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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
新大陸 暗躍する影編

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第337堀:最後は全部持っていく

最後は全部持っていく




Side:クリーナ





私の知っていることなど、やはりほんの一握り、一塵だということを思い知る。

ユキと出会ってから、僅か、いや当日に嫁入りしたと思えば、ダンジョンマスターでびっくり。

聞けば、世界を救うという使命があってさらにびっくり。

ついでに、伝説の聖剣使いと敵対していて、その聖剣使いは大陸を滅ぼそうとしていた。それを止めてほっとして、祖国との繋ぎをしていると、祖国が正体不明の敵に襲われていた。原因はこの大陸の人々に絶望した神様で、それを何の犠牲もなく止め、和解するので超びっくり。

これで終わりかと思えば、更に正体不明の魔剣を所持する別の集団がいて、さあ大忙し。

これが約一か月で私に起きた出来事である。

正直、自分でも言っていることが滅茶苦茶なのは分かる。

しかし、全部事実。

不意に、時に事実は小説よりも奇なりと言う言葉を思い出す。

ユキの国の諺だが、現実の方が、小説などよりも変なことが起こりうるという意味だ。


だが、それにも慣れてきたつもりだった。

ユキは元々この世界の人ではない。

なので、私が知りうる常識に収まるわけがないのだ。

いや、魔術と本ばかりの私が常識を語るなどとおこがましいかもしれないが、そう言うわけで、ユキは目の付け所や、発想が違うのは納得できたし、その見方にもちゃんと根拠があった。

ユキのやり方は、彼の世界の先人たちが残してきた、軌跡を彼なりに改善して行うと言うもの。

魔術という術がなく、文字通り頭を使って、人々の暮らしをよくする発想や効率よく殺すための……ぞっとする発想も山ほどあるが、だからこその知識量である。

長い歴史の果て、その結実の塊が私の夫、ユキである。

正直に思う。ユキより優れた夫、男などこの世界に存在しないと。

ユキと同じ世界出身のタイキやタイゾウもいるが、どこからどう見てもユキが一歩も十歩も抜きんでている。

……話がそれた。ただの惚気になっている。

ということで、ユキの突飛な行動は理があって、仕方のないこと。

だが……。



「ヒュージ、援護しろ!!」

「ブレード、とまれ!! 馬鹿野郎!! あー、クソ。勝手によけろ!!」


ドーン!!


目の前の生物は、わけがわからなかった。

その生物の名前をブレード・フィ・ローデイ。

6大国の1つ、ローデイ王国の頂点に立つ者、王。その人である。

その王は現在、ユキたちの手紙を読むなり、部屋を、城を飛び出して、単独で、城下の一角、倉庫街へ殴り込みをかけた。

……嘘偽りなく、文字通りだ。

事前に調べるわけもなく、どれか迷うこともなく、真っすぐにこの倉庫に突撃を仕掛けて、中の荒くれ者たちの中に、先陣を切って切り込んでいた。

……王とはなんだっけ?

