第420堀:神々が動くその理由
神々が動くその理由
Side:ユキ
いやー、あそこまで情報がバラバラだと、罠だと思うよなー。
前も思ったが、信頼できる大物が乗り込んでくるしかないという状況を作ったんだが、まさか神様が釣れるとは思わなかったわー。
フットワークが軽いというか、頭が空っぽなのかはしらんが、これを企てたやつも大概だな。
ファイデ自身は確かに、ワイルドカードではある。というかジョーカーといってもいい。
だが、それも使いようによる。
確かに、リリーシュというある程度信頼のおける情報源から話を聞き出すのに、ファイデという手札は効果的だが、逆に俺たちに情報が洩れる可能性も考えないといけない。
まあ、ファイデというカードを持て余しているというなら、これを理由にファイデを潰す理由にするのにはありだとは思うが、ほかの思惑で使うならあまり上手い手ではない。
しかも、公式な訪問じゃなくて、個人的な観光客と言う立場ときたもんだ。
こっちが、適当に理由をつけて束縛したらそれでおしまいだろう。
いや、そこを狙っている可能性もなくはないが、公式訪問ならともかく、個人的に来た相手を束縛したからと言って、国が口を出す理由にはならない。
俺一人を調べるために、神様が出張ってくるのはまじめに意味が分からない。
「でも、最初から変よね。リリーシュに会うにしてもあの態度だから、上手くいくとは思えないんだけど」
うーん。セラリアの言う通りだな。
ちょっと考えを改めてみるか。
俺が少し考え込んでいると、横にいたアスリンが口を開く。
「ねえ。お兄ちゃん。あのおじさん何にも怖くないよ? 普通に会いにきただけみたい」
「ん? どういうことだ?」
「えーとね。なんか悪いことをしようとか考えてるとは思えないなー」
「あー、それはフィーリアも一緒なのです」
フィーリアも同意してきて、ほかの嫁さんたちも敵意があるようには見えないといっている。
確かに、敵意があるようには俺にもみえない。
となると、ちょっとまて、そういえば……。
「あ、そういうことか!!」
ポンと掌をたたく。
「何かわかったのかしら?」
「おう。ファイデの立ち位置がわかった」
「どういうことかしら? ファイデはほかの神から頼まれて……。ああっ、そういうことね」
セラリアも自分が言った言葉でようやく気が付いたようだ。
「どういうことなの? あのファイデっておっさんはいろいろ仕掛けている神様のところのやつなんでしょう?」
「ドレッサの言う通りだと思いますが、なにか間違っているのでしょうか?」
ドレッサとジェシカは俺たちがなぜ納得しているのかわからないようだ。
まあ、仕方がない。
俺もセラリアも同じような状態だったんだから。
「セラリアが言ったように、ファイデは頼まれてきたんだよ」
「?」
「頼まれ……、ああ、そういうことですか」
ドレッサはいまだにわからなかったが、ジェシカは理解したようだ。
「ねえ、私はまだわかんないんだけど」
「まあ、落ち着け。アスリンたちのおかげで俺も冷静になったんだが、あのファイデは頼まれてこちらに来ただけで、敵ではないんだよ」
「あ」
ここでようやくドレッサも気が付いた顔になる。
「発言自体は明後日の方向だが、本人としてはいたって真面目なんだ。まあ、事前知識がなければ、ルナのおかげでっていう、理屈はわからなくもないからな。だから、真摯に訴えているだけなんだよ」
「そういうことかー。確かに、ユキたちからかがくとかいろいろ教わらなかったらルナ様のおかげって思うわね」
「というか、あの駄目神は俺たちから物資を強奪してるんだけどな」
「……まあ、女神さまだし、いいんじゃない?」
よくねーよ。
いや、そのおかげで、ドレッサとかリリーシュとかヒフィーといったルナ様を上級の女神様と誤認している連中は、俺がルナを雑に扱っても文句を言わないのだ。
というか、しっかりした女神様なら俺も雑に扱わねーよ。そもそも、アロウリトがこんなになっていない。
「なら、アイスを作らせるより、ルナ様に説明をお願いすればいいんじゃないかしら?」
「ドレッサ、それは駄目よ」
俺が返事をする前にセラリアがすぐに駄目だしをしてくる。
「なんで?」
「あれだけルナに傾倒して、私たちの技術をありえないといっている連中が、今のルナの姿を見て、どう思うかしら?」
「……」
