第428堀:かがくのちからってすげー
かがくのちからってすげー
Side:セラリア
「それは?」
「そ、そうです!! そこの男がかばっている子供が大事な交渉事の邪魔をしたのです!! その子供たちは冒険者だというので、冒険者ギルドの方に引き渡しを頼んでいたのです!!」
なにかしらこのバカは?
今のロシュールはこんなやつを大臣に据えているの?
クソ親父の人事かしら?
いえ、アーリアお姉様がこんな馬鹿を大臣に据えるわけないし、クソ親父のしがらみ関連でしょうね。
……あ、なるほど。
あのクソ親父。この手の馬鹿をウィードに送り込んで自滅させたかったのか。
こうやって、バカ共が問題を起こしてしょっ引かれれば、その派閥は勢力を削がれる。
ついでに、私たちへロシュール国内に敵対勢力がいるって伝えたいわけね。
……理屈はわかるけど、人の庭にゴミを撒かれて嬉しいわけがないから、子供たちとの面会拒否を3か月ぐらいしておこう。
と、クソ親父の狙いはわかったし、ボコボコにしないとね。
「とりあえず、正しい認識を教えてあげましょう。貴様がそこの男呼ばわりした人は、私の夫、ユキよ」
「なっ!? こ、こんなみすぼらしい男が!?」
みすぼらしくないわよ。
お前みたいに、ごてごてした服を着ていないだけで、シンプルな服でまとめていて、清潔感があって、どう見てもかっこいいでしょう!!
いけない。落ち着いて、このまま怒りに任せて斬り捨てるのは問題になりかねないから、ちゃんと言質をとらないと。
「あと、子供たちは私の知り合いなの。私が保護者同然なのよ。何があったか詳しくいってくれないかしら? なぜ、子供たちを引き渡す必要があるのかしら?」
「い、いった通りです。……秘めなければいけない交渉の内容を聞かれました。このままでは国益を損ないます。しかも部屋の中に遊びに入ったのです。非は明らかに、その子供たちであり、女王陛下といえど……。そう!! 手出しは無用ですぞ!!」
なんか、自分は正しいことを言っていると自信が付いたのか、最後には大声になっている。
取り巻きの護衛共もうんうんと頷いている。
しかし、そんなことがあるわけがない。
この子たちが人様の家に無断で入り込むわけがないわ。
「そう。なら、この子たちに直接聞いてみましょう。3人とも、人の部屋に無断に入ったのかしら?」
「いえ。そんなことはしていません」
「してないもん」
「するわけないわよ。そもそも、それだけ護衛がいて、どうやって子供が遊びに入れるのよ?」
ドレッサの言うとおりね。
何のための護衛かわからないわ。
「ぐっ……。い、いや、女王陛下はその子供たちの話を鵜呑みにするのですかな? あきらかに嘘をついていますぞ?」
鵜呑みも何も、状況的にありえないでしょうに。
あと、あきらかに嘘をついているのはお前よね?
