第303堀:な、なんだってー!?
な、なんだってー!?
Side:ユキ
「此度の救援、まことに感謝する。流石、伝説の竜騎士だ!!」
アグウスト8世がそう言って、アマンダを称える。
その声に合わせて周りの兵士からは……。
「「「国王陛下、万歳!! 竜騎士様、万歳!!」」」
そんな歓喜の声が砦に鳴り響いている。
その歓喜の声の中に紛れて、布をかぶせられて、物言わぬ骸になった者も一緒に参列している。
横には生きている兵士が、骸に今を聞かせるために座っている。
「皆、よく、よくぞ今の今まで踏ん張ってくれた!! そなたたちは私の誇りだ!! 我がアグウストの宝である!! だが、今は一旦喜びを抑え、私たちと共に戦い、散って行った友の冥福を祈ろう」
その言葉で、全員が沈黙し、祈る。
そして、しばしあと、国王の命令の元、戦場の片付けが行われる。
そう、今回のヒフィー神聖国からの侵攻は退けることに成功した。
不思議なことに、アグウスト軍の損害は400名ほどで済んでいた。
敵が銃や大砲を有していたのにも関わらずだ。
まあ、それでも2000名が守備に残り、400名が落命したのだから、5分の1もの数がいなくなったことになる。
これは、甚大な被害と言っていいだろう。
敵方は1000人どころか、500人ぐらいだったみたいだしな。
味方の被害400名の内300名は、敵の数が少ないと思い、攻撃を仕掛けた部隊が返り討ちに合ったという話だ。
その時の攻撃人数は1000人。
約倍の数で挑んだが、近づく前に撤退を余儀なくされている。
つまり、銃の精度や飛距離が、弓よりも高く長いということになる。
そして、こちらよりも少数で、多くの敵を蹴散らせるのだから、それなりの連射ができるということだ。
どこかの魔王様よろしく、三段撃ちとかもあり得るけどな。
そして、一番の問題は飛翔できるほどの魔術師が、敵方に複数人確認できたということだ。
しかも、その中には単独で魔剣使いを圧倒できるレベルだと確認をとれたものもいる。
転移で逃げたとはいえ、ジョンが捕縛し損ねたぐらいだから、相当だろう。
更に、電通信を使用している可能性が非常に高いと来たもんだ。
……飛龍隊には既に帰投してもらっているし、持ち帰った情報や記録を分析しないとな。
だが、ここまで戦力を有していて、なんで砦を攻め落とさなかった?
大砲もあるみたいだし、アグウストの技術力で作られた砦を攻略するのは簡単だろう。
人数が少ないから、敵が出てくるのを待っていた?
いや、その場合、アグウストの援軍がくるわけだから、更に兵力差ができて最後には押しつぶされる可能性があるか。
でも、敵も援軍が来る予定もありえたか?
そもそも、なんでそんな小戦力で大国の国境を脅かした?
……一旦、落ち着こう。
可能性を1つに絞るのではなく、いつもの通り、考えうるすべての可能性を考慮するべきだ。
「ユキさん。大丈夫ですか?」
そんなことを考えていると、リーアが声をかけてくる。
心配そうな顔だ。そこまで深刻な顔をしていたか?
