第354堀:隠し札を切る時
隠し札を切る時
Side:ユキ
只今、ホワイトフォレストの客間にてのんびり待機中。
既に、魔力補給は終わっているが、日は暮れていて、当初の予定通り午前中は荷物をかき集めるふりをして、ホワイトフォレスト近郊の索敵をしていた。
しかし、特に昨日リエルとラッツが潰した拠点以外に敵はなく、ひとまずはホワイトフォレストの一件は終わった。
だが、ほぼ同時に、エナーリアへ聖剣の確認に向かわせていた嫁さんとコメットの方にも襲撃があったと報告がきた。
『というわけで、敵の襲撃があったよ』
「嫁さんたちは無事か?」
『はいはい。私たちは無事ですよ。お兄さん』
『はい。指一本触れさせてません』
『ユキさん。この通り、3人とも無事です』
ふう。
とりあえず、3人とも無事のようだ。
ドッペルとはいえ、嫁さんが傷つくのは嫌だしな。
エリスから、ちゃんと皆は無事と報告は来ていても聞かずにはいられないのだ。
『ん? なんか私だけ温度差がある気がするよ?』
「そりゃ、嫁さんじゃないし」
『うっわー。傷ついた、心の底から傷ついたよ』
なんか、私はひどく傷ついたとオーバーアクションをするコメット。
……こういうタイプは脅すか、無視するかに限る。
ま、一応、リクエストは聞いておこう。
「ヒフィーに報告するのと無視どっちがいい?」
『すみません。無視でお願いします』
脊髄反射だな。
どれだけ、ヒフィーに報告されるの嫌なんだよ……。
「で、聖剣の確認は取れたか?」
『あ、うん。取れたよ』
「どうだった?」
『うーん。まだ、簡単にしかまとめれていないけど、それでいいなら』
「それでいい。というか、襲撃が重なりすぎているからな。いい加減、表立って敵が動き出しそうだ。少しでも情報が欲しい」
『それは同意だね。じゃ、報告書は別でだすから、そっちもちゃんと目を通しておいてくれよ』
「分かってる」
『じゃ、簡潔に言うと。ディフェスのベツ剣をそのままコピーしたようなものだね』
「ディフェスっていうと、聖剣使いのリーダーか?」
『そうそう。前にも話したと思うけど、光のベツ剣は複数存在しない。だから、私はてっきり、自作で作り上げたものかと思ってたんだ。でも、見てみれば構造や術式も同じと来たもんだ』
「聖剣や魔剣を作る上で、似通った可能性はないのか?」
『似通っているじゃすまないレベルなんだよね。言っただろう? コピーだって。全くそのままなんだ。姿形は当然として、中の術式もだ』
魔術の術式は一種の芸術のようなものだ。
いや、技術というのは、簡略化や効率化を進めると、いつかたどり着く場所は似通ったものだろうが、それでもそれぞれの特色というのが出る。
例えば武器としての刃物。
一般的に剣と呼ばれる分類であるが、これにも種類があるのは知っての通りだ。
西洋のロングソード、ちょっとズレて湾曲したシミター、炎のように刀身が波打っているフランベルジュ、日本でいうなれば、打刀、大太刀、小太刀、太刀と刀にも種類が存在する。
素人から見れば、同じ剣であるが、その使い勝手や性質は全く違うのだ。
つまり、その第一人者である、コメットがコピーというからには、そっくりそのままということなのだ。
『私がわざわざ適当に刻んだそれっぽい銘もそのままにね』
「ということは、敵がダンジョンコアを利用して、聖剣や魔剣を生産しているとみるべきだな」
『恐らくはね。運よくこれだけが模造品でしたーってのは都合がよすぎるだろう』
「はぁー。嫌な発見だな。なぜ、聖剣の模倣品がエナーリアにあるかはわからないが、つまりは、ディフェスの聖剣を何かしらの手段で触るか見る機会があったんだろうな。いまダンジョンマスターっぽいことをしている奴は」
『だろうね。でも不思議なんだよね? エクス王国に安置されているベツ剣は別の属性だ。なんでそれではなく、わざわざディフェス専用の光のベツ剣を模倣したのかとか』
「まあ、色々予想は立てられるけどな。お国の家宝を量産しました。では問題大ありだろう?」
『ああ、そりゃ色々不味いね。なまじそのままコピーだから、動かないならまだしも、罷り間違って動いたのなら、盗んだと思われるよ』
「そこは考えても仕方がない。で、今の話で不思議だったんだが、なんでライトは個人認証を抜けてベツ剣を使えたんだ?」
そう、聖剣にはその高すぎる威力から個別認証機能がついている。
