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落とし穴70堀:夏の夜の納涼 肝試し編 

夏の夜の納涼 肝試し編 





Side:タイゾウ




現在の時刻は午後11時すぎといったところ。

肝試しにはおあつらえむきとはいいがたい時間ではあるが、草木も眠る丑三つ時や、逢魔が時に時間を合わせるのはキツイので仕方がないだろう。


草木も眠る丑三つ時というのは、現在の時刻で言って深夜2時から3時ぐらいにあたる。

草木も眠る。つまり、生命活動が著しく停滞する時間と言われ、幽霊、物の怪が動き出す時間帯といわれている。

日本における幽霊という定義が定まったのは、江戸時代の幽霊画家「円山応挙」や妖怪画家「鳥山石燕」などに拠るところが大きい。


しかし、その実、それ以前の怪異、物の怪の出る時間帯は逢魔が時という。

深夜ではなく、昼と夜の交わる時間。夕暮れ時のことさす。

これは、世界が切り替わる時間に訪れる、わずかな狭間である夕暮れをそう恐れたのだ。

あの時間は魔と逢う時間という意味で。

詳しく説明すると、現在でいうところの18時、午後6時前後。

といっても、結構この逢魔が時の風習は現代でも残っている。

夕方までには学校から帰って家に戻りなさい。というのは、そういう逢魔が時に子供が外に出ているのは好ましくないということからだ。

学校の怪談も深夜の丑三つ時よりも、大抵の子供たちが帰ってしまい、校舎が別世界になるような錯覚を覚えさせる、逢魔が時に多かったりする。


しかし、これは日本だけのことではなく、外国でも同じような話があったりする。

丑三つ時、逢魔が時の怪談は日本だけでなく、世界各地で見られる。遥か昔から。

だからこそ、その道に研究の道を見出す学者も多い。

まあ、昨今、科学技術が進歩していき、その方面で解明が進み、その学者たちも減ってはいるのだが、それでも、解明されない謎があるのがこの分野だ。


私の師も時間と資金があれば、一度は研究してみたいといっていた。

それに合わせて、その手の資料を買っていて、私も目を通したのだ。

もっとも、その実験をすることはなかったが。


まさか、このような異世界にきて、心霊実験をすることになるとは思わなかったが。

人生何があるかわからないものだ。



パキッ。


「きゃ」


私が踏み折った枯れ枝の音にヒフィーさんが驚きの声をあげ、私に抱き着いてくる。


「申し訳ない。不用意に木の枝を踏んでしまいました」

「あ、いえ。私こそ、大げさに驚いてしまいました」


現在私たちは、ユキ君の説明のあと順次肝試しに行くことになって私の出番になったということだ。

夜の山道を手渡されたライトだけで突き進むだけなのだが、ヒフィーさんには少々キツイようだ。

まあ、最初にいったタイキ君の奥さんであるアイリ殿は半泣きで戻ってきたし、トーリ君やリエル君は、妙に過敏になって疲れたといっていた。

そのせいで、心理的に身構えてしまっていて、些細なことで驚いてしまっているのだろう。

これが、大半の心霊現象の原因だ。

怖いなどといった感情が幻聴や幻を生み出す。

私たちが先ほど、怖い話をしたのは、こういう状態を促すためでもあったのだ。

怖がった人たちには悪いのだが、こうすることによって、この場所における心霊現象の解析に大いに役に立つのだ。

道筋、屋敷内と全コースをコールにより録画をしているので、個人が何か見たなどと証言すれば、すぐに確認ができるようになっている。

まあ、本人だけにしか見えないなどといった制約はあればどうしようもないのだが、それを除いた、多角的視点では、心霊現象はなかったといえるのだ。

さらにこの場所は、疑似的に作り上げたもので、魔力やスキルによる干渉もない。

歴史もないので幽霊が出る下地すらないのだ。

この状況下で、本当に幽霊と思しきものが映るのであれば、それは歴史的な快挙となる。


