第380堀:王と魔術師と鼠
王と魔術師と鼠
Side:ノーブル
青い空に舞う一匹のワイバーン。
それは背に乗せた主の指示により声を上げる。
ギャース!!
練兵場全体に、いや城全体に声が届いた。
それを見ている臣下たちもその姿に驚きの声をあげている。
「すさまじいものですな」
「そうですな。竜騎士侮りがたし」
「学生なのが幸いしましたな」
「確かに。あれほどの才能を危険と判断して処分するには惜しすぎる。今のうちに友誼を結んでおくべきでしょう」
確かに、我の予定通り竜騎士への暗殺などは避けられたが……。
思いのほか、あのワイバーンが強い。
臣下たちはそもそもワイバーンと竜の区別もつかぬのだが、あのワイバーンは異常だ。
我もかの大戦でワイバーンは見たことがあったが、あれほどのレベルではなかった。
下手をすれば竜を越える。
あれを相手にするのであれば、こちらも相応の出血を覚悟せねばなるまい。
その点を踏まえて、ポープリ殿をこちらに呼び寄せて正解だったな。
学府一帯の魔物が強力だと聞いてはいたが、ここまでとは。
確か、ヒフィーとアグウストの小競り合いの時も、ワイバーンの群れが現れたと報告があったな。
眉唾かと思ったが、ここまで強力な個体がいるとなるとあながち否定はできない。
ポープリ殿と敵対をしていたら、学府一帯の強力な魔物をけしかけられていた可能性もあったのだ。
いや、まだ味方と決まったわけではないか。
これから何としてもこちらに引き込む必要がある。
幸い、竜騎士殿たちは別行動をするようで、監視という面では不安ではあるが、ポープリ殿の説得に時間をかけられるのは幸いだ。
竜騎士殿たちの方は、適度に城内を案内したあと、城下街のレストランにでも移動させればそこまで心配はないだろう。
「では、ポープリ殿、ララ殿。これから魔道具を見ていただきたいのだが、よろしいか?」
竜騎士の演武も終わり、落ち着いたところでそう切り出す。
「ええ、構いません」
「では、竜騎士殿たちの案内は、騎士アーネ、任せたぞ」
「はっ!!」
竜騎士は学生と聞いていたから、彼女をあてがったが上手く行っているようだ。
街中でドレッサ姫と出くわす可能性もあるだろうが、そもそも奴隷になったドレッサ姫を本物と見れないだろうな。
問題が起これば周りに騎士のフォローするように言ってあるし、どうとでもなる。
……彼女には申し訳ない限りだがな。
だが、これも未来のためだ。
そんな私の心中を知ることもなく、彼女は竜騎士殿たちを連れていく。
「……償いをするのは、すべてが終わってからだ」
無意識に言葉が口からこぼれた。
その言葉はポープリ殿に聞かれたらしく……。
「……お互い、上に立つ者は何かと大変ですね」
この返し、恐らく我がこれからすることを見越しているのだろう。
流石、400年も前から生きている生粋の魔術師。そして、かの神とつながりを持つ者。
腹の探り合いは不要か……。
「……できれば手を取り合えればと思っている」
「そうですね。ですが、譲れぬモノがあります」
「それを、これから確かめたい」
「……わかりました」
とは言え、いきなり本題に入っても、こちらの技術力などを示さないと手を取り合うわけにもいかないだろう。
いや、そもそも、彼女はコメット殿やヒフィー殿、そして私の存在意義を知らぬはずだ。
魔力枯渇という世界を巻き込む問題を知っているのであれば、彼女の名前を出した時点で協力を申し出るはずだ。身内でいがみ合っている時ではないのだ。
だからといって、僕から真実を話しても信じてもらえるか怪しい。
なので、まずは魔道具で気を引き、ヒフィーと合流し、今までの説明をして、協力を仰ぐ。
愚か者でない限り、良い返事を返すはずだ。
逆に良い返事を返さないのであれば、それは私欲にまみれたモノという証明になり、残念だが排除するべき相手という認識になるだろう。
そうなれば、ヒフィーたちも落ち込むだろうし、そういうことがないように引き込むのは僕の手腕という所か。
「ずいぶん、歩くのですね」
「流石に国家機密だからな。城とは別の場所に研究所を置いている。そこら辺は許してほしい」
「学府とは違いますね」
「機密ではある上に、実験には失敗も付き物だからな。学府とは違い、国の政務を執り行っている城と同じ場所で行うわけにはいかん。失敗が常であるがゆえに、民に要らぬ心配をかける原因にもなる」
「確かにそうですね。学府みたいに爆発は付き物ぐらいに思ってもらわないと、住人たちは確かに不安になるでしょう」
「だね。今思えばよく学府と付き合ってくれているものだよ」
「……」
なぜだろう。
普通のことを言ったまでなんだけど、学府とエクスでは何かが違う気がする。
というか、爆発が付き物って一体どれだけ爆発しているんだ?
それでどうやって住人たちが安心してすごせる? なんかいろいろ間違ってね?
