第333堀:残りの聖剣
残りの聖剣
Side:コメット
いやー、世の中広いね。
私も結構やれている方だと思っていたけど、世の中、私を越える人物なんてごまんといるようだ。
こんな風に、最初から負けているなんて、言えることはそうそうないだろう。
その道で第一人者として周りから知られている以上、それなりのプライドもあるし、その期待を一身に背負っているからこそ、他所に負けているなんて素直に認めるわけにはいかない。
どこが悪いとか、ここが上だとか、そんな難癖をつけて、どうにか対等というのを保とうとする。
ま、私もそんな研究所の連中がいやで、のんびり村で1人研究していたのだが……。
「ここまで差があると、意地の張りようもないよ。あっはっはっは!!」
私は、ユキ君が用意してくれた研究所で、さあここの技術力はどんなもんか? と見定めるつもりが、ここに来てから、私が知識不足で、勉強している有様だ。
何もユキ君やタイゾウさんからもたらされた科学技術だけというわけではない。
エンチャントの達人、妖精族の族長ナールジアの職人技と魔力操作の繊細さには度肝を抜かれたし、ザーギスという魔族にも驚いた。魔力特化型の種族の魔術適性の凄いこと凄いこと。
そして、それら特性の違う技術をまとめて、更に新しい技術を生み出そうとしている。
その新しい技術も、ただの新発見ではない。一般の人たちに恩恵のある開発も同時に進めている。
今のところは、ユキ君やタイゾウさんの世界の歴史をたどるような発明ばかりだが、いずれ、この世界独特の発明が出てくるだろう。
「ま、ここで意地を張ってもしかたないですよね」
「そうですね。いくら、特殊な技能による技術体系があるといっても、ユキたちの世界から見れば、バカをしている様にしか見えませんからね」
「まったくだよ。と、2人はなんで資料室に? 何か調べに来たのかい?」
私とはちがって、ここに昔からいる二人はそれなりに、地球の科学技術を理解しているので、ここに勉強にくるのはそこまでない。
いや、真剣に学ぼうと思えば、もう一分野だけで一生をつかいきりそうだから、ほどほどに勉強するだけだけどさ。
「いえ、コメットに用事です」
「ええ。ちょっと確認してもらいたいことがありまして」
「私にかい?」
こりゃ不思議だ。
この中では私が知恵を貸すようなことはそうそうない。
魔力枯渇関連の資料も、記憶から呼び起こして、書き出して渡したが、内容はほぼ一緒。
寧ろ、ユキ君たちの研究結果のほうが精度が高いくらいだ。
基本的に私は今までの統計や経験を話すぐらいしかできなかった。
「となると……ベツ剣のことかい?」
もうそれぐらいしか思いつかない。
いまじゃ、仰々しく聖剣、魔剣とか言われてるけど、持つだけで強くなるってコンセプトで開発した便利ツエー剣。
これが、いろいろと現在の状況をややこしくしているのだ。
いやー、身から出た錆とはいえ。めんどくさいわ。
「はい」
「とはいえ、回収した粗雑な魔剣の方には開発者につながるような、銘などは入っていませんでしたし、別の剣の方での話です」
「別の?」
「聖剣の方なんですが、彼女たち、つまりコメット殿がベツ剣を与えた13本。そして、ピースに渡した1本。あなたが作ったのは計14本でいいでしょうか? いえ、試作とか自分で持っている分はあるでしょうが、譲渡した分です」
「ん? ああ、確かに14本だよ」
「で、そのうち、現存しているのが、今ウィードにいる聖剣使い9人の9本、ピースさんのはユキさんが握りつぶしましたけど、コメットさんが修理して1本。現在確認が取れていない聖剣は4本ということになります」
「あ、わかった。その4本をベースに別で研究がされていたかもしれないってことか。だから4本の情報が欲しいってことかな?」
「はい。でも、一応、その4本すべて所在は割れています」
「ありゃ? そうなんだ」
「今度、ユキさんたちが向かう、亜人の国、ホワイトフォレストに3本。そして、エナーリアに1本。前者はクロウディアさんとカーヤさんの証言からです。後者は、ユキさんがジルバとしてエナーリアに攻め入ったときに、敵方として聖剣使いを名乗る少女がいて、それを捕縛。一応今後のために、その少女と聖剣はエナーリアに返還しています。ですが、データは取ってあるのです」
「ふむふむ。確認と、情報ってかんじだね」
「ええ。お願いできませんか?」
