第374堀:覇王との出会い
覇王との出会い
side:タイキ
さーて、世の中なんでこうフラグばっかりなんだろうな。
いや、違うか。必然だっけ?
勝手に運命とかを感じて、そう位置付けをするだけなのであって。
幸運や不幸なんてのはどこでも起こっている。
ただそれだけな話。
結局なところ、それを運命と感じるのも当人たちが積極的に動くからであって、気にしなければただ過ぎ去るだけだ。
今回のアーネの件もそうだ。
基本的に、アーネという人物は今回のノーブルという人物に対して優先度が高いわけではない。
ただ、足掛かりなだけだ。
それで言うのであれば、ノーブルがまず、運命と言うべきだ。
というか、そもそも、ユキさんにとっては……。
『さよか』
この一言で済むような次元である。
良くも悪くも、ある種業務の一環という感じである。
「相変わらずですね」
『変えようがないからな。探し人が見つかったなんて報告はウィードでも山ほどあるし、日本では比較にならんほどある話の一つだ。そんなことでいちいち、一喜一憂する暇はねえ。そもそも当人であるか確認をとるわけにもいかん』
「なんでです?」
『安全な日本とは違うからな。ただ探し人は見つかりましたよーって話じゃない。ドレッサに下手に伝えたら会わせろと言って、騒ぎを起こす可能性もあるし、かといって会わせるわけにもいかない。だって、敵方の騎士なんだろ?』
「ですよねー。日本みたいにいきませんよねー」
『いや、日本の人探しもあまり変わらんぞ。公的機関は特にな』
「え? そうなんですか?」
『昨今、情報社会なのは知っているな?』
「はい」
『その過程で、事情があって自宅を知られたくないってのが、少なからずあるんだよ。探している相手が血縁でもな。借金とか、暴力とかな』
「ああー」
なんかそんな話きいたことがある。
『ということで、日本でも探し人を見つけたからといって、すぐに当人に伝えるなんてのはない。個人情報保護法に違反するし、裁判沙汰になるからな。で、こんなことを引き起こした公的機関は叩かれるわけだ。迂闊に話せる内容じゃないだろ?』
「……そう、ですねー」
なんというか、日本も日本ですさんでるなーって感じがして悲しいな。
いや、俺がただそんな世界を知らなかった。……ってわけでもなく、実感がなかっただけか。
そんな俺の微妙な声音を聞いたユキさんはちょっと気まずそうに返事をしてくれる。
『あー、高校の時にこっちに来たなら、ちょっと嫌な話だったか。すまんな』
「いえ、ただ世の中をまだ舐めてただけですよ」
そう、分かったつもりでいただけ。
日本は一般人が平和すぎるだけで、日本の中でも大小問題は沢山起きている。
こっちの世界より、日本の方が楽だと勘違いしていた。
いや、こっちの世界より、マシだったんだと思いたかったのだろう。
この世界より遥かに上を行く、権謀知略が当たり前のように行われている。
あの地球の方が、遥かに厳しい世界なのだ。
スキルなどもない、自分の能力など明文化、数値化されず、ただ手探りで生きていく世界が楽なわけがない。
だからこそ、ユキさんは、地球の一員として、分かりやすく明文化や数値化されているこっちの世界で、いかんなく、その地球でやってきた力を発揮して物事に立ち向かっているだけだ。
「あー、そういうことだったんですね」
『いきなりなんだ?』
「いや、ユキさんはいつまでたっても、地球のやり方じゃないですか。もう色々なところで」
『まてまて、俺だって現場に合わせて色々やっているぞ』
「あー、そう言うのじゃなくて。なんていうか、ほら、こっちの世界に染まってないって感じなんですよ」
『そうか? 大分、染まっている感じはするけどな』
「うーん。なんて言ったらいいんですかね。ユキさんからは未だに地球の日本人だーって感じがするんですよ」
そう。
ユキさんはもうこっちに来て数年。
でも、未だに、地球らしさ、日本らしさは完全に残っている。
食事とか、家とか、新作のゲームとか、DPから仕入れができるのも大きな原因だけど、生活スタイルは日本にいた時とあんまり変わっていない感じだ。
『ま、そりゃそうだろう。ここに住むことになったからと言って、物資が足りないとか技術が足りないわけでもない。わざわざ生活基準やスタイルを変える必要もないだろう』
「普通はそんなことできないですけどね」
『できるからやる。それだけだよ』
多分、ユキさんの凄い所はこういうところなんだと思う。
妥協などしないし、あきらめない。
自分の生活の為に全てをなぎ倒す。
特に子供や奥さん、ゲームの邪魔とかすると、完膚なきまでに叩きのめされる。