……あ、落ち着け、何か思考も素に戻っている気がする。
「……コホン。そちらの在り方にも興味はあるが、今はまず、こちらが先だ」
私達はようやく王都の外れにある工房に到着する。
「ここでエクスでの魔術研究がおこなわれている。巷では工房、工場と呼ばれているな」
「工房? 工場?」
「そうだ。研究だけではなく、発明された製品を量産するための場所だ」
「へえ。それはまた、興味深いね」
「そちらでは、良い発明品ができた際に、どう扱うかは知らないが、我はそれが民にとって良きものであるなら、すぐに生産体制を整えられるようにしている。民の豊かさこそが、国の豊かさにつながるからな」
そう、民を富ませることが国を富ませるということを理解している者は少ない。
これは各国も同じだ。
自らの立場が危ぶまれることを嫌い、民に財を持たせることを嫌う。
それでは駄目なのだ、足りない。
私達が取るべきは、全体の底上げであり、一部の人が贅を味わうことではないのだ。
無論、底上げとは財のことだけではない、生活水準であり、一個人の力であり、色々だ。
「……ノーブル殿はずいぶんと新しいお考えをお持ちのようで」
「それを言うのであれば、才があればよいといって学府の門を開いているそちらの方が先駆者というべきだろう」
「いえ、私はあくまでも学問としてですので」
「お互い謙遜しては話が進まぬな。まずは、物を見てから積もる話をしよう」
「そうですね」
……やはり、ポープリは我が同志となり得る。
しかし、それは我が同志として相応しい能力を持っていると示さなければならない。
足手まといを囲む理由もなければ、私の言葉を信じることもできないだろう。
だからそれを見せるのだ。
信頼し、協力し、未来を目指す同志にふさわしいと。
「準備はできているか?」
「はっ。昼頃にこちらに運び込まれています」
「よし」
ただ単に確認を取ったまでだった。
特に問題がある受け答えとも思っていなかったが……。
「おや? その様子だと、この工房とやらは他にもあるのですかね?」
「どうしてそのようなことをお聞きに?」
「いえ、まだ工房に入る前で、こちらに運び込まれたといわれたので、てっきり別の場所から運び込まれたかと思っただけですよ。でも、思えば、私達に見せるために内部移動しただけの話だったんですね」
「ああ、その通りだ」
とっさに返事はできたが、これは恐らくばれたな。
ポープリ殿の言う通り内部移動で納得できるはずの話だが、私が動揺してしまった。
僅かな、そう、本当に僅かな動揺、戸惑いではあったが、ばれていないと思うのは愚かだな。
こちらからすぐ話す理由もないが、追及されたときは素直に認めるのが今後の為にはいいだろう。
「では、案内を頼む」
「はっ。こちらです」
多少問題はあれど、今はそんなことよりも、予定通りに動くのが大事だ。
案内のもと、工房内を見て回るように移動する。
ポープリ殿、ララ殿も我の意図は分かっているようで、しっかりと工房内の風景を見て回っている。
つかみは上々だな。
このような施設はそうそうある物ではない。
普通、武具なども含めて、城内あるいは城下の専属の者に作らせることが当たり前で、国で工房や工場を作るということがないのだ。
私も最初はどうなるかと思っていたが、生産量が上がると同時に品質も安定し、民への仕事の斡旋にもなり思った以上の成果がでて驚いたものだ。
「こちらの部屋に検品していただく魔道具を置いてあります」
「ご苦労。どうぞ、ポープリ殿、ララ殿」
我はその部屋の扉を自らが開け、中へと案内する。
「失礼するよ」
「失礼いたします」
王が自らそうすることで、この場所はそこまでの価値があると見せたのだ。
部屋の中には予定通り、先に選別しておいた魔道具が3つ。
特に戦いを大いに変えるようなものではなく、民に喜ばれる物だ。
1つは水を出す魔道具。水というのは人が生きていく上で必須であり、欠かせない物。
それを、魔術が使えない者でも少しの魔力を与えることによって、水を供給できるようにしたものだ。
残り2つも同じような物で、戦いのための物ではなく、生活の役に立つ物だ。
なぜこのような物を用意したのかというと、これに対する学長たちの評価、反応が見たかった。
既に我としてはこの2人をある程度認めてはいるが、この魔道具の民でも使えるという利点を把握できるかで評価もまた上下する。
彼女たちも我を評価しているように、我も彼女たちを評価している。ただそれだけだ。
「説明を頼む」
「はっ。説明をさせていただきます、ではこちらの魔道具から……」
我は説明を部下に任せその様子を眺めるつもりでいたのだが……。
「失礼します」
いきなりドアが開かれ近衛の騎士が入ってくる。
「何事だ。来客中だぞ」
「申し訳ございません。少々お耳に入れたいことが……」
そう言って耳打ちされた話は非常に面倒なことだった。
「……なに? 執務室から物音だと?」
「はい」
「鍵はかけておいたが……。侵入者か? もしや……」
言葉は続けず、説明を聞いているポープリ殿たちに目を向ける。
連れの竜騎士殿たちの誰かが動いたか?
