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第361堀:敵の正体

敵の正体





Side:ヒフィー





カリカリ……。


そんな音だけが室内に響く。

もうこれで書類にサインするのは何度目でしょう?

いい加減、手首とか、指先が痛くなってきた気がします。

ユキ殿にそのことをいうと「漫画家か」と言われるのですが、漫画というのがわからないので、今度教えてもらいましょう。

病気としては腱鞘炎などというのにかかるので、注意するようにと言われました。

その前に同じ作業をずっとしていて、精神的にきついのですが……。

まあ、どのみち、自分が蒔いた種なので、仕方のないことなのですけれど。


今現在、ヒフィー神聖国は、トップの私が偽物と成り代わっていたという、大事件が起こり、その過程で、戦争一歩手前にまでなり、それを収束させることで手一杯なのです。

その実、偽物と入れ替わっていたなどと言うことはなく、私が本気で各国に戦争をしかけて滅ぼすつもりだったのですが、ユキ殿やルナ様との話し合いの結果、平和的な方法を模索するということで合意したのです。

ユキ殿とぶつかって負けたというのは、お互いの力量を確かめるのが目的であって、決して本気で負けたわけではないのです。

ええ、次は恐らく、いえ、必ず私が勝つでしょう。

……本当ですよ?


コンコン。


と、誰か来たようです。

ペンを置いて、入室許可を出します。


「失礼します」


そう言って入ってきたのは、タイゾウ殿です。

彼は、私の腹心であり、異世界からの勇者であり、その智謀や技術はコメット同様に他の追従を許さないほどです。

……ユキ殿やタイキ殿に比べて、幾分堅いのが玉に瑕ですが。

と、そこはいいとして、そう言う関係で、軍部を預かっており、今回の事件の収束を頑張っているのです。

コメットの方はユキ殿の研究所に入り浸りで全然もどってきませんから。

全く、毎日毎日、ご飯を向こうで食べてくるのか、こっちで食べるのかぐらい連絡してほしいものです。

ご飯を作って待ってる身になってほしいものです。


「アグウストからの書簡が多数届いております」

「はい。ありがとうございます。そちらに置いてください」


また書類が増えるのですね……。

ですが、それとは別にタイゾウ殿は別の羊皮紙を持ったままでいます。


「タイゾウ殿? そちらは?」

「はい。これもヒフィー殿宛に来ているのですが、どこからか不明で、内容も分からないのです」

「どういうことでしょうか? 封を解けばいいのでは?」


見た感じ、羊皮紙を丸めて、紐で結んであるだけだ。

なぜタイゾウ殿が確認しないのか不思議だ。

彼には書類の確認も許可していますし、何も問題はないはずです。


「ご覧いただければわかると思いますが、強力な魔術での封がしてあり、無理に開こうとすれば、何か問題が起こるような感じがするのです」

「……見せてください」

「危険かもしれませんが?」

「ユキ殿たちに連絡を、万が一の場合は即座に来てもらえるように。タイゾウ殿は退出を願います」

「はい。分かりました」


タイゾウ殿が出て行ったのを確認してから、その羊皮紙に手を伸ばし確認します。


「……この魔力は。まさか」


そんなまさか。と思いながらも紐を解きます。

これは、一定の魔力がないと解けないような術式ですね。

そして、紐が完全に羊皮紙から離れた瞬間、羊皮紙が浮かび上がり、そこから声が聞こえてきます。


『やあ、お久しぶり? 初めましてかな? 同胞ヒフィーに、ダンジョンマスターコメット』

「あなたは!!」

『ああ、先に言っておくけど、これは一方通行だから、質問してもこちらには届かないから、まあ手紙だからわかると思うけどね』

「ぐっ……」


読まれてた。

しかし、この勘の良さは……。


『君たちの動きに期待していたんだけど、途中で萎えちゃったみたいだね。まあ、ヒフィーらしいと言えばらしいか。ま、君たちがやらないなら、僕がやることにしたよ。その関係で、僕に嫌なことを押し付けるんだ。協力しても罰は当たらないと思わないかい? 悪い話でもないだろう? これで、君たちの望んだ平和な世界が訪れるんだ。400年前は僕自身の弱体化やコメットの発明品に押されて何もできなかったけど、今は違う。いまや、僕はエクス王国の覇王、ノーブル・ド・エクス。そして、ダンジョンマスターでもあり、名声、国力、DPも潤沢だ。君たちさえ来てくれれば、願った世界は手に入ったも同然だろう。この手紙を持ってエクスの王城に来てくれ。いい返事を期待しているよ。かつての軍神ノーブルより』


