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第292堀:密談

密談




Side:イニス アグウスト国 第一王女




「いやー、素晴らしかった!! そうだろうファイゲル老師!!」


私は、今までにないぐらい興奮していた。

人が空を飛ぶなど、魔術を以ってしても僅かに飛ぶぐらいが関の山。

まあ、ポープリ学長などと言う人外は飛べはするが、それはどう考えても例外中の例外だ。

そして、竜を従えた竜騎士。これも例外ではあるが、人を乗せて飛べるという利点がある。

そのおかげで、私は空を飛んだ!!

ワイちゃんは賢く、私の希望通りに、より高く、より速く飛んでくれた。

あそこまで人の意を汲んでくれるとは、流石、竜!!

あれを友とし、戦場を駆け抜けるのであれば、人竜一体!!

正真正銘の竜騎士だ!!


「左様ですな……」


しかし、一緒に空を飛んだはずのファイゲル老師はこうもつれない返事を返す。

まったく、年寄りはこれだからいかん。


「楽しいことは素直に楽しいというべきだぞ? 研究も究極的には楽しいことを追及しているにすぎんだろう?」

「それはそうですが、一応こちらにも段取りというものがありましてな。竜への騎乗も後日ちゃんと話を取り付ける予定でしたぞ?」

「何を言っている。そのとき騎乗する者に私は含まれておらんだろう?」

「それは、当然ですな」

「そんな他人からの報告などあてにならん。これがただ優秀な馬などならよかったが、竜の総評を部下になどに任せてなるものか。前代未聞の竜騎士の復活。それを陰謀渦巻く権力の中枢で正しく評価できる奴がいるか?」

「……姫様ならできると?」

「部下たちよりましだろうさ。私にはこれ以上、上り詰める立場などないからな。ある種の適任という奴だ。おかげで、無理を押し通せただろう?」


ま、興味を満たすのが一番だったが、尤もらしい理由がないと、後々身動きがとれなくなるからな。

まったく、厄介な立場に生まれたものだ。

しかし、ファイゲル老師はまだ不満げだな。

仕方ない、適当に屁理屈でも捏ねておくか。


「権力云々もあるが、それ以上に、臣下というのは自国の力を大きく見積もりがちだ。隣国より実力が低いなど、認められないし、事実でも隠さないと自国の基盤にかかわる。そんな発言を部下ができると思うか?」

「……無理ですな。よほど肝が据わっていない限りは」

「だろう? 私と同レベルの将軍クラスですら、周りの評価が気になるのだ。あのワイちゃんに対して、正当な評価ができるのは、臣下の中でも父上と一緒についていっている、ビクセンの元上司、魔剣使いのラライナと、宰相のドストンぐらいだ」


当然、いないラライナをワイちゃんに乗せて評価をしてもらうことはできんし、宰相のドストンはファイゲル老師までとはいかぬが、かなりの高齢。そして立場上、仕事がとても多いので無理だ。


「はぁ、姫様の話はわかりましたが。私としては、一応諌めの言葉を言わなくてはいかんのですよ」

「わかっている。老師には迷惑をかける」


そう、ここまでのやり取りは、お約束的な物だ。

お互い、こういうやり取りは何度もしてきたからな。


「で、姫様はご自身で乗ってみてどうでしたかな?」


食えない人だ。

即座に切り替えて、視線は鋭くなる。

だからこそ、頼りがいがあるのだが。


「正直に言うと、あの竜。ワイちゃんだけで最低1000人は揃えないと倒せないな」

「ふむ。学府の教員レベルですか」

「最低だ。不意打ち、1000人全員で攻撃すれば倒せるかどうかだな」

「それは、正直倒せないですな」

「だな。言いたくはないが、下手すると魔剣使いより上かもしれん。我が国のラライナでも厳しいな」

「そこまでですか」

「そもそも攻撃が届かん。それが第一の難点。第二に、竜には騎乗者を守る特殊な魔術がある。これは、騎乗者を守るためのものだから、弓などが通る、などと淡い夢を見るのは甘かろう。そして、最後に何より竜自体がすごく賢いということだ。こちらの意を汲んでくれるし、不味いと思ったら、自力で判断できる。竜騎士だけを挑発して地上戦に引きずり下ろす。などと言う作戦はまず成功しないだろうな。万が一、適当な罪をでっちあげて主を誅殺したからと言って、我らに従うとは到底おもえない。あの竜にはちゃんとした忠義、心がある。馬にも心はあるが、あの竜は別格だ。ただの動物、魔物と思っている奴は、すぐに手痛いしっぺ返しを食らうだろうな」