あの生物の行動は訳が分からない。

王としての振る舞い以前に、行動原理が理解不能だ。


とりあえず、ユキや私たちも慌てて一緒について行って、包囲網の構築を行う者と、サマンサの母親に連絡を入れる者とに分かれ、必死にあの不思議生物の援護をしていた。


「くっそー。直感型かよ……」


ユキがそう呟く。


「直感型?」


私はサマンサと協力しながら魔力の障壁で倉庫一帯を囲んで、敵を逃がさないようにしている。

なので、魔術で援護をしているユキと会話する余裕がある。


「そう、直感型。勘が鋭い。それを頼りに動く。根拠や理由はない」

「……意味不明」

「おう。だが、その直感がよく当たる人は確かに存在する。まあ、あの人の場合は真性の直感ではないだろうけどな」

「……どういうこと?」

「それはな……っと。リーア、ジェシカ、奥の方を先に押さえろ!! 魔剣の確保、戦闘に巻き込まれて破損はめんどい!!」

「「はい!!」」


リーアやジェシカは、ユキの指示で不思議生物の援護に向かっていたのだが、直ぐに倉庫の奥へ消えていく。

適度に手加減をしないといけないから、この大陸の人との連携は非常に疲れる。

特に体術は見る人が見れば手を抜いている事がすぐにばれる。

だから、それを悟らせないあの2人はすごいと正直に思う。


「うし、これで証拠品は確保できるだろう。で、続きだな。真性の直感っていうのは天性のもの。だけど、あの人、ブレードのおっさんは、今までの経験の賜物だ」

「経験?」

「ああ。城で話をしていた時、傭兵をやっていたって言っていただろう?」

「……確かに。そんな記憶はある」

「魔術とかとおんなじだ。成功する感覚を人に伝え辛いように、今までの経験に基づいて、あのおっさんはここが魔剣を隠している場所と断定したわけだ」

「……ん。多少理解した。自分の中では確固たる理由があるけど、それを伝える方法が存在しない。ということ?」

「そんな感じだ。空気とか、殺気とか、そんなのは理解されにくい。スキルで気配察知とかあるけど、そのスキルを持っていない人に、その感覚を伝えるのは難しいだろう?」

「……ん。理解した。それは不可能に近い」

「だから、あの人の行動はある意味、一番早い解決策だ」

「……王が動けば、多少の無茶は通るし、証拠品がでれば文句もでない。現状で魔剣の大量所持を国へ伝えると、王が動くわけにはいかなくなる?」

「そうだ。ついでに、連絡役である俺たちは、重要な協力者だ。そんな人たちを自国の魔剣所持者に対応させるわけにはいかない。恥だからな。国としては」

「そうなると、私たちは魔剣の確認ができない可能性もある?」

「だなー。物が物だから、下手すると隠されるとか、なかったと報告されてもおかしくない。だけど、そんな内輪揉めなんて画策をしていると、手遅れになる可能性がある。だから、あのおっさんが暴走して追いかけて、気が付けば、関係者を巻き込んで終わっていたという結果を狙っていたんだろうな」

「……そこまで考えているようには見えなかった」

「直感型は大抵細かいことは考えない。恐らく、ヒュージの親父さんとロンリとかいう宰相の人がそこら辺の調整をするんだろう。……可哀想に」


なぜか、その説明をしたユキの目が少し遠くなった。


「……ユキも直感型の知り合いがいる?」

「……ああ。真性の直感型がな。本当に理由もなく、当たりを引く友人たちがいた」

「……ごめんなさい。無神経だった」


少し考えればわかることだ。

ユキの友人というのは、この世界にはごく少数だ。

護衛という立場上、私たちが知らないユキの友人はこの世界には存在しない。

つまり、記憶に該当しない人物は、当然、ユキの故郷の人のことになる。


「ん? ああ、気にするな。直感型の説明で出てきただけで、今はクリーナとかがいるから全然寂しくないぞ」

「……ん。ありがとう。妻としてユキを支える」

「で、それはいいとして。今更だけど、サマンサ。あのおっさんの性格は知ってたか?」


そう言えば先ほどから沈黙しているサマンサは、あの王様のことを知っていたのだろうか?


「……」

「お嬢様。放心するのは分かりますが、ユキ様、クリーナ様のご質問ですよ」

「はっ!? す、すみません。あのような性格だとは全く存じませんでしたわ。小さいときにお会いしただけでして……」


なるほど。

サマンサは私たち以上にショックを受けているようだ。

……それも仕方がない。

あれが自国のトップというのは、私から見ても胃が痛いとわかる。


「あははー……。一応、常に先陣を切る、名将、剣王ブレードと言われているんですよ。それを支える魔術師のヒュージ様。軍団の指揮、援護を得意とするロンリ様。この御三方が揃った戦場は止まらないと言われるほどです」

「……てっきり噂話だと思っていましたわ」

「……そういえば、私もローデイの剣王は聞き覚えがある。でも、サマンサと同じく噂話か、作り話、過去の話かと思っていた」

「クリーナ様の言う通り、過去の話で、作り話、噂話と言う事にしていますよ。陛下のお命を守るためですから。……まあ、私もヒュージ様から聞いただけでしたので、本当にここまでとは思わなかったのですが」