ドレッサは沈黙する。
それはそうだ。赤のジャージ上下に、部屋干しの服が放置、お菓子の袋が転がっている部屋でごろ寝して、腹をかいている姿なんか見たら……。
「……ルナ様を私たちが堕落させているとかいいそうね」
「そういうこと。まあ、まともな状態のルナを連れて行っても駄目でしょうね。もともと、協力を要請していたのに今の今まで静観を決め込んで、発展してきたらファイデを通して文句を言う始末。適当に理由をつけて私たちと敵対するでしょうね」
自分たちが自ら来てないのが何よりの証拠だよなー。
そもそも、あの駄目神で駄女神は最初から堕落してますから。
「どうせ、こういう問題も俺に解決させるつもりだったんだろうし、とりあえず頑張るしかないんだけどな」
結局のところ、俺がルナの七光を頼りにしても問題しか起きないというのはよくわかるので、自力で解決していくしかないのだ。
……もともとな原因はルナや俺というより、今まで結果を出せなかった、現地の阿呆な神のせいなんだが。
いや、馬鹿で阿呆なのは最初の説明で知っていたが、ここまでくると悲しくなるわ。
学校とか、教育の大事さがよくわかるね。
かといって、あの学生時代に戻りたいかと言われればノーだが。
「まずは、ファイデをこちらに引き込もう。あれは敵じゃない。ただの交渉役だ。アイスを作らせてこちらはルナを頼りにしていないという、武力よりもわかりやすい模索と技術と無駄の結晶の証拠を見せることになる」
「無駄? それって、アイスのこと?」
「そうだよ。わざわざお菓子を作るのに、暑いときに冷やすなんて無駄だと普通は思うだろう?」
「それはそうだけど……。ここには冷蔵庫があるし」
「それはここだからだ。他所から見たら意味不明な発想と技術の無駄遣いなんだよ。いや、それこそが発明に一番大事なんだけどな。物を冷やして長期間保存できる道具を使って、嗜好品のお菓子を作ろうなんて他所では思わないだろ?」
「だからこそ、ルナ様の発想じゃなくて、私たちというか、ユキの故郷の技術だって証明できるわけか」
「そういうこと。バニラエッセンスの材料のバニラもこの大陸では栽培は厳しいからな。地球でも日本ではほぼ栽培はできていない。赤道直下の温暖なところでしかできない作物だ」
「なんでバニラを入れたのかと思ったらそういう狙いがあったのね」
「この大陸にない食べ物を持ってくるってのも、技術や文化の差異を見せるのにちょうどいいだろう」
そのアイスを自分で作っていたファイデ本人は、机に突っ伏して休憩をしていた。
泡だて器を使っていた腕はぴくぴくと痙攣している。
普段使わない、慣れていない作業をするとそうなるよな。疲れも倍増。
というか、よく自力でやりきったな。
あの泡立てはお菓子作りでは一種の拷問だと思っている。
昔の人はよくあれを己の手でやっていたものだ。
あ、ウィードでの犯罪で捕まったやつは、アイスとかお菓子作りに従事させるか?
主に泡立て班で。単調な作業をさせるって拷問は存在しているし、ウィード独自のお菓子の生産にもつながるだろう。
あと、犯罪で捕まった人たちへの、温かい社会復帰支援(罰)。
そんなファイデに、リリーシュも流石に追い打ちはせず、のんびりとお茶を啜っている。
「とりあえず、ファイデは自分で作ったアイスを食べて、こちらを正しく認識したと思えば、直接会ってこっちに取り込もう」
「だめよ。まずは私を挟みなさい」
俺がやる気を出しているのに、水を差すのはセラリア。
「いや、女王がいくのも問題だろう?」
「あのね。あなたの本当の立場の方が、圧倒的に上なの。私のほうは適当にリリーシュ様に挨拶に行ったぐらいですむのよ。万が一、ファイデが暗殺の依頼でも受けていて、あなたに襲い掛からないとも限らないのよ?」
「ドッペルだし、問題は……」
「そんなショッキング映像をミリーに見せて流産させたいわけ? というか、あなたが襲われるだけで血圧が相当上がって憤慨するわよ?」
「わかった。おとなしくしている」
「それでよろしい」
はぁ、ファイデとは誤解が解ければ仲良くやれそうなんだが、それは当分先になりそうだな。
確かに、ミリーに俺の衝撃映像とか見られたら、ショック性の流産もあり得るし、おとなしくしておこう。
「わ、私は、そ、そんなことで、ユキさんとの子供を流産したりしないわよ」
