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第298堀:火の杖

火の杖




Side:ミリー




「うーん。銀貨1枚はそれでも多いと思うがな」


モメントさんは義理堅い人なのか、金額に情報が釣り合っていないのに少し申し訳ないといった感じの表情をしている。


「いいのよ。足りないと思えば、その分ほかの情報をくれてもいいんだから」

「ああ。そうだな、そうするか」


モメントさんは私の提案に頷いて、ついでに横で話を聞いているテレスちゃんからも情報を集めることにする。


「どう、テレスちゃん。一緒に話を聞く? こういうのは結構楽しいものよ?」

「え? いいんですか? 私はお金払っていないですし……」

「観光案内や、危険な場所の話だからね。テレスちゃんも何かあったら言ってほしいなーって狙いもあるのよ。テレスちゃんもお店で色々な噂話は聞いているでしょう?」

「あ、はい」

「まあ、この場合はテレスちゃんにも情報料を払わないといけないんだけど、お店だしね。そうねー、追加の飲み物4つね。私と霧華、モメントさんに、テレスちゃん。あ、そういえばお話して大丈夫かしら?」

「大丈夫です。今、お昼時はすぎましたし、人は減っていますから、お父さんに言えば分かってくれます。すぐに飲み物持ってきますね!!」


そう言って、奥のカウンターで料理をしている、テレスちゃんのお父さんと思しき人に話をして、その人がこちらをちらっと見る。

髭を蓄えた偉丈夫の男性だ。

貫禄がある、今でも現役の兵士やれそうね。


「気前がいいんだな」

「裏がありそうな相手にはしないわよ。でも、信頼できそうなら、こういうことにお金は惜しまないのは普通でしょう?」

「まあな。情報は金より高いっていうからな。俺たち傭兵にとっては、情報は生きるために必要不可欠だ」


そんな軽い話をしていると、テレスちゃんが飲み物を持って戻ってくる。

今度はテーブルの前に立つのではなく、椅子に座って。


「さて、まずは2人に教えてもらえる方から聞こうかしら」

「そうですね。2人とも、こちらを……」


霧華は道具袋から、この街で購入した王都の地図を広げる。

危険なところばかり聞いていたら、こっちも怪しまれるし、新婚旅行の下調べとして、皆からも頼まれているから問題なし。


「これって、王都ですよね?」

「だな」

「不思議そうな顔しないで。さっきも言った通り、私たちはここに来て間もないの。なにか面白い観光場所があれば教えてほしいってわけ。王都以外の場所は後回しで、今いる王都を楽しむ情報を集めないとね」

