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第405堀:情報を集めよう

情報を集めよう





Side: ユキ





「おう、ユキじゃないか。ミリーはどうだ?」

「家でおとなしくさせているよ」

「そうか。いやー、すまない。まさか、妊娠しているなんて思わなくてな。また二日酔いかと思ってた」

「そういう風に見えるように振る舞っていたから仕方ない。と、土産の酒。ワインだな」

「お、すまんな。確か、他国へ顔出しに行ってたんだったか?」

「そうそう。代わってほしいぐらいだね」

「無茶いうなよ。俺はただのギルドマスターだぜ? そっちはウィードの代表であり、女王陛下の夫だぞ?」

「それが面倒でたまらない」

「……相変わらず、そこらへんは変わってるな。ま、前よりはましか。そこのリーア嬢ちゃんや、ジェシカ嬢ちゃんだけが護衛のときとか、行方くらまして、毎回ギルドに捜索願いが出てたからな」

「悪気はなかった」

「悪気があろうが、なかろうが、ウィードのお偉いさんが護衛もなくぶらぶらしてるのがおかしいんだよ。最初のころなんか、アスリンたちを連れてギルドにやってきて、冒険者に絡まれてたからな」


ああ、そんなことあったわ。

懐かしいわー。


「……ロック。そこの話を詳しく」

「ええ、ロックさん。是非とも詳しくお願いいたしますわ。我が夫と妹たちに危害を加えようとした輩の姿を」

「落ち着けお二人さん。その冒険者連中はすでにミリーからボコボコにされてるから、罰は受けている。それで処罰は終わっているから勘弁してやってくれ。二人ともユキの護衛をしているからには、リーア嬢ちゃんやジェシカ嬢ちゃんぐらいの実力はあるんだろう?」

「そうですねー。クリーナもサマンサも私やジェシカと違って、前衛じゃなくて後衛タイプですけど」

「はい。ロック殿の言う通り、こちらの二人は、私たちと同じぐらいの実力があります。リーアの言う通り、戦士というよりは、魔術師タイプですが」

「よし、絶対教えてやらないからな。その冒険者たちが木っ端みじんになるのが目に浮かぶ」

「……そんなことはしない。ただ、お仕置きするだけ」

「ですわね。ちょーっとしたお仕置きですわ」

「もう終わった話だから。……まあ、この二人が新しい護衛なら安心はできるな。で、今日はこの二人の顔見せか? ああ、登録のほうか?」


そうそう、このウィード冒険者ギルドに来たのは用事があってのことだ。


「いや、登録のほうはいいわ。二人とも冒険者をやってるほど、まだ余裕はないからな」

「なら、顔見せか。クリーナ嬢ちゃんとサマンサ嬢ちゃんだったな。このユキの護衛はいろいろ大変だとおもうが頼むぞ。なにかあれば相談に来ればいい。大抵はギルドにいるし、受付には言っておく。まあ、身分証を見せれば通してもらえると思うけどな」

