第408堀:模索する未来と残っているモノ
模索する未来と残っているモノ
Side:ドレッサ
あー、暑い。
でも、浜辺の暑さよりはましなのよね。
砂に日が照り返されて、こう満遍なく焼かれているような感じなの。
でも、公園の清掃は地面には芝生が茂って緑色だし、このまま木陰を見つけて転がったら気分よくお昼寝できると思う。
だけど今は仕事で来てるからしっかり働かないと。
「おーい、嬢ちゃん。枝おとすぞー!!」
「はーい!!」
ドサッ。
私は今、班長と組んで、木の剪定の手伝いだ。
返事とともに切り落とされた枝が落ちてくる。
それを、袋に詰めやすいサイズにさらにカットして、袋に入れるの繰り返しだ。
ほかの人は、芝生とかの清掃をしていて、腰を曲げているから辛そう。
ああやって、貝を掘る為に長時間、探すと辛いらしい。
よく、漁師のおばさまやおじさまが腰をたたいていたから。
私としては、背中だけ焼けるから、後で痛いぐらい。
「うし、今日はこんなところだな。おーい、お前ら撤収準備だ!!」
「「「うっす」」」
枝を片付けている間に、班長が木から降りてきていて、そんなことを言った。
「え? 約束の時間まであと1時間はありませんか?」
「この暑さだ。無理はするなと、上から言われているし、今日の分はしっかり終わっている。……ああ、心配するな。ちゃんとクエスト完了のサインは書く。だが、それはちゃんと、戻って、体と服を洗ってからだ。嬢ちゃんはユキの旦那とこの後会うみたいだが、清潔にしないままでユキの旦那に会わせるわけにはいかねえ。というより、この仕事の義務だ」
「わかってますよ」
私だって、あんなお洒落な喫茶店に汗だく、汚れたままで行く気はない。
私も手早く、今まで作ったごみ袋をまとめて持つ。
「よし、ごみを置きっぱなしなんてことはないな? そんなことがあれば、何のために清掃しているかわからないからな。……よし、帰るぞ」
班長の確認も終わって、庁舎のほうへ戻る。
この清掃業者は庁舎直轄の組織らしく、結構権限がでかいみたい。
だって、専用の建物や焼却炉とかがあるし、専用のシャワールームや洗濯室まであるんだから。
班長いわく、病原菌を外に出さないためとかなんとか。難しい話はわからないわ。
だって、ただのバイトだし。
「よし、綺麗にしてきたな。ほれ、クエスト終了のサインはしておいたぞ」
「ありがとうございます」
私がシャワーをしている間に、預けておいた書類にサインをしてもらえたようだ。
こういう、お手伝い系は、ギルドで書類を渡されて、それを班長みたいな管理の人に渡して受理されるシステムだ。
個人管理をしていて、職場に顔も出さず、自分でサインをして終わりとかいう馬鹿が昔いたらしい。
無論、すぐにばれたみたいで、こういうやり取りが基本になったとミリーが言っていた。
「それと、ほれ」
班長はそういって、少しのお金をくれた。
喫茶店で一杯飲めるぐらいの額だ。
「あの、クエスト完了のお金はギルドのほうでもらえるんですけど?」
「知ってるよ。今からユキの旦那と喫茶店だろ。今日は暑かったし、俺からの個人的なおまけってやつだから気にせず受け取れ」
「……ありがとうございます」
「おう。暑いからな、気を付けて帰れよ。あの喫茶店なら一杯頼めば、夕方ぐらいまでいるのには文句は言わんだろうさ」
いや、そこまで図々しいことはしないし、貧乏でもない。
でも、班長の気遣いを断る理由はないので、ありがたく受け取っておく。
「また機会があればきな。嬢ちゃんなら、歓迎だ」
「はい。では失礼します」
私はそういって、清掃のクエストを終えて喫茶店へ向かう。
ギルドへの報告は明日でいい。
だいたい学校に通っている子供で冒険者ギルドのクエストを受けている子は、翌朝に報告というのが当たり前になっている。
そうしないと、昼から仕事を受けることが多い関係上、終わりが夜になってしまうことがあるからだ。