そう言って、全員でその剣王を見る。


「クソー!! なんだてめえは!!」

「なんだ。城下に拠点を構えておいて、俺のことを知らんのか?」

「しるかよ!!」


普通、王が直々に殴り込んでくるなんて、誰も思わない。

下手すると、こっちが強盗のように見えるかもしれない。

……ん。私は自重しよう。

そう心に誓って、その状況を目に焼き付ける。

あ、どう見ても王が退治しているならず者に負けることはなさそうなので心配はいらない。


「サマンサ!!」


と、そんな風に成り行きを見守ろうとしたら後ろから声する。


「ルノウお姉さま!?」


すると、サマンサの髪をストレートにした、胸はそれなりの美人がこちらに駆け寄ってきていた。

……やはりサマンサの胸は遺伝というより、異常発達らしい。

だから私の胸も、エリス師匠やルルア師匠、サマンサに追いついても不思議ではないということ。


「あらー、やっぱり陛下が出てきちゃったわね。ねえ、ユキちゃん。ビデオ撮ってる?」

「勿論ですよ」

「やったー。これで夫の凛々しい姿をいつでも見られるわ!!」

「……お母様。内容はよくわかりませんが、惚気るのは後にしてください。そこの男。お前がサマンサを傷物にしたユキだな?」

「傷物って……」

「言い訳はいい。あとでみっちりと話を聞く。サマンサ、もうじき私の部下がくる、敵を1人とて通すな」

「あ、あの、お姉様。ユキ様の件は、ちゃんと筋を通してですね……」

「うるさい!! 姉に話を通さないとかあるか!!」


……どうやらサマンサの姉は、シスコンらしい。

これはこれでめんどくさい。


「あの服は王都の魔術警備隊か!? くそっ、お前のせいで感づかれたじゃねえか!!」

「あほか。既に詰みだよ、お前は。なあヒュージ?」

「……はぁ。お前も人が悪い。まあいい、陛下さっさと終わらせてください」


ヒュージ公爵がそう言うと、ようやくならず者の顔に理解の色が広がり、次に驚愕する。


「け、剣王!? な、なんでここに!?」

「勘」


一瞬沈黙が流れ、壊れた扉からの風の音がよく聞こえる。


「……くっそー!!」

「ほう。来るか!! なら……」


バシーン!!


剣の腹で頭を思い切りたたいて、ならず者はそのまま気絶した?

多分、気絶。

流石剣王というべきか、剣を振る速度は尋常じゃなかった。

でもぶつかる直前、速度を落としたから、死んではないと……思う。


「うっし。ルノウも来たな。あとは任せるっと、荷物は大丈夫か?」

「何も気にせず暴れ過ぎだ!! くそっ、ルノウ、すまんがここの倉庫の捜索を……」

「はーい。ユキさん、荷物は確保しましたよー」

「はい。奥の倉庫で別個にしてあったので、被害は有りません。ですが、ちょっと道が散らかっていますね。リーア、やりますよ」

「うん。いいよ」


ジェシカはそう言うと、リーアと一緒に剣を振り、邪魔な瓦礫を吹き飛ばす。


「「「!?」」」


ぎょっとする、ローデイの関係者。


「おう。お疲れ。じゃ、お姉さん。あの奥に陛下の言ってた荷物がありますから、気を付けて運んでください」

「あ、ああ……」


驚いているローデイの関係者の視線を受けつつ合流する、リーアとジェシカ。


「……ユキ。いいの? ジェシカとリーアの実力がばれたとは思わないけど、ある程度凄いと認識された」

「サマンサのお姉さん、王様の暴走っぷりを見るに、この方がいい抑止力になるだろうよ」

「……納得」

「そうですわね。お姉様も少し、私を大事にし過ぎですからいい薬ですわ」

「じゃ、戻ってお茶にしましょう。ローデイ特産の茶葉があるんですよ」

「やったー。ジェシカ、楽しみだね」

「ええ。ゆっくりお茶が飲めるように頑張ったかいがありました」


ということで、私たちは唖然としている王たちを残して、一足先に城に戻るのであった。




「なあ、ヒュージ。あのユキの傭兵団って何者だ? あいつ自身は魔術師なんだろ?」

「さあな。正直、私も測りかねている。ま、心根は知っているし、私も信頼している。私たちが裏切らなければ大丈夫だ。娘は絶対に守ってくれるだろう」

「ああ、そりゃそうだ。なーんだ。別に問題ないな!! あとであのジェシカとリーアと言ったかな? あの2人と剣の勝負しよう!!」

「誰がそんなこと認めるか!! 始末書を書け!!」

「そうですね。まさか、ここまでのことをして、すぐに遊べるとおもったか?」

「げっ、ロンリ!? ヒュージ!? そのひもは……」

「「お縄につけや!!」」



「お、お母様。あのユキという男は何者なんですか? あんな凄腕の女性剣士を2人も手元に置いて置けるような人物には……」

「あらー。男を見る目はサマンサの方が上のようね。だから、未だに結婚できないのよ……。はぁ」

「はぁってなんですか!? わ、私だって男を見る目は有りますとも!!」




……ん。世界は本当に広い。色々な人がいて、色々な側面がある。

これからも、ユキの隣で、色々な物を見ていこう。









とりあえず、あっさり魔剣の集積所は押さえたとさ。

初日で。

うん、すごいねこの国。

まだまだ、続く。



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