第359堀:集まり始める情報
集まり始める情報
Side:ユキ
待ちに待った、エクス王都の第一報。
『というわけで、臭いから何か消臭剤とかないか?』
そんなことを真っ先に話したのは、モーブだ。
「そのシーンは監視してたから知っているが、その程度なら、ゾンビを細切れで済んだだろうに。なんで爆発させるような倒し方したんだよ」
『いやー、セオリー通りに体が動いたって感じだな』
長年のルールに基づいてか。
ま、そういうことならしゃーないか。
「って、問題はそこじゃねーよ!! アンデッド系が動いていたのが問題だ。なにか動くような道具とかなかったのか?」
『それらしきものは見つけた。これだ。その大半は上空から監視していた鳥に渡しているから、現物がそろそろ届くと思う』
ライヤがいて助かったわ。
ほんとにモーブは深く考えねーな。
「見た目は宝石を付けたペンダントだな」
『ああ。これが魔物の数だけあったから、一匹ずつつけてたとみるのが妥当だろう』
「だな。で、王都自体はどう思った?」
『特に、不審な点は今のところないな。一緒になった商人のトーネコからは、普通にジルバ、アグウストとも交易はまだ続いているみたいだ』
「まあ、警戒はしていても、封鎖するような状態でもないしな。下手に刺激するのも怖いから現状維持ってことだ」
それより、トーネコって名前だよな!?
言い間違いとかじゃないよね? 伸ばすところに「ル」とかつかないよな?
近くに不思議のダンジョンがあったりする?
『なるほどな。まあ、まだ初日だ。まだまだ探りを入れて色々また話が変わる可能性も十分にある』
「それは理解してる。ま、寝首をかかれないように注意しろよ。今はまだ、そこは俺たちの勢力圏外だからな」
ダンジョン掌握ができればいいが、そうじゃない場合はこっちのことがもろばれだからな。
何とかして、秘密裏に相手の首根っこを押さえたい。
『わかってるって。で、ユキ。そっちはホワイトフォレストとか、ローデイの方はいいのか?』
「ああ、既にローデイに戻って報告済み。現在ローデイで待機中。亜人の村の方にはトーリ、リエル、カヤ、エリスを回しているから、特に問題は無いだろうよ」
『血の気の多い奴はまだ動かないか』
「まあ、入れ替わったのが昨日の今日だしな。モーブたちがいなくなって翌日反乱おこすぐらいなら、既にやってると思うぞ」
『確かにな。ま、嬢ちゃんたちなら大丈夫だろう』
「後顧の憂いはないから、気分よく暴れてみない?」
『誰が暴れるか!!』
ちっ、陽動作戦は駄目だなー。
「ま、引き続き調査を頼む」
『あいよ』
「ああ、奴隷の方は明日にでも頼む」
『なんでだ?』
「奴隷はこっちで話を聞くから、そっちは引き続き王都の調査ってことだ。奴隷を後回しにして情報収集を遅らせる理由はないからな。こういうのは手早く動いた方がいい。敵さんが回収したダンジョンコアも、エクス王都に向けて動いているし、あと一週間かそこらだろうな。時間もないってことだ」
『了解』
貴族の奴隷とかいたら、モーブたちに監視が付く可能性もあるし、俺からすれば逆探知でやりやすいわー。
ライヤとカースは薄々気が付いているだろうが、モーブは分かってないだろうな。
とりあえず、モーブたちも王都内の火種として準備はしてもらう。
「……ユキ。モーブたちから物が届いた」
クリーナがエクス王都監視室にやってきてそう言う。
既に俺たちはローデイにドッペルを残して、モーブたちの支援の為にウィードで厳戒態勢を取っている。
「わかった。こっちに物が届いたみたいだ。そっちの方にいくから、何かあれば連絡くれればいい」
『あいよ。調べ物頼んだぜ』
「そっちもな」
そう言って席を立ち、護衛の嫁さん4人と一緒に研究室の方へ向かう。
「でも、不思議だね。なんでアンデッドなんだろう? ジェシカ、もしかして、アンデッドって普通に出るの?」