「あ、あの、タイゾウさんは、このようなことは怖くないのでしょうか? 魔力やスキルも封じられ、武装もなにもないのですよ?」

「私としては、向こう、日本では治安が良かったもので、得物を携えるというのは稀でしたし、魔力もスキルもなかったですからな」

「そう、でしたね」

「確かに、ヒフィーさんたちにとって、この山歩きはいささか神経をとがらせる要因が多いですな。私たちの配慮が足りませんでした」

「いえ。安全は確保してくれていると、コール画面でも確認したのに、構えている私がいけないのです」


というものの、やはりヒフィーさんは周りへの警戒が強い。

これは、生きていた環境の違いだろう。

魔物に襲われるという環境にあれば、いくら安全とわかっていても、素直にうなずけるわけもないか。

トーリ君やリエル君もこんな感じだったのだろうな。

獣人である分、感覚も鋭いだろうから。

あと、私たちはこの肝試しの仕掛け人ということで、余裕があるのだろう。

普通、怖いところに行くといわれて、あたりを警戒しない方がおかしい。

この世界において、私やタイキ君、ユキ君が異端なせいなのだろうな。


「あ、あれが、目的の旅館ですか?」


なぜか、ヒフィーさんの声はかすかにふるえていた。

恐らくは、ボロボロになった旅館におびえているのだろうが、不謹慎にも、私はかわいらしいと思ってしまっている。

……ふむ。これが伴侶というものか。なかなか、悪くはない。

と、いけない。返事をしなければ。


「そうです。あれが目的の廃旅館です。あの奥にある人形の間で写真を撮ることが目的です」

「そ、そうでしたね……」


ふむ。思ったよりも、ヒフィーさんは怖がっているな。

流石に無理強いはよくないか?


「ヒフィーさん。無理をしなくてもいいですよ」


そう声をかけて、返ってきた言葉は意外だった。


「あ、えーと、その、手をつないでくれるなら頑張れそうです」

「は?」

「す、すみません。だ、だめですよね……」

「いえ。その程度でしたら。そもそも、夫婦でありますし。どうぞ」

「ありがとうございます。これなら頑張れそうです」


……うーむ。

何というか、ヒフィーさんがとてもかわいらしく見えてくる。

自分の妻が一番だと言っていた既婚者たちの気持ちがわかってきたかもしれない。

と、いかんいかん。

私の目的はヒフィーさんが怖がりすぎない程度にフォローし、肝試しを完遂することなのだ。


「……これを本当に作ったんですか?」

「そうですな。ユキ君いわく、日本にあるお化け屋敷のデータを流用しているらしいです」

「あちらには、こういう遊び場があるのですね」

「昔から人は足りない刺激を、こうやって補っているものです」

「……確かに、成人試しとかいう儀式などはあったりします」


成人試しというのが何かわからないが、恐らくは部族などで行っている、肝試しなのだろう。

幽霊などでなく、ライオンの前を歩くなどして、勇気を示すというやつだ。

こちらにもそういうのはあるものなのだな。

そんな軽い会話をしながら、古びた屋内を歩く。


ギシッ、ギシッ……。


いかにもな作りだな。

昼に試したが、夜に歩くとまた格別だな。

恐怖心をあおるには十分だ。


「ま、まだでしょうか?」

「もうちょっと先ですね」


旅館をもとにしただけあって、中はそれなりに広く、間取りをしっかり知っておかなければ、たどり着くまでに結構迷うだろう。

私たちは、ちゃんと道筋は説明を受けているので、そうそう方向音痴でもない限り迷子になることはない。


「こちらですね」

「はい」


そういって扉を開けると、ずらーっと、先ほど見た日本人形が並んでいる。


びくっ、とヒフィーさんの手に一層力が入る。

やはり怖いのだろう。

流石に無理をしているのはわかる。

さっさとやることをやって帰るべきだな。


「では、ヒフィーさん。こんなところでなんですが、記念撮影と行きましょう」

「は、はい」


持ってきたデジカメで、指示通りに自分たちを撮す。


カシャ!! 


