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落とし穴76堀:天高く馬肥ゆる季節

天高く馬肥ゆる季節




side:カヤ




まだまだ、暑さは残っているけど、その暑さも日に日に弱くなってくる今日この頃。

私としては、一番嬉しい季節になっていると実感が出てきた。


「よっと」


ザクッ!!


私が振り下ろしたクワは抵抗なく、畑に突き刺さる。

ウィードの農地を耕す為にクワを振るうということはそうそうしない。

ザーギスが農業機械をまねて、魔力で作動する道具を開発しているので、それを以って耕す。

そうしないと、人の手だけでは広大な農地を耕すことはできない。

ウィードの住人は年々増えつつあるが、しょせん数万人。

その内、農業に携わっているのは、3千人以下。

農作業機械があってこそできる、農業のシステムを前提にウィードの農業は成り立っているのだ。

現在は、輸出用の作物なども育てているので、村などで、自分たちが生活して、ちょこっと収入と税の為に作っているのとはその規模が違い、就農する人は驚いている。

そもそも、数十キロにわたる、農業地が存在することはそうそうない。

魔物や盗賊、動物、そんな脅威と向き合わなければいけないからだ。

だが、このウィードではそういった脅威は存在しないので、安全に畑を耕せるというわけ。


さて、その状況で、なぜわざわざクワを振るっているのかというと……。


「今年もいい出来だぁー」

「これはおいしそうだ」

「おっきいねー」


そういって、周りのみんなが持っているのは、畑から掘り起こしたサツマイモだ。


「カヤ代表。そっちはどうですか?」

「こっちも上々。いい形」


私の手にも、掘り起こしたサツマイモが握られている。

そう、今日はサツマイモの収穫日なのだ。

農業に携わる者たちにとって、収穫日はまさに生活に直結する大事な日であり、今まで作物を育ててきた成果を確認する日なのだ。

麦や米はさすがに機械で刈り入れしないと無理。

まあ、普通ならもう少し忙しいんだけど、ウィードではこの農耕地は基本的に国有地なので、人員を集めて一気に作業ができるので楽なのだ。

と、そんなことより、否定をしておかないと。


「あ、ドッドさん。私はもう代表じゃない。ドッドさんが農業代表」

「といわれましてもね。私もあまり実感がないのですが……」

「じきになれる。といっても、やることにそうそう変わりはない」


そういって、すでに私は代表でないとしっかり言っておく。

ちゃんと自覚をもたせないと、いつまでも私がのんびりできない。

ま、基本的に私たち、農業の代表たちは、基本的にウィードの上層部から頼まれた作物や家畜を育てるだけだ。

普通なら気候などに左右されて安定しないものなのだが、ウィードはそういうことはない。

ユキのおかげで、作物を育てるのにはとても良い環境で、のんびりと仕事ができる。

そもそも、いざというときはDPで食品の供給ができるので、安心できる。

缶詰の貯蓄などもしているし、DPがなくても大丈夫。

私の夫はやっぱりすごいらしい。


「しかし、私よりも優秀な人たちはいたんですがね……」

「仕方がない。彼らはブランド物の生産に取り掛かっている。自分の農地を必死にやりくりしてる、こういう時は助けに来てくれるし、それだけでありがたい」

「ですね……」


ドッドさんのいうように、優秀?な人たちはいるけど。

そういう彼らは言っての通り、国営の農場から外れて、個人の農家で自分たちのブランドを作り始めているのだ。

まあ、流石に失敗して飢えたり、一家離散、浮浪者なんてことになれば問題なので、こういう収穫時期とか一気に人が必要なときは雇って生活の支援をしている。

作物、家畜のブランド化はもちろんユキが推し進めているもので、これが、将来的な農家の切り札になるといっていた。

私にはいまいちピンと来ないけど、ユキがそういうならそうなのだろう。


「とりあえず、今年のサツマイモは上々のでき」

「はい。そうですね。今年も無事に収穫できて幸いです」

「これなら、子供たちのところの畑も大丈夫そう」


実は、学校に通っている子供たちにも一部の畑を提供して、授業の一環として作物を作らせているのだ。

というより、これは当然のことだった。

勉強を教えるということには反対はなかったが、本来子供たちに学を教えるのは余裕がある家庭のみで、普通は子供は親の手伝いで農作業をしている子供のほうが圧倒的に多いのだ。

そうしないと、食べ物が得られないからというのが一番の理由なのだが、ウィードはそんなことはない。だが、ここにきてその習慣をなしにするというのも、親としても子供としても違和感があるので、こうやって子供たちが農作業をするということを授業の一環を整え、ちゃんと自分たちが生きていくために頑張っていると自覚を持たせるのが目的だ。

もちろん、収穫できた作物は子供たちが持って帰って、食べるもよし、私たち農業組合に卸すもよしとなっている。

孤児の子供たちには、おいしいおやつが増えるので、今日の日の為に頑張っている子も多い。



「わー、でっけー!!」

「ほんとうだー」

「まだまだたくさんとろう!!」

「焼き芋だー!!」



そんな元気な声が風に乗って届く。

そうだね。サツマイモの出来を味わうには焼き芋が一番。

無論、その準備も行っている。


「焼き芋の準備は?」

「はい。そちらは引率の先生方と子供たちがやっていますのでもう終わるかと。というか、ユキさんがいますからねー」

「無駄な心配だね。私たちも焼く分だけ残して、搬出を終えたら焼き芋に参加する」

「はい。それがサツマイモの収穫日のごちそうですからね」

「でも、ちゃんと採れてよかった」

「ですね」


本来は陰干しとかいるんだけど、別に陰干ししなくてもちゃんと食べられる。味の善し悪しの問題があるだけ。

焼き芋する予定地では、すでにサツマイモを収穫できた子供たちが集まり、その中央に……。


「よーし、じゃ、焼き芋をつくるぞー。初めての子はこの石皿に名前書いて、その中にサツマイモを入れて、先生たちにわたすんだ。自分でたき火に入れようとはしないこと。下手な場所に入れると消し炭になるからなー。わかったかー!!」