伝説の竜騎士とはよく言ったものだ。

あれだけで、下手すると一国を落とせる可能性がある。

ジワリジワリと、上から敵を削って行けばいいし、こちらはあの移動能力のおかげで昼夜なく警戒しないといけない。


「ワイちゃんの攻撃手段はわからんが、おそらく、竜のブレスというモノがあるだろう。都合よくこちらに接近戦をするとは思えんな」

「確かに。文献では竜は炎の息を吐きますしな」

「というか、学府が管理している魔物の森ではブレス系を吐く魔物は普通にいるだろう?」

「いますな。ブラックウルフが炎、アイスバードが氷、サンダーバードに至っては雷」

「やっかいだったな。それがあの竜の個体からだ。サイズが一回り以上も違うのに、それと同じぐらいとみるのは甘いだろう」

「その通りですな。そして、あの運搬能力もとんでもないですな」

「ああ。私や老師、そしてアマンダ後輩は当然として、籠に10人以上乗せて運んでもあの速度だ。軍としては喉から手が出るほど欲しいが、無理だな」

「無理ですな。手を出せばクソババアが飛んできますな」

「文字通りな。そうなれば、竜と連携されてズタズタにされると思うぞ。ということで、これが私の評価だな。後日、選抜した部下が竜の評価を下す時の参考にしてみるといい」


どこまで本当のことを言えるかな?

愛国心は嬉しく思うが、立場のために戦力を見誤るのは正しいことではないぞ。


「さて、今度はこちらから聞こうか。老師から見て、客人たちはどう見えた?」


ファイゲル老師には特殊なスキルがあるらしく、私のステータスが見えるそうだ。

これは、アグウスト国の中でも、ごく少数しか知らないことであり、自国にとっては竜騎士アマンダと同じぐらい重要人物である。

老師のスキルは非常に利用価値が高く、敵の情報を探ることに関しては群を抜いている。


「そうですな。竜騎士アマンダ殿自体はそこまで強くありませんな。よくて姫様ぐらいです」

「どこが、そこまで強くないだ。私レベルがそうそういてたまるか」

「学府には山ほどいるでしょう? 教員1人に勝てますかな?」

「……それは相性による」


学府の教員というのは、ポープリ学長から引き抜きを受けた人物だ。

私も当時シングルナンバーではあったが、それでも教員には、簡単にあしらわれるほどの力の差があった。

まあ、今思えば戦術の組み立ての問題だと思うので、今度機会があるのならばそうそう負けはしないと思う。


「相性……そうですな。わしもよくて教員4、5人が精々です。加えてあのクソババアが後ろに控えていますからな」

「学長に勝てるとは到底思えんな。ふむ、アマンダ後輩の実力はその程度か。いや、あの年でその才能。素晴らしいというべきだな」

「ええ。竜騎士の件がなければ引き抜きをかけるところですな。ですが、私がそこまで強くありませんと申したのは、そう言う意味ではありませんぞ」

「……どういうことだ?」

「竜騎士アマンダ殿と、その夫、エオイド殿はあの中で最弱とだけ申しておきましょう」

「はぁ!?」


私は思わず声をあげた。

いや、竜騎士アマンダの護衛役としてついてきたのだから、それなりの強さだとは思っていた。

しかし、あの中で、アマンダ後輩が最弱とは思わなかった。


「何をいっている。確かに、団長のユキ殿、それを囲む女性たちが強いのは私でもわかる。しかし、サマンサ殿やクリーナはまだ学生だぞ? アマンダと同じぐらいではないのか? ほら、小さい子供たちもいたではないか、あの子たちも手練だなどと言うのか?」

「はい。文字通りあの中でアマンダ殿とエオイド殿が最弱ですな。クリーナの実力はその目でも見たはずですぞ? ただのファイアーボールがあそこまでの火力になったのですぞ? 姫様にあの火力が出せますかな?」


