ要員な気がしてならない。
タイゾウさんたちは、えーっと……ビッチ姫だっけ? それがいろいろ動いているとわかってから、私とポープリ、そしてエリス君に任せて、とっととウィードへ引き返していった。
まあ、状況が悪化してるからねー。
お互い理性ある相手だと思っていたら、ただの怨恨で動いている可能性が高く、ビッチ姫は我儘で何をしでかすかわからないと来たもんだ。
下手すると、すでにノゴーシュとかいう剣の国や恨みを買ったランクス、ガルツも被害が出ている可能性があるとかで大慌てだから仕方がない。
国の敵としては大したことはないが、人々の脅威という認識ではこれ以上のものはないだろう。
ああ、いや、国の敵としても十分脅威か。
ダンジョンマスターの力を行使しているんだから。
しかし、ウィード相手だと今までの魔力貯蓄量や技術レベルの差がすごいから相手にならないんだ。
だが、ウィード以外の国はそうはいかないから、慌ててユキ君は指示を出しているんだよね。
うん。流石、魔王を超えた災厄と呼ばれるだけあるね。
「あのー、コメット殿? なにかありましたか?」
「いえ、すみません。ビッチ姫のことが気になっていまして」
「ああ、なるほど。確かに、ビッツ姫の情報を見るに、何をしでかすかわかりませんからね」
あ、ビッツね。うん、覚えたビッチ……じゃなくてビッツね。完璧。
「ま、そこは戻ったタイ……」
「タイ?」
「隊を率いるユキ殿が動いていますし、師や私は自分たちにまかされた仕事をすることにしましょう」
やっべー、超やっべー……。
まだ、タイゾウさんのことはユキ君って設定だった。
私としてはもうばらしてもいいと思うんだが、これでまた同盟がご破算になる可能性もあるから、間違えるなよってユキ君とヒフィーに釘刺されてるんだよね。
咄嗟のポープリのフォロー褒めて遣わす!!
流石、我が弟子よ!! いや、こんなフォローとか教えた覚えないけど。
ごまかせたか?
私の運命の瀬戸際はここか!?
「はい。どうかよろしくお願いいたします」
セーーーーフ!!
僅差でホームイン!!
9回裏、一打逆転の2アウト2塁からの、ポープリのタイムリーが炸裂!!
牽制を受けたら危険なリードを取っていたことが功を奏し、コメット見事にホームイン!!
チームコメット鮮やかな逆転勝利です!!
「……いや、師が自分のエラーで作った危機ですからね」
「うっさい」
「はい?」
「ああ、いえ。早速仕事にかかりましょう。まずは早急に、魔術国を要塞化する必要があります」
「要塞化、ですか……。申し訳ありません。私としてはすでに十分なほど整えているとおもうのですが」
いや、君はあっさりユキ君たちに城掌握されたじゃん。
まあ、この程度の文明だと、警備兵を増やすぐらいしか思いつかないから仕方ないか……。
「そこの説明もしますので、まずは、こちらへ……」
そういって、適当に作ったといっても、多少奥深くのダンジョンへと降りていく。
無論、城の真下に即興で作ったダンジョンにだ。
タイゾウさんたちはここからすでに撤退して、私が説明と補強、そして相談役として残ったわけだ。
魔術国だからね。専門家の私たちの方がやりやすいと思ったんだろう。
「こんなところに……。確かに、ここならダンジョン特有の魔力の流れを感じます。しかし、城という空間にあると気が付かないものなのですね」
「通気口が沢山あるのと同じ原理と、もともと城は要所に作られるので自然と土地の魔力が優秀だったりしますので、逆に気が付かれないという報告が出ていますね」
「報告というと、ユキ殿でしょうか?」
「ええ。彼ぐらいですよ。お城をダンジョン化してしまおうなどと考えるのは。もともとダンジョンとは地下という認識がある私には到底無理でした。ダンジョンの魔力吸収効率は落ちますし、見ての通り入り口はたくさんあるので、防衛にはまったく適さないんですよ」
