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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
国の在り方 暗躍編

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落とし穴77堀:秋の夜長の……

秋の夜長の……





秋の日は釣瓶落とし


なんて諺があるように、井戸に釣瓶、桶を落とすように、あっという間に日が暮れる。

夕日がきれいだなーなんて思ってたら、もう真っ暗なんてのはよくあることだ。

夏の日長な時期からの様変わりだから、その差を顕著に感じるのだろう。


そして、異世界はアロウリト、その一つの大陸にあるウィードという国もまた四季を持っていて、秋に入り、とっぷりと日が暮れている。

文明がまだ発達していないところでは、日が暮れると光源などの問題で仕事ができず、夕御飯を食べて寝てしまうことが多い。

しかし、それは一般的とも言い難い。

実のところ、夜になれば確かに、仕事をやり辛いので、家にいるなら夕御飯を食べて寝るぐらいしかないが、ちゃんとした夜の楽しみもあるのだ。

それは飲み屋である。酒といったアルコール、昔でいうなら酒精を扱う店で、主に仕事が終わった夕暮れから夜にかけて開けている店である。

そもそも、お酒は昔から数少ない娯楽の一種で、一般の人々にも広く飲まれていた。

いや無論、多少余裕がある人という前提はつくが。


ということで、ウィードにある飲み屋も今日も今日とて仕事終わりの人々が集まって、いや、物々交換ではなく、貨幣をしっかりと基礎として流通させているウィードでは、誰でも金銭による支払いが可能となっているので、仕事終わりの一杯というのはかなり流行っていた。


