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第433堀:結局は誰かが割を食う

結局は誰かが割を食う





Side:コメット




机をたたく音が、部屋中に響く。


バンッ!!


「タイゾウさんに、そんな危険なことをさせるつもりですか!! ふざけないでください!!」


そして、ヒフィーの咆哮。

あー、耳が痛い。

たく、さっきまで人の研究室でいちゃいちゃして、砂糖吐きそうだったのに、次は音響攻撃とは恐れ入るわ。


目の前には、今にもつかみかかろうとする、ヒフィーを押さえるタイゾウさんと、ばつの悪そうなユキ君がいる。


「わっとっとっと!? ふうー」


あ、忘れてた。

ザーギスはその隅でヒフィーの叫び声を聞いて、フラスコを取り落としそうになって、なんとかキャッチしていた。



さて、なぜ研究室でなんか、修羅場っぽいことになっているのかというと。

当初、タイゾウさんは本日研究室にくる予定はなかったのだ。

だけど、なんかユキ君がいろいろあったらしく、時間がずれるということで、こっちの研究室に顔をだしたのだ。

私とザーギスもタイゾウさんの知識や技術は教えを乞うているほどだし、研究室に来ることはよくあった。

ま、そこで、私の便利な……いや、健気な友人ヒフィーが今日も今日とて、食事の世話や、研究室の片付けをしていてくれたのだが、顔を出したのは旦那のタイゾウ。

となると、花が咲いた乙女のように、今日はもうお仕事はおわりましたか? 晩御飯はなにがいいですか? などなど、いちゃいちゃし始めやがった。

私としては、友人二人が仲睦まじいのは、こちらの生活の安定につながるので、望むところなのだが、研究室でお花畑な話はやめてほしい。

気が散ることこの上ない。他所でやれ、余所で。

そんなことを考えていたら、ユキ君が用事を終わらせてきたらしく、そのまま仕事の話になったわけだ。

私もうっすらとは現在の状況を聞いていたけど、まあ、くそ面倒な状況だったし、技術者として引き込まれたので、ユキ君頑張れーって感じで丸投げしていたんだよねー。

で、ヒフィーが咆哮して、現在に至ると。


話を聞いた限りでは、タイゾウさんの無効化スキルを使った制圧作戦みたいだね。

ということは、タイゾウさんは生身で敵地のど真ん中というわけで、そこをヒフィーは怒っているんだろうね。

まあ、普通なら、旦那さんが死ぬかもしれないような場所に送られるのは、許容できるわけないか。普通ならね。


「ヒフィー。落ち着きなよ」


私はタイゾウさんに押さえられているヒフィーにそう声をかけて近づく。


「これが落ち着いてなんていられますか!!」


なんというか、心根は変わってないね。

短気は損気というべきか、心優しいってのは難儀だね。

だからこそ、ここまで来たんだろうけど……。

とりあえず、ここまで憤慨してては話が進まないので、チョップをくらわす。


「はうっ!?」

「そんなに興奮してちゃ、話も正確に聞けないだろう?」

「なにをっ!!」

「だから、落ち着けってば。なに? 今から熱湯風呂にでも入るかい?」

「うぐっ……」


うむ。あの罰ゲームはやっぱりトラウマになっているようだね。

さて、どこから話したもんか……。


「えーっと、ヒフィーはタイゾウさんを使者として送りこむことに反対なんだよね?」

「とっ!! ……当然です」

「よしよし、それでいいんだよ。怒鳴らなくてもユキ君も私もわかるからね」

「……私はそのようなことは認められません」

「ま、そうだろうね。でも、代案はあるのかい?」

「それは……。ユキ殿の精強な部下たちであれば……」

「うん。確かに、スティーブ君たちなら可能だろう。そもそもなスペックだって、私や君を上回っているんだから」

「ならば……」

「だけど、それはタイゾウさんが赴くより、ずっと危険が多い。スティーブ君たちはもとより、魔術国の人々も確実に傷つくだろうね」

「そんなのやってみなければ……」

「わからない? そんなわけないだろう? 魔術やスキルを完全に封じるタイゾウさんと、実力行使で行くしかないスティーブ君たちとではまるで危険性が違う。ヒフィー、君の気持ちはよくわかっているつもりだ。今君は、私がいままで見たことないぐらい幸せそうだからね。それがなくなる危険は万に一つでも容認できないだろうね。でも、それは、代わりにほかの人たちへ危険を押し付けることだよ。わかっているだろう?」