というか、当時の私は他国との繋がりを欲していたわけでもないし、こっそり研究の都合上、お城なんてダンジョン化してたら、ただの目印になってただろうから、当時思いついても絶対ボツだったろうね。
「なるほど。確かに、私も同じ認識です。ダンジョンとは地下にあるべきものだと思っていました。防衛についても納得です。要塞化というのは、私たちの居住をダンジョンに移すことでしょうか?」
「あー、それは判断に任せます。安全面という点では高いですし、居住にはもってこいですからね。しかし、この場所は、今連れてきている護衛の方たちと宰相殿ぐらいに教える程度がいいでしょう。ほかに知られれば、いらぬ不安も煽りますし、ビッツ姫やノゴーシュの方に聞こえれば問題となるでしょう」
「そうですね。しかし、居住を移すことが違うというのであれば、要塞化というのは一体どういうことでしょうか?」
「それは……、っとついたので、まずこちらの部屋に」
私は扉の前においてある大理石の柱の上に触る。
ちょうど手を置けるような高さだ。
すると、扉が自動的に開いてゆく。
「これは、個々による魔力の認識で開く仕掛け扉ですか。ギルドカードのようなものですね」
「その通りです。流石、魔術神と言われるだけあって、理解が早い」
「いえ。理解できたとしても、これを作ることはできません。しかし、このような防衛機構は素晴らしいですね。鍵を盗まれたり、こじ開けられたりすることはないでしょう。安全面としてはすごいものがあります」
「まあ、逆に使える人が死に絶えると絶対開かないという問題があるんですが、それはいいとして、まずはこのコアに触ってください」
私は扉の説明は適当に流して、部屋の奥にあるコアに触るようにノノア殿を促す。
「え? あれは、このダンジョンを動かしているコアでは? それに触るなどと……」
「いえ、特に触るだけであれば問題ありませんよ。台座から動かすのはダンジョンの機能が停止しますが」
「そんな危険性があるのなら、なおのこと触るわけには……」
「ああ、いえ。これからこのダンジョンの権限を譲渡するので、触ってもらわないと困るんですよ」
「は?」
ノノア殿の目が点になる。
普通はそうだよねー。
欲していたダンジョンをこうもあっさり譲られるといわれるとそうなるよね。
しかも、今の今まで敵対関係にあったんだし。
「ああ、ご心配なく。ちゃんと権限の制限はしますよ。しかし、私たちがいないときに、何もできないのは問題です。そこで、ユキ君はノノア殿にダンジョンの権限をある程度渡して、この城を要塞化するのに必要な物資を取り寄せて配置してくれとのことです。ああ、DPはすでにそれなりに入っていますから。問題なく取り寄せはできますから」
「そ、そんな大役を任せてくださるのですか!?」
「もともと、魔術国はノノア殿が必死に作り上げてきた国ですからね。私やユキ君が主導でやれば、いろいろ問題が起こるのは想像できますし、これはなにより、ノノア殿を信頼してとのことですよ」
実際、こんな大袈裟でノノア殿の言うようなコアを危険にさらすような、権限移譲はしなくていい。
私やユキ君がOKして、スキルによる譲渡をすればいいだけだ。
これは、今、ノノア殿が感激しているように、仰々しくして、相手の好感度を上げてやろうぜっていうユキ君の作戦だ。
本当にこういう小細工はすごいよねー。
もちろん、権限をある程度だから、最上位はユキ君、次がラビリス君、そしてお嫁さん方と私、さらに下にヒフィー、そのさらに下がノノア殿ぐらい。
つまり、監視はし放題ということ。
「ありがとうごさいます!! そのご期待に応えて見せましょう!!」
「では、権限を受け取ってくれるのですね?」
「はい。喜んでお受けいたします!!」
うん。予想通り、興奮しているね。