「「「はーい!!」」」

「じゃ、持ってきてねー」

「ん。どんどん持ってくる」


ユキやリエル、クリーナを筆頭に先生たちが焼き芋を作り始めている。

……リエルは楽しんでいるよね。

だって、子供たちと一緒に芋ほりして、そのまま焼く側に回っているから、焼き芋を満喫するつもり満々だ。

ま、リエルらしいからいいか。


「代表。焼き芋分以外は全部運び出しました」

「……だから、私はもう代表じゃないから」

「すみません。つい」

「はぁ、とりあえず、私たちも焼き芋を大量に焼かないといけない。おすそ分けもたくさんいる。これからもまだまだ大仕事。よっと」

「そうですね。ふんっ」


私とドッドさんはそう話しながら、収穫したかごを持ち上げる。

焼くのは私たちがもつこれだけではない。

関係各所が焼き芋を待ち望んでいる。

まったく、実りの多い秋は大変だ。

そんなことを考えながら、ユキのところへと取れたての芋を持っていく。


「お、カヤ。お疲れ」

「あ、お疲れー!! たくさんとってきたね」

「ん。これなら、みんなのぶんは足りる」


こっちに気が付いて、3人とも声をかけてくる。


「私たちが焼く場所はある?」

「おう。こっちだ」

「あ、私がやるよ。カヤ、任せてー」

「ん。おいしく焼き上げる」


私はリエルとクリーナに引っ張られていく。

ユキは私から預かったサツマイモを焼くための準備をしている。

まあ、水で洗ったりぐらいだけど。


「今回は、石焼き芋なんだよ」

「大人たちはたき火で石を焼いて芋を焼いてたけど、それだと、子供たちは自分がとった芋がわからないから石皿にしている」

「なるほど。道理で子供と大人は別」

「適度にひっくり返さないと焦げるから、俺たちは大変だけどな。子供たちは頑張って育てて、収穫したんだから、これぐらいいいだろう。と、ほい、リエル焼いてくれ」

「はーい。任せて」

「ん。絶妙な焼き加減にして見せる」


そんなことを話しつつ、燃え盛るたき火と焼き石の中に、サツマイモがどんどん投入されていく。

その間に、子供たちのほうはできたのか、取り出しては、石皿に書かれている名前を呼ばれては、うれしそうな顔で一人一人走り寄っていく。


「あつっ」

「落ち着いてたべろよ。やけどするぞ」

「うん」


ユキの周りには自然と子供たちが集まって、出来立ての焼き芋を食べている。


「せんせーもたべよーぜ!!」

「ちょっとまてよ。まだ、焼き終わってないからな」

「じゃ、まつー」


そんな微笑ましい会話をしている。

うん。私のユキらしい。


「よーし、そろそろいいかな? クリーナ?」

「ん。そろそろいいと思う。私の炎の魔術の見せどころ。火をどける」


気が付けば、私たちの焼き芋のほうもできているみたいで、リエルとクリーナがたき火から焼き芋を掘り出している。


「あつつ……。いい感じに焼けてるね」

「ん。いい匂い」

「あ、カヤ。こっちにきなよ。早く食べよう」

「ん。早く食べる」

「わかった」


周りの職員も呼び集めて、焼けたての芋をもらって、パクリと食べる。


はふはふ……。


熱いけど、これは……。


「おいしーね。先生」

「そうだな。焼きたてが一番だからな」

「もう、俺、二個目だぜ!!」

「落ち着いて食えよ。喉詰まらせるぞ」


ユキのほうも食べだしたみたいで、子供たちがひと際騒いでいる。


「……おいしい」

「おいしいね」

「ん。おいしい」


私たち3人はユキと子供たちがわいわい騒いでいるのを見ながら、秋の日が真っ赤に染まり、夜のとばりが落ちる、その一時をのんびり過ごした。

こんな日が続けばいいのにな。



で、日が落ちて、後片付けをして、いざ帰ろうというとき、それに気が付いた。


「よーし。みんな忘れ物はないか?」

「「「はーい!!」」」


ユキが帰る子供たちに注意を言っている時だった。


「ちゃんと、お土産の焼き芋はもったか?」

「「「はーい!!」」」


その言葉に私たちは固まった。


「……リエル。みんなの分は残ってる?」

「……えーっと、たぶん」


しかし、眼前に広がるのは、大量の芋の皮。

一人一個という量でないのは明白だ。

……たしか、みんなの分は一人二個ぐらいで取っていたから。


「……ん。大丈夫。一人一個ということにすれば問題ない」


数を数えていたのか、クリーナはそんなことをいう。

しかし、食べてしまったものを戻すことはできないし、クリーナいう通りに口裏を合わせるしかない。


だが、世の中そううまくはいかず。



「ユキが撮った写真みたぞ。山ほど焼き芋を3人で食べておったな……」

「リエル、私たちは一個だけなんてひどいよ……」

「クリーナさん。その食い意地はもう少し、どうにかしたほうがいいですわよ?」


しまった。

ユキに写真撮られてた!?

悪事はかくせないみたい……。













はい、秋ネタということで、感想にもあったよね焼き芋。

ということで、焼き芋のお話です。

皆もサツマイモを育てて、収穫して食べた経験は結構あるんじゃないかな?

わいわいしながら食べると楽しくておいしいよね。

あと、後日、大人の秋の落とし穴がある予定。

なにか、秋の風物詩があれば感想へどうぞー。

書くかもしれない。

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