手紙の内容は終わったのか、羊皮紙は力を失い、机に落ちる。


「まだ、消滅しないで、残っていた神がいたのですか……。しかも、よりによってノーブルが」


軍神ノーブル。

私と同じように引き籠りなどしないで、弱体化してもなお、ルナ様や国の為に、最前線に立って、ただの一人の人として、その身を魔王戦役で散らせたはずの神。

聖剣使いの13人に隠れて、名は知れていないが、地方に侵攻した、総勢5万の魔物の軍勢を僅か3千で受けきった名将。


「タイゾウ殿、いますか」

「はい。こちらに」

「羊皮紙の内容が少々私個人では判断しかねる内容でした。今すぐに、ユキ殿たちと協議を行います。神聖国の書類は優先順位の高いものを捌いてから向かいますので、先行してユキ殿たちを集めてもらえますか?」

「わかりました」


タイゾウ殿はそう言って、すぐに行動に移る。

この件を勝手に判断しては駄目だ。

とりあえず、ユキ殿と連絡を取って対処を決めないと……。


「……これは、一筋縄ではいきませんよ。ユキ殿」


そう不安がありつつも、とりあえず、仕事を終わらせないと動くわけにはいかないので、書類処理の続きをします。


「……こんな忙しいときに。もっと時と場合を考えてほしいものです」


なんというか、大事なはずなのに、新しい仕事を増やされて内心イライラしている自分が不思議です。

……私も良くも悪くもユキ殿のやり方や性格に染まってきたのでしょうか?




「ふーん。何か色々な意味で面白くなってきたな」


羊皮紙を見たユキ殿の反応は、そんな気の抜けた返事でした。


「面白くなったではありません。これは一大事です。相手が神とダンジョンマスターの能力を有しているのです。一旦、引いて体制を整えるべきです」


私は、事の重大さを伝えたのですが……。


「いや。引くもなにも、ヒフィーたちに宛てた手紙だし、俺たち名指しでもないからな。モーブたちにもちょっかいは出てないし、俺のチームが引く必要はないな。ヒフィーがエクス王都に偵察とか放っているんなら戻すべきだろうが」

「……どういうことでしょうか?」

「はぁ、タイゾウさん。お願い」

「了解した」


なぜかユキ殿はため息をついて、タイゾウ殿に説明を任せました。

なにか問題があったのでしょうか?


「恐らくですが、ヒフィー殿は相手に知人の神とやらがいるので、慌てて気が付いていないのでしょう。羊皮紙の内容を今一度、吟味しましょう」


そう言ってタイゾウ殿は羊皮紙を私の前に持ってきます。


「羊皮紙の内容は主に、ヒフィー殿とコメット殿をエクス王国王都に招待する手紙です。そこはいいですか?」

「はい」

「つまりです。ユキ君の言う通り、これはヒフィー殿とコメット殿を招きいれるための招待状でもあり、罠ともいえましょう」

「そうです。恐らく、断れば真っ先に神聖国がエクスに押しつぶされかねません。相手は当時弱っていても、すさまじい戦果を挙げた軍神ノーブルなのですから」

「ええ。その話は伺いました。すさまじい軍略の持ち主なのでしょう。人とは違い、魔物は補給路を断とうが、指揮官を倒そうが、早々崩れるものではありませんからな。ですが、これには一切、私たちの名前はありません。これは、相手は私やユキ君たちのことを知らないということを示しているのです」

「なぜ、そうと言い切れるのですか?」

「ヒフィー殿とユキ君の繋がりを知っているのであれば、今回の手紙に、何かしら一言二言入れてくるはずですし、モーブ殿たちを捕らえれば、それだけヒフィー殿たちを引き込むことに有用な材料となります。しかし、モーブ殿たちは未だ健在です。監視も未だについておりません」

「……それは、私たちを始末することが目的では?」

「確かにそれもあり得ます。しかし、その可能性は限りなく低いです。もし、ヒフィー殿たちを暗殺するのが目的であれば、こんな手紙を送らず既に刺客を送ってきているはずです。わざわざ、殺すことを宣言してから暗殺者を送る相手などいないでしょう」

「確かに。つまり、ノーブルは本当に私たちの協力が欲しいと思っているのですね?」

「ええ。私の銃器は装備制限をしていて、外に出していないので気が付いていないようですが、魔剣の水増し、量産をしていたのはエクス王国とこれで確定しました。これは、ヒフィー殿、コメット殿に、技術的協力をしてほしいということですね。軍略家はあくまでも手持ちであるモノで、作戦を考えます。つまり、新しく何かを生み出せるわけではないのです」

「それは、そうです」


新しく何かを生み出せるのであれば、コメットに頼らず、平和な世界を既に築いているでしょう。


「戦い、戦争というのは、技術開発の勝負でもあります。いかに敵よりも高性能で、こちらの被害を少なくし、相手への被害を大きくするか。これが、戦い、戦争では、作戦を考える者が優先するべき最大の事項です。ですが、技術の革新はそう簡単にできるものではなく、一つ一つ、地道な改良が主です。というか、明らかに別の体系で戦いの道具が作られても、それを使う兵士がいませんし、慣熟訓練が終わるまでは旧式の武器の方が使い慣れている分、戦果が上がるでしょう。新しいものというのは、往々にして、前線の兵士には嫌われる傾向にあり、新規開発というのは非常に困難です」


