第429堀:違和感と答え
違和感と答え
Side:ユキ
はぁ、やっぱり俺のお仕事にかかわる内容だったよ。
あのあと、庁舎の会議室に場所を移して、ヴィリアたちに詳しく話を聞いたのだが……。
『ええい、うるさい!! もう、ノノア殿に頼んで、ロシュール王都を占拠してもらう!! その勢いに乗って、このウィードも攻め取ればいいだろう!!』
との、言葉があって、慌てて録音を開始したとのこと。
ひゃっはー!!
もう、向こうも結構動き出していますね。
ウィードが鉄壁すぎて、やりやすいところから行くつもりな魂胆が丸見えだわ。
ともかく、この話を聞いて、セラリアは親父さんとお姉さんの方に連絡をとって、あの馬鹿の家の捜索を頼んでいるらしい。
ここまで、大きく言ったんだから、余程の自信があるってことで、ちゃんとした書類を作っている可能性が高いのだ。
それを処分される前に、迅速に確保する必要があるというわけ。
ノノア魔術国に対して危機感がなかったロシュールも、これで本腰を入れて動き出すだろう。
多分、同じように、ガルツやリテアも同じような工作が行われている可能性があるから、これも連絡をしないといけないので、シェーラやルルアも連絡を取るために会議室から出ている。
もちろん、冒険者ギルドから来た副マスターのキナも慌てて報告に戻った。
「しかし、何を思って行動を起こしておるのか、ちょっとわからんのう」
デリーユはそんなことを呟く。
「え? ウィードの邪魔をしたいんじゃないの?」
「リエルの言う通りじゃないんですか?」
その言葉にリエルは反応する。
トーリも横で首を傾げている。
「無論、リエルやトーリの言う通り、最終的な目標はウィードの邪魔というか、打倒じゃろうがな。じゃが、あからさますぎる気がするんじゃよ」
「ああ、なるほど。確かに、行動が直接的になってきていますね」
「そういうことですか。大臣たちの話が確かなら、ノノアがバックについて、ロシュールをどうにかするとか、ウィードに手出しをする準備に自分の名前を使っていることになるんですよね」
「普通なら、適当な支援ぐらいでしょう? わざわざ、自分の立場が悪くなるような所で本名なんて使わないし、しかも、あんな馬鹿を手足に使うことはないわね」
デリーユの言葉に、ラッツやエリス、ミリーも同意する。
「……どういうこと? リーアはわかる?」
「いえ、全然。クリーナは?」
「ん。政治はよくわからない」
カヤ、リーア、クリーナは考えているようで絶対考えてないよな。
この3人は特化型だから、まあ、仕方ないといえばそれまでだが。
「……もうちょっと、カヤやリーアは勉強した方がいいですね」
「クリーナさんは魔術一筋すぎますわね」
「「「いや、それほどでも」」」
「「褒めていません」」
このやり取りもなんか定番化してきたな。
嫁さんたちの仲が良いようでうれしい限りだ。
「旦那様。お茶の準備が整いましたので、いったん休憩を入れられてはどうですか? ヴィリア様たちもおられることですし」
「あ、そういえばそうだな。キルエ、頼むよ」
「はい。かしこまりました」
子供たちの方は、サーサリとアスリン、フィーリア、ラビリスが面倒を見ているし、ヴィリアたちはこの会議に気安く話せる人はいないだろうからな。
そのヴィリアやヒイロはやっぱり緊張しているのか、キルエにお茶を出されてペコペコ頭を下げている。
「ヴィリア、ヒイロ、大丈夫か?」
「あ、ひゃい!! 大丈夫れす!!」
うん。ヴィリアは駄目だな。緊張しまくっている。
仕方ないけどな。
このメンバーとは一応知り合いではあるが、ほぼ全員がウィードの元代表たちで、今の立場もものすごく高い。
真面目なヴィリアにとって、こういう会議の場所に参加するのは初めてだしな。
「ヴィリお姉は緊張しすぎ。お姉たちはなにも変わらない」
「ヒ、ヒイロ!! こういうちゃんとした場所で、そんなもの言いは!!」
「まあ、落ち着け。もう元だからな。一応治安維持のためではあるけど、面倒な礼節はいらないから大丈夫だよ。最低限できればいい」
「ほら。お兄も言っている」
「も、もう。お兄様、ありがとうございます」
これで少しは緊張がほぐれたみたいだな。
話を聞くために連れてきたのは俺たちなんだから、もうちょっと気を遣うべきだったな。
キルエに感謝だ。流石、本職のメイドさんだ。
「……ねえ。私になにか一言ないわけ?」
「ん? どうした、ドレッサ?」
「……何でもないわよ。キルエ、私はミルクティーがいいわ」
「はい。かしこまりました」
何かブスッっとしてそっぽを向く。
なにかしたか?