確かに、老師の意見もあって、実力を測るための戯れを許し、それを見学していたが、あの威力はそうそう出せるものではない。

……私自身がよくわかっている。


「まあ、姫様もお分かりのようですが、何かあったとみるべきですな。それでクリーナの実力が爆発的に伸びた。底は分かりませんが、下手するとわしですら厳しいかもしれません」

「……どういうことだ? 老師は相手の強さが分かるのでは?」

「だいぶ前に話したと思いますが、実力が離れすぎている場合、相手の強さが見えないことがあるといいましたな」

「ああ、ポープリ学長がそうだったな。……まさか」

「ええ。あのアマンダ殿、エオイド殿以外、まったく強さが把握できませぬ」

「あの傭兵団どころか、サマンサ殿やクリーナもポープリ学長と同等かもしれないと?」

「はい。ですから、ジルバ、エナーリアの両国がわざわざ、王家の血筋を引いているなどと、適当なことを言って支援の体制に回ったのは……」

「傭兵団を敵にまわさないためか」

「そう見るべきでしょう」

「全く、こっちが本命か」


私は紅茶を飲みなおす。

すっかり冷めてしまっているが、乾いたのどを潤すのには丁度いい。


「本命……。そうでしょうな。竜騎士アマンダ殿の護衛として、学長が頼み込んだぐらいですからな。すでに、学府をも後ろ盾に持っていると思っていいでしょう」

「それだけではない。本来関係のない、サマンサ殿もついて来ていることから考えて、ローデイも何かしらあの傭兵団と繋がりがあると言っていいだろう」


3大国と学府の後ろ盾を得ている傭兵団だと?

一体何をすれば、そんなことが実現可能になる?

普通ならばどれかの国に取り込まれるはずだ……。

いや、しかし、老師の言う通り。1人1人がポープリ学長と同レベルなのであれば、到底押さえられるものではない。

魔剣使いを越えると言われている学長と同レベル。

ヘタに取り込もうとすると、手痛い被害を受けると判断したのか?

しかし、そんな実力があるとどう判断した?

老師のようなスキル持ちが各国にいるとは到底思えない。

いや、実力を証明するような噂があったな……。


「……確かジルバでは王城に殴り込み。エナーリア襲撃では強力な魔物を屠ったなどと言う、眉唾な話があったな」

「ありましたな。まあ、私の私見ですが、全部事実だったということでしょう」

「てっきり、ジルバの方は流言、エナーリアの方は自国の戦力は強いという宣伝だと思ったぞ」

「ああ、なるほど。姫様の言う通りですな」


なぜか老師は私の話に同意をする。


「いや、全部傭兵団が行ったというのが事実ではないのか?」

「結局そうなったのですよ。今や傭兵団はジルバ、エナーリアの遠縁の血筋ですから、ジルバ王城殴り込みも身内が起こしたことになりますし、エナーリア襲撃も身内が強力な魔物を屠ったということになります」

「ああ。なるほど」


私も老師と同じように返事をしてしまった。

だが、確かにその通りだ。

事実を捻じ曲げるのではなく、そのままでいいように配役の立場を変えたのか。

ジルバ王城殴り込みはあったかもしれないが、身内が起こしたことだし、流言になる。

エナーリア襲撃も今や身内、自国の戦力で屠ったことになるから、宣伝としては間違っていない。


「しかし、そういう対応をせざるを得ない相手ということか。あの傭兵団は」

「ですな。制御できない圧倒的な実力を、目の前でまざまざと見せつけられたのでしょう。だから、首輪といっても効力はほぼないでしょうが、継承権のない血縁という身内の立場を与えたのでしょう。そうしないと、自国の評判は地に落ちますからな」

「それはな。ただの傭兵団に、片や王城に殴り込みをされ、片や王都襲撃を防いでもらった。どう見ても、属国や近隣諸国が好機とみて、旗を揚げるだろうな」


現在存在する5大国と亜人の国1つが、この大陸の最大国家である。

しかし、それは武力や治世だけで保たれているのでない。

それらを正当化する権威があってこそなのだ。

舐められては、実力があっても相手は言うことを聞くわけがない。

その権威を保つために、傭兵団を身内にするなどと言った、突飛な行動にでたのだろう。


「しかし、そんな強力な傭兵団の噂は全く聞いたことがないぞ?」

「それは私の方から聞きました。彼らは傭兵団と言っても、見ての通り諸国を旅して、色々な文献を見て、財宝を探すタイプのものです。華々しい戦果というのは無かったのでしょう」