こういうところは、世界が変わっても変わらない、働く人々にとっての息抜きの場所なのだろう。




side:タイゾウ




そんなことを、目の前で飲んでは騒ぐウィードの住人を見て思う。

ヒフィー神聖国にいたときは仕事仕事でそんな段階ではなかったからな。

いや、もとより祖国は日本でも勉強と研究漬けでそんな暇はなかったな。

私もかなり偏った生活をしていたものだ。

こういう場面は見てよく知っているものの経験自体はほとんどない。

そんなことを考えて苦笑いしていると、後ろから声をかけられる。


「すみません、お客様。お待たせしました」

「いや、繁盛しているみたいですね」

「あはは、この時間帯はいつもこうですよ」


ばたばたと注文の品を運んでいた店員がこちらに来て、笑顔で対応してくれる。

当然だと思う接客だが、前後の仕事量からよく笑顔を浮かべられると感心する。

どの仕事にも楽はないと思う瞬間だな。


「あのー、お客様はお一人様でしょうか?」

「あ、いや、予約をしているはずです」

「ご予約のお名前は?」

「確か……ヴェルグだったかな」

「ああ、鍛冶区の副代表の。こちらですよ」


彼女はその名前ですぐに察しがついたのか、すぐに案内をしてくれる。

そう、ヴェルグというのは、聞いた通りナールジア殿の鍛冶区の副代表をつとめるドワーフだ。

現在の代表で変わりがないのは、冒険者区と鍛冶区ぐらいのもので、鍛冶区は職人気質が多いもので、進んで代表になりたがるものがいないそうだ。

あと、技術的な実力主義でもあるので、独自に代表の立候補者には試験が設けられていて、それをクリアしないと代表としては認められないというルールがある。

これは、人より長生きする妖精族やドワーフ族だからできる、職人魂から来ることだろう。

無論、代表にならないと認められないというわけでもなく、ちゃんと腕のある職人は人や獣人にもいるので、ただ計算とかしたくないだけだろうが。


「こちらの部屋になっております」

「ありがとう。と、まだ誰も来てないみたいだな」

「はい。お飲み物とかはどうしますか?」

「ほかの人がそろってからでお願いします」

「はい。かしこまりました。では失礼します」


どうやら私が一番乗りらしい。

靴を脱いで、座敷部屋に上がる。

特に上座下座ということを気にするような飲み会ではないので、他の人たちが座りやすいように、奥の方へ腰を下ろす。

すると、ふいに自分の行動がおかしく思えてくる。

なんで私は、異世界にきて当たり前のように、座敷部屋で座っているんだろうな……と。

人生いろいろあるというが、ここまで奇天烈な経験もないだろう。

洋式の文明の地域にいきなり来たかと思えば、日本の様式をしっかり整えられる同郷の人間と出会いであり、一人は遠い血縁ときたものだ。

一体こんな与太話を誰が信じるんだろうなと思ってしまう。

そんなことを考えていると、障子が開けられる。


「こちらです」

「どうも。おや、タイゾウ殿が一番乗りでしたか」

「ザーギス殿が二番目ですよ」

「そうですか。では、私も奥の方にいきますかね」


そういって、ザーギス殿は私の向かいに座る。

彼は魔力の異常で生まれる魔族という種族で、魔力を使う魔術の才能に長けていて、その手の研究の腕を買われて、ユキ君が魔王のところから引き抜いたそうだ。

もともと、研究職で魔王のところではけっこう軋轢があったらしく、喜んでこちらに来たらしい。

どこの世界も研究職というのが理解を得られることはなかなか難しいらしい。


「どうですか、最近は?」

「いやー、こういうのは日進月歩というのはまあいささか違うかもしれませんが、やはり積み重ねですねー」

「そうですな。知識や新しい考えを常に取り入れなければ、新しい発見にはつながりませんからな」

「ま、思いつくときは一瞬なんですけどねー」

「そうそう」


私とザーギスがそんな話をして盛り上がっていると、残りの人も続々集まってきた。


「なんじゃ、わしらが一番かと思ったんだがな」

「ヴェルグのおっさん。なにいってんだよ。迎えに行ったとき、あと少しって言いながら結局30分待ったよな」

「ですねー。俺とユキさんが置いていくって言ってからようやく追いかけてきたんですから」

「む。そうだったか。まあ、いいじゃないか。全員集合したことだし、おーい、注文頼むー!!」

「はーい!! ただいまー!!」


すぐに返事が返ってきて、先ほどの店員がこちらに来る。


「さて、ひとまず飲み物だが……。まずは生でいいか?」


特に否定する理由もないので全員うなずく。


「じゃ、生を5つと、から揚げ、焼き鳥のモモ串を……」


ヴェルグ殿が一気に注文をしていく。

足りない分や個人的に食べたいものは後で頼めばいいというやつだ。

今はひとまず、適当に注文して……。


「お待たせしました。まずは生5つと、こちらがから揚げと……」


さほど時間もかかることなく、ビールとつまみを同時に持ってきてくれた。

これですきっ腹に酒というのは避けられる。

人によっては結構酒の回りが早くなるとか聞いた覚えがある。

ま、そこはいいとして、目の前に置かれたジョッキをしっかりと握る。


「さーて、ユキの大将。挨拶たのまー」

「はいはい」


飲み会の開始の音頭がユキ君がとるようだ。

まあ、彼がこのダンジョンの主なのだから当然か。


「では、長ったらしい挨拶は抜きで。今日は男だけで飲むぞー!! 乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」


