第331堀:彼女だからこそ
彼女だからこそ
Side:リエル
「えーっと、その……話を聞いてくれると嬉しいかなーって」
僕は恐る恐る、目の前の2人に声をかける。
「……」
「……ふんっ」
駄目だこりゃ。
でもなー、なんとか頑張って連れて行った方が、絶対にユキさんの役に立つんだよ。
というか、ユキさんに頼まれてきたし、説得できなきゃ僕が仕事できないみたいでいやだし。
そういえば、精神制御による思考の単調化?っていう奴は解除されたんだよね?
なのに、なんでこんなに、ぷりぷりしてるのかな?
スィーアとかキシュア、そしてアルフィンとは普通に話せているのにさ。
「リエル、そんな甘いやり方ではだめです」
「……無駄」
そんな声が聞こえて振り返ると、エリスとカヤ、トーリが面談室に来ていた。
「2人の方がいいかなと思って連れてきたよ。リエル」
「トーリ、助かったよ。この2人、全然反応してくれなくてさ……」
持つべきものは友人だね。
いや、今は家族かな?
「で、あれ? なにかプルプル震えてない?」
振り返って、カーヤとクロウディアをみると小刻みに震えていた。
「大丈夫です。私たちと再会できて嬉しいのでしょう」
「……そう」
「そうなのかな?」
なんか2人とも怯えている感じがするんだけど。
うーん。でも同じ種族の2人が言うから間違いないかな?
「……」
「……」
でも、2人は顔を伏せて小刻みに震えているだけで、さっきより静かになっちゃった。
なんでだろう?
これじゃ、お仕事進まないよ。
……どうしたもんかな?
「リエル、トーリ。ちょっと席を外してください」
「……2人とも恥ずかしがっている。私たちだけにしてほしい」
「ああ、そういうことか。トーリ、行こう」
「う、うん。……絶対違うよね」
「なにか言った?」
「ううん。行こう」
そうやって、僕たちは2人に任せて出ようとしたんだけど……。
「ま、まってください!!」
「そ、そうよ。待ちなさい!! そこの猫人族!!」
「へ?」
なぜかいきなり呼び止められて、2人とも必死な顔になっている。
「もうちょっと言い方という物があると思うのですが? まず、リエルを無視しましたよね?」
「……猫人族なんて無礼な言い方は聞いたことがない。同じ狐人族として悲しい。リエルの友達としても、これはお仕置きが必要」
「え? いや、僕はそこまで気にして……」
そう言おうと思ったんだけど、2人がいきなり土下座して。
「リエル様、この度は呼びかけに応じず大変申し訳ございませんでした。ちょっと具合のほどが悪く、反応ができなかった次第です。どうかお許し下さい!!」
「リエル、無礼な態度を取って申し訳ない。多少、牢屋暮らしが長くて、気が立っていた。ゆるせ」
「あ、うんいい……」
「ゆるせ? カーヤはおバカさん?」
「許してください!! 本当にすみませんでした!!」
うん。
流石に、エリスとカヤ>>>>>クロウディアとカーヤって図式が分かった。
同じ種族だから、エリスの方針で2人が優先的に関わっていて、その時に何かあったんだろう。
恐らく、あの、静かなる怒りバージョンから推察するに怒らせたんだろうけど。
「まあまあ、2人ともそこら辺でいいから。ちゃんとこれからは話してくれるよね?」
僕がそう聞くと2人は顔を凄い勢いで上下させる。
……一体どんなお仕置きされたんだか。
「で、さっきも言ったけど。ちょっと亜人たちの国、えーと、名前なんだっけ?」
「……ホワイトフォレストです」
「そうそうそれ。そこに行くんだけど、協力してもらえないかなーって思って」
「……リエル。私たちの立場を知ってのこと?」
「うん。実は知ってる。クロウディアはお兄さんがホワイトフォレストの王様で、カーヤの妹が宰相なんだよね?」
「……いまさら、兄上に合わせる顔なんてありません」
「……私もよ。妹に国を押しつけて、国を飛び出して、世界に迷惑かけまくった。あそこに私たちの戻る場所はないの」
「でも、それは……」
「聞いたし、コメット様にもお会いしたわ。リッチになっているなんて思いもしなかったけど」
「ええ。それは驚いたけど、コメットさんは前のままだった。私たちが聖剣の力に流されたとはいえ、斬り捨てたのに、あんな笑顔で話してくれるとは思わなかった。嬉しかったし、申し訳なかった。間違っていたとは思わないけど、もっとやりようがあったと思うのも事実」
「……申し訳ないのですが、そう言った理由で、私たちは今更祖国へ戻るなどということはできません。ほかの皆を差し置いて、元に戻れたとしても……」
「……私たちは聖剣使いの皆といる。そう決めた。自業自得で世界にそっぽむかれて、それでも一緒だった皆を置いてはいけない」
そう言って2人は口を閉ざす。
「「「……」」」
ありゃ、なんかエリスたちもここに関しては、特に何かを言うつもりはないのか、静かに彼女たちを見ている。