いや、魔術に携わるものとして、ダンジョンという魔力のおもちゃを手に入れるのは興奮冷めやらぬものがあるからね。
あとは、予定している神々しい大袈裟な譲渡の偽儀式を行って、ノノア殿は無事にこのダンジョンの運営権限を手に入れた。
「じゃ、まずはコールと言ってみてください」
「コール?」
とまあ、ここからはお約束の「そこ掘れわんわん」の使い方の説明と、連絡の仕方などを教える。
ここの説明もさほど躓くことなく、簡単に理解してくれた。
いやー、頭の回りが早いと教えるのも楽だねー。
ヒフィーに教えた時は何度も説明して大変だったからね。
「……で、これを使って、有効な城の強化をしてほしいってことです」
「なるほど。これなら簡単に強化ができますし、城内の監視もできます!!」
「あとは、このそこ掘れわんわんの機能を除いた、コール機能を5名まで付与できる権限もありますので、そちらの勇者殿、あとは宰相などといった信頼のおける相手に付与して即時連絡ができるようにすればいろいろやりやすいでしょう」
「何から何まで、ありがとうございます!!」
「あとは、私や、ポープリ、エリス君への連絡もできますので、何かお困りごとがあれば、連絡してください」
「はい!! 本当にありがとうございます!!」
ふう。これで私のお仕事はおわりかな?
堅苦しい喋り方ってつかれるよねー。
研究職にお偉方の相手とか無茶を言ってくれるよ。
……あれ? タイゾウさんも研究職だよね?
……うん。人には得手不得手というものがあるのだよ。
そんなくだらないことを考えていると、ノノアが任命した勇者がポープリに話かけていた。
「ポープリ殿。先ほどは申し訳ありませんでした。先ほどの無礼は、私が独断で起こしたの事。私の首を差し上げますので、どうかこれからも対等な同盟関係をお願いいたします」
そういって、首を垂れていた。
あー、そういえば、この人、ポープリに蹴られて気絶していたから、あの時の話を聞いていなかったんだ。
「いえ。そのことは特に問題にはしないと、話が着いていますので、ご心配なく。あなたの護衛としての働きは称賛するべきと、私は思っておりますので」
「……ありがとうございます。しかし、あの時のあなたの動きは素晴らしかった」
「勇者殿にお褒めにいただき光栄です」
「まさに、神が遣わした天使と言えるでしょう!!」
「は、はぁ?」
「いや、貴女はダンジョンマスターという神に選ばれた人の護衛。ならば天使であるのと同義だ!! どうか、私を導いていただきたい!!」
「ふぇっ!?」
うわー。
あの勇者、ドM気質?
蹴られてマゾと幼女に目覚めた?
救えねー。
「と、そういえば、ノゴーシュの所には、勇者っているんですか?」
「いえ。彼は勇者を任命したりはしないでしょう」
「それはどうして?」
「彼は、剣の神ですので、前面に立たせる勇者という存在は意味がないのです。自分が出た方が効率的ですし、私のように後衛で前衛を必要としているわけではありませんから」
え? 何その脳筋。
「えーと、それは国の長としては……」
「それがノゴーシュという男です。だから、私も小細工するとは思わなかったのです。自分よりも剣の腕が上の者がいると嘯かれるのもそれはそれで、剣の国の根幹にかかわる問題でもありますから」
「あー、なるほど」
剣一本で神と認められたノゴーシュにとっては勇者という存在は邪魔になるわけね。
なんか、いろいろな意味で、タイキ君や治める国のランクスが心配になってきた。
我儘姫と、脳筋王の妬み嫉みで倍々じゃん。
前回の投稿で、コメント欄が無情の誤字脱字報告であふれました。
いや、それは非常にありがたいです。
毎度毎度、ご指摘ありがとうございます。心よりお礼申し上げます。
だが、みんなが求めていたのはシリアスではなくシリアルだったというのがわかった。
まあ、心配しなくても、シリアルになるから安心してね。