「……」


ヒフィーにとっては、二度と手に入ることない幸せだ。

それを手放したくない気持ちはよくわかるよ。

私もこうやって普通にヒフィーとバカな話ができる日がくるとは思ってなかったからね。

斬られたあの日に私の人生は終わったと思っていたし、私の遺体を利用したヒフィーにも特に思うところはなかった。

だって、そのために、大陸を救うために、いろいろなものを犠牲にしていたからね。

だけど、今回は違う。


「ヒフィー。何度も言うけど、気持ちはわかる。だけど、それは、今までの自分を裏切ることになる。無論、協力していた私たちも含めてだ。君は、せめて人々が幸せに暮らせるようにと願って立ったんだろう?」

「でも……、タイゾウさんをそのために……」

「だから、落ち着くんだ。私も君の幸せをぶち壊してまで、平和なんて求めてないさ。そんな無茶を要求するなら、私もユキ君と敵対するよ。でも、違うだろう? こうやって、頭を下げて、説明をしに来て、一番これが確実で、被害が少ないから頼みにきたんだ。無論、タイゾウさんの安全にはちゃんと万全の体制を整えるだろう。……ヒフィー、君はちゃんとそこら辺を聞いて、考えて話すべきだよ。落ち着いて考えてなお、認められないというなら、私も無理はいわないし、ユキ君も無理強いをしないさ」

「……わかりました。少し考える時間をください。あっちの部屋を借ります」

「うん。落ち着いて考えるといいよ」


ヒフィーは席を立ち、隣の部屋へと入っていく。

あっちは休憩室だから、落ち着いて考えるには最適だろう。

私がそんなことを考えていると、タイゾウさんがユキ君に話しかけていた。


「いや、すまない。まさか、ヒフィーさんがあれほど怒るとは思わなかった」

「いえいえ。こっちも、無茶を言っていますから。こんなことを言って申し訳ない」

「気にしないでくれ。ユキ君の話は実に理に適っている。ヒフィーさんもわかってくれるだろう」


そういって、ヒフィーが入っていった部屋に視線をやる。

私はそのタイゾウさんの言葉に思うところがあって話しかける。


「ありゃ。タイゾウさんは、自分が敵地に送られることには特に思うことはないのかい?」

「これでも、技術屋といえど私は軍人だからな。敵地に赴くことになにもためらいはないさ。さっきも言ったが、理由も理解できるし、これが最善の手だろう。ま、神風特攻なら断るが、ちゃんと安全も確保されているし、これで死ぬなら仕方がないさ」

「あー。うん、タイゾウさんの覚悟はわかったけど、それだからヒフィーは嫌がったんだろうね。そこはどんなになっても戻ってくるって言わないと。不安になるよ」


なるほど、結婚しても無骨なのは相変わらずね。

……ヒフィーもヒフィーだが、タイゾウさんもタイゾウさんだねー。

うーん、なにか保険があればヒフィーも納得してくれるとおもうけど、何が保険となりうるかが問題か……。

その時、私はひらめいた。


「あっ、いいこと思いついた。これならヒフィーも安心して、タイゾウさんを使者にすることを納得してくれると思うよ」

「なにかいい手でありますか?」

「とりあえず聞かせくれ」

「それは、私も使者についていけばいいんだよ。ヒフィーの親友だからね。私が付いていけば、安心するんじゃないかな?」

「なるほど」

「うーん。まあ、相手は魔術神とかいってるし、魔術が得意なコメットに行ってもらうのはそういう意味でもありだな」


そうでしょうとも、相手が魔術の神とかいうなら、私も見てみたいしー、ちょーっとウィード以外の場所も見てみたいから、私としてはお仕事というちゃんとした理由ができるから万々歳。