「大丈夫。ただ、敵の意図がさっぱりわからなくて考えていただけ」
「そう言うことですか」
「あれ? ジェシカわかるの?」
「いえ。ユキが悩んでた理由が分かっただけです」
「ああ、なるほど」
「どうせ、アマンダは王様との会話に忙しい。連れて帰るにしても、砦の引継ぎとかあるだろうから、直ぐというわけでもないから、話せるメンバーで考えてみるか」
「そうですわね。皆さんを呼んできますわ」
「ん。私も呼んでくる」
そう言って、サマンサとクリーナが俺から離れてみんなを呼びに行く。
ルルアとラッツは負傷兵の治療。
エリスはアマンダとエオイドの付き添いなので呼び戻すのは無理だろう。
アスリン、フィーリア、ラビリス、シェーラはワイちゃんと一緒にいて、安全だとアピールしている。
ついでに、ワイちゃんの傍にいるから子供だからと変なちょっかいを出されたりはしないだろう。
「お待たせしました」
「はいはい、呼ばれて飛んできましたよ」
サマンサとクリーナがルルアとラッツを連れて戻ってきた。
思ったよりも早かったな。
「ルルア様とラッツさんのおかげで、随分負傷兵の数は減りましたわ」
「その通り。あとは自力で養生してもらう。あ、エリス師匠はアマンダと一緒に王様と話しているから連れてこられなかった」
やっぱり、エリスは無理だったか。
いや、逆にアマンダとエオイドを残してこっちに来られても困るけどな。
「本来であれば、完全に治癒することも可能なのですが……」
「まあ、気持ちはわからないでもないですが、そう言うわけにもいきませんよ。本来他国の争いで、私たちが介入するなんてこと自体おかしいんですから、これで私たち個人が目をつけられると、お兄さんが心配しますよ。ルルア」
ラッツの言う通りだが、医者としてウィードの医療を担っている者としてはつらいものがあるだろうな。
「わかっています。この無益な争いを一刻でも早く終わらせましょう。原因が私たちに関係しているならなおさらです。それがきっと多くの命を救えるはずです」
「そうだな。ここで治療に時間を割いても、争いの元を断たないかぎり増え続ける。ということで、ワイちゃんの所に戻ろう。聞いたと思うが、今までの情報整理だ」
「「「はい」」」
そう言うことで、砦の淵から外の戦場痕を眺めるのをやめて、ワイちゃんの所へ戻る。
道々には、元気よく片付けをしている兵士たちがいる。
幸いなのは、ここには完全に兵士しかいない。
無理やり近隣の村々から、盾として人々を徴集した様子はない。
「あ、お兄ちゃんだー」
「兄様なのです」
ワイちゃんがいる中庭に戻ると、すぐにアスリンとフィーリアが俺たちを見つけて駆け寄っている。
こんな戦場まで連れてくるのはアレだと思ったが、下手に残すとそれはそれで面倒なことに巻き込まれそうなんだよな。
実力的にも問題は無く、ドッペルなので身体的な問題もないが、子供と思ってちょっかいを出されれば、俺たちが対応しないわけにはいけない。
その場合、一応保護はアグウストの姫さんかファイゲルさんになるから、大事になりかねない。
戦場でのトラブルなら、気が高ぶっていたとかで、なあなあで済むが、王都に預けているのに問題がおこれば責任の追及はしなければいけない。
一度、王都に連れてきたのだから、ドッペルをウィードに戻しても、王都から姿が掻き消えることになるので、こちらが怪しまれるか、誘拐事件とかで問題になる。
とまあ、色々な要素を鑑みて、アスリンたちを連れてきたわけだ。
2人の頭を撫でていると、ラビリスとシェーラも歩いてこちらに来る。
「どうしたの?」
「もう、お話しはまとまったのですか?」
「いや、まだだ。話がまとまるまで暇だから、とりあえず色々話して、情報をまとめようかと思ってな」
「なるほどね」
「そういうことですか」
直ぐに踵を返して籠へと戻る2人を追って俺たちも籠の中に戻る。
この砦の中で、一番頑丈なのが、ワイちゃんの運搬籠の中なんてなんかおかしいよな。
「ほっ。やっぱり炬燵は落ち着きますねー。あ、ありがとう。アスリン」
「寒くなってきましたからね。どうもフィーリア」
そう言って、お茶を貰って一息つくリーアとジェシカ。
「そうですね。こうやってみんなで炬燵を囲むのはいいものですね」
「そろそろ、ウィードも炬燵の普及を目指してみますかねー。ザーギスに炬燵の開発を魔力をメイン燃料にたのんで、いいところまでできていますし。デザインはこの際無視して……」
そんなこと言いながら、この2人もお茶をすする。
「ん。みかんは炬燵で最強となる」
「……いえ、意味が分かりませんわ。まあ、みかんは美味しいですけど。んー、甘いですわ」
こっちの2人はみかんを口に放り込んでのんびりしている。
まあ、炬燵にみかんは冬の最強装備と言われているから、クリーナの言葉に間違いはない。
あとは半纏を出してあれをまとえば、3種の神器って感じだな。
「半纏をだすなら、ちゃんとハグするのよ」
ラビリスは俺の膝に座っていて、一緒に炬燵を堪能している。
