第432堀:クソ親父処刑と使者作戦の内容
クソ親父処刑と使者作戦の内容
Side:ユキ
世の中、面倒なことはたくさんある。
しかし、思わぬことで、あっさり進むこともよくある。
今回の3大国の会談はまさにそれだった。
非常に、すんなり受け入れてくれたので、予定していた1週間にわたるセッティングが無駄になってしまった。
まあ、それは俺の予定がというだけで、用意していた部屋や食事などは、3人ともそのままオフということで気分よく使っている。
まさか、それを満喫したいがために、あっさり話を信じたんじゃないだろうな?
「まさか、そ、そんなわけないだろう!! なあ、リテアの聖女!!」
「そ、そうです!! ガルツ王の言う通り!! わ、わたしたちを見くびらないでください!!」
……だめだこいつら、隠す気がねえよ。
まあ、それだけ信頼してもらっているということだから、これ以上のツッコミは無粋か。
「あれ? そういえば、ロシュールの親父はどうした?」
今は話が終わって、俺が指示や書類を作ったあと、4人で晩御飯をということで集まったのだが、ロシュールの親父がいなかった。
「……ああ。ありゃ、自業自得だな」
「自業自得?」
「はい。ユキ殿が出て行かれたあと、セラリア様が来られたのですが……」
『セラリア!! サクラは!? スミレは!? ユーユ、エリア、シャンス、シャエルはなぜいない!! どこだ!!』
『あら、クソ親父。あんなゴミをウィードに放っておいて、娘たちに会えると思っているのかしら?』
『あ、あれはっ……』
『あら? 言い訳するつもりかしら? 娘たちにおじじが悪者をウィードに放ったって言っていいの?』
『お、お前は、鬼か!?』
『娘の国に、そっちの汚物をよこしてきたことを棚にあげてよく言うわね!! 謝れば考えようかと思っていたけど、もう決めた!! 3か月面会禁止!!』
「そうしたら、膝から崩れ落ちてな」
「部屋で泣いているようです……」
「……」
なにやってんだ。あの親子は。
いや、まあ、ウィードに迷惑かけたのはあれだと思うが、今回のは不可抗力もあるのはわかるだろうに。
「さらにだ。あのセラリア女王、こちらににこやかに笑いながら言いやがった」
『お2人はとくに何も問題ございませんし、子供たちに会いに行きませんか?』
「なんていって、ロシュールの視線がいたいのなんのって」
「こちらを視線で射殺さんばかりでしたね……。おかげで、スミレ様たちに会う機会がなくなりました」
「こっちも、自分だけシャエルたちに会うわけにはいかなくてな……」
そして口には出さないものの、2人の視線が俺に突き刺さる。
どうにかしてくれと。
くそ、物事がスムーズに進んだと思ったらこれだよ。
まったく、まあ、一家の安寧を守れないやつが、世界をーなんていうのはちゃんちゃらおかしいのはわかるからやるけどさ。
「こっちの方が、難易度高いわ……」
晩御飯のあとはタイゾウさんと打ち合わせだったのに、断りの連絡いれとかないと。
この話がマジでどれだけ時間がかかるかわからねー。
この旨をメールで書いてタイゾウさんに送って返信がきた。
『武運を祈る』
……よく状況がわかっていらっしゃることで。
さーて、あの強情ツンデレ嫁さんをどう説得するかねー。
あ、その前に嫁さんたちに意見をもらうかな。
とりあえず、コールで連絡をして作戦会議をしたのだが……。
『旦那様。セラリアはそんなことで怒ったり、子供たちへの面会謝絶をしたりいたしません』
『ルルアの言う通りじゃのう。問題はそこではないのじゃよ』
『デリーユの言う通りですね。私もリーアから話を聞きましたが、その場にいたら、その自称大臣を消し炭にしていました』
『当然よ!! ユキさんを、みすぼらしいとか!! 極刑よ!!』
『はいはい、エリスもミリーも落ち着こうねー。ま、でも、僕も同じ意見かなー』
『さらに、子供たちに危害を加えたというのがまずいです。たぶんセラリアは、自分の子供たちと重ねたんだと思う』
『……ぶち殺す』
『ぶっ殺しておくべきでした』
『ん。いまから殺しに行くべき』