ヴィリアたちよりは付き合いが短いとはいえ、新大陸の時から俺たちの本当の活動について知っているから、裏事情はヴィリアたちというか、下手するとこちらの重鎮よりも詳しかったりするし、ドレッサ本人は元お姫様で、この程度で委縮するようなことはない。
「何と言いましょうか……。私たちとしてはどうするべきでしょうねー」
「いや、傍観でいいじゃろう。向こうからなにも言ってこんのじゃし」
「そうね。それで私たちが勝手に動くのは余計なお世話でしょう」
「見ていて楽しいし私もそれでいいと思うわ」
「いやー。僕としてはあの性格だと、永遠に駄目そうだけど……」
「うーん。なら、少し話を聞くぐらいはいいんじゃないかな?」
「……それがいい。きっかけがないとあれは動かない」
「若いですねー」
「ん。青春」
「2人もそこまで変わらないでしょうに」
「ですわね」
なんか、嫁さんたちは勝手に盛り上がってるな。
俺だけ置いてけぼりな気もするが、休憩できているならいいか。
俺もこの間に喉でも潤すとしよう。
ずずっとお茶を啜る。
若いときは熱いお茶は飲む理由がわからなかったけど、今となってはありだよなー。
で、そんなこんなで休憩後、会議が再開する。
「さて、さっきの話は、なんでノノアの名前があっさり出てきたのかってところだな」
「そうですね。そこの意味がわかりませんねー」
「あっさり出てきすぎじゃな。これではノノアがばれても構わないと思っているみたいじゃ」
そう、デリーユの言う通り、普通なら、聞いたことのもない秘密結社とかを作ってそれ経由でいろいろ仕掛けてくるかと思えば、あっさりとノノアの名前が出てきた。
このままだと、一気にノノアの国の評判が傾いて経済的に不利になる。
「ああ、なるほど。みんなが言ってることが僕ようやくわかったよ。ばれると経済制裁とかで追いつめられるのに、なんでこんなことをしたのかってことだよね?」
「そうよ。ある種の自滅に近いわ」
リエルの回答にミリーが答える。
だが、リエルはさらに続ける。
「でもさ、ファイデさんの話によれば向こうにもダンジョンがあるんだし、どうにかできると思ってたんじゃないかな?」
「「「え?」」」
そこで、会議室全体が止まる。
相変わらず、リエルは核心を突いてくるな。
「なるほど。無謀なことをしたわけではなく、勝算があるから堂々としているわけじゃな」
「でも、そんなことをすれば連合を作られて攻められますよ。これのどこに勝ち目があるんですか? そもそも、真っ向から勝負して勝てるなら、さっさと動いているのでしょう?」
デリーユの意見にラッツがそういう。
確かに、最初からぶつかって勝てるなら堂々と動けばいい。
でも、こんな回りくどいことをしているのには理由があるはず、なんだ?
「……ちょっと待ってください。この図式。私は見覚えがあります」
エリスが何かに気が付く。
見覚えがある?
どこでだ?
「……これは、ヒフィー殿のやり方ではないですか?」
「「「あっ!?」」」
そうか、これは相手を挑発して、誘い込んで、餌、DPに変えるための戦法か!!