密着しているので思考はダダもれか。
「はい。ユキさんお茶です」
「ありがとう。シェーラ」
シェーラがお茶を入れてくれて、隣に座って炬燵に入る。
とりあえず、俺もみかんに手を伸ばして、剥いて、食べる。
ついでに、膝上にいるラビリスには剥いたみかんを持っていく。
「はむ。うん。美味しいわ」
「俺の指まで食うなよ」
「いやね。わざとに決まっているじゃない。それとも下の方がよかったかしら?」
「そう言うのは、この話がおわってからな」
「あら、つれないわ」
「シェーラもそこまでにしとけよ」
「も、もちろんです」
俺は適当にシェーラに言ってみたが、どうやら図星だったらしい。
……シェーラに関しては大分ラビリスに毒されてきたな。
「失礼ね。私のおかげで、女になったのよ」
「へいへい。さ、皆。一旦現況をまとめよう」
「ぶー」
ラビリスがほっぺを膨らませるが、無視して話を進める。
「でも、お兄さん。結局、状況をまとめようにも、飛龍隊が情報を持ち帰っている最中でしょう? ここで今なにか話してもあまり意味がないのでは?」
「そうなんだが、どうも違和感が大きくてな。一旦話して整理しておきたいと思ったんだよ。現場もすぐそこにあるからな」
「ふむふむ。何か引っかかっているというわけですね。ラビリス、お兄さんが疑問に思っている部分ってわかりますか?」
「ちょっと待って……」
このためにラビリスを膝の上に乗せたのだ。
ラビリスの心を読むスキル。
仲が良くないと無理なので使いにくいものがあるが、こうやって、俺の引っ掛かりを見通してくれるので、第三の視点で俺の心を、考えを、見てもらえる。
無論、ラビリス自体も可愛いからいいのだが。
「こら、可愛いとか考えないで。襲うわよ」
「ごめんごめん」
ラビリスならマジでこの場で、皆にばれないように俺を襲おうとするだろう。
……そんなスリル羞恥プレイは勘弁。
意識を今回の宣戦布告に向ける。
「そう、ね。うーん。なんとなくわかったわ。全体的に目的が不明なのよ」
「全体的にですか?」
「そう。全体的に。今回の戦いは、大国に対して喧嘩を売ったのよ。なのに、初戦から撤退した。それも、勝てる戦力が揃っていたのにも関わらず、攻め落とさなかった」
「銃や大砲の威力が低かったとかは無いですか?」
「うーん。そこら辺は調べてみないとわからないけど、それでも、それを差し引いて、ジョン相手に逃げ切る技量の持ち主がいて、飛龍隊に喧嘩を売れるほどの技量の持ち主も数人いた。まあ、差は歴然としていて、スティーブが率いている部隊に喧嘩を売った敵は捕縛されてたけど。でも、負けたとはいえ、そこまでできる相手が、銃や大砲の威力がなかったとしても落とせない理由にならないわ」
「そう言えばそうですね」
「だから、ユキが悩んでいるのよ。陽動や、実験のように見えるけど、ヒフィー神聖国からすれば、あまりメリットが存在しないのよ。陽動は王様を襲うことにして、王都から本隊を引きずり出して、王都を空にしても、王都へ攻めるルートが存在しない。他国経由になるわ。銃器の実験としても、わざわざ負ける可能性がある相手に喧嘩を売って調べたりはしないわ。魔物や盗賊で十分だもの」
「うーん。確かに、変ですね。変すぎますね」
「更に、飛龍隊が到着してからの敵の行動。すぐに撤退に移ったけど、逃げ切れないと見た指揮官が自軍の兵士を攻撃して、口封じしようとしたこと。わざわざ、口封じする意味が分からないわ」
「それは、情報を引き出させないためでは?」
「情報って言っても所詮は一兵卒よ? そんな大それた情報を持っているわけないわ。銃器の使用方法がばれないかってことも考えていたみたいだけど、すぐにそんなのは否定してるわね」
「なぜですか?」
「ラッツ。あなたはユキの世界の銃を手にして、1から銃を認識して、使いこなして、生産体制を整えるまでにどれだけ時間がかかるかしら?」
「ああー。そりゃ数年って言わないですよ。下手すると10年以上ですね。まず、銃撃に耐えうる鉄の製法すらしりませんし。で、これで口封じの意味が分からなくなりましたね……」
「全体的に、本当に動きが意味不明なのよ……」
自分の考えを改めて聞いてみたが、ラビリスの言う通り、まったくの意味不明なのだ。
まあ、大国に陽動をしかけて、そのうちに小国を制圧する。っていうのも考えたが、それはリスクが割に合わん。
人手を割きまくって、兵力が足りなくなる。
その間に、アグウストが本国を粉砕して終了だ。
「本当に意味が分かりませんね。戦争を起こすメリットが分かりません」
ジェシカも心底不思議そうに首を傾げている。
「領土を広げると言っても、大国の領土を……なんてのはあり得ませんわね」
サマンサもうんうん考えているが、しっくりこないようだ。
「……敵にはやる気自体がなかったのは事実。これは、何か別の目的があったのではなく、国を刺激すること自体が目的だったとみるべき」
「え、クリーナ。どういう意味?」
ん、刺激?