『カヤ、リーア、クリーナも落ち着いてください。今はセラリアとロシュール陛下のことです』
『そうですわ。どうせ、ユキ様をバカにした男は拷問の末、処刑されますから放っておきましょう』
とりあえず、嫁さんたちのおかげで、政治的判断だったから仕方ない。って言うのは駄目なのはわかった。
俺と子供たちのことを案じて切れていたのか。
『まー、お兄さんが頑張らないと、ロシュール陛下が自殺しそうですよね。私もシャンスたちと面会禁止とか理不尽に言い渡されたら、気が狂うと思いますよ』
それもわかる。
ラッツの言う通り、俺も子供と面会禁止とか言われたら、おかしくなると思うわ。
しかし、セラリアの怒っている理由もわからないでもない。
……ここは探り合いはやめて、素直に会わせてやってくれというべきか。
俺は覚悟を決めて、セラリアのいるところへ向かう
「……というわけで、気持ちはわからんでもないが、会わせてやってくれないか?」
包み隠さず、素直に現状を伝えて、あっちの落ち度を認めたうえでセラリアに頼んでみる。
ちなみに、セラリアは今回の魔物軍を動かすための書類の決裁をしている最中だ。
極秘とはいえ、ちゃんと話や手続きを通さないと、スティーブたちの独断専行ってことになるからな。
表向きは、魔術国へ使者として行く俺たちの護衛という建前。
ほかの、剣の国、および獣神の国の方は軍事演習ってことで、ガルツとリテアの部隊にくっついていくことになっている。
軍事演習の方は、向こうとの予定合わせが大変なので、ちょっと遅れるが、魔術国を押さえた後に動く予定なので、ある意味ちょうどいいだろう。
別の意味としては、ガルツとリテアの軍事演習に対して何か仕掛けてきても対処できるようにという意味がある。
これは、向こうの馬鹿共が小国に対して変な工作をしていても、すでに大国が出張っているので、勝手に突っ込むということをさせないためでもある。
って、この話をなにも問題なければ、タイゾウさんと話していたんだけどなー……。
「……ちょっと待って。あと少しで書類が終わるから」
セラリアは書類に目を通しつつ、判を押す。
ペったん、ぺったんと音が響く。
この大陸の文明レベルだと書類偽造とか、山ほどありそうだったが、実はそうでもない。
判を押すときに、押す本人の魔力を朱肉に籠めるので、だれがその書類を作ったのかが簡単にわかるそうだ。
街の入り口に、簡易的な判別道具があるやつのさらに簡易版みたいなものらしい。
この世界はこの世界で、ちゃんと独自に発展していることがよくわかる。
どっちが正しい、というのはないのだ。
ま、こうやって偽造防止をしっかり作っているとなると、そういうことがあったから、ということになる。
世界が変わっても、悪党が考えることは同じというやつだ。
「さて、クソ親父の面会ねー」
「そう。ほかの2人にも被害がいってるし、流石に問題だ」
「ちっ、あのクソ親父が。周りを巻き込むとか。……はぁ、仕方ないわね。アーリアお姉様?」
『あら? どうしたの、セラリア? お父様がなにかしたかしら?』
なんか姉の方にいきなり連絡を取っている。
というか、姉さんの方も、親父がなにかしたこと決定かよ。信頼ねーな。
「そうなのよ。あのクソ親父、ほかの2人に恨みがましい視線向けて巻き添えにしたのよ」
『あらあら。そうきたのね』
「でも、簡単に会わせるのはしゃくだし、お姉様が一緒ならって条件を付けるつもりなんだけど。いいかしら?」
『なるほどね。私も姪たちには会いたいし、構わないわよ。で、お父様への罰はこっちに任せるってことでいいのかしら?』
「ええ。キッツいのをお願いします。お姉様」
『わかったわ。こっちもいい加減、政務をほとんど回されて忙しいから、全部押し付けてあげましょう。そして、姪たちとは私があそびましょう』
「流石お姉様。素晴らしいです」
おいおい、おっそろしいことを言ってやがるな。
つまりだ、面会したと思ったら、ロシュールの親父はすぐに戻ることになるのだ。
何という生殺し。
ちゃんと孫たちとの面会はさせたのは事実だし、セラリアが嫌がらせをしたのではなく、アーリアが政務の交代を申し出ただけだから、表向きはお仕事のためということになる。