「いえ、ジルバでは見たことどころか、聞いたことすらありませんでしたね」
「ローデイでもそんなことは有りませんわ」
「……アグウストも右に同じ。というか、あのレベルのアンデッドが出れば、軍が出ないといけない規模」
……俺たちの戦力が過剰すぎていまいちピンと来ないが、新大陸ではオークですら上位の魔物で、その更に上級のキングが出ればそうそう止められないだろう。
まあ、身内にそのオークキングを越えた、ベジタリアンなんとかというオークがいるけどな。
それが、畑ばっかし耕していればピンと来ないのは当然だろう。
「ということは、あのロゼッタさんだっけ? あの人も十分凄いんだね」
「ええ。彼女の名は知りませんでしたが、十分、正規の騎士相手にも通用するでしょう」
「ですわね。いい動きしていましたわ」
「……ん。さっきのは、相手が悪かっただけ」
そう言う嫁さんたちは、更に上ですけどね。
元々のスペックも、勇者、魔剣使い補佐、魔術学府のシングルナンバーと段違い。
あー、怖い怖い。
と、そんなことを話している内に、研究室にたどり着く。
「来ましたね」
「こちらにどうぞー」
「やあ、ユキ君たち」
部屋にはすでに、ウィードで指折りの3人のマッドが集まっている。
1人をザーギスと言って、元魔王配下の四天王(笑)で研究馬鹿。
1人をナールジアと言って、妖精族の長にして、冶金、鍛冶とモノづくり狂い。
1人をコメットと言って、新大陸での俺の前任者、ダンジョンマスターであり、魔力研究の第一人者。
つまり、総じてマッドサイエンティスト共である。
この中で比較的マシなのは、人体改造や、魔物改造をしていない、ナールジアさんではあるが、ド級兵器を作っているから、正直あまり変わらない気がする。
「何やら失礼な視線を感じますが、いつもの事なのでほっときましょう」
「違いますよ。ユキさんはまた新しい武器にわくわくしているんですよね?」
「いやー、ナールジア。それはないかと思うよ。と、それより、モーブさんたちから届いた例の物の話だよ」
ナールジアさんが魔力を使って器用に全員分のお茶を用意してくれる間に、コメットが透明な箱に入った宝石のついたペンダントをテーブルの真ん中に置く。
「これが、ゾンビー共がつけていたやつか」
「そうです」
「ちょっと待ってくれ、ユキ君やモーブさんはゾンビーって言ってるけど、ゾンビと何か違うのかい?」
「ん? ああ、俺たちからすれば脅威度認定みたいなものだな」
「脅威度認定?」
「そうそう。ゾンビーって伸ばすと、気が抜けるだろう?」
「ああ。君たちにとって脅威ではないという意味か」
「戦場では無駄なことは極力避けるべきだ。だけど、そんな余裕があるって伝えるためでもある。わざわざ余裕があるって言葉にするより、ゾンビーって言った方が短いしな」
「なるほどねー。よく考えているね。と、すまない。話がそれたね。で、このペンダントなんだけど、こうやって箱に入れているのは臭いから」
「はい?」
「コメットさんの言う通りです。ゾンビがつけていましたからね。状態維持も大事ですから、洗っていません。だからこうやって密閉しているのですが……」
「蓋あけます?」
ナールジアさんがそう言って、手を伸ばしたので、慌てて俺たちは首を横に振り……
「「「いや、いいです」」」
誰が好き好んでモーブたちと同じ目に合うかよ。
「で、こうやって密閉してるってことは既に調べたのか?」
「はい。まあ、パッと見たというのが正しいですね」
「本格的に解体するのは、これをユキさんたちに見せてからと思ったので」
「映像としては残すけど、こういうのは現物を見るのが大事だろう?」
「なるほどな。で、パッと見た感じで分かったことはあるのか?」
そう俺が聞くと、ザーギスは別に箱に入っていない、ペンダントを出して机に置く……。
ズサァァァァ!!