ことん……。


「ひっ!?」


何かシャッター音と一緒にそんな音が響いて、ヒフィー殿が悲鳴をあげる。

すぐに私の腕に抱き着いてくるのでそれを抱きとめる。


「……なんだ?」


とりあえず、ヒフィーさんがしがみついているので、動くに動けず、音源を探してみることにする。

確か、あちらからだったはずだが……。

そうそちらを見ると、人形が一体、床に落ちていた。

確か、先ほどは落ちていなかったから、これが先ほどの音源だろう。


「ヒフィーさん。大丈夫です。人形が台から落ちただけのようです」

「そ、そうですか……」


多少は落ち着いたものの、まだまだ怖がっているのはわかる。

……これ以上の詮索は後回しだな。

先ほども考えたように、さっさと帰るべきか。


「では、帰りましょう。人形が落ちるぐらいは普通にあるでしょう。すでに何人も出入りしていますし、私たちの時に偶然落ちただけですよ」

「わ、わかりました」


ヒフィーさんはしがみついたまま、部屋を出ていく。

その時……。


カサッ……。


そんな幽かだが、何かが動いた音がしたが、ヒフィーさんの手前、これ以上とどまることはできず、そのまま部屋を後にする。

どうせ、虫か何かだろう。

これだけボロなのだから、虫が入り込むことは十分にあり得る。

記録もとっているし、後で確認すればいいだけだ。



「やっほー。ヒフィーお帰りー。いやー、お熱いですな」

「コメット? って、違うのよ!?」

「いや、否定しなさんなよ。普通に夫婦だし、この程度はなにも問題ないだろう? ユキ君とかタイキ君は普通にしているし、何? タイゾウさんのことが嫌いかい?」

「そんなわけないでしょう!! ここまで私を庇ってきてくれたのですから!! って、あわわ……」


旅館の方に戻れば、コメット殿が来ていて、ヒフィーさんをからかっている。

普通なら、私がフォローをするのだが、ヒフィーさんがここまで恥ずかしがるのもなかなか見られないから、見学させてもらおう。


「はあ、すまないね。こんな娘で」

「いえ、私にとっては可愛らしい妻ですよ」

「これからもヒフィーを頼むよ」


と、そんな会話をしているのを聞いて、ヒフィーさんはコメットにからかわれているのに気が付いたのか、慌てた様子から、怒りの状態になる。


「コメットーー!? あなたね!! 変なことして私を脅かしていたのは!! どうりで、私の呼びかけに答えないで、こんな時に姿を現したわけね!!」


なるほど。

先ほどの人形などは、コメット殿の悪戯か。

十分あり得る。私はコメット殿にこの肝試しのことは話していないが、ヒフィーさんが声をかけたのなら、ユキ君か、タイキ君にでも聞いて、こっそりやっていても不思議ではない。

そう思っていたのだが、コメット殿から返ってきた返事は意外なものだった。


「は? なにそれ?」


きょとんと、何も知らないという表情をして答えたのだ。


「え? だって、人形が落ちた……」

「私は今の今まで、ゲームしてたんだよ。面白いものが見られるからって、ユキ君から呼び出しを受けて、今しがた来たところだよ」

「え? え?」

「落ち着きましょう、ヒフィーさん。ほかの人たちが何かしたとかは?」


私がそう周りに聞くがそんなことはした覚えがないと返事が返ってくる。

まあ、あの人形をわざわざ触りたくはないか。

その間に、コメット殿もヒフィーさんから事情を聞いたみたいで、面白そうなものを見つけたような顔でこちらにきた。


「つまりだ。環境をしっかりと制限、限定したのに、不可思議現象が起こったのかもしれないというわけかい?」

「そうなるな」


やはり彼女は研究者だな。

この事実にヒフィーさんは真っ青になっているが、コメット殿は実に楽しそうだ。


「本物が出たかもしれないわけだ」

「そ、そんなわけないでしょ!?」

「呪われたかもねー。神様が呪われるってくそ面白いんですけど!! ぶはっ!!」

「の、呪われ!? か、神がそのような……」

「でもー、実際ヒフィーの時にしか起こっていなかったしー」

「まあ、コメット殿。まずは事実の確認ですな。偶然落ちたということもありますし」


そう、まずは事実の確認だ。

こういう時の為に、記録を取っているのだから。


しかし、本格的に、幽霊の有無を見分ける実験につながるとは思わなんだ……。




よくある心霊番組の魔界潜入とかそういうやつ。

ああ、本編には書いてなかったけど、


※特別な許可をもらって撮影しております。


なので、公園やトンネル、ダムなど現在も利用されている公共の場以外は、不法侵入などの罪に問われますので、ちゃんと、許可をもらった上で肝試しはしましょう。

あと、万が一の為に、肝試しをするときは、ついてこない家族か友達に開始時間と、終わり時間を伝えておいて、すぐに救援が来るように環境を整えておきましょう。

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