「ああ、そういえばそんなことを言っていたな。だが、あの強さはどこで手に入れたのだろうか?」

「さて、それだけは見当もつきませんな」


そして、少しの間、またお互いに紅茶を飲んで一息つく。

外は既に暗くなり、星が爛々と輝いている。


「そういえば、客人たちは食事か?」

「ええ。アグウストの料理が楽しみだと言っていましたな」

「ふむ。今のところは敵意もない。そんな相手にピリピリしても逆に警戒されるか」

「そうですな。なるべく平然と、いつものようにお相手するのが一番ですな」


いつものように……か。


「なら、明日から私が傭兵団の相手をしよう」

「それは……」

「構わんだろう。表向き、飾り物かもしれないとはいえ、ジルバ、エナーリア両国王族の血縁者だ。私が対応せねば、2か国や学府から突き上げを喰らう可能性もある」

「……可能性は十分ありますな」

「しかし、アマンダ殿はどうしますかな?」

「それなら、一緒に同行してもらえばいい。ビクセン曰く、街を案内する約束をしたとかなんとか。それを私が代わって案内する。立場上、ユキ殿たちはアマンダ殿の護衛だ。一緒に行動することに文句はでるまい。当初の予定なら、護衛と引き離して色々調べたりする予定だったが、護衛役の方が重要だとは、まったく厄介な」

「陛下がいない時に、厄介なことが起きましたな」

「ああ。しかし、父上も何でこんな時に地方の視察など。最前線でもあるまいに」

「……なにかお考えあってのことでしょう。魔剣使いのラライナもついていますし、そうそう問題は起こりますまい」

「それが問題なのだ。地方にわざわざ、アグウスト最強戦力の1つを連れて行ったのだ。その代わりに私を国境から呼び戻したのだぞ?」

「……姫様。もしや結婚相手を見つけろという話ではないですかな?」


……そういえば、何か言伝で見合いが何とか言っていたな。

私が目をそらしたのを、老師が見逃すわけもなく。


「はぁ、姫様が最前線で上に立つ者としての役割を果たしたいという気持ちもわかりますが、それよりも、国を残すのは、王の血筋を絶やさぬことですぞ?」

「わ、わかっている。しかし、気に入る相手がおらんのだ」

「全く、お見合いの話は聞きませんが? どうせ、竜騎士来訪の話を聞いて、適当に後回しにしたのでは?」

「ち、ちがうぞ。ちゃんと見合いの準備は進めていた。相手のことをちゃんと調べていたのだ!!」


そう、見合いの手紙はちゃんと執務室の机にまとめてひもで縛って、棚に放り込んだ。

なくさないように!!


「では、お相手は誰ですかな?」

「そ、それは……公爵だ」

「どこの公爵の息子ですかな?」


……しらん。


「はぁ、竜騎士や傭兵団の件よりも、こっちの方が問題ですな」

「何を言っている。弟が王位を継ぐのだから、なにも問題はあるまい」

「どこの国に、行き遅れを推奨している王族がいるかい!!」

「い、行き遅れと言ったな。老師!!」

「全く。わしの娘ですら、男を見つけたというのに。ペッタンコのあの娘がですぞ」

「ぐっ」


確かに、ほかの友人たちは普通に結婚したと話が来る。

学府での親友と呼べるものたちも、今や一児の母などと言うのは当たり前だ。

……本当に私は行き遅れているのか?

いや、そんなはずはない。

スタイルだって、こう胸は大きく、腰は締まって、お尻も出ている。

十分女性の魅力にあふれているはずだ……。

じゃあ、なぜ私は結婚できていない?


「出会いがないだけだ!! そうだ、そうに決まっている!! だから、この件が片付いたら見合いは積極的に受けよう……」

「おお、その気になってくれましたか」

「だが、その前に、ちゃんとこの件を片付けないといけないので、まずは明日の予定を、アマンダ後輩やユキ殿たちに伝えてこよう。そうしよう!!」


そう言って、私は部屋から飛び出す。


「あ、逃げた!?」


いや、これは決して逃げたのではない。後ろへの前進なのだ!!





このお姫様も結構なお人です。

ただの馬鹿なんて、そうそういないものです。

ミスリード的なものですね。



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