「……ん。ありがとう。時間があけば冒険者登録にくる」

「ユキ様が頼りにされているのですから、私も信頼していますわ。よろしくお願いいたしますわ」


そういって和やかに挨拶をする、ロックとクリーナとサマンサ。

実は二人とも、新大陸で俺の護衛に入ってもらったのだが、ウィードでの知名度はほとんどない。

それも仕方のないことなんだけどな。

新大陸が忙しすぎた。

これに尽きる。

俺がちょっとした用事でウィードをぶらぶらした時、ついてくるとか、個人の休みでウィードの散策をするぐらいだ。

こうした、ウィードの要人と話す機会はなかったので、ようやく新大陸のことが落ち着いた今、情報収集を兼ねて、こうやって挨拶回りをしているのだ。


そう、あくまでも情報収集が本来の目的だ。


「で、二人との挨拶が終わったところで、まじめな話だ」

「ユキが居酒屋じゃなくて、こっちに来たからな、これだけとは思ってなかったさ。で、どういう話だ? 長くなるか? お茶はいるか?」


流石はロック。

ウィードの男連中のなかでは、タイキ君よりも付き合いが長いだけあって、俺の性格もよくわかっている。

お互い、中間管理職だからな。

よく話が合うんだよ。


「あ、私、手伝いますよ」

「いやいや、場所とか全然知らないだろう。そこまで気合の入ったお茶じゃないから、気にするな。あ、高いものじゃないから美味くはないぞ。そこだけは勘弁してくれ」


リーアの手伝いを断って、人数分のティーパックとコップをこちらに持ってきて置く。

そして、横のコンセントにケトルをつないでお湯が沸くのを待つだけ。

お手軽である。


「あ、暑いし、冷えたお茶もあるけどどうする?」

「いや、用意してもらったし、俺は熱いお茶でいいわ」

「私もいいですよ」

「私も構いません」

「……私は冷たいほうが」

「私も熱くて結構ですわ」

「わかった、クリーナの嬢ちゃんだけが冷たいやつな」

「……ん。ありがとう」


……用意してもらったものを突っぱねて新しいやつを要求するってのは俺にはできないよなー。

まあ、向こうが言ってくれたら、気にしていたということなんだろうが、そういう意味ではクリーナすげーと思う。

というか、魔術学府では無言で本を読む毎日で、エオイドとかに意味不明な行動をとっていた時よりはるかにましになったといえるだろう。

俺には脱ぎたてパンツ渡してきたからな。

あれはマジで焦った。なんでそうなった。と叫びたかったからな。

そんな非常識な彼女がウィードでは、普通に話しているのはすごい進歩ではないかと思う。

まあ、彼女にとって目新しい、未知の世界だったというのが一番大きい原因だとは思うが、知らないことは、調べるしかない。

答えてくれる相手がいるのであれば、話すしかない。

それで、本来、魔術といった、未知の世界を覗く、学者という立場の彼女は自然とウィードでは周りとコミュニケーションをとるようになったということだ。

ウィードは彼女が知る世界とはかけ離れているからな。

といっても、世界なんてのは、見方の問題であって、少し視点を変えるとおもしろかったり、違う世界が広がったりする。

それを認識できるかできないかだ。


俺がそんなことを考えている間に、お湯は沸いて、お茶菓子も用意されていた。


「さて、ユキが聞きたい話ってのはなんだ?」

「回りくどい話をしても仕方ないから直球でいうぞ」

「ああ、俺としてもそっちのほうが話しやすい」

「……ウィードのことを好ましく思っていない国がどれだけあるかわかるか?」


俺がそう聞くと、お茶を飲みかけていた手が止まり、すぐにお茶をテーブルに戻す。


「……なんだ。そっちにも話が来てるのか」

「来てるって言っても噂程度だよ。問題としては、いまウィードでいろいろやっている連中だな。外で文句だけ言うならともかく、人の庭であれこれ画策されるのはうれしくない」

「……えーと、そろそろ4年だったか」

「そうだな」

「ま、そうなればいろいろちょっかいが出てくるのは当然なんだがな。流石に、ウィードは桁が違ったんだ。ただの新興国ならともかく、ここまでの国になるとは全く思っていなかった連中は多かった。だから、その分、他国の間者がいろいろ入ってきている」

「やっぱり入ってきているか。ま、それはいい。どこの国も間者はいるだろうし、排除するのは実質的に不可能だからな。俺が聞きたいのは、ギルドが知っている、危ないと思う連中だな。ここが無くなったりするのはまずいだろう?」

「そりゃそうだ。グランドマスターからもちゃんと支援をするように言われているから心配するな。だが、結果だけ言うと、まだこっちも確証をつかめてはいない。裏で国家転覆とかを画策して動いているならすぐに報告するさ。だが、そういった面ではウィードは完璧だったんだろうな」

「というと?」

「まず第一に、武装を隠して持ち込むということができない。武装できても冒険者区画限定で、しかも抜くとペナルティがあると来たもんだ。これで武力による蜂起、反乱ができない。第二に、有力者への懐柔、および脅しが通用しない。有力者には指定保護によって身の安全が保証されているし、賄賂やらでの懐柔をしても任期が決まっていて、その間しか意味がないうえに、全体の統括はセラリア女王陛下とラビリス代表、その他の代表が話し合って不備がないか調べることになっている。よって、一人をどうにかしたところで、不正はできないし、美味しいところがない。全員を懐柔なんてリスキーなことはやらないだろう。しても任期が終わればさよならときたもんだ。さらには、その貿易関連や金銭のやり取りを諸外国へ堂々と公表している。これじゃ、懐柔や不正に成功しても、次は諸外国にばれることになる。これが個人商店の収支ならよかったんだろうが、国としての事業の一環だから厄介なことこの上ない。ということで、相手は何もできないってのが真相だろうな。だから、俺たちは何も確証がつかめていない。此方で掴んでいるのもただ実際にそう言う話があると言うものでしかないからな」