「それはありません。全員、昼食で外に出た後のことですので。それと、さほど緊急性があるわけではないのですが、一応伝えて来いと宰相様からの命令でして」
「なぜ緊急性がないのだ? 執務室の鍵が破られているのだろう? 宰相は何を考えている」
「いえ、鍵は破られていませんでした。執務室前を守る兵士は室内の物音に気が付き、曲者かと思い扉を開けようとしても開かず、鍵を持っている宰相を呼んで開けたのですが、中にいたのはネズミでした」
「は? ネズミ?」
「はい。ですが、思った以上に中が荒らされていて、棚に整理されておかれていた物は無事だったらしいのですが、主に机の上にあった書類の被害が甚大とかで……」
その説明に思わず顔を手を覆った。
やっちまった……。
片付けぐらいしとけばよかった。
「それで、ネズミにかじられている物や、インクまみれになっている物もあるので、記憶のあるうちに復元をしてもらいたいと……。無論、陛下が今行っていることが大事だとは承知の上ですので、よければとのことです」
「……わかった。戻る」
私は事の重大さを認め、いったん戻ることにする。
「何かあったのですか?」
「ああ、我の不徳とすることだ。執務室で文字通りネズミが暴れた……」
我が覇気のない顔でそういうと、2人は顔を見合わせて苦笑いをする。
「書類は無事ですか?」
「……その確認のために離席したい。自ら案内をしておいて非常に申し訳ない」
「いえ、そのお気持ちはよくわかります。お国の為でもありますし、どうぞお戻りください」
「すまん。お前たち、くれぐれもポープリ殿たちに失礼のないように」
「「「はっ!!」」」
「では急ぎ、城に戻るぞ!! あと、ネズミの通路とネズミの駆除に力を入れろ!!」
「「「はっ!!」」」
あ、頭が痛い。
side:ポープリ
私はあわてて戻るノーブルに同情を禁じえなかった。
周りの残った人たちもいったん隣の部屋に引っ込んで、誰がノーブルの代わりに私達の説明を行うのか話し合っている。
ということで、この計画の発起人に連絡をしてみる。
「やあ、極悪人」
『いきなりひどい言いぐさだ』
その発起人は心外だといわんばかりに声を出す。
「書類をネズミにぶっ壊させるなんて、よくも考え付いたもんだね。私は恐ろしくて泣きそうだよ」
書類作業を本当に最初からやり直しになるという悪夢。
こんなことをよく平然とやれるものだ。
『やったのはネズミさんだし。俺は関係ない。だが、これで向こうはいろいろと余裕がなくなるだろうな』
「それは当然だろうね」
仕事場を文字通りぐちゃぐちゃにされて平然としている人がいるなら教えて欲しいよ。
いや、神様であっても取り乱していたから、本当に性質が悪い。
私達のリーダーは……。
ういっす。
皆も経験はあるんじゃないかな?
突然のブラクラとかで、今まで仕事情報がぶっ飛ぶとか。
まあ、今回のノーブルさんの悲劇はそんなもの。
もっとわかりやすく言ってやろうか?
この小説を読んでいる人はきっと多いだろう
「妖怪ねこ吊るし」
ボス戦前でいきなり。そもそもログインできねー。悪夢再来。
イベント初日ではよくあることです。
というか佐世保鎮守府な俺は着任当時はよくあったことです。
憎し、妖怪猫吊るし!!
あ、初期艦は「叢雲」だった。
ま、そこはいいでしょう。
前回、俺の体調は真っ逆さま。
執筆終わり、投稿したあと即座に発熱、39°まで上昇、こりゃあかんと思って薬を飲んでねる。
寝たはいいが0時ぐらいに覚醒、節々の痛みが悪化、痛くて寝れなくなる。
で翌日22日の午後ぐらいまで後を引く。
本日23日、完全回復。普通に仕事いって、昼休みに執筆を行い、戻って執筆して間に合わせる。
こんな感じ、心配した方ごめんよ。そしてありがとう。
趣味というか日課だしね、投稿しないと落ち着かないって感じ。
まあ、投稿できたから大したことはなかったと思えばOK。
さて、今後の執筆予定ですが、25日は恐らく物語の続き。
しかし、27日はどう考えても落とし穴になる。
なぜならば「30年目のドラクエ」「もう一度、勇者になろう」だからだ。
さあ、日本における「勇者」というあり方を知らしめたゲームをやろうではないか!!!
勇者の名前は「ああああ」だったか?
「もょもと」の発音はできたか!?
遊び人は仲間にいれたか? 生贄の商人は用意できたか?
お転婆姫とか、ソロ活動甚だしい商人は覚えているか!?
幼馴染かお嬢様か!?(DS版ではどっちも幼馴染ともいえるが)
イケメン剣士ほかの仲間ほっといてスピンオフ多すぎ!!
種返せよ!!
ハッスルダンスの意味がわかりました。
まさゆきの地図にはお世話になりました。
とりあえず、ネトゲは俺は辛かったので手だしてません。
さて、上のコメントの答えがわかる人は生粋のドラクエファンだというのがわかるだろう。
ではまた次回。