直ぐに俺と嫁さんたちは椅子から立って、テーブルから飛び引く。
「お前、そんな臭い物をだすなよな!! お前だけが臭くなれよ!!」
「ザーギスさん、流石にちょっとないと思います」
「ですね。人としての常識を疑います」
「最低ですわ」
「……ザーギス、それ以上近寄れば燃やす。というか殺す。私が今日ユキとなのを知っての嫌がらせと見た」
嫁さんたちも非難轟々、クリーナに至ってはキレている。魔力を既に集積してぶっぱなす寸前だ。
「いやいや、落ち着いてください。これは別のペンダントですから、臭くないですから」
「ええ。大丈夫ですよ。そんなことすれば、私たちにも被害がおよびますから、ザーギスさんをゴミにしてますよ」
「そうだね。大丈夫だよ」
確かに、部屋の香りは普通だ。
嫁さんたちもそれに気が付いたのか、とりあえず席に戻る。
俺もそれに続いてペンダントに目をやりながら座る。
何か見覚えがあるな?
「ああ、霧華たちに渡しているペンダントか」
「そうです。魔力を活力としている生物を保護するために作った物です。これと、モーブたちが回収してきたそれは、作り方や出力に違いはあるモノの、目的は同じなのです」
「つまり、魔力減衰を抑えて、活動できるようにするためのモノってことか?」
「はい、そうです」
「私からすれば意味不明だけどね。まさか、こんな効率の悪い物が役に立つとは思わないし。まあ、ユキ君の配下のデュラハン・アサシンたちが動くには便利だけど、あんなあからさまなアンデッドにつける理由はさっぱりだよ。で、回収したのはどれも全て魔力切れ、宝石に残っている魔力の名残や構造からみて、2時間持てばいい方だよ。ザーギスが作った物より格段に性能が落ちる。使いどころがさっぱりわからない」
ふむふむ、そういうことか……。
「詳しくはこの後分解して調べてみますが、今はこんなところですね」
「で、今のところの見解は?」
「……そうですね。恐らくユキが考えていることと同じかと」
「ありゃ? 2人とも何かわかったのかい? ナールジアはどうだい?」
「まあ、なんとなくですけど」
「あれ!? 私だけが分かっていない?」
「コメットさんは仕方がないでしょう。あれを見て失敗作と称したのですから」
「ふふ、悪いことではないのだけれどね」
そう、コメットにしてみればまだまだ改良の余地があって、実際に使えた物ではないのは間違いない。
だが、別の観点から見れば……。
「実験なのでしょう」
「だな」
「そうですね」
「実験? ああ、とりあえず作ってみて、どの程度動作するか確かめていたのか!!」
「そういうこと、ここのメンバーならいい性能の物が作れるから、この程度じゃ実用段階じゃないんだろうが、相手にとっては……」
「既に実験するにふさわしい性能ってことだね?だから、使い捨てにできるゴブリンとかオークのゾンビを使って試していたわけだ。リッチ系が一体でもいて死体があればアンデッド生産はできるしね」
「ついでに、血戦傭兵団って知ってるか?」
「ん? ああ、ゴブリンを大量に所持してそれを盾にして、血の戦場をつくる傭兵団だろ。ゴブリンを増やすために、女を攫っているとか噂は聞いたことがある」
「まだ未確認だが、その傭兵団がエクス王都にいるらしいって話があった」
「……なるほど。材料には事欠かないってことか」
「ついでに、エクス王国だけに名前を轟かせている魔物退治専門の傭兵団もいるみたいだ」
「……もしかして、魔物のゾンビを兵士に充てるつもりかい? エクス王国は?」
「さあな。適当に敵国に放って混乱させるのもありだと思うぞ。ま、そこは今後の情報収集しだいだな。とりあえず、こっちも詳しい解析を頼む」
まだまだ、どれも予想の段階を越えない。
ホワイトフォレストで奪ったコアが届くのもまだもう少し時間がある。
その間に、こっちもできるだけ手を打つべきだろう。
「わかりました」
「まかせてください」
「任せてくれたまえ」
この3人はやる気があるし、あとは任せて情報を待つのみだな。
さてー、思ったより、エクス王国は戦力を充実させてるな。
各国への工作、魔剣の量産化、聖剣のレプリカ、アンデッドの実用化、ダンジョンマスター能力か……。
どこまでのレベルで実現しているかわからないが、どうにも厄介そうだな。
さて、一応言っておきます。
新大陸での主な敵対勢力はこれで終わりです。
さあ、ユキをどれだけ苦しめるのだろうか!!
あ、あと、4巻の新規キャラクターのイラストもらった。
後で活動報告に載せるけど、
シェーラ、キルエ、ルナ(駄目神)
です。
喜べよお前ら、駄目神にな!!