「なるほど。この子たちが罪逃れに嘘をついているというわけね?」
「その通りです!! さ、ユキ殿、引き渡しを!!」
……しれっと、ユキ殿に呼び方が変わっているわね。
ははっ、夫の名前を軽々しく呼ばれて頭にくるというのはなかなかないわね。
「いや、渡せませんよ」
だけど、夫がそんなアホな要求に頷くわけもなく、即答で拒否する。
「な、なぜでしょうか?」
「なぜもなにも、そちらもこの子たちが入ってきたという嘘を言っている可能性もあるじゃないですか」
「そ、そんなわけがあるか!! 無礼だぞ!!」
「いや、無礼って一応、私は女王陛下の王配なのですけどねー。まあ、そこはいいでしょう。疑われたという心情はくみ取りましょう。でも、それでこの子たちを渡す理由にはなりません」
「ええいっ!! 外交にかかわることだぞ!! 女王陛下の故国ロシュールが不利になるかもしれんのだ!!」
この程度で不利になるならさっさと滅んでしまえと私は思うのよね。
「故国だろうが関係ありません。私は自分の国の人々を守るのが義務です。そもそも、その聞かれると困るような話をなぜ、このウィードの、しかも、冒険者区の普通の宿で行っているのでしょうか? ちゃんとした会議場所は各国に提供しているはずですが?」
「何度もいっているだろう!! 秘め事のため、こちらでやることになったのだ!!」
「つまり、そちらの勝手で冒険者区の宿を利用して、まあ百歩譲って、この子たちが部屋に侵入したとしましょう。それで聞かれたのはそちらの落ち度ですし、ただの子供のいたずらで身柄を引き渡せとは、なかなか大袈裟ですね。それともなにか? この子たち、ウィードの冒険者などに聞かれては困るような内容だったのでしょうか? 例えば、ウィードに伝わればロシュールが不利になる秘め事とか?」
「……」
夫のいやらしい質問に、返答できなくなっている。
流石というべきか、ここまでよく口が動くものねー。
「ふむ。黙っていてはやはり疑ってしまいますね。では、ここは一つ。この子たちが聞いてしまったという内容を聞いてみましょうか」
そういって夫がヴィリアたちに向き直ろうとすると、大臣は慌てて待ったをかける。
「まて!! 子供たちはどうせあることないことを言うにきまっている!! 聞くに値しない!! 信ずるに足りない!!」
「そうだ。子供の言葉など聞くに値しない!! 信ずるに足りない!!」
「「そうだ!!」」
大臣の取り巻きたちは同調して、ヴィリアたちの言葉を最初から嘘だと決めつけにかかっている。
本来であれば、大臣と子供の言葉、どちらが重く正しいと認識されるのか? といえば、無論大臣だ。
しかし、今回はいろいろな意味で、大臣に分が悪かったのよね。
まさか、私たちが出てくるとも思わなかったでしょうし、子供3人がギルドまで無事に戻ってくるとも思わなかったでしょう。
そして、とどめに例のあれがあるのよ。
夫の故郷での常套手段。
『まて!! 子供たちはどうせあることないことを言うにきまっている!! 聞くに値しない!! 信ずるに足りない!!』
『そうだ。子供言葉など聞くに値しない!! 信ずるに足りない!!』
『『そうだ!!』』
たった今放たれた大臣たちの声が、なぜか夫から聞こえてきて、大臣たちが驚きで静かになる。
「私は喋っていないぞ?」
「私もです。一体何が……」
その姿を見て夫はおもむろにポケットからICレコーダーを取り出す。
「先ほどのことは、これを使ってやったんですよ。音を記録できる。魔道具と言っておきましょうか。ほらこんな感じにね」
『先ほどのことは、これを使ってやったんですよ。音を記録できる。魔道具と言っておきましょうか』
さらに自分で実演をする夫。
ちなみにコールでもこのことが可能だけれど、魔道具としてはいまだにできていない。
ザーギスやコメットの頑張りが期待されるわね。
「さて、これが、音を記録するというのはわかっていただけたと思います。で、この魔道具ですが、大臣たちが知らないように、まだまだ流通させるのには程遠く、改善点などや使いやすさなどの意見が必要でして……」
この時点でようやく大臣たちは夫がなんで子供たちに発言させようとしているのかを理解したのか、顔が真っ青になる。
「ま、まさか!? その子供たちに!?」
「ええ。私たちと縁の深い子たちですからね。同じような試作機を渡しているんですよ。だから、ヴィリア、再生を」
「はい。お兄様」
「ま、まてっ!!」
「いえいえ。これでお互いの誤解も解けるのですから」
止めに入る大臣を夫がやんわりと、しかし絶対通さないように押さえている間にその録音が再生される。
『ほかの国がだまっちゃいませんよ?』
『そんなのは、ロシュールを私が牛耳ればどうにでもなる。王が代わったというだけだ。国の政変に口など出せんよ。ウィードを攻めるというのも、直接的ではない。内部に人員を送り込めばいいだけだ。気が付けば、我々の思い通りよ』
『なるほど、先にウィードではなく、3大国の一角を取ってから、堂々と工作員を送り込むわけですか』
『そうだ。セラリアの小娘がどう拒否しようと、国の方針だから逆らえん。下手に拒否すればほかの国も、ウィードに不信感を持つだろう。そうなれば、こっちの思うつぼよ』
『では、ウィードでの工作は?』
『うむ。一時中断だ。まったく、この街は面倒極まりない……』
バンッ!!