「いや、勉強も悪くないけど。そっちの仕事もしないと、私がここにいる意味もないからね。ヒフィーに怒られるよ」
うん、意気込んで研究室に来たのはいいけど、ヒフィーに私自身の自慢できる成果がない。
これじゃ、ヒフィーに怒られる。
とりあえず、分かりやすい実績を作っておこう。
ユキ君やタイゾウさんは、こんな研究職で大発見をポンポンできるとは思っていないだろうけど、ヒフィーはこういうことに無関心だし、私の研究関連にはいつも苦言を言ってきたからねー。
とりあえず、なんとかわかりやすい成果があると、当分は大人しいだろう。
「じゃあ、まずは、ホワイトフォレストにある3本の聖剣についての情報をいいですか? 一応現物は確認するつもりですけど、前もっての情報があればありがたいので」
「そりゃそうだね。えーと……」
それから、3本の聖剣の情報を思い出す限り、書き留めたり、質問されたりして、正確さを整えていく。
「これを確認すれば、大丈夫だと思うよ。まあ、写真とかを送ってくれるほうが確実だけどね」
「それはそうですね。ユキさんの方にはそういっておきます」
「で、すでに情報がある、残りの一本は?」
「ああ。これです」
そう言って、ザーギスがその一本の資料をこちらに渡してくる。
私は特にためらいもせずに、資料を手に取り、流し読みする。
「ん?」
なんか変な記述があった気がする。
疲れてるのかな?
目頭をもんで、再び資料に目を通す。
「んん?」
やっぱり二度見しても変わらない。
「どうかしましたか?」
「いや、この聖剣は知らないよ」
「はい?」
「これは私が作った聖剣じゃない。それははっきりといえる。この持ち主のライト・リヴァイヴだっけ、この時点で私が作った聖剣じゃないんだよ」
「どういうことでしょうか?」
「私の聖剣は力があり過ぎるのは理解していたからね。ちゃんと魔力承認で、登録した本人しか使えないようにしてるんだよ。その変更は私がいたダンジョンの設備じゃないとできないようにしている。つまり、新しい担い手ができたっていうのがおかしいんだ」
「なるほど」
「次に、この光の聖剣だけど。属性の光っていうのは、一本しか私は製造していない。非常に出力調整が大変だったからね。ダンジョンコアの魔力プールがあるとはいえ、持ち主の魔力消費もかなりひどい。で、これの持ち主はディフェスだから、その聖剣は私のとは別物だってこと」
「でも、構造を見る限りは……」
「そうだね。ナールジアの言う通り、私が作った聖剣と似ている。実際見たわけじゃないから、なんとも言えないけど、情報の限りじゃかなり似ているように見えるよ」
さて、これはどういうことかな?
そうして、深い思考の海に落ちようとしていたところを、ザーギスの言葉で引き上げられる。
「いろいろ推測は立てられますが、まずはっきりしているのは、一本聖剣が行方不明ということですね。話を聞いた限り、亜人の3本ではないので、ウィードにいる聖剣使いたちに話を聞けば所在はわかるかもしれません」
「そうだね。まずは、残り一本がどうなっているかを確認しよう」
「では、私の方は、ライトさんの持つ聖剣についてもうちょっと調べてみます」
ということで、急遽、再び聖剣使いの面々と顔を合わせることになった。
「……ということでね。残りの聖剣はどこにあるか知っているかい?」
そう聖剣使いのみんなに質問をする。
いまでは、私の精神制御からはなれて、ずいぶんゆっくり考えられるようになっている。
いやー、本当に悪いことをしたね。
ま、向こうも、こっちをぶった切った負い目があるから、どっちもどっちって感じで、助かるんだよね。
そうじゃないと、今こうやって顔を合わせて話なんてできないだろうし。
「いいえ。私は」
「あれはディフェスが持って行ったのでは?」
「はい。コメット様。あれはたしかに私が持っていきました」
「ふむふむ。どこかに保管したとか?」
「ええ。祖国のエクス王国の地下深くに……。そのあとはいろいろあって取りに戻ることはかないませんでしたけど」
「なるほどねー」
ここでもエクス王国に繋がるか。
裏で動いているのは、本当にエクス王国かもね。
「いや。助かったよ。あれは結構危険だからね。場所の把握はしておきたいんだ」
「なるほど。それはそうですね。もし、取りに行くことがあれば、私を案内役にしていただければ幸いです」
「うん。その時は頼むよ」
しかし、どうやらみんなはエナーリアの聖剣については知らないみたいだな。
どこから出てきた?