ユキさんにとって、子供、奥さん>ゲーム≧知り合い>>>>>>>>異世界アロウリトという図式になっている。
実際、ヒフィーさんとかいう神様はフルボッコにしたから、遠慮などない。
『で、俺の日本スタイルはいいとして、結局今はどうなってるんだ?』
「あ、はい。普通に王都にたどり着いて、王城まで案内されて、宛がわれた部屋ってところです」
『エオイドと一緒か?』
「はい。女性陣も固まってですね。ポープリさんとララさんも別室です」
『ま、そりゃメインの招待者だから。そういえば、その部屋の距離は?』
「ちゃんと配慮してもらって、すぐ隣ですよ。デリーユさんやエリスさんの部屋も一緒です」
『そっか。そういえば、ノーブルとは……』
「いえ。まだ面会していません。てっきり出迎えると思っていましたけど、ちょっと所用で外しているらしいです。思ったより早く来たので、間に合わなかったと聞いています」
『ふーん。ま、ポープリはコメットより先に到着するために飛ばしたからな。今まで諸外国に知らせていた速度から、実際は数倍ちがうから仕方ないか?』
「多分。疑いだしたら切りがないですからね」
『だな。ところで、もう敵陣のど真ん中って感じだけど。監視とかはどうだ?』
「今のところは特には感じませんね。監視も鑑定を受けたような感じもありません」
自分の能力が抑えられている感じもしないし、本当にただの城という感じがする。
「ダンジョン化をしているかどうかは……、はっきりとはわかりません」
『地下だけの可能性もあるか、本拠地は別ってところか』
「とりあえず、こっちはポープリさんたちがノーブル、俺たちはアーネ関連で探って行こうと思っています」
『そうだな。それがいいか。あ、そういえば、今、エリスやデリーユからの連絡がないのは、アマンダと一緒だからか?』
「はい。エオイドも向こうに行って、あれです、王様へ謁見する練習ですよ」
『ああ、アグウストでは、カチンコチンだったからな。次は多少マシかと思ったらそうでもないのか』
「アレがこっちでは普通なんでしょう。俺たちからすれば天皇陛下と顔を合わせるようなもんだし」
『別に普通でいいじゃん。向こうからのお呼びだし、俺きっと天皇陛下と顔合わせでも普通に喋ると思うわ』
「それはそれでおかしいと思いますけどね」
『だって興味ねえもん。別に侮辱するわけでもないけどさ、逆に緊張しまくって話にならん方が問題だろう? 勘違いしてないと思うが、普通というのは常識にのっとっての普通だからな。礼儀なんて言われても、いきなり天皇陛下と面会するときの正式な礼儀なんてしらないし』
「そりゃわかってますよ。でも、それで普通に話せる人なんていませんよ。ガチガチになります」
「人はな、慣れる生き物なんだ」
「……苦労したんですね」
……うん。
やっぱり、ユキさんっていままでもの凄く苦労して来たんだ。
大人って大変なんだなー。
コンコン。
ドアがノックされる音が響く。
「すみません。誰か来たみたいです」
『おう。お仕事頑張ってなー』
直ぐに通信を切って、来客が誰なのかを尋ねる。
「どちら様でしょうか?」
「私だよ、タイキ殿」
「ポープリさんですか? どうぞ」
そう言ってドアが開くと、皆が勢ぞろいで部屋に入ってくる。
「くつろいでいる所悪いけど、どうやらノーブル王が所用を終えて戻ってきたみたいなんだ」
「なるほど。挨拶ってことですか」
「ああ。一緒に来てもらえるかい?」
「大丈夫ですよ。連絡は終わりましたし」
「そうか、エオイドをこっちに引っ張ってきてよかった。どんな話をしたのかは、後で聞こう」
「はい」
ということで、皆と合流して、ノーブル王の待つ場所へと向かうことになった。
「皆さまこちらへ」
アーネさんは引き続き俺たちの世話役になっているみたいで、そのまま案内も務めている。
が、謁見室と思しき場所は通り過ぎて行く。
「おや、謁見室ではないのかい?」
ポープリさんも同じことを思ったらしく、アーネさんに質問している。
「はい。皆さま方はこちらの懇願で来ていただいておりますので、謁見室では申し訳ないと仰られまして、客室にてお会いするとのことです。特にポープリ様の魔術への貢献を考えれば当然かと」
ふーん。
一応、敬意は払っているって感じだな。
「そうか、それはありがたい話だ。しかし、私やララはいいとして、他の皆もいいのかい?」
「はい。皆さま全員を連れてくるようにと言われております。特に憚る話でもないのでしょう。ですが、退席を求められた際には、ご協力お願いいたします」
「ああ、わかったよ」
俺たちも入室OKですか。
こっちとしてはありがたいのか? それとも一網打尽の可能性があって危険か?