「なるほど。確かに、その通りですね」

「……こりゃテレス嬢ちゃんの話がいるわけだ。女性向けのお店なんか知らないからな」

「そういうことですか!! それなら任せてください!! モメントさんより詳しいです!!」

「そりゃそうだろう。俺の方が知っていたら、テレス嬢ちゃんは、ラライナ様タイプってことになる」

「うっ、お姉ちゃんは、あまりそう言うところに興味ないんだよね……」


まあ、魔剣使いとして、日々軍務に従事していたら、そう言う暇はなさそうよね。

私室はあるだろうけど、すぐに空けないといけないだろうし、メイドとかが掃除にはいるから、下手に趣味で部屋を満たせないわよね。

私の部屋なんて、珍しいお酒を棚に陳列しているし……。

いや、ユキさんはもちろん知っているわよ。

でも、ギルドの友達とかがみたら引くと思うわ。

だって一本金貨云枚ってやつもあるし。

そう言うのは、ナールジアさんと味わいながら飲むのがいいのよね。

エリスとかラッツは高すぎる酒は逆に緊張して味が分からないとかいうし。


「で、何か優先的に聞きたいことはあるか?」

「そうねー。私はお酒がすきでね。どこか美味しいお酒出してるところとか、売ってるお店はないかしら?」


そう、お酒。

これが結構場所で色々味が違う。

まあ、ユキさんの故郷のお酒と比べると物足りないけど、決して届かないとは思っていない。

いつか、ユキさんの故郷を越えるお酒を見つけるんだ。

エナーリアでも、聖女様とか追いかけてくる人たちを振り払って、お酒探しをしていたし。

ああ、ちゃんとお仕事はしていましたとも。


「そうか、それなら俺も教えられそうだ」

「うーん。私はお酒あまり飲まないんで……」

「大丈夫よ。ちゃんとテレスちゃんにも教えてほしい、女の子だけのってのがあるから」


そんな感じで、私の目標も達成しつつ、まずは、王都での危険な場所や情報を集めることになる。


「……とまあ、ここがおすすめだな」

「ですね。ここの彫像は昔、アグウストを建国したとされる、聖剣使いさまを……」


そして、話の中に時折ある聖剣使いの話。

悉く、美化されて伝わっているなーと思う反面。

あの直情たちを上に据えていたらどうしようもないという気持ちもよくわかる。


「おっと、その通りの路地には入るな」

「危ないです。よそ者を狙った、スリどころか、殺してまで金目のものを奪うこともありますから」

「へえ、そんなに物騒な場所が王都にもあるのね」

「まあ、その通りに入らない限りは大丈夫だ。ある種のすみわけってやつだな。どこにも明るい場所と暗い場所があるってことだ」

「私は全然理解できないですけどね。お姉ちゃんにでも頼んでパパっと排除してもらいたいです」

「そうもいかないんだよ。あの通りはあぶれ者を食わせているという意味もあるからな。シャドウズがそれをある程度まとめているから、あそこだけで済んでいるんだ」

「ああ、そのシャドウズが色々つながっているわけね」

「そう言うことだ。国のお偉いさんも絡んでいるから、そうそう手出しができない。まあ、あぶれ者が王都で暴れないためのストッパーにもなっているから、一概に悪いとも言えないんだよな」

「どこにでもある話ね」

「だな」


シャドウズね。

これはユキさんたちに報告しておきましょう。

こっちからは手出しはしないけど、曲がり間違って、こっちに手を出して来たら、その日を命日にするわ。

さて、大体王都の話は聞いたし、次はアグウスト一帯の話を聞こう。

霧華に目配せをして、アグウスト一帯の地図を広げる。


「さあ、次はモメントさんがメインね。テレスちゃんや私たちを満足させられる情報があるかしら?」

「楽しみです」

「ミリーはともかく、テレス嬢ちゃんが楽しめるような場所は記憶がないな」

「えー。こう景色が綺麗だとか、花が一面に広がっているとかあるんじゃないですか?」

「あるとは思うけど、そう言うのって男性の目には留まらないものよ」

「ちょっとまて、花は思い出せんが、景色が綺麗なところはここだ」


そう言ってモメントさんが指を指すのは、何もない平原の1つ。

問題があるとすれば、現在丁度、戦闘が起こっている地域。


「ここ平原みたいですけど、何かあるんですか?」

「ああ。ここには地図には載っていないが、湖があってな、綺麗なもので鏡のようになっているんだ」

「へぇー」


テレスちゃんはそう言って興味を示しているのだが、モメントさんは苦笑いしながら続ける。


「興味津々な所わるいが、ミリーたちならともかく、テレス嬢ちゃん行くのはやめとけ」

「え? この場所なら私でも行けますよ? 盗賊ぐらいなら何とかなります」

「まあ、テレス嬢ちゃんと親父さんなら、盗賊ぐらいであればどうにかなるだろうな」

「でしょ?」

「だがな、相手がちょっと違うんだ」

「相手が違う?」

「ああ」


そう言ってモメントさんは指をそのまま地図をはみ出して、ある一点で止まる。


「ここだ」

「ここって、よその国じゃないですか。確かヒフィー神聖国でしたっけ?」

「よく知っているな」

「そりゃ知ってますよ。なにせ、聖剣使いさまたちが生まれる前からいた神様を祭っていた国ですよ」


引っかかった。

そんな神様の話なんて聞いたことがない。


「ねえ。その神様ってどういうこと?」

「あ、知らないんですか?」

「テレス嬢ちゃん、知らなくて当然だ。これは奴らが言っているだけだからな」

「言っているだけ?」

「えーと。たまーに、この王都に来られるんですよ。ほら、物語には神様が聖剣を作りそれを受け取った人たちが、のちの聖剣使いになってと言う話じゃないですか」

「そうね。そんな話だったわ」

「その、聖剣を生み出した神様を祀っているって言っているんです」


……ちょっとまって。

聖剣使いを作り出したのは、この新大陸の前任者のダンジョンマスターのはず。

神様とダンジョンマスターが混同されている?