ま、だいたい予想通りだな。

ウィードのあり方はこの世界にとってどころか、地球でも異端だ。

ダンジョンの機能で、最初からすべてを用意できるから、ダンジョンの殆どの働き手が公務員という位置づけで間違っていない。

無論、今後、時間がさらに経てば、個人個人で独立して、ウィードでも個人商売での富豪というのが現れるだろうが、それは先の話であって、今現在、ウィードの経済を握っているのは豪商ではなく、ウィードの代表たちなのである。

本来、国というのは、始めは有力者からの融資によって成り立つものであり、必ず利権が存在する。

融資をしてやったんだからとか、そういった感じの融通を利かせてくれというやつである。

まあ、当然だ。

何かをするには元手がかかる。

だが、ウィードは、それに当てはまらない。

いや、元手はかかっているが、DPという独自のもので、ダンジョンマスターにしか意味のないものである。


ということで、本来融資をしたという意味では、この土地を提供して、DPもたらふくくれたロシュールが一番で、リテアやガルツがそういう面では融通を利かせるべきなのだが、すでに融通は最初にゲートを開くとかしているし、いろいろな意味で大国の方々には貸しがあるので問題ない。

なので、あとは関係の深い、融資などをしてもらった個人の商人とかがねらい目になるのだが、そんな人物も存在しない。

まあ、あえて言うのであればリーアを売りに来てくれた奴隷商の人かな?


ロックの話と、こういった理由で、連合に参加していない諸外国はウィードに手を出したくても、取っ掛かりすらないのである。

下手にばれれば、ほかの国からそっぽ向かれて殲滅されるしな。


「でも、そのお話をしている連中はいるわけだ」

「そりゃ、もうそれしかないからな」


そう。

もうそれしかないのだ。

国としても圧力をかけられない、有力者には手を出せない。

ならば残るは国民に仕掛けるしかない。


「えーと、どういうことですか?」

「……私もよくわからない。ユキやロックの話ならもう心配することはない」


リーアとクリーナは俺たちがまだ話していることが不思議らしい。

まあ、問題ないように聞こえるからな。

でも、それがわかっている、ジェシカとサマンサは真剣な顔つきになっている。


「……国民にあらぬことを吹聴しているのですね」

「……何としても、そんな不逞な輩は叩き出さなくては。内乱を誘発するつもりですわね」

「ええ!?」

「……なんでそんな話になる?」

「つまり、簡単に言うと、国がダメ、お偉い人もダメ、なら、国民の不安を煽って内乱が起これば、それで手出しできて飯が美味いって話だ」

「いうほど簡単じゃないがな。やりすぎれば、すぐに俺たちや、トーリ嬢ちゃんたちの警察に話が行くし、実際こうやって、ユキや俺が話し合うことになっている。だが、やるだけならタダだ。ウィードの国民が勝手にやったことで、煽った本人は知らぬ存ぜぬで通せばいいからな。まあ、面倒極まりないし、治安が良くて教育も行き届き始めているウィードでは、時間も金もかかるから、余程恨みを買っていない限り、普通のお付き合いをしたほうが得なんだがな」

「で、その資料のほうは?」

「ああ、まだ確証がないから、詳しくまとめていない。だが、ユキが動いたなら本格的に潰すつもりなんだろう?」

「おう」

「なら、明日までに終わらせておくさ。庁舎のほうか警察署に持っていけばいいか?」

「警察署のほうでたのむわ」


そういうと俺は席を立つ。


「さーて、聞きたいことは聞けたし、俺たちは地道な聞き込みでもしてこようか」


捜査の基本は足で稼ぐ。

うん。格言だと思うわ。




地道な調査が今始まる。

事件は会議室で起こっているんじゃないんだ。現場で起こっているんだ。

みたいに熱血漢ではないのはご存知だと思います。


さてさて、どう動くのやら。



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