『今からいくわ。お父様はどこに?』
「いつもの会議室です」
『わかったわ』
うわ、もう動き出しやがった。
「さて、ごめんね。わざわざあのクソ親父のために時間を割いてもらって」
「いや、別にいいけどさ。あんまりやりすぎるなよ?」
「ええ。そこらへんの手加減は心得ているわ。なにせ、あのクソ親父とはあなた以上に付き合いが長いのだから」
セラリアはその言葉がおわると、いきなり真剣な顔つきになる。
「で、タイゾウと打ち合わせって聞いたけど? タイゾウを連れて行くつもりなの?」
「ああ、その予定」
「詳しい内容は?」
流石に今回の敵地殴り込み作戦は、危険だとわかっているのだろう。
というか、一つ間違えれば大陸全土を巻き込んだ、大戦乱になりかねないからな。
「あとで、計画書が届くと思うけど、まあ簡単にいうと、タイゾウさんの、無効化のスキルを使って、完全にあっちを封じて完封する予定」
「……なるほどね。でも、タイゾウのスキルは無差別よ? 私たちも巻き込まれるわ。その場合、物量がものをいうわ。最悪、魔術国の兵に袋叩きにされるわよ?」
セラリアの言う通り、タイゾウさんのスキルは強力に見えるが、無差別であり、その場合は数がものをいう。敵地に殴り込みをかけるのだから、数の不利は明らかなのだ。
「ま、そこらへんは織り込み済みだ。タイゾウさんでノノアを押さえたら、魔術国にあるであろう、ダンジョンを一気に掌握する」
「ああ、なるほど。タイゾウはあくまでも囮なわけね?」
「そういうこと。タイゾウさんの無効化範囲はせいぜい30メートルほど。その範囲から出れば魔術やスキルは使えるから、それを利用するわけだ」
簡単に言うと、ノノアにタイゾウさんを交渉役として、雑談でもなんでもさせて、しれっとスキル発動をして、能力を阻害している間に、魔術国のダンジョンを掌握。
そうすれば、もうこっちのもの。
どうせ、俺たちを見習って、同盟国にゲート作っているだろうから、全部押さえられる。
ダンジョンマスターが魔術国にいる可能性もあるが、そこはノーブルとの戦いで、実績をあげたダンジョン制圧部隊がいるので、問題はないだろう。
「相変わらず、えげつないわね。あなたらしいけど。でも、ダンジョンを掌握できるとは限らないわよ? 規模も全然わからないのだし、DPが足りない可能性はどう考えているの?」
「その可能性はほとんどないと思っている」
「なぜ?」
「まず、そこまでDPがあるのなら、すでに大規模軍でも編成して、こっちに攻めてる」
「それはそうね。こっちに恨みつらつらだし」
「あと、DPの供給源を求めて挑発してる事から考えて、蓄積しているDPはどう考えても俺たちよりも少ないと予想が建てられるし、俺たち以外のダンジョンの街ができたなんて話はない」
「そうね。なら、人狩りとかをしている可能性はないかしら? あと、コアに魔力を注いでって……、駄目ね。前提でいったように、そんな余裕があるなら攻めているものね」
「そういうこと。人狩り、奴隷を集めて、DPを搾り取っているとしても、たかが知れているってことだ。勝てると思えるならこっちに攻めてるだろうからな。ま、予想以上に規模が大きくてダンジョンを掌握できなかったとしても、ノノアを確保できればそれでいい」
「あくまでも、情報を集めるのが目的だから、ダンジョンを掌握できないのであれば、ノノアをってわけね?」
「そういうこと。タイゾウさんとスティーブたちの部隊が動けばそれぐらいはできるだろうさ」
「話はわかったわ。隙のない作戦ね。でも、ヒフィーにはなんていうつもり?」
そう、この作戦の肝はタイゾウさん。
だが、その彼を生身で連れて行くのだから、新婚さんのヒフィーが頷くかどうかが問題になるのだ。
「それを今から説得しにいくんだよ」
「そう。頑張って。まあ、私ならあなたを囮になんて言われたら、ぶっ殺す自信があるわ。だから、仕方がないとはいえ、今回はあなたに非があるのは明白、ぶたれるぐらいの覚悟はしていなさい」
……わかってるよ。
旦那を死地に送り込みますっていうようなもんだからな。
あー、胃が痛い。