魔剣も魔力が一定量ないと使えないから、そういう関係の制限をつけて、聖剣使いのメンバーたちは一定量だけ生産した。
『あー、それは私も不思議だったんだけど。ホワイトフォレストの時に個別認識をショートさせてたじゃん。たぶんあの関係を使ったんじゃない?』
「そういうことか」
『ま、今より精度は下だったろうし、ある意味、実験も兼ねていたのかもね』
「ということは、ライトの経歴を洗えばなにかわかるかもな」
『だね。とりあえず、私もそのライト君に会ってみるよ。エナーリアにいるみたいだしね』
「頼む。こっちは明日にはホワイトフォレストを出る予定だし、エクス王国へ侵入する手段を考えてみる」
『あいよー。任せておいて』
そう言ってコールが切れる。
「さて、エクス王国にどうやって入り込むかねー」
「流石に、正面からの入国は厳しいと思いますわ」
「そうなんだよな。国の支援を受けて入国すれば、確実に見張りが付く」
サマンサの言う通り、俺たちが正面から堂々といけば、絶対相手は警戒する。
どうにでもなるが、わざわざこちらの行動を知らせるのもどうかと思う。
「……でも、既にユキたちは各国で名が知れている。エクス王国にも絶対情報は行っている。こっそり侵入は無理だと思う」
「私もクリーナの意見は一理あると思います。既に私がいたジルバには名が轟いていますし、エナーリア、学府、アグウストでの大立ち回りで、その間にあるエクスに情報が届いていないわけがない。ここまで大掛かりな仕掛けをしている大国が計画の邪魔になる勢力の情報を集めていないわけがない。こっそり侵入できたと思って監視されてたでは意味がないどころか、逆に手痛いことになりかねないと思います」
「クリーナとジェシカのいうことは分かる。どっちもどっちなんだよなー」
一長一短。
というか、今まで暴れ過ぎたな。
ここに来て、勇名が邪魔になってきた。
どっちにしても、名が邪魔で、侮ってもらえない。
世の中、最大ダメージを与えるには相手の油断しきった場所に渾身の一撃を加えることなのだ。
つまり、予想だにしていなかったことが、良いわけ。
俺たちが来た時点で構えられたら、威力が半減する。
力尽くでできないことはないが、こっちも隠している手の内を出さないといけない。
それは、今まで信頼関係を築いた国々に不信感を与えるだろう。
傭兵団で国を正面から制圧とか、誰だって警戒するわ。
ということで、力尽くは今後の展開的にも遠慮したい。
「そういうことなら……」
「ん? トーリ、何か良い案でもあるのか?」
「……ある」
「カヤもか?」
「僕もあるよ!! ほら、モーブさんたちだよ!!」
「あー、リエルが言っちゃった……」
「空気読めてない。ここは3人一緒に言うべき」
「あ、ごめん」
3人はそんな感じで、ワイワイやっているが……。
「すっかり忘れてた」
うんうん。
他の皆も同様に頷く。
確かに、こんな事態の為に、ずっーと亜人の村に待機してもらって、普段は亜人との友好関係を取り持つために、治安維持に努めてもらっていたんだっけ?
「エリス。今、モーブたちは動けそうか?」
「えーっと……、ちょっと待ってくださいね。私もすっかり……」
あ、うん。
エリスですら記憶の彼方か。
ま、しゃーないよな。
あの3人が活躍したのって、リテアの時と、冒険者ギルドの設立の時ぐらいで、こっちに来てからも、すぐに亜人の村に放置だからな。
俺も、報告書は異常無しぐらいしか読んでない。
「えーっと、相変わらず、報告書は異常無しですね。まあ、最近あの村にホワイトフォレストに行かなかった反発者もかなり集まっているので、多少治安が悪いみたいですが、それもモーブさんたちがしっかり押さえているようです」
「そういえば、魔剣がホワイトフォレストみたいに亜人に流されてないのか?」
「今のところはそう言う報告はありませんね」
「なら問題なさそうだな。俺たちが代わりに亜人の村に入って、モーブたちにはエクス王国に行ってもらおう。ま、いい掃除もできるだろうしな」
「掃除ですか?」
「そう掃除。モーブたちという抑え役がいなくなって、俺たちが入れば不満を持っている奴が何かしら行動を起こすだろう。俺たちのことを知っているのは初期の村のメンバーだけだ。新しく他所から集まってきた奴らはモーブ以外は知らない。モーブたちがいなくなったなら、あの村を仕切ろうと思う奴も出てくるだろうよ」