「……私が隣の部屋で掃除をしている間に、勝手に話が進んでいるようですが」


気が付けば、ヒフィーがごみ袋を抱えて、部屋から出てきていた。


「あ、お帰り」

「お帰りじゃないです!! なんで先週掃除したのにゴミだらけになっているんですか!?」

「え? そんなに散らかってたっけ? ザーギスじゃない?」


私がそういうと、フラスコを取り落としたザーギスがわたわたしながら、なんとかキャッチして口を開く。


「い、いきなり、私を巻き込まないでください。これでも部屋の整理整頓、掃除はしっかりしていますよ」

「ザーギス殿に罪を擦り付けないように!! どう考えてもコメット、あなたしかありえないんです!! だって、ほら、スナック菓子の袋ばっかり!! ザーギス殿は基本和菓子ですよ!! ねえ、タイゾウさん!!」

「あ、ああ。そうだな。彼は基本和菓子だな」

「あれー? って、ちょこっとじゃないか。大袈裟な」

「あーもう!! 一週間で隅に10以上のスナック菓子の袋が放置されているんですよ!! 少しは自分で片づけるということを覚えなさい!!」


えー、あとでまとめて捨てようと思ってたんだけどなー。


「そんな顔しても駄目です。どうせ、あとで片づけようとでも思ったのでしょうが。そんなことを思うのであれば、即時処分しなさい。ごみ箱に入れるだけです!!」

「ヒフィーは私のお母さんかい?」

「だれがお母さんですか!! こんなでかいゾンビの娘はいりません!!」


いや、自分が私をリッチにしたくせに何て言い草だ。

……ひどい、ひどいよ。


「……ウソ泣きは結構です。あなたがこの程度で傷つくわけがありませんから」

「ちっ」


流石に付き合いが長いだけあって、泣き落としはもう通用しないか。


「……なあ、ユキ君。女性の怒っている、泣いているというのは、私には真偽の判断がつかないのだが、君はわかるか?」

「……女性はそういう生き物だと思った方がいいですよ。頑張ろうとして、藪をつついて蛇はいやでしょう?」

「……そう、だな。あれは彼女たちなりのコミュニケーションとして見ておいた方がいいな」


そうそう、こんな癇癪持ちの奥さんのことは生暖かい目で見守る方がいいよ。余計な口答えするとこうだから。タイゾウさん。


「コホン。では、先ほどの話の続きですが、掃除をしながら考えました。確かに、この方法が最善でしょう」

「ヒフィーさん。わかってくれ……」

「ですが、私が心配していることもわかってください。なので、私から条件があります。いいでしょうか? タイゾウさん、ユキ殿」

「条件ですか?」

「とりあえず、言ってみてくれ。判断ができない」

「では、そこのコメットがタイゾウさんの護衛に付くという話をしているのですが、こんなごみを散らかすのが護衛では心配でたまりません」

「「……」」


あれー?

2人とも、そこは否定してよ。

それを補って余りある頭脳があるんですよ!?


「本来であれば、妻である私が、共をするべきなのでしょうが、流石にそれは王として国をないがしろにすることになるので、血涙を飲んであきらめましょう。ですので、コメットではなく、ポープリを連れて行っていただきたいのです。彼女なら、コメットより信頼ができ、仕事も十分に果たしてくれるでしょう」

「「あー」」

「ちょっとまてや!! なんで、私の教え子なんだよ!! 私のほうがスペック上だよ!! 上!!」

「その教え子に負けたし、言っての通り、仕事ぶりはあなたより信頼できますから」

「おっし!! その喧嘩買った!! 表でろ!!」

「いいでしょう。いつか、そのノー天気な頭をきつく叩いてやろうと思っていましたから」


ということで、私とヒフィーは世界を救う前に決しなければいけない戦いに赴くのであった。



「とりあえず。ポープリ殿に話を通してもらえるかな?」

「ええ。連絡して呼び出します」






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