確かに、命を懸けている戦場で、使えるかもわからない新兵器の訓練と言われても、そんな事に兵や時間を割くよりも、攻撃や防衛を厚くした方がいいと思うでしょう。


「このことを、ノーブル殿は熟知しているのでしょう。使用制限を外した魔剣という物を作った、お2人を引き入れることが、他国の技術開発から負けないようにするための策でしょう。コピーはできても、新しく作ることはできないということですね。聖剣の制限解除のことを見ても、つい最近の出来事です。昔にその技術ができているのであれば、既に各国の聖剣は奪われていたでしょうから。そう言うこともこの手紙からは読み取れます」

「なるほど。つまり、ノーブルは私たちの技術を欲している。そして、ユキ殿たちのことは気が付いていない。ということですね?」

「要約すればそうですな」

「でも、それならば尚の事、断れば確実に神聖国を脅かしに来るのでは?」

「それは当然ですな。ノーブル殿にとっては、神聖国の技術力は喉から手が出るほど欲しい。何としても手に入れるようとするでしょう。まあ、力づくというのは、大抵反発者を生むので、一度このような手紙を渡して、理解を得られればと思っているのでしょう」

「しかし、私たちは既に、ユキ殿たちと協力体制をとっているのですし、大陸の事情を正確に把握した今では、ノーブルに加担する理由がありません」


そうです。世界を征服したところで終わりではないと知ったのです。

今更、ノーブルと手を組む理由が全くありません。

しかし、断れば戦争になるでしょう。

いったいどうすれば……。


「いや、無理に断る必要もないだろ。提案受け入れてくれば?」

「なっ!? 正気ですか!!」

「いやいや、本気で寝返れと言ってるわけじゃない。これは内部に入り込む絶好のチャンスだろ? 相手は是が非でも来てほしいんだし、断ればそりゃ危ないだろうけど、協力すれば全面的に受け入れてくれるはずだろ? なあ?」

「ま、まさか……」

「まさか、ヒフィーとコメットが俺たちと協力体制にあるとは思わないだろうなー。どっちも国を支えるトップと柱だし。手紙でも堂々と知らないって言ってきてるしー。ということで、情報収集頼むわ。これで外から内からと、情報も集まりやすいし、精査もしやすい。敵を知り、己を知れば百戦危うからずだよ」


本気で、私たちを情報収集の駒にするつもりみたいです。


「あ、なんとか説得すれば、戦争しないで終わるかもな。そこら辺はヒフィーの腕しだいだろう」

「わかりました。ノーブルの提案を受けるふりをして潜入しましょう」


私は即断で返事をしました。

ここで漸く理解したのです。

断れば戦争は必至。

その時に犠牲になるのは、周りの人々。

それを止めるために、私に向かえということですね!!

私は直ぐに踵を返し、潜入する準備を始めました。





Side:タイゾウ



「ユキ君。最後乗せただろう?」

「そりゃそうですよ。向こうは全うな理由が欲しかったみたいですし、本当に戦争が止められるならこっちも得で、渡りに船というより、情報も得られるから一石二鳥でしょう?」

「一石三鳥だな。ついでに、エクス王都、いや、ノーブルを攪乱するつもりだろう?」

「当然ですよ。これで、モーブたちにヒフィーたち、目くらましとしては、十分役割を果たすだろうし、情報が集まったら一気に制圧ですね」


当然の判断だな。

……ヒフィー殿、決して貴女の思いや考えは間違っていませんが、前提にユキ君たちが保有する戦力を考えるべきでしたね。

既に結果は決まっているのです。

それがより確実で、完璧なものになるかどうかなのです。

慢心するつもりは毛頭ないが、あのノーブル殿は銃器について一切触れていない。最初から敵足り得えるか甚だ疑問だ。

ユキ君、私たちがいなければ、確かにこの時代を先陣で駆け抜けたではあろうが……。


「いやー。敵さんからわざわざ素性を教えてくれて助かったわー」


まったくもって、その通り。

これで我が方に一気に形勢は傾いたと言えよう。

情報こそ最大の武器とはよく言ったものだ。

さて、私はヒフィー殿が残した仕事を代わりにするか。




奴隷選びでなくてごめんよ。

だが、相手の素性が少し割れました。

そして、ヒフィーとコメットが乗り込むことに、これでセキュリティは穴だらけだぜ!!

さて、どのように敵は瓦解していくのでしょうか!!

お楽しみに!!




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