というか……。
「本来あるべきとされたダンジョンマスターの戦法だな。ということは、ちょっとまて!! まずい!!」
俺は思わず大声をあげて叫んでしまった。
「ひゃわ!? ユ、ユキさん!? ど、どうしたの!?」
リエルは驚いているが、構っている暇はなかった。
なぜなら……。
「ロシュールだけが仕掛けられたなんてのは楽観的過ぎる!! ヒフィーの時は大国同士が険悪で連合が組まれることはないから、一国ずつ、小国群ぐらいを相手になんて考えだったが、すでにこっちの大陸は連合が組まれている。つまり……」
俺が最後までいう前に、気が付いたのかラッツも慌てて席を立ち、口を開く。
「なっ!? ロシュールに仕掛けたってことは、ほかの国にもあからさまな、宣戦布告を行っているってことですか!?」
「多分な。セラリアとルルア、シェーラに至急連絡を!! ラッツ、エリス、ミリー頼む!!迂闊に話を広めれば、勝手に近場で連合を組んでノノアやノゴーシュの方に攻めかねない!!」
「「「はい!!」」」
大慌てで連絡を取るのは3人に任せて、話を詰めないといけない。
思ったよりも、事態が深刻だ。
「話を止めてもらうように動いているが、それも時間稼ぎにしかならないのは明白だ。ここまであからさまに動いてきたんだから、こっちの動きが鈍いのならわかりやすい挑発に切り替えてくるだろう。3大国はともかく、それに従う小国家群までフォローはできない。どう説明しても、功名心や利権目的で勝手に動くところが出てくる。それどころか、ダンジョンを制御したなんて向こうが言えば、自国内にあるダンジョンの制御に乗り出して、連合から離脱してでも自国の強化に乗り出すところも出てくるかもしれないし、呼びかけを行えば、ノノアとノゴーシュの方に付くところも出てくるだろうな」
「……それ、とっても不味くない?」
カヤの言う通り、とっても不味いどころか、大戦乱になりかねない。
しぶしぶ連合に参加していたところは、ノノア、ノゴーシュの方に付けばいい立ち位置につけると考える連中も少なくないだろう。
まあ、呼びかけはともかく、ダンジョンの制御云々は言う可能性は低いけどな。
だって、自分たちの有利なところがなくなるから。
「どうするのですか……。話や状況から判断すれば、もう止められる段階ではなさそうですが」
ジェシカは今の状態を正確に把握しているみたいだ。
もう通常手段じゃ止められる状況じゃない。
そう、通常手段であれば、だ。
「ファイデを呼んでくれ、どうせジョンと話をしているだろうから、そこに行けばいい」
「わかりました。行ってまいりますわ」
サマンサがファイデを呼びに席を立つ。
「ファイデを呼んでどうするつもりじゃ? この状態で向こうに送り返せば、戻ってこなくなる可能性も高いぞ? 下手に動かさず、こっちにいてもらう方が安全じゃないかのう?」
「デリーユの話も一理ある。だが、それでは相手が動くのは阻止できない。こういうときの定番は一つ。殴りこむ」
ポカーンとしている会議室のメンバー。
「無論、ドッペルでだ。残念なことにノーブルの時より時間がないが、ためらっている暇はない。ノノアの魔術国、ノゴーシュの剣の国、獣神の国へ同時に殴りこんで、一気にバカ神共を押さえる!! ファイデが戻るのに乗じて、ノノアのところには主力を送り込んで速やかに制圧。残り二国の制圧部隊に情報を送れるようにする。スティーブたちに緊急報告、部隊の編成を急がせろ!!」
「はい!!」
「わかったよ!!」
「……任せて」
トーリとリエル、カヤは軍の方への連絡に走る。
「残っている皆は他のメンバーへの連絡、書類の作成を手伝ってくれ。あ、キルエは家に戻って説明と子供たちを頼む。アスリンたちはそのまま待機で」
「「「了解!!」」」
よし、これでいいか?
「あ、あの。お兄様、神様ってなんですか?」
「なに? 食べられるの?」
「……私たちはどうするのよ」
しまった。
この3人が残ってた。
えーと、とりあえず、一緒にいてもらわないと困るな。
本日、プレイステーションVRの予約とってきた。
朝一で行ったけど、のこり4つだった。
すげーと思いつつ。俺は10月13日を楽しみしている。