「ん。簡単。敵は、目標を達成したと言った。つまりは、アグウストに戦争を吹っかけること自体が目的だった可能性がある」
「うん? つまりどういうこと?」
……ちょっとまて。
「まだ確証はない。でも、勝てる戦力を持って勝とうとしなかった。つまり、今は領土を切り取るつもりがないということ。飛龍隊が来たあとは直ぐに撤退準備を始めたということから……」
「誘い込むつもりか」
「ん。自分たちが攻め入るのは、邪魔者を蹴散らした後でいい。戦う場所は自分たちが有利な場所にするべき。アグウストとしては、この小国に牙を向けられたのは沽券にかかわる。既に本隊の援軍も送っているから、このままアグウストは攻め入ると思う。だって、一度防衛は成功しているから」
「銃や大砲を相手にしても、被害軽微だったから、侮って攻め入るか」
「ん。その通り。ある意味、私たちが手痛いミスをしてしまった可能性がある」
「飛龍隊が率先して蹴散らしたおかげで、自分たちで追い払っていない分、銃や大砲への危機感がない」
「その通り。王様がどう指示するかわからないけど、できて注意を促すだけ。このまま黙って今回の侵攻を見逃すことはない。報復として、確実にヒフィーに侵攻すると思う」
……やばい。
クリーナの言う通りだ。
王様、アグウスト8世が銃や大砲の威力を目の当たりにしていて、戦力差があることを知っていても、作り上げられた、防衛成功の結果を否定するわけにいかないし、報復をやめろと言うわけにもいかない。
「ちょっと待ってください。それだと……」
「ルルアの思う通りでしょうね。このままだとアグウスト軍の本隊は、ヒフィー神聖国が整えた戦場で全滅するでしょう。私なら、その戦場にトーチカとか塹壕をガンガン配備して、確実にやりますよ」
ルルアに同意するように言葉を続けるジェシカ。
「予算や物資に限りはありますからね。なるべく少ない消費で終わらせたいはずです。なるほど、理に適っていますね」
ラッツの言う通りだ。
予算や物資には限りがある。
だから早期決着が望ましい。
「なんとなくわかったけど、それだと味方を殺したのはなんで?」
「「「……」」」
色々分かってきたが、リーアの質問には答えられない。
「……リーアの言う疑問はまだ謎。別の目的のためにした可能性もあるし、私の話もあくまで可能性が高いと言うだけ。あとは、飛龍隊が持ち帰った情報をしっかり分析して考えるべきだと思う。幸い今日明日で動き出すことはないから、その間に考えるべき」
「そうだな。でも、色々考えがまとまってきた。ありがとう」
俺はそう言って、一旦本当に休憩をするつもりだったのだが、コールから連絡が届く
『大将!! ジョンだ!!』
「どうした?」
『俺が戦った女魔術師だが、どうやら前任者だったらしい!! ダンジョンマスターのだ!! コメット・テイルその人だ!!』
ジョンの声が皆に届く。
そして……。
「「「な、なんだってー!?」」」
ちょ、ちょっとまて!?
はあ?
なんで、トップが出てくるんだよ!?
『ザーギスに腕と杖を見せたが、どうやらアンデッド化しているらしい。上位のリッチタイプだと。杖は聖剣や魔剣と同じようにダンジョンコアを材料にできているらしい。で、本人確認はポープリとスィーア、キシュアに取らせたからほぼ間違いない』
マジですか!!
厄介な事にしか思えないわ。
あと、なんだってーって実際に言うとは思わなかったわ。
MMR
みんな知ってるかな?
さあ、ご一緒に!!