「そう……ですね。十分あり得ると思います」
「エクス王国が動き出すのは恐らく、ダンジョンコアを回収したあとだ。本来なら聖剣も回収したかったんだろうな。エナーリアの方も、わざわざ疲れさせる方向で動いたのに、よくばって魔剣使いやうちの嫁さんを狙ったのが間違いだったなー」
「ちょっと待ってください。ユキはエナーリアでルルアたちが襲われたのはついでだったと思うのですか?」
ジェシカが疑問を言ってくる。
「ん? あくまでこっちの予想だ。襲撃は俺たちがエナーリアに来た時に起こっていたし、今度で2度目だ。だけど、今回は既に魔剣の倉庫は押さえられていて、荷物検査や武器所持についてはかなり厳しくなっている。特にスィーア教会ではな。これじゃ、襲撃事件を起こそうにも、外部からはかなり遠くからしかできない。その間に聖女は逃がされるし、警備態勢もさらに上がるだろ?」
「それは当然ですね。なら内部犯というのは?」
「内部犯ならあんなことする必要はないな。もっと前に行動を起こしてもおかしくない。ついでに、嫁さんたちの大立ち回りを知っているだろうから、わざわざ戦いを挑むっていう発想は起きない」
「……ですね」
「まあ、消去法のような感じだよ。なら、この状況をなぜ起こしたのか? 力尽くではなく、間接的に、教会を一時的に疲弊させたかったんだ。つまり、全体的に疲れさせるのが目的。暗殺ならもっといい方法があるだろう? なら、残るはあと一つ」
「……教会に収められている聖剣というわけですか。疲れていて警備の穴ができやすい。そこを狙って聖剣を奪取しようとした」
「その時、幸か不幸か、嫁さんたちとエージルも聖剣の確認でその場に居合わせた。で、欲がでたのか、陽動なのか知らんが、どのみち、今やエナーリアで聖女扱いの嫁さんたちが殺されればそれだけで、国としては動きにくくなるし、痛手だ。もっと局所的なことをいえば、教会の警備は嫁さんたちに集まるだろう?エージルも一緒に襲われたのは、聖女を狙っているぞと言うアピールだよ。そうすれば、軍の方も嫁さんたちを守るために動く。それで教会の警備は薄くなる」
「なるほど、傷をつけるだけでも良かったのですか」
「そうそう。それで一回外に逃げるふりでもすれば、それを追って、警備とかは外に出る。まあ、前提が間違っていたんだけどな」
「私たちを傷つけるというのはほぼ不可能ですし……」
「万が一傷つけたら、皆で速攻捕縛だろう」
「ですね」
「とまあ、向こうの狙いは、簡単に言えば各国にある有用な物を奪って国力を下げたいんだ。暴動も兵力や治安を削るって意味でな。だから、ヒフィーは亜人の村々へは魔剣を送ってなかったみたいだが、エクス王国はそうじゃない可能性もある。俺たちが入れ替わった時に……」
「襲ってくると?」
「多分な。亜人の村々は不確定要素。エクス王国とぶつかっている時に後ろで動かれたくないし、モーブたちがエクス王国で色々情報収集している内に、行動を起こしてくれるとありがたいんだけどな」
餌をぶら下げて待ってみるのも悪くないだろ。
嫁さんたち、特に亜人って分類されるトーリやリエル、カヤについては随分ご執心な連中もいたし、煽るには十分な手札が揃っている。
「と、モーブさんに連絡が取れました」
「ありがとう。エリス。で、モーブ。話聞こえるか?」
『なんだよ? もう亜人の村は寝静まる時間だぞ。ウィードとは違うんだよ。というか勤務時間は終わりだから、これからウィードの酒屋に行くつもりなんだが……』
「代わりに良い酒を奢ってやるから、ちょっとウィードの会議室に来てくれ。3人にちょいと頼みがある」
『へぇ。ようやく、俺たちもお外ってわけか』
「ああ」
お留守番ってつまらないものな。
新しい世界を前に待てをしてた俺はその辛さがよくわかる。
というわけで、モーブファンの皆さまお待たせしました。
ダンディの時間ですよ!!
話は変わるが、ドラクエジョーカー3一応クリアはした。
でもショックだった。モンスターの種類すくねーなーと思いつつ、クリアすればポケモンみたいに解禁かな? と思っていたがそうじゃないみたい。
残念だよね。
しかたないから、ダークソウル3に移行する。
あ、あと昨日か一昨日に8000万PV 750万ユニーク突破!!
ありがとねー。
でさ、感想で一気に読みましたとかあるけど、ちゃんと寝ろよ。