ダンジョンの探索ならともかく、ウィードの仕事のお手伝いが多いので、子供を夜間に出歩かせるのは危険じゃないかという話らしい。
ギルドのほうも、普通の冒険者たちが戻って清算や酒場で飲みだす時間帯なので、そういう意味でも、子供のクエスト報告は朝というのがウィードでは当たり前になっている。
外部からの出入りが多いので、子供の冒険者アルバイトにちょっかいを出す冒険者も多いのだ。
私もこうやって、単独で仕事をすることが多くなってから、2、3度、馬鹿にからかわれたりした。
まあ、すぐに、ギルドのミリーが出張ってきて、ボコボコにしてたけど……。
あれで、実は妊娠してたなんて信じられない。
と、あれこれ考えているうちに喫茶店に到着した。
チリンチリン。
そんな鈴の音が扉を開けると響いて、私が来店したことを告げる。
「いらっしゃいませ」
すぐにマスターから声がかかる。
渋いおじさまで、執事服を簡易にしたような服がよく似合っているし、喫茶店の内装もしっかり凝っている。
ユキの指示らしいけど、こういう風なセンスもあるとか、異世界はいろいろとすごいと実感させられる。
「お客様はおひとりでしょうか?」
「あ、いえ。先に知り合いが……」
「おーい。ドレッサ、こっちこっち」
私が答えようとすると、ユキがこちらに向かって手を振っていた。
「なるほど。アスリン様やフィーリア様、ラビリス様たちとよくご一緒だとは思っていましたが、ユキ様ともお知り合いでしたか」
「あー、言ってなかったな。この子はドレッサ。まあ、扱いは普通でいいよ」
「いつもの通りですね。では、お飲み物はどうされますか?」
「えーと、カフェオレのアイスで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
マスターはカフェオレを作るために、カウンターのほうに戻り、私は席につく。
「ふっー。涼しいわね。極楽極楽」
冷房、クーラーはすごいわね。
かがくぎじゅつっていうのはいまだによくわからないけど、こういうことがだれでも簡単に扱えるっていうのはすごいっていうのだけはわかるわ。
「お仕事ごくろうさん。で、なんだ。相談って?」
おっと、いけない。
あまりの心地よさに、私がユキたちをこの喫茶店に呼び出したの忘れてた。
「えーっと、なんというか、私はいろ……」
「お待たせしました。アイスカフェオレです」
私が話を始める前に、注文のカフェオレができたようだ。
「あ、ありがとうございます」
「では、ごゆっくり」
マスターがカウンターに戻るのを見たあと、カフェオレを少し飲んで、話を再開する。
「私は今、いろいろ仕事をして回っているのよ。それで、なんか私がしたことない仕事とかないかなーって思ったの。ユキなら、ギルドで出ていない仕事とかあるんじゃないかなーって」
「仕事を? なんでまた?」
「うーん。上手く言えないんだけど、ほら、私って今は完全にフリーなのよ。立場的にも、精神的にも。もう奴隷でも、お姫様でもないし、ノーブルに復讐しようなんて気持ちもなくなった」
「そうか」
「あ、でも暗い話ってわけじゃなくて、何をしたらいいのかわからないのよ。ヴィリアにさ、そこを指摘されたわけ。なにか心ここにあらずって感じで、ぼけーっとしてることが多かったのよね。で、ヴィリアみたいに、ユキのために頑張る。みたいな確固たる目標もないし、とりあえず、いろいろやって経験積んでみようかなーって思っているのよ」
とりあえず、今までのしがらみから解放されたんだから、色々やってみたかったという、王女時代の欲求を満たしているって感じかな。
私からすれば新鮮で楽しい。
まあ、もちろん大変なことも多いけど。
奴隷の時よりはマシと思えるから、奴隷の経験も侮れないわよね。
「なるほど。ま、経験を積むことは悪くないよな」
「でしょう。何かない?」
「何かねー。俺は一応軍属だから軍隊の体験入隊とかならすぐに紹介できるぞ」
「いや、私の住んでるところ、軍の敷地内じゃない」
「あ、そういえばそうか」