ペン。
『あう』
『なんだ子供か……』
『あ、お前ら!!』
『何をそんなに慌てている? ただの路上のごみあさりではないのか?』
『こいつら、こんななりでも冒険者です!! このことを報告されるとまずい!!』
『何っ!? お前ら、このガキ共をとらえろ!!』
部屋が静まり返る。
私も内容は知らなかったけど、まさか、ロシュールを牛耳ろうとしていたとはねー。
でも、なぜかしら? なんでウィードに手を出す必要があったのかしら?
ま、そこはヴィリアたちが聞いていることを詳しく聞くか、こいつらを捕縛して、尋問なり家宅捜索でもすればいいわ。
「ち、違う!?」
白い眼で見られる大臣たちは部屋の隅に固まっている。
出入り口は私と夫が固めているし、窓はない。
最初から逃がす気などなかったのよね。
「何が違うのかしら? 先ほどの話は国家反逆罪が十分適応されるわよ」
「それはロシュールが行うことだ!! ここで私を捕縛すれば外交問題だぞ!!」
あら、開き直るのね。
まあ、認めてくれてやりやすくなったわ。
「あら? 子供たちは路上で清掃をしていただけと、あなたの言葉から確認はとれたし、この子たちに対して、婦女子暴行、および誘拐未遂、傷害、などなど諸々の罪状で、ウィードが身柄を確保するには十分ね」
「くそっ!! ならば、ここの全員を仕留めれば……あれ? お前ら、なぜ倒れて……」
最後にはお約束の暴れを選択しようとしたみたいだけれど、すでにロックとキナが動いて、護衛と思しき取り巻きは気絶させられている。
冒険者ギルドのマスターと副マスターだからこの程度の相手はどうにでもなるのよね。
私の方もさっさと始末をつけましょう。
剣を引き抜いて、大臣に突き付ける。
「さて、私の剣で四肢を切られた後、拷問されて喋るか。おとなしく捕まって、喋って、引き渡されるか。好きな方を選びなさい」
「な、なぜ、剣が、武器がつかえるのだ……」
「……いや。ウィードの警察や重要人物には武装は持たせるって普通に説明あるけどな。無論、ウィードのトップも例外じゃない。って、これ本当に大臣か?」
夫がそう説明して、私にあの生物の身分を聞いてきた。
「いえ。こんなバカは見たこともないわよ。どうせ身分も偽っているんじゃないかしら? ロシュールの視察団の方から外出届とかはでてないわよね?」
「あー、個人で来たとかいうのもありそうだな。ま、それも含めて喋ってもらおう。で、どうする? 剣で切り刻まれるか、おとなしく喋るか?」
夫がもう一度通告すると、バカは膝を折っておとなしくなる。
それを、外に控えていたスティーブたちが捕縛して運び出していく。
なにやら、一階の方でもトラブルがあったらしくちょうど来ていて、どうせこっちも捕縛するだろうからということで、スティーブが部隊を回してくれていたみたい。
それを見送ってから、ヴィリアたちに向き直る。
「さて、ここじゃなんだし、庁舎の会議室の方で詳しい話を聞きましょう。ロックとキナはどうする?」
「あー、キナ。行って来い。俺が冒険者ギルドを預かる」
「え!? わ、私ですか!?」
「いい加減お前も、こういうことに慣れとけ」
「わ、わかりました。ご、ご迷惑かと思いますがよろしくお願いします」
「そんなに固くならなくていいわ。いつもの感じでいいわよ」
「あ、そう? じゃ、よろしくね。セラリア」
そうキナが言った瞬間、頭にロックのげんこつがおとされる。
「いったー!? な、なんですかロックさん!?」
「馬鹿!! 公私ぐらい分けろ!! いまは友人としてではなく、女王陛下として来ているんだからな!!」
その姿に、少しだけ空気が和む。
でも、これからまた大変ね。
クソ親父とアーリアお姉様に連絡をしないと。