それとも、ただ信仰を集めるための嘘?


「もっぱら嘘だって話だがな。なにせ真実なら聖剣使いの話と一緒に広がる筈だが、全然広がってない」

「あれ? そうなんですか、ミリーさん?」

「そうね、私がよその国にいた時には聞いたことのない話ね。で、そのヒフィー神聖国が相手ってどういうことかしら?」

「おっと、その話だったな。ヒフィー神聖国の説明はテレス嬢ちゃんがしてくれたから飛ばすぞ。まあ、そんな風に取ってつけたような神様を信仰しているのはいい。王都に来た時も炊き出しをして、食うに困っている人たちを自国に連れて行って仕事をあっせんしているって話だしな」

「その話のどこに危ないところがあるのよ?」

「この話には危ないところはないな。だが、問題はここからだ。俺が一月ほど前に仕事でヒフィー神聖国の聖都に商人の護衛でついて行った時の話だ。俺が護衛していた商人にはそこまで荷物はなかったが、よそ、つまりアグウスト方面以外からの商人の荷物には大量の食料が積まれていた。あと、鉄とかが主だな。特に飢餓の話もないのにだ……」

「どういうことですか?」


テレスちゃんはよくわかっていないようだ。

食料という物資をかき集める。

それも、飢餓などもないのに……。

この答は1つ。


「大規模な軍事行動をするつもりってことかしら?」

「そうだ」

「えっ!? 軍事行動って、なんのために? アグウストの周辺小国は、最近は大人しいんでしょう? 魔物退治とかじゃないんですか?」

「俺も最初はそう思っていた。でもな、なんか情報がまとまらない。魔物退治という噂もあれば、隣国の小競り合いに決着をつけるという話もあった。だから、知り合いのヒフィーの兵士に聞いてみたんだ。そしたら……」

「そしたら?」

「馬鹿らしい話だが、本人たちは真剣に、兵士全員に魔剣が配られたと話していてな」

「まっさかー」

「俺もテレス嬢ちゃんと同じ反応をした。しかもだ、その知り合いの兵士は男でな。魔剣使いの前提条件である女性という前提ですらクリアしていなかった」

「当然じゃないですか。魔剣はお姉ちゃんみたいな、強い才能ある女の人しか使えないんですよ」


そう、この新大陸での常識、魔剣は女性にしか使えない。

しかし、私は知っている。

恐らくは、前任者がそう言う風に作っただけで、魔剣なんておもちゃに見えるレベルの物は誰でも使えるように作れる知り合いがいる。

主に飲み友達で。

だから、彼らの言う常識は私にとっては、脆い常識だ。

だけど、彼らにとって、それは当たり前のこと。


「しかし、その知り合いの兵士は特別だと言って、魔剣を使って見せた」

「ええー? それ、本当に本物ですか? 魔術をこっそり使ってません?」

「いや、そいつは魔術も使えない。だから、あれは多分本当なんだろう。まあ、誰も信じてくれないけどな」


そう、その当たり前を盾に今まで隠れていたのかもしれない。

常識が覆ることを人は拒絶したがるから。

私の旦那相手に狼狽えたは人は数知れないし。

私を含めてだけど。


「で、その力を手に入れて、周辺諸国への牽制と、近場の魔物退治ってのが目的だったらしい」

「ああ、それでですか」

「そういうことだ。盗賊退治や魔物退治中のヒフィー神聖国と出くわす可能性があるからな。丁度ここの湖は国境近くだ。まあ、アグウスト相手に喧嘩を売るとは思えないけど、一般人だし下手すると巻き込まれたり、盗賊と勘違いされてもおかしくない。しばらくは、ヒフィー神聖国の動きを見てからにした方がいい」