「というか、アスリンを通せばすぐだから別にいいわよ」
「だろうな」
「あと、あのやる気のないゴブリンたちで、よくエクスをあっさり制圧できたわね」
「やればできるやつらなんだよ」
「できるから、本当に恐ろしいわよね」
「軍関係がダメとなると、嫁さんたちに話を聞かないといけないな。今すぐ答えることはできない」
「ま、そうよね。わかったら連絡頂戴」
「わかった」
それで話は一旦やめて、お互い飲み物を飲む。
ずーっと話してたら、私のアイスカフェオレがぬるくなっちゃうからね。
まあ、私の話はだいたい終わっちゃったんだけど。
「ドレッサもいろいろ考えてるんだね。私もなにかやった方がいいのかな?」
「リーアはユキの護衛があるじゃないですか。あと奥さんでもあります。私もですが」
「……ん。ジェシカの言う通り。でも、ウィードではいろいろなことができるから、私もちょっと興味があるものがあったりする」
「そうですわね。私も、ウィードの美味しいものを探すとかやりますわ」
「仕事に影響がないなら、特に自由にしていいぞ。ジェシカも散歩とかしてるだろう。それも趣味の一つみたいなもんだよ」
そうか、仕事ばかりじゃなくても、何か遊びとか、ちょっと興味があることに力を入れてみてもいいのか。
うむむ。結構難しいなー。
「ああ、なるほど。そういうことですか」
「ジェシカってかたーい」
「リーアはお気楽すぎるんですよ」
「ラッツがおもちゃ屋作るって言ってるし、その手伝いとかしてみたらどうだ?」
「あ、いいですね」
「そうですね。そういうのもいいかもしれません」
「……新しいおもちゃを作ってみる」
「魔術が撃てるとかはなしですわよ。危険ですわ」
「……残念」
「そこらへんは店長予定のラッツと相談してみることだな」
……お店とかはちょっと面白いかもしれないけど、さすがにそんな資金はないし、ラッツとかと違って、きっと長続きしないと思う。
何が売れるとか、経営とかさっぱりだもん。
あ、でも勉強すればいいのか。
なら、ラッツのところで教えてもらうのもいいかもしれない。
「しかし、色々やってみるとはいえ、清掃の仕事までよく受けたな。ああいう炎天下での仕事も多いから、結構人が集まらないんだぞ」
「あれぐらい何ともないわよ。海育ちなんだから」
「あー、なるほどな」
「って、そういえば、なんでユキたちはあんな暑い中、公園にきてたの? お弁当を食べようってわけでもなかったし、散歩? あれだけ暑いのに?」
「あー……」
なぜか、ユキは返答に困った様子。
なにかあったのかな?
「ま、話しても構わないか。特に目立った問題があるわけでもないし」
「問題?」
「えーっと、簡単にいうとだな……」
そして、ユキはなぜ公園にいたのかを説明し始めた。
最近、他国からの干渉?と言っていいのかわからないぐらいの行動があるらしいとのこと。
それぐらい微妙だから、国として抗議するわけにもいかないとのことで、こうやってユキたちが出張って探っているということらしい。
「……なるほどねー。そういえば、公園で変なこと言ってる奴なら見たことあるかも」
「見たのか?」
「ええ。まあ、本当に何を言ってるんだってレベルだったから。私も含めて、全員聞き流していたわよ。でも、確かにそういうのは上としてはほっとけないわよね」
今や、私としては関係……ないの?
そんな心の引っ掛かりを覚えた。
私だってこのウィードに住んでいるのに、関係ないとか思ったの?
「ま、時間が思ったよりも余ってるから、これから俺たちは警察署のほうに寄って、情報収集ってところだな」
「まって」
「ん?」
「私もついていくわ」
……きっと何かが見つかる。そんな気がしたの。
都合よく物事は進まない。
だけど、地道に一歩一歩進むことはできる。
ドレッサもそんな感じで、行動し始めて、これからどう絡んでくるのか。
あと、気が付けば7月もおわりやねー。
夏休みが一週間ぐらいすぎて、そろそろエンジン全開になるかね?
けがはするなよ。