そういって、お互いグラスをぶつけ合っていい音が響き、それを確認したあと、一気にビールを流し込む。


「「「ぷはぁ!!」」」


私としては酒はあまり嗜まないし、うまいとも感じないが、こういう時に合わせて飲むのはありだと思う。

こういう雰囲気もいいものだ。

そして、各々、机の上にあるつまみを口へ放り込んでいく。


「いやー、この一杯の為に生きてるな!!」

「相変わらずですねー。ヴェルグさんは」

「あたりめえよ!! タイキ、酒って俺たち、ドワーフにとっては命の水なんだよ!! わかるか!!」

「なんども聞いたって。と、から揚げ食べます?」

「お、ありがとう。んー、やっぱり揚げたてはうめえ。ここが一番早く持ってきてくれるんだよ」

「へー、だからヴェルグさんがここの予約をとったんですね」

「おう。他のものもうめえからどんどん飲んで食べようぜ」

「はい」


タイキ君とヴェルグ殿は勇者装備の云々で結構個人的に話すらしく、今みたいに結構仲がいい。

こちらはユキ君、私、ザーギスで話をしている。


「で、そっちの二人は先に来てたみたいだけど。何話してたんだ?」

「あー、ただのいつもの研究の進捗ですよ」

「そうだな。どの技術も日進月歩という話をしていたな」

「飲み会でも、研究の話っていうのは、職業病だなー」

「ははっ。今更そう簡単に変わりませんよ」

「だな。私たち技術屋や職人はすべからくこんなものだ」

「そんなもんかねー。っと、飲み物なくなってるなー。注文とるか、すみませーん!! なんか追加とかある? ほらメニュー」


私とザーギスは渡されたメニューを一緒にのぞき込む。


「うーん。どれもおいしそうですね。日本食ははずれがないですから。冷奴かな? 何かおすすめとかありますか、タイゾウ殿?」

「そうですなー。お、これはどうですか、サンマの塩焼き。秋が旬と言われていて、脂がのって美味しいですよ」

「じゃ、それも頼んでみましょう」


そんなことを話している間に店員が注文を取りに来たので、とりあえず食べてみたいものを頼んでいく。

無論、酒の追加も開始した。

すでに一杯目はビールはあおっているので、全員、好みの酒を注文している。

そして、さほど時間を空けずに、注文がやってくる。


「タイゾウ殿は日本酒ですかー」

「故郷の酒ですからね。そういうザーギス殿は赤ワインですか」

「ええ。私も故郷の酒といったところですよ。と、二杯目ですが、乾杯」

「乾杯」


2人で酒を飲む。


「ふう。慣れ親しんだ酒はやはりいいものですね」

「同感です。五臓六腑にしみわたりますな。と、サンマの塩焼きでも食べてみませんか?」

「ああ、これはどうも」


差し出したサンマをザーギス殿はきれいな箸使いで口に運ぶ。

流石、ウィードができたころからいる人である。

しっかり日本の文化に染まっている。

で、サンマの反応はというと……。


「美味しいですね!!」

「口に合ってよかった。そこの大根と醤油、柚子などかけると味に変化がでてさらにおいしいですよ」

「ほう。では……。んー、これはすごい!!」


ザーギス殿はさらにサンマをパクパクと口に運び、あっという間になくなってしまう。


「あ、すみません。あまりに美味しかったもので……」

「いえいえ。また頼めばいいだけですよ。次は、日本酒と一緒にどうぞ。サンマに合うのは日本酒ですから」

「なるほど。確かに、料理に合う酒というのはありますからね。次はそうしましょう。と、サンマの塩焼きは二皿いりますね」

「そうですね」


そう思って注文しようとしたのだが、思わぬところで待ったがかかった。


「俺たちもサンマの塩焼きと日本酒を頼む。あんなにおいしそうに食われるとこっちもたまらん!!」

「だなー。こっちもお願いします」

「秋のサンマ……。ごはん大盛りをお願いします!!」


ヴェグル殿やユキ君、タイキ君も頼むようだ。

しかし、ご飯の大盛りは捨てがたい。

私も頼むべきだな。


「すみません。ご飯の大盛りは二つでお願いします」


さてさて、飲み会はまだまだ始まったばかりだ。

秋の夜長というし、まだまだ夜は始まったばかり楽しんでいこう。




side:ナールジア



ぬふふ、今日はユキさんたちもいないお楽しみの……。


「今日は、男抜きの女子会だー!! かんぱーい!!」

「「「乾杯!!」」」


ユキさんの奥さんたちはもちろん、リリーシュ様やヒフィー様も誘って、秋の夜長で飲みまくりだー!!


「ぷはー!! この一杯の為に生きてるわ!!」

「ミリーったら、あんまり飲みすぎちゃだめですよー」

「大丈夫だって、ナールジア。ちゃんとここには医療のエキスパートもいるし問題ない」


確かに、ルルアさんに、リリーシュ様もいるから問題はないか。

お酒大好きの同志が飲めない苦痛を気にしていたが、大丈夫そうだ。


「ということで、バンバン飲みましょう!! いつも禁酒してるからへーきよ、へーき」

「なるほどー」

「あのー、ミリー。あんまり飲みすぎはよくないですよ?」

「まあ、ミリーちゃんも我慢していることだし、たまにはいいでしょー。本当にまずそうだったら止めに入ればいいしー。と、ルルアちゃん、はいお代わり」

「あ、どうもありがとうございます」


そんな会話をしつつ、ルルアさんもリリーシュ様もお酒飲んでるし、OKOK!!

そうして、皆でいろいろ注文して美味しいものを食べると……。


「サンマの塩焼き、5つ追加入りました!!」


そんな店員の声が響く。


「サンマの塩焼き? それ美味しいのかな? ミリー知ってる?」

「うーん。どうだったかしら?」

「えーと、お兄さんのところでは秋が旬の美味しい魚だった気がします。ですよね? リエル?」

「うん!! そうだよ!! 僕も頼もうっと!!」

「あ、じゃ私も」

「「「私も」」」


なんて感じで、秋の飲み会はサンマを頼むのが常識となった気がする。たぶん。記憶がないだけですけど。





今日は祝日、飲みに行ってはいかがでしょうか?

明日は仕事だけどー。

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