でもさ、僕は違うよ。
間違ってると思うんだ。
ユキさんがいつも言ってるじゃん。
「どっちかを選ぶ理由なんてないよ?」
「え?」
「どういうことじゃ?」
「だから、仲間とか家族とか、どっちかなんて選ばなくていいんだ。ちゃんと家族に会って、皆も置いて行かなければいい。まあ、環境的にどっちかに居を構えることになるんだろうけど、そんなことで、壊れる友情や、家族なら願い下げだね、僕は。いや、どっちも取って見せるよ」
そう、どっちも掴み取ればいい。
「合わせる顔がないって言うのは、君達にも色々あったんだろうから、何とも言えない。だけどさ。それでお別れって悲しくない? お互いまだ生きてるんだから。それとも、また喧嘩するのがこわい? 非難されるのがいや?」
僕がそう聞くと、迷いを見せた目で、カーヤが恐る恐る口を開く。
「……私は怖い。妹に罵声を浴びせられると思うと、足がすくむ」
「……カーヤ。……私も、亜人を守る王族の務めを放棄した負い目があり、兄と会うのは恐ろしく思っています」
クロウディアも後に続くように、不安を口にする。
「うん。その気持ちはわかる気がする。僕も村を追い出された身だからね。いつか戻ろうかと思っているけど、今でも少し怖い」
「リエル……」
「でもね。僕には皆がいたんだ。ユキさんっていういい旦那さんもいるし、その村から一緒にでてきたトーリもいる。大勢の仲間がいるんだ。そして、村にはお母さんが眠っている。いつか、絶対戻って、どんな罵声を浴びせられようが、お母さんを迎えに行くんだ」
「「……」」
「僕のお母さんは残念ながらもういないけど、君たちはまだ会えるんだから、どんな罵声が待っていようとも、いくべきだと思うんだ。自分たちの為に、家族に会わないなんて言っても仲間は嬉しくないし、それを理由に家族に会わないなんていうのは、仲間を盾にした逃げだからね?」
「「うっ……」」
2人とも、そこら辺は理解していたのか、気まずそうな顔をする。
でも、行くという返事は返ってこない。
そうだよね。怖いもんね。
「大丈夫。僕たちも一緒にいくから。2人をいじめるなら、僕たちがボコボコにしてあげるから!!」
「まあ、理不尽な暴力やいじめは見逃せませんからね。保護者として助けます」
「……カーヤも仕方ないから守ってあげる」
「エリスさま……」
「カヤ、仕方ないってどういうことよ!?」
クロウディアはそう言って瞳を潤ませて、カーヤはカヤに食ってかかっている。
「うん。その様子なら大丈夫だね。あとは、仲間の皆に話すだけだね。できる?」
「……はい。ちゃんと話してみます」
「……分かっているわよ。ちゃんと話してくる」
そう言って2人は席を立つ。
そして、何も言わずにエリスとカヤが付き添う。
コメットさんが僕たちに協力してくれるおかげで、聖剣につけた精神制御というか、緩和の効果が随分減ってきた。
殆ど、普通の状態。
僕としては、アルフィンみたいにウィードでのんびりしてもいいんじゃないかと思うんだけど、皆、今まで気持ち1つで人を傷つけた負い目があるからか、自分から外に出ようとはしないで、謹慎みたいになっている。
聖剣使いたちをまとめていたリーダーのディフェス・プロミスさんなんか、処刑を求めていたぐらいだし。
皆の説得でそれはなんとか免れたみたいだけど、こりゃ当分、みんなで外はむりかなー?
せっかくみんなそろったのに、もったいない気はするんだけど、こればかりは本人たちしだいだし。
「リエル、お疲れさま」
「あ、うん。でもトーリが2人を連れてきたおかげだし、僕はあんまり役に立ってないかも」
ありゃ、よくよく考えれば、僕のお仕事2人に押し付けちゃった感じかな?
うむむ、ユキさんに任されたのに、良い所みせられなかったな。
……とりあえず、素直に報告しよう。
2人が頑張ったのを横取りしても意味ないし。
「なにか、がっくりしてるよ?」
「ユキさんに頼まれたお仕事、2人にまかせちゃった。ユキさんのことだから、怒りはしないってわかるけど。僕ならできると思って任せてくれたのに……。あー、僕って最低」
「そんなことないと思うけどな」
「そう? だって、ランサーの魔剣持ちの潜伏先では暴れただけだし、トーリに任せっきりだったよ? 自分で言ってなんだけど、僕あんまり仕事してない自信があるよ?」
「まあ、それは、少しはデスクワークも覚えた方がいいとは思うけど。今回の2人のことはきっと、誰が聞いてもリエルのお手柄だと思う」
「そうかな? ユキさん褒めてくれるかな?」
「きっと褒めてくれるよ」
トーリが言うなら褒めてくれるかも。
よかったー、ユキさんに今日のご飯リクエストしようと思っていたんだよねー。
今日は鮭の塩焼きが食べたいんだよね。もちろんユキさんの手作り。
僕が一番好きな塩梅で整えてくれるから。
と、そう言えば鮭って寒い所で取れるんだっけ?