そんなことを考えている内に、客室に着いたのか、アーネさんがこちらを振り返って立っている。
「こちらで少々お待ちください」
そう言うと、くるりと扉に向き直り、ノックをする。
「誰だ?」
「はっ。アーネであります!! 陛下の命令により、ポープリ様御一行をお連れ致しました!!」
アーネさんが答えると、扉が開かれる。
そこから出てきたのは、ひょろっとした男だ。
鎧も着ていないし兵士ではないだろうから、もっと偉い人か?
「うむ。確かに。どうぞこちらへ……」
扉が大きく開かれ、俺たちは部屋へと入って行く。
そこには、世の中は不公平だと思うほど、イケメン氏ねって感じの優男が立っていた。
「やあ、よくぞ参られた。我がエクス王国をまとめるノーブルだ。さ、長旅でつかれているであろう。かけてくれたまえ」
労いの言葉と、笑顔もイラつく。
ああ、憎しみで人が殺せたら。
ま、奥さんがいるから全然気にしてないけどね。
本当だよ? 全然気にしてないから。
ま、そこは置いておいて、促されるように、ポープリさんとララさんが座るのを待ってから、俺たちも、後方に用意された椅子へと座る。
「改めまして、よくぞ失礼な手紙に応えてきてくれたこと。ここに厚く御礼申し上げると共に、不躾な手紙を送ったことをここに謝罪する。魔術学府の学長に対し失礼なことをしてしまった。申し訳なかった」
へぇ、ちゃんと頭を下げるのか。
俺としては、どっかのわがままな王様とか、第六天魔王のイメージがあったが違うみたいだ。
寧ろ、ヒフィーさんよりかな。
「謝罪。確かに受け取りました。以後、普通にご連絡くれれば問題ありません。正直、面白い手紙でしたので、これでこの話は終わりにしましょう」
「そう言ってくれると助かる。しかし、ポープリ殿。幼いとは聞いていたが、ここまでとは」
「私もノーブル陛下がここまでお若いとは思いもしませんでした。確か即位されたのが30年ほど前と伺っていましたから」
「いや、所詮若作り。覇王などと自称してはいるが、既に全盛期は過ぎて老いをひしひしと感じている。正直、ポープリ殿が育ててくれた我が国の魔術師がいなければもっと老いが進行していただろう」
「ほう。それは、老いを停滞させるモノを、我が生徒たちが開発したということでしょうか?」
「停滞というほどのモノではない。遅らせるぐらいだな。しかし、十分に素晴らしい物だ」
……何をしらじらしい。
どっちも不老のくせに。
「なるほど。それほどの物を作ったというのであれば、我が校にも下手に人材を送ることはできなかったというわけですね?」
「そうだ。流石に研究の途中で漏洩されて先を越されるのは辛いからな。ここ二十年ほどは指折りの魔術師はそちらに送らず、自国で育てていたというわけだ」
「そして、発表する気になったと?」
「だからこうやって、魔術の第一人者であるポープリ殿にご足労願ったのだ。おめがねに適えば、他国へも喧伝しようと思っている」
「お墨付きが欲しいわけですね」
「そうだ。しかし、本当のお墨付きが欲しいので実用に耐えかねないと思えば、遠慮なく正直に言ってほしい。不良品を胸を張って発表する気などないのでな」
「わかりました。厳しく行きましょう。ちゃんと理由も書類に書き留めて」
「ありがたい。では、早速と行きたいが、本日はゆっくりしてくれ。そちらも急ぎ足で疲れているだろうし、我も情けないことに、思ったよりもそちらが早く来たのでな、仕事をほったらかしなのだ。今日中には終わるので、明日、正式に、そちらの竜騎士アマンダ殿への挨拶もすませたい」
そう言ってノーブルは、アマンダに向かって頭を下げる。
「このような、失礼な対応になってしまい。まことに申し訳ない。明日、正式に場を設けるので許してほしい」
「い、いえっ!? そ、そんな、お、恐れ多い!! ぜ、全然気にしてませんから!!」
……やっぱ、少しの訓練ぐらいで、どうにかなるわけないよなー。
「ノーブル陛下、うちの若者が困っていますので、それぐらいで」
「……そうみたいだな。しかし、この若さで竜を従えるとは、その才能がうらやましい限りだ。できれば、これからも仲良くしたいものだ」
「は、はい!! よ、よろしくお願いします!!」
とまあ、こんな感じで話は進んでいく。
しかし、全然敵意が見えない。
……どう判断したものか?
ついにファーストコンタクト!!
皆さんはどのようなイメージを持っていたでしょうか?
まあ、お互い胡散臭い応酬。
良い人に見えて、実際は売り込みだったり。
でも、世の中よくあることだよねー。
次回は、ユキのメンバーの再確認の話。
結構いろいろ動いているから、皆わすれてそうとか、まとまらないってあると思うから、そういうまとめ。
こいつらからフルボッコにされるんだろうなーってお楽しみに。