「いや、無理でしょ。私だってお兄さんがそんなことになったら頭真っ白になりますし。というか、かみかみじゃないですか」
「そうじゃな。前、タイキにユキが吹き飛ばされたときは全員で総がかりじゃったからな」
「う、うぐぐ……」
ミリーも一応否定はしたが、ラッツとデリーユから言われて反論をいえない。
うん。ミリーの為にも、おとなしくしておこう。
「ま、それはいいとして。あなたに聞きたいことがあるのよ」
「ん? なんだ、セラリア?」
「あなたが魔力枯渇に対する成果を上げているのは、私たちが誰よりも知っているわ。でも、ほかの神々やダンジョンマスターは何をしているのかしら? いえ、ルナが言うにはどうしようもないっていうのは聞いているけど、一体何をしてどうしようもないのかしら?」
「ああ、そういえば、そこのところを詳しく話していなかったな」
「ええ。今までは大忙しで考える暇なんてなかったけど、ファイデを見て不思議に思ったのよ。どうしようもないにしても、多少の成果ぐらいはあるんじゃないかしら?」
「うーん。あるといえばあるんだが……」
ちょっと口には出しにくいので、ホワイトボードへペンを走らせる。
「まずは、先に俺の前任者共、つまり現地のダンジョンマスターたちだが、これがあまり活躍していないのは知っているな?」
「ええ、デリーユの弟ライエは200年近く引きこもりで、ダンジョンも特に大きくないし、新大陸のコメットに至っては死体だったわね」
セラリアが答えるのに合わせて、現地のダンジョンマスター=駄目だった。と記入する。
「そう。じゃ、さらに前の前任者たちは神になるんだけど、この神々はルナが引き継いだ時に、とりあえず、消滅されると混乱が起こるから、混乱防止のためにそのまま続投したわけだ。これらの神々が信仰を力としているのは、ヒフィーたちの件で理解しているとおもう。あまりにも信仰がないと、普通の人と変わらないか、消滅してしまう可能性や死んでしまうこともあるのは知っていると思う」
「そうね」
「つまり、神様はもともと、魔力枯渇のために存在しているわけじゃないんだ。魔力枯渇はルナが後任としてきたあとに出された命令となる」
神様の仕事=本来は信仰を集めて人心安定や暮らしの補佐+魔力枯渇問題 と書いていく。
「だから、まずは、自分たちの力や生存のためにも、信仰を増やす必要がある。となると、人々の信仰の奪い合いになる」
「なんでかしら? 複数の神をあがめるのはよくあることだけど?」
「そこの問題だよ。協力しようという発想がないんだ。もともと、この神々も現地の人から神に引き上げられたって話だから、その自らの努力の結果を譲り渡すことはそうそうないだろう?」
「たしかにね。でも、魔力枯渇はどうするつもりだったのかしら?」
「それのわかりやすい例が、ノーブルとか、ヒフィーとか、ノノアとか、ノゴーシュだな。自ら王様になって国を、信仰を作り上げる。そして、世界を統一して、自分に力を一極集中すれば魔力枯渇なんてーって考えるわけだ」
「……えーと、もしかして……」
「簡潔に言うと、まずは世界を統一してからということで、魔力枯渇は二の次で小競り合い中。今のリリーシュとか見ればわかるだろ? 新大陸だけの話じゃなくて、この大陸も、たぶんどこの大陸も同じなんだろうよ」
「ほ、本当にどうしようもないわね……」
がっくりと肩を落とすセラリア。
うん。まあ、ドンマイ!!
とりあえず、誤解している人がいるかもしれませんので、ファイデの立ち位置を再確認。
彼は交渉とか様子見できた人物であって、「敵」ではないわけです。
最近、神様が敵だったことが多いのでそういう認識になりがちですが、ファイデからすれば穏便にやろうと話していたにすぎません。
ユキたちも、リリーシュが敵意バリバリだったのでファイデを敵と誤認していましたけど、アスリンとフィーリアの言葉で認識を改めたというわけです。
あとは、ダンジョンマスターがどうしようもないのは、ずいぶん前に語っていましたが、じゃ、神様たちは?
という疑問を今回の話で書いたつもりです。
まあ、あんまり変わらないですよね。
世界征服。これが答えというわけです。
いやー、その前に世界が終わりそうだけどね。
ということで、こういう前時代的なというか文明的に仕方のない方々を相手に奮闘するのがユキの一番のお仕事。
絶対真似したくないね。