ホワイトフォレストも6大国の中で一番最北端だっけ?
「ねえ、ホワイトフォレストって寒いんだっけ?」
「え? うん。確かそのはずだよ。私たちが行くときはちゃんと防寒具を着ないとね。お耳がとれちゃう」
「……いや。僕たち獣人はそうそう凍傷とかならないから。というか、まだ引きずってるんだ」
「当たり前!! 冒険者時代のあの雪山クエストの時、もう凍えて死ぬかと思ったんだよ。お耳はじんじん痛むし。あの時お耳が取れてたら、きっとユキさんにそっぽ向かれたから。寒い所は絶対防寒を完璧にしないとだめだよ!!」
「ユキさんは、僕たちのケモミミだけでお嫁さんにしてくれたわけじゃないと思うけどなー」
「そうかもしれないけど、私やリエルの耳は可愛いって言ってくれるでしょう? それを間違って斬りおとしたとか、失くしたなんて言えない」
「まあ……ね」
あ、やばい。
鮭取り放題かな?って聞こうとしたのに、地雷踏んだかな?
「あ、そういえばリエルはちゃんと防寒着用意してる?」
「え? うん。ちゃんと支給されたものがあるよ」
「支給? それって、軍部の雪原訓練用でしょ?」
「うん。ちゃんと実戦でも使えるタイプだよ」
ウィードの軍隊はダンジョンのおかげで、全天候での訓練ができる。
どの天候でも問題なく対応できるようにって、ユキさんの案。
最近では、他国も訓練で使っているみたい。
まあ、今じゃダンジョンのおかげで国境争いが無くなったから、ウィードに来て訓練しないと腕が鈍るんだよね。
ほかの国とも模擬戦もやってるみたいだし、技術向上を目指しているから、安心できるかな。
ダンジョンを中心とした連合軍はこうやって日々強くなっているんだ。
僕たちのおかげで大量の魔物と戦う訓練もあるしね。
あれはあれで楽しいんだよね。
僕もスティーブたちの魔物軍と勝負して負けてるし、今度は勝つ。
「それって、ケモミミの耳当てないでしょう!! だめだよ!!」
「へ?」
「へ? じゃないよ。そんな不十分な防寒でホワイトフォレストへは連れていけないよ」
「えー、耳をこうやって……」
僕はネコミミをペタンと頭につける。
「だめ!! そんなの駄目!! もう、リエルってばこういうところは本当に無頓着だね。ほら、ナールジアさんがこういうふうにケモミミ専用の耳当ても作ってくれてるから、とりに行こう?」
「いや、人の耳も耳当てして、ケモミミも耳当てしたら音が聞こえにくいから僕はいいよ」
どうも、ネコミミに何かをつけるのは、僕はいやなんだよな。
トーリはイヌミミにつけるのはなんともないみたいだけど。
「だーめ!! ほら行くよ!!」
「ちょ、ちょっとまって、ユキさんにほ、報告を……」
「私がコールでしておくから大丈夫。書類の方も私がやっておくから、命の次に大事なケモミミが最優先だよ」
うわー!! ここになってデスクワークをトーリに任せっきりなつけがきた!?
こ、これじゃ、ユキさんにご褒美要求ができないよ!?
というか、晩御飯に帰れるかな、トーリって服選ぶの時間かかるんだもん!!
これじゃ晩御飯冷めたのを食べることになっちゃうよー!?
「ただいま……」
「ただいま」
「お、リエルにトーリ、おかえり。いいケモミミの耳当てはあったか?」
「うん……」
「はい。ちゃんとナールジアさんに頼んで最高級のを頼みました」
「そうか。それなら安心だな。と、もう晩御飯だ。今日はリエルが頑張ったって話だから、リエルの好きな鮭だ。塩焼きにしておいた」
「え!?」
「よかったね。リエル」
やったー!!
やっぱり持つべきは理解ある旦那さんだよね!!
ひゃっほー!!
猫はかわいい。
そういう話。
さて、本日は2月3日、恵方巻に豆まき。
皆やってるかな?
あと、この前の言いましたが。
http://ncode.syosetu.com/n5451dc/
俺たちは自由にやる!!
ユキの学生時代の話をやっています。
無茶苦茶な話が好きだというかたはどうぞ。