「なるほどね。これは私たちも気を付けた方がいいわね」

「そうですね」

「それが賢明だな。ミリーたちもこういっているし、テレス嬢ちゃんも行きたいなんて親父さんに言うなよ。もちろん1人で行くのもダメだからな」

「分かってますよ。お父さんがこういう情報を集めないわけないし。1人でこんなところまで行くわけないですよ」


ヒフィー神聖国の話が聞けたのは僥倖ね。

恐らく、モメントさんが言っていることは事実で、今攻めてきてるのはヒフィー神聖国で間違いないでしょう。

話から推察するに、魔剣をどうにかして揃えて、使用制限を解除したとみるべきね。

ユキさんから聞いた話と一致するし、信憑性は高い。

私がそんなことを考えている内に、話は別の名所の話に移って行って、それ以降は特に興味を惹かれるような話はなかった。

学府への道に強力な魔物がでて危ないってぐらいね。

で、いよいよ話しが終わろうとしていた時、モメントさんに声をかける男がいた。


「よお。モメント。なんだ、女をひっかけているのか?」

「いんや、この2人同業者だぞ。目でも悪くなったか?」

「……あ、本当だ。というか、やべえ。生半可な実力じゃねえな。お2人さん」

「どうも」

「それほどではありませんよ。そう言うあなたは魔術師ですか?」


その男は手に杖を持っていた。

だから、それを見た霧華は自然とその杖に視線が向く。


「ん? ああ、まあ昔は学府でちょいとは有名でな」

「何言ってやがる。シングルナンバーどころか、ダブルギリギリだったくせに」

「うるせーよ」


そうやって笑いながら話をしていたモメントさんが、不意に思い出したように口を開く。


「そういえば、ヒフィー神聖国で妙な杖を見たな」

「ああ? お前が前、男が魔剣を装備していたって話か?」

「いや、魔剣とは別だ。その兵士が魔剣とは別に火の杖って言って、鉄の……なんというか、杖みたいなものを持っていたんだよ」

「なんで疑問形なんだ?」

「いや、それが杖にしては妙な形でな……」


そう言ってモメントさんは、コップに指を突っ込んで、水でテーブルにその杖の形を書き始めた。


「……杖じゃないか」

「いや、形はそう見えるけどな。兵士はこの杖を、こう柄の方を腕に当てて、横に持つんだ」

「杖の使い方じゃねーな。というか鉄って言っていたな。どこが火の杖なんだよ?」

「さあな、こればかりは実演してくれなかった。なんか、この杖は中心がくりぬかれていて、穴から火が噴き出るとかなんとか……」

「「!?」」


イメージがまとまらなかった私たちだが、最後のモメントさんの言葉であるものが想像できた。

地面に突き立てるのではなく、水平に持ち、鉄でできていて、中心がくりぬかれていて、そこから火が噴き出る。

2人で顔を見合わせる。


「「銃」」


絵が水で書かれているので、どんなタイプの銃かさっぱり見当がつかないけど、私たち2人とも同じ答えを出した。

確か、ジェシカが言っていたっけ。

よその国で異世界から人を呼び出して、発展を遂げた国があるって。


「ねえ。モメントさん。そのヒフィー神聖国によその人が来て発展したとか話あるかしら?」

「ん? ああ、なにかつい数年前、神の名のもとに聖剣使いを越える英雄を呼び出したとかなんとか言ってた気がするな」

「それはただの強がりの嘘だろ。結局今までなんの動きもないし、特に変わったことはない」

「でも、ヒフィーのほうは英雄を呼んでから、潤っているみたいだぜ?」

「それが英雄のやることかよ」

「まあな」


……どうやらよそ者がいるのは間違いないみたいね。

そして銃らしきものを作っている所から考えて。

ユキさんの世界から呼び出された人がヒフィー神聖国にいる可能性が高い。

不味い。

早くユキさんに伝えないと!!


「ありがとう。急用を思い出したわ。テレスちゃんお金ここね。モメントさんも、お友達の人もありがとう。また何かあったらここに来るわ」

「失礼します」


私たちはそう言って、すぐにお店を飛び出る。


「まったく、厄介どころじゃないわよ!!」

「主様と同格とは思いたくないですね」

「それだと新大陸は火の海ね。ともかく、この話をユキさんに伝えるわよ!!」

「了解!!」




現る? 異世界人!! そして銃!!

始まるはマジな現代戦。

怪獣王みたいな、大舞台ではなく。

完全な情報戦の始まりだ!!




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