話を聞いても、眉唾物だと思っていたって話だし。
関係ないんだよな。
ポープリの方もエナーリアの聖剣については知らなかったみたいだし……。
いや、国の立場から考えれば、本物と思える聖剣とその担い手がいたなら、極秘にするよね。奥の手だし。
その奥の手は、不幸にもユキ君たちとの戦いに敗れて、華々しい初陣は飾れなかったわけだけど。
「どうでしたか?」
「うーん。一応エクス王国に最後の一本はあるみたい。だから、調べるのは骨だろうね」
「そうですか。こっちで調べていたエナーリアの聖剣ですが、今は所在は分からなくなっています」
「はい? それはどういうことですか?」
「それが、聖剣使いのライトさんは、あの大敗で心神喪失状態に陥っているらしく、聖剣をいったん王家が回収して、スィーア教会に預けているそうです」
「スィーア教会ねー」
自分の拾ってきた子の名前がこうも仰々しく売れていると違和感しかない。
個人的には護身用に作ったからね。
「伝手の方は幸い、ルルアさんや、ミリーがエナーリアで暴れた時にあがめられているので、聖剣を拝むぐらいはできると思います」
「それも、スィーアとキシュアが原因だよね?」
「はい」
「うん。なんというか世の中狭いねー」
「運が良かったというべきでしょう。とりあえず、コメットはエナーリアに行って確認してもらったほうがいいです」
「そうだね。じゃユキ君に連絡して確認取ってみるよ……」
で、コールですぐに連絡を取ることになる。
「……ということでさ」
『なるほどな。話は分かった。ルルアとミリー、ラッツはエナーリアにいることになってるしな。そっちからフォローに回るよう言っておくわ。しかし、あの聖剣が偽物ねー。あの時は下手に触るもんじゃないと思って、ノータッチだったからな。しかし、いろいろと面倒だな。このままじゃエクス王国にもいかないといけないな』
「だねー」
『まったく。誰かのしりぬぐいは大変だ』
「あっはっはっは。申し訳ない!! まあ、若者を育てる試練だと思ってくれい!!」
『やなこった。ま、冗談抜きに、俺たちがホワイトフォレストに行っている間、ほかのメンバーでエクス王国に行くことも考えとかないといけないな』
「だね。エクス王国にある残りの一本が、なにかこの魔剣の粗雑品に繋がってる気がするし」
『とりあえずは、俺たちはホワイトフォレストに行って、残りの聖剣3本の所在を確かめる。そっちはエナーリアの偽物を確かめて、ナールジアさんの作ったものと入れ替えてくれ』
「そんなもの作っていたのかい?」
『そらな、データだけ取ってレプリカをナールジアさんに作ってもらって研究はしていたからな。聖剣、魔剣どっちも。ちょうどいいだろう。持たせておくにはちょっと怖すぎる代物になったんだ』
「そうだね。私たちが知らない細工があってもおかしくない」
……さて、エナーリアの聖剣。
どんなものかね?
はい。
出てきたのは、最初のころにぶつかってきた聖剣使いのライト・リヴァイヴさんです。
俺の場合は、新キャラをポンポンだして、なんだってー!? っというより、昔から種を仕込んでちゃんと回収していくタイプです。
魔王の時みたいな感じね。
無茶苦茶な展開というより、ああ、そういえばこんなキャラいたよなーって、この前の人物紹介で確認できると思います。
さあ、今後の展開はどこがかかわってくるのでしょうか!!